オススメ参考書~読んだら即実践してみよう!

 

「ついやってしまう」体験のつくりかた 人を動かす「直感・驚き・物語」のしくみ

玉樹真一郎・著 ダイヤモンド社・刊

1500円 (税別)

モノが市場にあふれ、供給が需要を上回る時代。そこで何かを売るには、消費者の心を知り、行動を予測する必要があります。でも、もっと効率がいいのは、自分たちが思うように消費者の行動をコントロールすることです。

何を考えているかわからない消費者の気持ちを読み解こうと汗をかくより、「あなたはこれを買いたくなる。買うべきだ。買いなさい」と消費者に強制することができれば、もう売ることに苦労する日々とはさよならです。

「魔法使いじゃあるまいし、そんなことできるわけがないじゃないか」
と普通の人は思うでしょう。でも、世の中には実際に消費者の行動を計画通りに導いている人たちがいるんです。

どういう人たちがそれを行っているのか、どうすればそのようなことができるのか。本書にはそれが克明に記されています。

ではまず、著者の紹介です。本書掲載のプロフィールから抜粋します。
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玉樹真一郎(たまき・しんいちろう)
1977年生まれ。東京工業大学・北陸先端科学技術大学院大学卒。プログラマーとして任天堂に就職後、プランナーに転身。全世界で1億台を売り上げた「Wii」の企画担当として、最も初期のコンセプトワークから携わる。2010年に任天堂を退社。青森県八戸市にUターンして独立・起業。全国の企業や自治体などでコンセプト立案、効果的なプレゼン手法、デザインなどをテーマとしたセミナー、講演などを年に60回以上行う。2014年より八戸学院大学・地域経営学部特任教授。著書に『コンセプトのつくりかた』(ダイヤモンド社)がある。
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カバー袖には次のような言葉が並んでいます。
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あなたにとって「心を動かしたい人」は誰ですか?
仕事上のお客さん? 仕事仲間? 家族や友人?
この本では、
あらゆる人の
心を動かす方法
を紹介します。
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また、裏表紙にはこうあります。
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本書で取り上げるのは、3つの手法です。
1「つい」やりたくさせてしまう
2「つい」熱中させてしまう
3「つい」誰かに言いたくさせてしまう
この「つい」こそが、体験デザインの持つ力です。
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著者は「はじめに」で、「誰かの心を動かしたい、わかってほしい、行動させたい」という願いに応えるために本書を執筆したと語っています。今の世の中は、高機能・高性能なだけの商品では売れません。消費者の心を動かす商品やサービスでないと売れなくなってきています。

ではどうすれば人の心を動かすことができるのか。著者はその答えを、任天堂にいる間に「ゲームはどうやってプレイヤーの心を動かしているのか」を徹底分析することで探り当てました。それをわかりやすく解説したのが本書というわけです。

著者は、人の心を動かす体験をつくる方法を「体験デザイン」と名付けています。そしてそれをビジネスにも暮らしにも応用できるように3つの型にまとめています。それは「直感のデザイン」「驚きのデザイン」「物語のデザイン」です。

本書は大きく2つに分かれています。最初から278ページまでが体験デザインを学ぶ部分で、279ページから313ページまでがビジネスや暮らしに応用できる体験デザインのまとめと具体例です。そして最後に参考資料がついています。

本書をすぐ仕事に役立てたいと思う人はいきなり279ページを開いてしまうかもしれませんが、たぶんそれでは著者の言わんとすることが充分に理解できないでしょう。やはり最初からページを追っていったほうがよろしいかと思います。

それではここで、本書の目次を紹介します。
・はじめに
・第1章 人はなぜ「ついやってしまう」のか 直感のデザイン
・第2章 人はなぜ「つい夢中になってしまう」のか 驚きのデザイン
・第3章 人はなぜ「つい誰かに言いたくなってしまう」のか 物語のデザイン
・終章 私たちを突き動かす「体験→感情→記憶」 体験デザインの正体
・巻末1 「体験のつくりかた」の使い方(実践編)
・おわりに
・巻末2 体験デザインをより深く学ぶための参考資料

第1章では、あのギネスブックにも登録されている、世界で一番売れたゲーム「スーパーマリオブラザーズ」を分析して、このゲームがどのようにして直感的な体験をつくり出しているかを解説していきます。

