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フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか

堀内都喜子・著 ポプラ新書・刊

860円 (税別)

「芬蘭」の意味、わかりますか? まず、読めませんよね。これはフィンランドの漢字表記で、略す時は「芬国」と書くそうです。もう死語になりかかっていて、新たに覚える必要はなさそうですが。

ところで、「フィンランドはどこにあるか?」と聞かれて、地図が描ける日本人はあまり多くないかと思われます。「スウェーデンやノルウェーの近く?」「ロシアの近所」というところまではわかっても、詳しいところはよくわからないというのが実状ではないでしょうか。

それでも、サンタクロースやムーミンの故郷として、あるいはサウナや森と湖の国としてのフィンランドは、ご存じの人が多いでしょう。近年だとノキアがフィンランド企業であることを知っている人も少なくないかもしれません。

そのノキアですが、新興のIT企業などではなく、1865年創業の老舗企業です。2011年までは携帯電話シェア世界トップでしたから、端末をお持ちの方もいたでしょう。残念ながらスマホ時代に入って迷走し、現在は通信インフラの開発製造会社として生き残っています。

フィンランドの人口とGDPの規模は、日本の北海道とほぼ同じ。首都ヘルシンキの水道水は世界で一番きれいな水という評価を受けています。北部のラップランド地方では、冬の間ほぼ毎日オーロラが観測でき、世界で一番オーロラの観賞に向いた土地といわれています。

そして、世界156カ国の「幸福度ランキング」で第1位、国会議員の1/3が女性、国民の4/5がNPOに参加ということも、フィンランドの特徴です。ソーセージが国民食であるということの理由は、働く女性が多いことのひとつの現れだといいます。

さて、フィンランドという国に少し目が向いたところで、本書の紹介に移りたいと思います。著者の堀内都喜子さんはフィンランド大使館で広報の仕事に携わっている「フィンランドのプロ」。長野県生まれでフィンランドのユヴァスキュラ大学大学院で修士号を取得し、フィンランド系企業を経て現職に就きました。

「2年間だけのつもり」で中部フィンランドのユヴァスキュラで暮らし始めた著者ですが、結局5年間いることに。勉強だけでなく、日本語を教えたり、大学や企業でアルバイトをしたりして、さまざまな経験を積み重ねます。

日本に帰国してからはフィンランド系企業で8年働き、6年前からフィンランド大使館へ。仕事やプライベートを通じて多くのフィンランド人と出会い、フィンランド流のライフスタイルに多大な影響を受けてきました。

著者は「日本とフィンランドには多くの共通点がある」といいます。自然豊かな国土、少しシャイで真面目な国民性、謙虚な性格が似ているということです。

一方で大きく違うのは、ワークライフバランスや休みの意識、組織内の人間関係だそうです。フィンランドでは16時を過ぎると、あっという間にオフィスから人がいなくなり、夏になればみんな1か月以上の休みをとります。上司をファーストネームで呼び、在宅勤務も少なくありません。

それなのに、社会がそれなりに回り、世界でキラリと光る企業もあり、イノベーションで世界をリードしています。日本人の常識から見ると考えられないことばかりです。

著者は、働き方改革の先に日本が目指すべきなのはフィンランドであると言っています。人口規模も、法律も、制度も違う両国ですが、必ず学ぶべきヒントがあるはずというのが本書を刊行した背景だということです。

それでは、目次を紹介しましょう。
・はじめに
・第1章 フィンランドはなぜ幸福度1位なのか
・第2章 フィンランドの効率のいい働き方
・第3章 フィンランドの心地いい働き方
・第4章 フィンランドの上手な休み方
・第5章 フィンランドのシンプルな考え方
・第6章 フィンランドの貪欲な学び方
・おわりに

第1章では、フィンランドが2年連続で「幸福度1位」に輝いた背景を解説しています。この章に限らず、本書を読む時には徹底的に今の日本と比較してみることをおすすめします。そして「だから日本はダメなんだ」と思うのではなく、「どうしたらこのようにできるのか」を考えることです。そこからビジネスのヒントも得られると思います。

フィンランドの「幸福度1位」について、日本の識者は「人口が少ないから自然が豊かで、高福祉国家が実現できている」というようなことを言いますが、本書を読み進めていくとそれは違うと思うようになります。日本もフィンランドも国土に占める森林の割合はほとんど同じですが、東京では自然との距離が大きいのに対して、フィンランドは定時に帰宅して毎日自然の中を散歩できます。

