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日本経済予言の書
2020年代、不安な未来の読み解き方

鈴木貴博・著 PHPビジネス新書・刊

950円 (税別)

まずはカバー裏表紙にある「内容紹介」を読んでみましょう。
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新型コロナウイルスの感染拡大により大波乱の幕開けとなった2020年代。「この10年間は、これまで叫ばれてきた様々な危機が現実化し、『日本が壊れる10年間』となる」。未来予測と経営戦略立案の専門家である著者はそう警告する。コロナショックとはどんな影響を及ぼすのか? その後に到来する「7つのショック」とは? どうすれば崩壊を食い止められるのか? 不安な未来を読み解き、新たな変化とリスクにいち早く対応するための必読書。
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ここにはいくつかのキーワードがあります。まず、「これまで叫ばれてきた様々な危機が現実化し」と著者は言っていますが、つまりコロナショックはサプライズではなく、予言されていたということです。

著者は「はじめに」の中で「コロナは本当にサプライズだったのか?」という問いかけをしています。その答えとして、昨年5月に世界的な投資ファンドであるカーライル・グループの創業者であるデビッド・ルーベンスタイン氏が来日したときの言葉が紹介されています。

氏は、「今の好調な金融市場にとってのサプライズな事態とは何か」という質問に対して「軍事衝突リスク、政府債務問題、世界的なパンデミック」と答えていたのです。

著者はルーベンスタイン氏が特別なのではなく、未来予測の専門家なら誰もが備えておくべき視点であったと述べています。その理由は、2003年にSARS、2009年にインフルエンザ、2012年にMERSが経済危機を起こしかけていたことにあります。

大震災の前の余震に相当する前兆がそれだけあったのだから、今回のコロナ禍は近未来に確実に起きるリスク要因として考えていなければならなかったということです。

そして「日本が壊れる10年間」という不気味なキーワードも出てきています。その具体的な例として、著者は「トヨタが今後10年間で確実に衰退する」と予言しています。日本を代表する優良企業の衰退が、日本全体の崩壊につながるという予測です。

なぜトヨタが衰退するのかについて、著者は本書の第2章をまるまるあてています。中見出しを並べてみましょう。
・テクノロジーの進化から未来が予測できる
・フィルムメーカーが消滅した理由
・テレビ市場における日本メーカーの転落
・任天堂の経営危機とV字回復が示唆するもの
・トヨタが危機にあると言われる背景
・トヨタにとって都合の悪い競争ルール
・アイリスオーヤマの乗用車がホームセンターで売られるようになる
・自動車産業がCASEで変わる意味
・トヨタの足かせとなる雇用責任
・自動車産業の5つの未来
・都市交通の制御というビジネスチャンス
・物流の最適化ビジネスの可能性
・自動車メーカーが電力会社になる日
・カーシェアのビジネスモデルが意味するもの
・製造販売からサブスクモデルへの事業転換
・2020年代にトヨタが衰退する最大の理由

どの項目も興味深いところですが、最後の項目を要約してみます。
自動車産業はこれからEV化と完全自動運転化というテクノロジーの変化を迎えます。その結果、自動車産業は垂直統合型の業界から水平分業型の業界に変化していきます。そこではコア部品メーカーが儲かり、完成品メーカーは儲からなくなります。パソコンや携帯電話と同じ道を歩むわけです。

そこで生き残り、勝者になるためには「選択と集中」が必要になりますが、トヨタはそれができない会社です。トヨタは世界でトップの自動車会社なので、研究開発費も1兆1000億円の規模がありますが、グーグルやアマゾンはAIの分野だけでその倍の研究開発費を持っています。

ソニーはかつて家電メーカーのトップでしたが、そこから転落の一途を辿り、カメラ部品などの部品メーカーとして返り咲きました。その流れがトヨタにもやってくると著者は言うのです。

次のキーワード「コロナショックとはどんな影響を及ぼすのか」について見てみましょう。著者は第1章の中の「コロナの一番怖い予言とは?」で次のように述べています。
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もし冬に再流行があるとしたら、日本企業にとって2020年のビジネスチャンスは7月から10月までの正味4か月間しかない。そしてその後の再流行が11月から翌年5月まで最大7か月起きる。
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そして著者は東京オリンピック中止リスクについてふれています。仮に日本国内でコロナが終息していたとしても、世界各国、特に南半球ではどうなっているかが不透明だからです。

本書の帯には、次のようなキャッチコピーが並んでいます。
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コロナ不況は3段階でやってくる
未来予測の専門家が警告する7つのショックと1つの希望
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「7つのショック」とは、次のようなものです。
・アフターコロナショック
・トヨタショック
・気候災害ショック
・アマゾンエフェクト
・人口ピラミッドの崩壊
・ポピュリズムショック
・デジタルチャイナショック

