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2025年、人は「買い物」をしなくなる

望月智之・著 クロスメディア・パブリッシング・刊

1480円 (税別)

タイトルをチラ見して、「買い物をしなくなるなんて、あるはずがない。買い物をしなければ生活できなくなるじゃないか」と思った人も多いと思います。私も一瞬、そう思いました。

しかし著者が言いたいのは、「これまでの『買い物』という行動が、なくなる」ということです。つまり物品やサービスを購入するという商行為は依然として存続するものの、そのスタイルが劇的に変化し、その変化について行けないビジネスが消滅すると警鐘を鳴らしているのです。

これまでの「買い物」というと、現金の入った財布を持って家を出てどこかに出かけ、商店に入って品物を物色し、気に入ったものがあれば購入して帰るという一連の行動を指していました。

しかし、すでにその行動には大きな変化がいくつもやってきています。財布の中には現金だけでなく、クレジットカードやサービス券などが入り、スマートフォンにはいろいろな決済手段がインストールされました。その結果、現金を使う比重がどんどん減っています。

また、出かける先も個人商店から百貨店、スーパーマーケット、ディスカウントストア、コンビニエンスストア、専門店と多様化しています。さらに、ネットショップを利用する場合は「出かける」という行為もなくなってしまいました。

著者はさらに変化が加速して、SNS、AI、5Gの利用による「デジタルシェルフ」が誕生し、私たちの意識から「『買い物をする』という気持ちがなくなっていくだろう」と予測しています。

「デジタルシェルフ」とは、物理的な商品棚をデジタル上で置き換えたものを指します。ネットショップの商品ページなどは、すべてデジタルシェルフです。しかし、著者はその狭い意味での定義ではなく、人々の生活すべてに組み込まれる商品棚のことを言っています。

たとえば、SNSで友人が投稿している飲食店のメニューを見て、「おいしそう!」と思ったら、その画面から店の予約ができたり、映画やテレビを見ていて、登場人物の服やアクセサリーに興味があったら、そこから購入できたり、アニメの主題歌を見ているその場で自分のスマホにダウンロードできたり、冷蔵庫の中にある常備品が切れそうになったら勝手に補充商品が送られてきたり、鏡に映る自分の髪の長さから、自動的に美容院の予約画面が出てきたり…。

つまり、消費者が能動的に「買い物」という特別な行動を起こさなくても、環境に組み込まれたシステムが半自動的に購入機会を作ってくれる。それが著者の言うデジタルシェルフというわけです。

それが当たり前になってしまうと、現在の「買い物」にのみ依存している商店は立ち行かなくなります。ネットショップも、デジタルシェルフに進化していかないと、取り残されます。そのような時代を先取りして、今から準備しておこうというのが本書の趣旨です。

著者の望月智之氏は、東証一部の経営コンサルティング会社を経て、現職である「株式会社いつも」を共同創業し、取締役副社長になりました。同社はコンサルティング会社として、全国のメーカーや小売企業にデジタルマーケティング支援を提供しています。

それでは、本書の目次を紹介します。
・はじめに
・第1章 ショッピング体験の進化で、人々は「買い物」をしなくなる
・第2章 ショッピングはどう発展してきたのか
・第3章 リーディングカンパニーたちが目指すもの
・第4章 さらなる進化、「デジタルシェルフ」へ
・第5章 「人々が『買い物』をしなくなる未来」の先にあるもの

第1章では、「買い物」という消費者行動のプロセスを分析し、それがいかに「面倒くさいもの」の固まりであるかを説明しています。人々は「面倒くさいもの」から「便利なもの」にスイッチしますから、「買い物」はいやが上にも変貌を遂げていかざるを得ないという主張です。

著者の言う「買い物の面倒くささ」は、次のような点です。
・外出するために身支度を調える
・店に行くために交通手段を利用する
・どの店に行くかを考える
・店に着いたら売り場を探す
・類似商品から目的のものを選ぶ
・レジに並んだりして支払をする
・買った商品を家に持ち帰る

ネットショップがそのうちのかなりの部分を解決していることはおわかりでしょう。だからこそ、「面倒くささ」を「感染の恐怖」が増幅したコロナ禍で、多くのネットショップの売上げが増大したわけです。

それらの「面倒くささ」に対して、「買い物にはレジャー的な側面もある」「いろいろな商品を見るのが好き」「商品を手に取ってじっくり検討したい」といった反論もあります。しかし、それらの反論は「買い物のプロセスの一部分を条件つきで好きだと言っているにすぎない」と著者は指摘しています。

著者はある分野で、すでに「買い物」が廃れていると言います。たとえば、音楽分野のサブスクリプションがそれです。現在、Spotify、AWA、Amazon Music Unlimited、Apple Music、LINE MUSICなどがしのぎを削っていますが、かつてレコード店で気に入ったミュージシャンの楽曲を選んで買っていた時代と比べると、消費行動は雲泥の差です。