著者は「フィンランドには選択の自由が多い」といいます。あらゆる場面での選択肢が多いのだそうです。また、選ぶものをひとつに絞る必要はなく、文系と理系の分野でそれぞれ学位を取ったり、仕事もプライベートも両方大事にすることが可能です。選択に際して年齢や経済的状況、性別による障害が少ないことも特徴です。

2019年の国民1人あたりGDPは、フィンランドが5万ドル(世界16位)であるのに対して、日本は4万ドル(世界24位)でした。毎日16時に帰宅し、夏休みを1か月取る国民が、日本人の1.25倍稼いでいるわけです。

当然そこから結論づけられるのは、「フィンランド人は効率的に働いている」ということです。それについて述べられているのが第2章です。驚いたことに、フィンランドでは「仕事を終えて、また仕事に行くまでには11時間のインターバルが必要」という法律があります。「週に一度は35時間の休憩を取ること」というのも法律です。これではブラック企業は存在できません。

なによりフィンランドでの効率化を推進しているのは、一人一人の意識の高さです。在宅勤務で「見張られてないからサボる」という考えを持つ人はなく、仕事を終えて早く帰る人がカッコいいという社会常識があるため、ムダが発生しないのです。

第3章はフィンランドの組織が紹介されています。フィンランド人の上司は、「メールのCCに入れるのではなく、口頭で相談や報告をしてくれればいい」と言うそうです。メールがやみくもに増えて読み切れなくなるからです。

フィンランド人はピラミッド型の組織よりもフラットな組織を好み、最近ではボスのいない組織まで登場しているそうです。世界的に有名なゲーム会社「Supercell」や新しいIT企業「Reaktor」などはチーム制の組織形態で、意思決定はチームが行います。経営者や管理職はそれを下から支える役目です。

第4章ではフィンランド人の余暇について紹介しています。定時に仕事を終えるのが当たり前のフィンランドでは、夫婦共稼ぎでも保育園への送り迎えに支障がありません。逆に定時に帰らないと「18時過ぎに帰ってくる父は、家庭を大事にしない父親失格の人」と子供に言われてしまいます。

そしてフィンランド人の平均睡眠時間は7時間半以上。これは医学的に認められた最適な睡眠時間です。早く帰れるゆとりの生活は、健康も生み出すわけです。

フィンランドといえばサウナですが、当然のごとくフィンランドは1人あたりのサウナ数が世界一で、一軒家や広いマンションには当たり前のようにサウナがあります。伝統的に土曜日がサウナの日で、夕方になると家族で入り、その後はのんびりテレビや映画を見て過ごすのだそうです。

夏休みが1か月と聞くと、平均的な日本人なら「そんなに長い間何をするのだろう」と疑問を持つでしょう。でも「1年は11か月と割り切る」フィンランド人は、別荘にこもったりしてリフレッシュします。最近ではデジタルデトックスといって、携帯やパソコンから完全に離れ、アウトドアを満喫するライフスタイルが人気です。その間の緊急の用事は、同僚やインターンがカバーするようになっています。

第5章では、日本ではあまり語られないフィンランド人の考え方が披露されています。それは「シス」という、フィンランドの国民性を語るキーワードです。「シス」とは、内に秘めた強さを示す言葉で、日本語の「頑張る」に近いといわれています。

日本人で知る人は少ないのですが、フィンランドは第二次世界大戦の敗戦国で、戦後賠償金を支払ってきました。ソ連との2度にわたる闘いで奮闘し、独立を死守した時に発揮されたのが、この「シス」だといいます。

あまり他人に頼らずに自分で考えて物事を決め、プロセスを楽しみながら結果を享受する。シンプルなフィンランド人の根底に息づいているのが、この「シス」なのです。

第6章ではフィンランド人の学びが語られています。日本では最近「生涯学習」という言葉がポピュラーになりましたが、フィンランドでは昔から当たり前。中年になってから高校に通い直すことや、生活が変わるタイミングで新しい資格を取るなどはフィンランドでは日常的なことです。

なぜそうなっているのかというと、人は一生自分を高めていけるという考え方があるからです。フィンランド人の10人中6人が転職を経験していますが、そのうちの2人に1人は転職に際して新たな専門性や学位を取得しています。

フィンランドの公立学校では、全体の1/3にあたる成績の低い子供たちを特別クラスに入れたり、補習授業を受けさせたりします。こうすることで全体の学力を均質化し、落ちこぼれを作らないようにしているわけです。

本書でフィンランドに興味が湧いたら、ぜひ2006年の映画「かもめ食堂」を見てみることをおすすめします。ヘルシンキで小さな日本食の食堂を開店した日本女性の物語です。


 

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