1,680円と、実用書にしてはやや高めの値付けですが、288ページにぎっしりとノウハウが詰め込まれていると思えば、納得できると思います。角背のかちっとした造本なので、デスク脇の本棚に置いても格好がつきます。
本書は何らかの形でネットをビジネスに活用している人が読者対象です。そのような人たちがツールやメディアとして利用しているネット関連の費用が高いのか安いのか。その切り口からネット業界の「相場」を見極めていこうという本です。
まずはじめに、著者みずからの体験が語られます。
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「竹内さんのホームページって、正直言ってカッコ悪いですよね」
酒の席で10年来の友人に突然、そんなことを言われた。彼はホームページ制作会社の社長。私よりも年齢は10歳も若い。
「以前から言おうと思っていたんですよ。竹内さん、ネットビジネスのコンサルタントをしているのに、あのホームページはいくらなんでもダサすぎますよ」
彼の言うことはもっともだった。
私、竹内謙礼の公式ホームページはものすごくダサい。制作したのは15年以上も前になる。基本的なレイアウトやデザインはほとんど手を加えていない。更新がしやすいワードプレスで作られているわけでもなければ、今流行りの動画が挿入されているわけでもない。
「ネットビジネスの本もたくさん出していて、全国各地でセミナーもやっているコンサルタントなのに、あのホームページを見たらみんな残念な気持ちになりますよ」
酒が入っているせいか、彼の話はさらにヒートアップしていった。
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そして「友達価格にする」と言われて心がぐらつき、著者はこの社長にホームページリニューアルの見積もりを依頼しました。届いた見積価格は「130万円(税別)」。
著者は心の内で「友達価格なんだから、50万円くらいかな?」と思っていたそうです。友達価格なのに130万円ということは、彼は自分のことを本当は友達と思っていなかったのかもしれない。そんな気持ちで胸の中がざわつきます。
どう返事をしようかと悩んでいたところに、彼から電話が入りました。そこで正直に「高いと思っている」と伝えたところ、彼の返事は「では分割にしましょう」。この時点で、この話はなかったことになりました。
そこで終わってしまえば、本書はこの世に生まれなかったことになります。では何が著者を本書執筆に駆り立てたのか。それは、自分では「高い」と思ったホームページ制作費が、本当に高いのか自信がなくなってきたからでした。
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サラリーマン時代も含めて、この業界で20年以上も仕事をしているにも関わらず、いまだにホームページ制作費の「相場」がわからないのだ。130万円を「高い」と言っておきながら、200万円、300万円のホームページの見積書はよく目にするし、大手企業だと1000万円以上の制作費をかけた話などざらに聞く。一方で、見栄えのいいホームページが50万円くらいで作られていたり、友達にお願いして10万円でホームページを作ってもらったりする話など、価格差で100倍以上も開きが出てきてしまうため、相場価格がまったくわからなくなってしまうところがあった。
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そして、「相場がわからない」のはホームページ制作費だけでなく、システム構築費やSEO対策費、リスティング広告の運用代行費など、ネット業界の仕事のいろいろな部分で相場がわかりにくいことに著者は気がつきました。
中古車なら、車種や年式、走行距離でだいたいの相場が形成されています。牛丼の値段もチェーン店ならだいたい同じです。わかりにくいと言われる弁護士への相談費用も、価格差100倍ということはありません。なのになぜ、ネット業界の仕事は相場がわかりにくいのでしょうか。