このサブスクリプション化の流れは映像の世界にも押し寄せましたが、さらに雑誌や漫画、自動車やバイク、洋服、クリーニング、家具、飲食店といった分野にも拡がりを見せています。

第2章では、戦後の高度経済成長期から現在までのショッピングの歴史を振り返ります。戦後の百貨店と個人商店の伸張に始まった小売競争は、自動車の普及とともにスーパーマーケットの台頭へと続きます。そして「チェーンストア理論」による大型専門店はショッピングモールへと発展し、一方でドラッグストア、100円ショップ、コンビニエンスストアも大きく伸びてきました。

しかし、リアル店舗における顧客の奪い合いは、インターネットの普及とともに新しい段階に進みます。そしてスマートフォンが登場すると、店から家に移動した「商品棚」が自分の手もとにまで移動します。パソコンの前に行かなくても商品が買えるという便利さは、2018年のEC市場の39%をスマホが占めるという結果をもたらしました。

そしてスマートフォンの使用に慣れた若者は、それ以上の年齢層の人たちとは違う買い方をします。Googleなどで検索するのではなく、ショッピングアプリの中で目当てのものを探すのです。もうすぐ、この「ググらない世代」が購買力の主力になると著者は言います。

第3章では、大きくうねる時代の荒波に、リーディングカンパニーたちがどのように対応しているかを紹介していきます。たとえば、食品会社が新たにテーマにしている「時間ソリューション」。カット済み、調理済みの商品、レンジでチンするだけの冷凍食品を提供して、消費者に時間の余裕を与えようとするものです。

この時間ソリューションは、食から生活のすべてに広がっていくだろうと著者は予測しています。

そして第4章は本書のキモである「デジタルシェルフ」がテーマです。技術の進歩に伴って、消費者の価値観や思考も大きく変化していきます。

おそらく、そう遠くない将来に、スマートウォッチやスマートグラスなどのウェアラブルデバイスで買い物をすることが可能になるでしょう。消費者の周りが商品棚になるということです。

家電のIoTが進めば、そこもデジタルシェルフになります。すでにAmazonはスマートスピーカー「Amazon Echo」でデジタルシェルフを実現するための特許を取得しています。聞こえてくる音を24時間分析して、それを商品の提供に結びつけるというものです。

そのような動きが進むと、消費者が「欲しい」と思った瞬間に、あるいは「意識していないがあったほうがいいもの」を提供するようになるでしょう。「欲しいから購入する」から、「無意識のうちに欲しいものが提案され、届く」という時代に。これが著者の言う「買い物をしなくなる時代」です。

ただし、日本はそのような時代に乗り遅れるのではないかと著者は危惧しています。それは、日本にはデータサイエンティストの人材が乏しく、デジタル分析ツールを提供する会社も、アメリカの10分の1くらいしかないからです。

著者は次にヒットするのは「ライブコマース」だと予測しています。ライブコマースとは、ライブ配信のプラットフォームで配信者が視聴者に商品を紹介し、販売するというものです。それだけ聞くと「テレビショッピング」と変わりませんが、ライブコマースは双方向であるところが違います。

「ちょっと違う角度から見せて」
「こういう使い方はできないの?」
といった視聴者のリクエストに配信者が即座に答えてリアルタイムのやり取りを繰り返していきます。

ここで重要なのは、視聴者の多くが配信者のファンであることです。つまり、人気ユーチューバーがインタラクティブに商品を紹介するという状況です。中国ではすでに月間数億人がこのライブコマースを利用しているといいます。

これでわかるように、デジタルシェルフ時代の消費者は、自分で選ぶのではなく、お気に入りのインフルエンサーから買うようになります。つまり、お気に入りの人がいる場所が、ショップになるというわけです。

第5章では、デジタルシェルフ時代の先にある未来を予測しています。これまでの消費者の買い物にかける時間は、百貨店に1日、スーパーに1時間、コンビニに10分、ネットショップに1分でした。それが0秒に近づいていくとどうなるか?

著者は次のように言っています。
「買い物は『自分で探して選ぶ』という形ではなくなり、AIが勝手に探してきてくれる、あるいは人からすすめられたものだけ欲しくなる」

消費者にとって「何も考えていなくても、今必要なものがピンポイントで届く」という時代になったら、いろいろなものがなくなります。リアル店舗のレジや店員はAmazon Goのような無人店舗の普及で消え、在庫や包装といったものが不要となり、価格が最適化されて値引きもなくなります。

5G、6Gが普及するころは、家の中のものがすべてIoTで人間とつながり、生活の中には執事のようなバーチャルコンシェルジュが帯同して、あらゆる利便をはかってくれるようになるでしょう。

サブスクリプションの浸透は、「人がモノを持たなくなる時代」をもたらします。そして、住む場所までがサブスクとなり、自宅を持たない時代が到来するかもしれません。ただし、その一方であらゆる行動がスコアリングされ、どこかにデータ化されていきます。それを「監視社会」ととるか、「便利な時代」ととるかは、そのときの人間が考えることです。

「商売」の本質をじっくり考えてみるには好適な参考書です。


 

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