著者の小山昇氏は1948年山梨県生まれ。ダスキンのフランチャイズ事業を行う株式会社武蔵野を率いて、2000年と2010年に日本経営品質賞を二度に渡って受賞しました。同じ会社がこの賞を2回取るのは初めてのことだったそうです。
その経営品質賞を受賞するまでの軌跡や、自社で行っている中小企業向けのIT戦略など、徹底した実務中心の講演やセミナーが人気を博し、株式会社武蔵野はダスキンの業務に加えて中小企業のコンサルタント業務がもう1本の柱になるに至りました。
著者はカリスマコンサルタントとして著名な一倉定氏に師事し、その教えをさらに磨いた「手帳型経営計画書」を考案。全国の中小企業経営者にそれを道具として使うように指導しています。
著者が行っている講演・セミナーは昨年までの累計が2,332回。動員人数は172,400人に達しています。あわせて好評なのが株式会社武蔵野の日常を見せる「会社見学会」で、こちらは累計543回、動員25,147人となっています。
さて、そんな著者が書いた本書は、ひと言で言えば「経営計画書を作って実行すれば、思いどおりの利益が出せる」という内容です。その背景には、株式会社武蔵野がこのやり方で16年連続増収を達成しているという実績があります。
著者は「はじめに」でこう書いています。
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私が「株式会社武蔵野」の社長に就任したのは、バブル絶頂期の1986年です。
(中略)
かつての武蔵野は、いつ潰れてもおかしくない「落ちこぼれ会社」でした。仕事に対する誇りもなく、不正が横行し、ご近所からも疎まれていました。
しかし、現在は違います。赤字続きのボロ会社は、「日本経営品質賞(日本生産性本部が創設した企業表彰制度)」を二度受賞する優良企業に変わりました。
社長就任時は7億円だった売上高は約66億円にまで伸びていて、増収増益が続いています。
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これに続いて、著者は増収増益が続いている理由を2行で書いています。
「その理由は、『経営計画書』をもとに社員教育を徹底し、『社長と、社員の価値観をそろえること』に注力したからです」
「経営計画書とは何か」は釈迦に説法でしょうが、念のために説明しておくと、「会社の方針、数字、スケジュールなどを1冊の文書にまとめたもの」のことです。著者はこの経営計画書を手帳サイズで作成することをすすめていて、そうすることにより、社員がどう行動すればいいのか迷ったときに、すぐ取り出して道しるべとすることができると言っています。
「経営計画書」を「魔法の書」と呼ぶ人がいます。なぜなら、作成すると会社の業績がその通りになるからです。どうしてそんな魔法が実現するかというと、
「いくら利益を出したいのか」(数字)
「いつまでに利益を出したいのか」(期日)
「利益を出すために何をすればいいのか」(方針)
が書かれているからです。
著者はこう説明しています。
「赤字の社長の多くは、確固たる目標がありません。『利益を出したい』と頭では思っているものの、目標を明確化していないため、経営が気まぐれになるのです」
「目標を明確化できていないのは、『紙』に書いていないからです。目標を紙に書くと、それに沿って行動するようになる。優先順位が決まるため、行動も判断も的確になります」
それでは、いつものように目次をご紹介しましょう。
・はじめに 「経営計画」がすべてを変える!
・第1章 「経営計画書」は、「立派な会社」をつくる道具
「経営計画書」は、「方針」と「数字」を明文化した会社のルールブック
口約束は守られない。紙に書かなければ、人は実行しない
会社で発生するすべてのことは社長の責任である
経営計画は1冊の手帳にまとめなさい
「経営計画書」の内容を実践すれば、会社は確実に成長する
「経営計画書」に、5年先の目標を明記する
5年以内に、商品・お客様・従業員の「25%」を新しくする必要がある
「5年で売上2倍」の長期計画を立てる
経営計画は、時代やお客様の都合に合わせ変更する
「経営計画書」は「新卒採用」を有利に進める道具
・第2章 絶対に会社を潰さない「利益計画」の立て方
利益目標は「逆算」して考える
売れるか売れないかは、価格でなく「ラブストーリー」で決まる
ボトルネックの解消が会社に利益をもたらす
「儲からない」のは、社長の「無知」が一番の原因
利益は「最低限」残して、あとは未来に投資する
「やりたいこと」より先に「やらないこと」を決める
新規事業で利益を上げる「9つ」のポイント
・第3章 利益を最大化する「経営計画書」のつくり方
「正しさ」にこだわらず、見切り発車で「今すぐ」につくる
「オリジナル」にこだわらず、他社の「真似」してつくる
他社の「経営計画書」をコピーして、ハサミで切り、ノートに貼り、清書する
武蔵野の「第36期経営計画書」掲載内容と解説
・第4章 経営計画の「実行」と「定着」の方法
「経営計画書」の方針を徹底させる7つの施策
経営計画発表会を行い、社長が自ら「方針」と「数字」を読み上げる