そこで著者はさまざまな職種の人に聞き込みを行い、ネットに関わるお金の話について、「なぜそのくらいの価格になるのか」の理由や要因を解き明かそうとしました。それをわかりやすく書いたのが本書です。
ご存じの方も多いと思いますが、著者は経営コンサルタントで有限会社いろは代表取締役。大学卒業後、雑誌編集者を経て、観光施設の企画広報に携わり、通信販売や実店舗の運営、企画立案などを行いました。楽天市場に出店したネットショップがオープン3年で年商1億円を達成したり、2年連続で楽天市場のショップ・オブ・ザ・イヤー「ベスト店長賞」を受賞するなどの実績があります。現在は大企業、中小企業を問わず、販促戦略立案、新規事業、起業アドバイスを行う経営コンサルタントとして活躍中です。著書には『楽天にもAmazonにも頼らない!自力でドカンと売上が伸びるネットショップの鉄則』『一瞬でお客さんの心をつかむ!1秒POP』『200社に足を運んでわかったお客さんがホイホイ集まる法則』などがあります。このコーナーでも7月22日に『巣ごもり消費マーケティング』を紹介しています。
それでは、本書の目次を紹介します。目次で「これは買わねば!」と思った方は、すぐに表紙写真をクリックしてアマゾンに飛んでください。私の書評を読むより、本書を熟読したほうが、ビジネスの役に立つと思われます。
・はじめに
・第1章 「友達のホームページは30万円なのに、なんで俺のホームページは300万円なの?」なぜ、ネット業界の相場はわかりにくいのか
・第2章 「知人の会社にホームページを作ってもらったら失敗したんだけど……」ネットでお金を払って「いいモノ」「悪いモノ」
・第3章 ホームページ制作費の相場を検証する
・第4章 SNS、ブログ執筆、動画コンテンツ制作……なんとかお安くできないのか?
・第5章 SEOとリスティング広告の相場はいくらなのか?
・第6章 「フリーランスの人がホームページを5万円で制作するって言ってるんだけど大丈夫かな」正社員、フリーランス、コンサルタント……得なのは?
・第7章 利益を出すためのネットショップ運営コストを考える
・おわりに
第1章の最初で、著者はこう言っています。
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世の中、「知っている人」が安価に生活できて、「知らない人」のほうがお金のかかる生活を強いられることになる。(中略)ホームページの制作にくわしい人は、どのくらいの作業量と時間をかけて、どのような人に頼めば安く仕事がお願いできるのか熟知している。(中略)結局、ネット業界を「知らない人」は、ネット業界を「知っている人」にお願いをして、言い値でホームページを作るしか方法はないのである。
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さらにややこしいのは、「知っている人」が玉石混淆の状態になっていて、しかも希少であるということです。業界自体がまだ20年くらいしか歴史がないために、「知っている人」が少なく、多くが「自分は知っていると思っているが、本当は知らない人」という状態なのです。
そして「知っている人」は仕事がいくらでもあるため、面倒な仕事は引き受けません。ぱっと見て効率が悪いと思った仕事には高い見積もりを出して相手から断らせようとします。
そこで、発注者は安い見積もりを出した業者に仕事を依頼しますが、人件費が大半を占めるネット業界の仕事で安い見積もりを出すということは、人の質が悪いか、手を抜いた仕事をするかのどちらかになります。
ここで著者は読者に次の点をマスターするように提言しています。
・最低限の知識と情報を持ち合わせること
・相手のスキルを確認することを怠らないこと
続いて、びっくりするような話が飛び出します。
「東京都内でホームページをディレクションできる人間は30人しかいない」
これはネット系のコンサルタントが集まる勉強会で出てきた話だそうです。
まさかそんな、と思うかもしれませんが、以下にその理由を挙げます。
・SNSもSEOもリスティング広告も動画もすべて理解したうえでホームページの戦略を考えられるディレクターがどれだけいるか?