著作権の関係でゲームそのものの画面は使われていませんが、あのゲームを知っている人ならすぐに思い出せるような模式図で、解説が進みます。

まずゲーム最初の画面。画面左に山、右に草、青空を背景に浮かぶ白い雲。中央やや左に立つ主人公マリオ。著者はこの絵を子どもたちに見せて、「このゲーム、おもしろそう?」とたずねます。すると子どもたちは「おもしろくなさそう」と答えます。世界で一番売れたゲームなのに、です。

次に著者は読者に対してたずねてきます。「このゲームは、何をしたら勝ちですか?」
・敵ボスのクッパを倒す
・得点を多く取る
・コインをたくさん集める
・ワールドを進める
・制限時間内にクリアする
・ピーチ姫を助ける

それらの答えはすべて誤答です。そもそもこのゲームは説明書をすべて読んでから始めるようなものではありません。最初の画面を見ただけでプレイヤーが次のアクションを想像し、ゲームを進めていくタイプなのですから。

このゲームのたったひとつのルールは、「右へ行く」です。そのために最初の画面でマリオはやや左に立ち、右を向いているのです。そして、それこそがゲームデザイナーが苦心して設計したことでした。

プレイヤーは最初の画面を見て、何となく「右に行けそうだ」と感じ、コントローラーの右に進むボタンを押します。すると、最初の敵であるクリボーが登場します。この瞬間、プレイヤーは自分の想像が正しかったと確信し、さらに先に進みたくなります。

著者はこのプレイヤーの心の動きを、次のようにまとめています。
1 仮説 自発的に「○○するのかな?」という仮説を立てる
※ただし、プレイヤーには仮説が正しいのかどうかわからない
2 試行 自発的に「○○してみよう」と試しに行動を起こす
※ただし、プレイヤーには試行が正しいかどうかわからない
3 歓喜 自発的に「○○で正解だった!」と歓喜する
※ここではじめてプレイヤーは仮説・試行が正しいと確信する

一連の体験を経たプレイヤーは、自分で学んだ「右へ行く」というルールを深く信じます。人間は、自分の力で体得したことには自信を持ち、疑わないからです。それに対して、人から教わった知識には、なかなか自信を持つことができません。

以上の心の動きをもたらすものを、著者は「直感のデザイン」と呼んでいます。仮説→試行→歓喜の流れを体験することにより、プレイヤー(消費者)に「これはいい!」という気持ちを持たせることができます。

著者はこのように言っています。
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ゲームはおもしろいから遊ぶのではありません。「つい思いついちゃった、ついやっちゃった」から遊ぶんです。私たちの脳はいつだって仮説を探し求め、試行させようとします。(中略)この考え方、実はすでに学問的に整理されています。心理学や認知科学で用いられている「アフォーダンス」という考え方です。
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また、第1章の最後では、次のようにまとめています。
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人はなぜ、ゲームを遊ぶのか?
ゲーム自体がおもしろいからではなく、
プレイヤー自身が直感する体験そのものがおもしろいから、遊ぶ。
私たちの脳は、いつだってこの世界を理解したがっています。そんな脳がゲームを好むのは、ゲームが直感的な理解という体験をもたらしてくれるからであり、プレイヤーに寄り添った体験デザインの結果だといえるでしょう。
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第2章では「驚きのデザイン」についての解説が述べられています。
直感のデザインは体験デザインにおける基本ですが、連続すると飽きられます。そこで必要になるのが予想を覆す驚きのデザインです。誤解→試行→驚愕という流れです。

さらに、その2つの体験デザインに意義をもたらすのが「物語のデザイン」です。翻弄→成長→意志と進む物語のデザインが、体験を通じてのオリジナルな物語をプレイヤー(ユーザー)につむがせるのです。

本書は300ページを超える厚さがありますが、読み進むのにまったく抵抗がありません。文字だけでぎっしり詰まっているのではなく、たくさんのシンプルな図版が挿入されていて、語りかけてくるような著者の解説がとても心地良いからです。本書もまた、体験デザインによって設計されているのかもしれません。

事例はゲームの話ばかりですが、すぐにでも私たちの仕事に応用できるように、巻末の解説は実戦的に書かれています。「お客様との距離が縮まらない」と思ったら、すぐに読みたい1冊です。


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