経営計画発表会の開始・終了は時間厳守を徹底
経営計画発表会には、銀行の支店長を招待する
著者は会社経営に必要な3要素を次のように規定しています。
(1)会社の「ルール」(規則・規定/方針など)
(2)目指すべき明確な「数字」(事業構想/経営目標/利益計画など)
(3)「ルール」と「数字」を明文化した「道具」
この3つを持たない会社は、ルールブックやスコアボードなしで野球をするのと同じだと著者は言います。そして、会社経営においてルールブックとスコアボードの役目を果たすのが「経営計画書」だというわけです。
赤字会社の社長は、社員に口頭で「がんばれ」と言います。また仕事を「早くやれ」と言います。しかし「がんばれ」という抽象的な言葉では、社員は何をどうがんばればいいのかわかりません。したがって、がんばっているふりだけします。「早く」も基準が示されないため、自分勝手な「早く」で満足します。
それに対して「うちの会社はこういうルールで仕事をします。目標利益はこのくらいです。だから目標を達成するために、このくらいがんばってくださいね」と指示するのが「経営計画書」のある会社の社長です。
株式会社武蔵野の経営計画書には、タクシーに乗るときのルールが次のように書かれています。「サービステリトリー内でタクシーを利用するときは、地元のタクシーか、個人タクシーに乗ってください。地元のタクシーは裏道をよく知っているし、工事中や知らない道を知ることができます」
「経営計画書」があることで、社長の決定が社内の隅々まで正確に伝わります。全員が同じルールブックを持っているため、「伝言ゲーム」のように間違って伝わることがないからです。ブレないルールが存在することで、社員全員がいつでも同じ方向で仕事をすることができます。
たとえば、株式会社武蔵野の「経営計画書」には、クレームについて次のように記載されています。
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1.基本
(1)クレーム対応は、すべての業務に最優先とする。
(2)クレーム発生の責任は一切追及しない。発生の責任は社長にある。お客様の目から見た業務改善点の指摘です。本来はすべて社長が受けるべきであるが、社長一人では受けきれないので、社長に代わって対処する。
(中略)
2.発生
(1)現場からその事実だけをただちに役員と上司に報告する。ことを大きくする。報告・連絡を怠ったときは、1回で賞与を半額にし、上司・当事者がかかった費用を負担する。
(中略)
3.対処
(1)お客様への第一報は30分以内とする。当日中に当事者と上司がお詫びと事実確認に行く。お客様の前に顔を出すことが大事です。対策は後でよい。
(2)解決するまで何回でも足を運ぶ。
(後略)
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「経営計画書」を作っている多くの会社は、A4サイズの大きくて重い文書にまとめています。著者も最初はそうでした。しかし、携帯性のない「経営計画書」は、机の引き出しにしまわれたまま、取り出すことがありません。作成した著者でさえ、再び見ることはありませんでした。
それではいけないと、著者は「経営計画書」を手帳サイズにして全社員が常時携帯できるようにしました。これはまったく常識破りのアイデアで、「経営計画書」の指導をしてくれた一倉定先生からは烈火のごとく怒られたといいます。「経営計画書」を冒涜したというのです。
しかし著者は改めようとはせず、手帳型の「経営計画書」に固執しました。多くの会社の社員は会社の就業規則でさえ、入社時にパラパラと見るだけです。それを、仕事の内容が詳細に記されたものが手帳サイズに凝縮され、いつでも取り出して確認できるようにしたのですから、効果は絶大です。すぐに会社内に統一感が生まれました。
著者は「経営計画書」には5年先の目標を明記するように指導しています。たとえば著者の株式会社武蔵野は、「5年で利益2倍」を目標にしています。そのためには、毎年「対前年比115%」の実績を上げ続けなければなりません。逆に言えば、前年の15%増しの成績を目標にし続ければ、5年で利益が倍増になるということです。
このように、長期的な目標を設定し、それを実現するために今どうするのかを逆算して決定するのが正しい経営判断であると著者は言います。
著者は「中小企業は変化を起こすことはできないが、変化についていくことはできる」と書いています。「経営は環境適応業である」というのが著者の持論です。そのために提唱しているのが「25%の法則」です。
・扱っている商品・サービスの25%が5年以内に開発した商品であること
・お客様の25%が5年以内に開拓した顧客であること
・働いている従業員の25%が5年以内に採用した人材であること
このうちひとつでも該当していれば前年並みの利益が出せ、すべて該当していれば会社が急伸すると著者は太鼓判を押しています。
この本の通りに会社経営をすることは簡単ではありませんが、この本の通りにすれば間違いなく利益が増えていくと思わせる、頼りになる経営指南書です。