3つめの「気候災害ショック」は、大規模な気象変動による災厄です。著者は2020年代に熱中症による死者が年間2000人を超える年が出るだろうと予測しています。そして、気候変動により農作物の適地が変わります。2040年ころまでには北海道でコシヒカリが、青森でミカンが栽培されるようになるというのです。

高齢化と後継者不足に直面している日本の農家が、そのような変化について行けるか、著者は大いに危惧しています。

「アマゾンエフェクト」とは、「アマゾンをはじめとする大手インターネット通販の物流コストが極限まで下がっていくと、その次に何が起きるのか」ということです。

すでにアメリカではバーニーズ・ニューヨーク、シアーズ、トイザらス、ボーダーズといった小売店チェーンが淘汰されました。日本でも食品スーパー、ドラッグストア、コンビニ以外の小売業はぱっとしません。

これから先、アマゾンなどに食われていくジャンルを著者は次のように予言しています。
・買い物自体が楽しくない買い物
・めったに買わない数千円程度の買い物

さらにアマゾンやネットフリックスはケーブルテレビや有料放送サービス、レンタルビデオ店などを脅かします。そしてスマートスピーカーの普及は、音楽業界に影響を及ぼします。

その先の予測として、著者はアマゾンがローソンかファミリーマートを買収すると考えています。二番手のコンビニチェーンを手に入れてアマゾン・ゴーに変え、セブンイレブンを抜いてトップを目指すという戦略です。

5番目のショックである人口問題では、2030年代に850万人の労働力が不足するというデータを下敷きに議論が進んでいきます。その場合、24時間営業の業態は壊滅します。また、年金問題その他により、普通の人は70年代まで仕事をしないと生活できなくなるでしょう。

一方でAIの進歩により、2030年にはホワイトカラー業務は大量に消滅しているでしょう。すでにメガバンクはRPAというツールを導入することにより、大量のリストラを計画しています。

その結果、労働者にとって「楽な仕事」はなくなり、「肉体的・精神的にきつい仕事」ばかりになります。外国人労働者受け入れ問題とあいまって、人口問題と労働環境の問題は不確実なテーマとなっていくでしょう。

6番目の「ポピュリズムショック」も不確実な未来の要因になります。トランプ政権誕生から注目されるようになった世界的なポピュリズムの流れは、リーマンショックに端を発する「社会の分断」がその源流だと著者は言います。

社会が分断され、多くの国民が何かしらの不満を抱えることにより、その解消を声高に訴える候補者が当選するようになったからです。

著者はポピュリズムの流れの帰結として、次の3つの要素が同時に起これば、政権交代の可能性があるとしています。
・安倍後継政権が弱く、失点を重ねること
・野党の対抗馬としてカリスマが立つこと
・自民党が賛成できないアジェンダが国政選挙の争点となること

2番目の要素の候補者として、著者は橋下徹氏を挙げています。そして3番目の要素には「NHK解体」を例にしています。

最後の「デジタルチャイナショック」とは、IT技術による監視社会の到来を意味しています。すでに中国ではITで人々の信用度がレーティングされ、法律やルールを守らないと損をする仕掛けができています。

また、コロナの最中では行動歴からQRコードが赤黄緑で表示され、コロナリスクの少ない緑の人しか市内を自由に移動できなくなりました。道路交通はITでコントロールされ、ゴビ砂漠の巨大太陽光発電所から超高圧送電線網で電力が上海に送られています。

そのような管理・監視社会は、感染症対策には驚くほどの効率を示します。もしも日本がその有用性を受け入れたら、ゴミのポイ捨てや職場でのパワハラ、お店でのカスタマーハラスメントなどはすべて監視、記録され、個人のスコアに反映するようになります。

じつは世界各国の為政者は、「デジタルチャイナ」に多大な関心を持っているといいます。効率と多数の幸福の名の下に、管理・監視社会が成立してしまうかもしれないということです。

最後の「おわりに」で、著者は「2020年代は1億総情報弱者の時代になる」と言っています。世界に溢れる情報量が人間では処理できない規模に膨れ上がっていくからです。

したがって、2020年は未来予測を確信を持って行うことができる最後の時代かもしれないということです。ここでごく一部ふれた著者の未来予測のかずかずは、必ずしも私たちの望むような姿ではありませんが、冷酷な現実です。

なぜ厳しい現実を書いたのかといえば、「日本人にゆでガエルから飛び出してほしいから」と著者は言っています。毎日を漫然と、ゆっくりした下降線に沿って生きていけば、日本は2030年にはかなり貧しい状況になると予測されます。

そのような予測から逃れるためには、つらくても今、現状を打破する行動をとる必要がある。著者は本書を通じてそのように主張しています。

前向きな意識とともに読んでみたい1冊です。


 

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