・ホームページのディレクションは想像以上に面倒くさい仕事のため、スキルの高い人ほどやりたがらない
・ネット業界の仕組みをすべて理解しているような優秀な人材は、そもそもホームページを制作するというストレスのかかる仕事をやらない
・「知らない人」に気を使うくらいなら「知っている人」だけを集めて専門ジャンルに特化した仕事をしたほうが効率良く稼げる
・それでもホームページを制作する仕事が好きなのはよほどの変わり者
数年前までは、ホームページ制作といえば、クライアントの要望を聞いてデザインラフを起こし、打ち合わせをして微調整し、制作して完成という流れでした。しかし、今ではそれに加えてアクセス数アップ施策の提案が必要です。検索キーワードから必要なコンテンツを考えたり、リスティング運用の提案やランディングページの提案、SNS運用の提案もしなければなりません。昨今では動画の提案も必須です。
そして作るページはPC用とスマホ用が必要になりますし、完成してからの管理運用では、アクセス解析や検証、コンテンツ改善提案がついて回ります。
そんな面倒な仕事をしなくても、東京にはネット関連の仕事が多く、高い給料がもらえます。だから「東京に30人しかいない」という話になるわけです。
企業の経営者にネット業界の知識がない人が多いことも問題を複雑にしています。ネットのことを知らない経営者は、ネットビジネスを立ち上げるうえで、何から手をつけたらいいのかがわかりません。しかし気持ちだけは焦っているため、社内の適当な人に任せようとします。
しかし、知識のない人が選ぶわけですから、最適任者が選定される可能性は低くなります。その人が確保しようとする人材が「知っている人」である可能性も高くはないでしょう。そのような体制で進められるネット事業がうまくいくはずがありません。
では「友達価格」でいい仕事をしてもらうケースはないのかというと、あります。それは、仕事ができる業者が仲のいい仕事ができる人に頼む場合です。お互いにリスペクトし合っているため、面倒なごたごたがありません。
したがって、「知らない人」は高くて質の悪い仕事をつかまされ、「知っている人」には質が高くて低料金の仕事をつかめるという図式が成立するわけです。
第2章については、大見出しを並べるだけで概略をつかんでもらえると思います。
・「300万円のホームページ」と「30万円のホームページ」の違いはどこで決まるのか
・ディレクターに金は払ってもいいが、制作者に金を払ってはいけない
・デザインにこだわるホームページ制作会社は信頼するな
・情報にお金をかけてもいいが、肩書にお金をかけてはいけない
・「他人」にはお金を使ってもいいが、「知人」にはお金を使ってはいけない
・「仕事ができる人は、仕事ができる人と組みたがる」というあたりまえすぎる理由
最初の「30万円と300万円」は、結論から言うとそのホームページにお金を生み出す力があるかどうかです。著者は次のようにまとめています。
【お金を生み出す力のないホームページ】
・カッコいいデザインになって経営者だけが満足している
・ホームページのアクセス数や問い合わせ数が増えている要因を調べることができない
・具体的にアクセス数を増やす施策がない
・SNSやブログの機能が搭載されているが、どのように使えばいいのかわからない
・ホームページを運営しているスタッフのモチベーションが低い
【お金を生み出す力のあるホームページ】
・ホームページを経由して問い合わせが増える
・ホームページのアクセス数が増える
・ホームページを経由して注文が増える
・ホームページを見て企業や商品に対して良い印象を持ってくれる
・ホームページを見てその会社で働きたくなる
そして著者は「ホームページをリニューアルしていい条件」を次の3点としています。
(1)アクセス数を増やす施策がある
(2)使い勝手をよくする施策がある
(3)イメージアップができる施策がある
本書が提起した「相場はいくらか?」ですが、そのヒントとして著者は「1人月50万円、売上100万円」という物差しを提案しています。「1人月」とは1人が1か月かけて行う作業のことで、160時間の仕事量を意味しています。
「50万円」というのは「1人月」の裸のコストで、それに一般管理費がかかりますから、会社としての売値は100万円くらいになります。なので、160時間くらいで完成する仕事の相場は100万円が妥当というわけです。あとはその作業にどれくらいの時間と手間がかかるかを情報として得れば、見積もりが高いか安いかがわかります。
「おわりに」で著者は冒頭の「130万円」の件について説明しています。
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「130万円」というのは相場の半額ぐらいの料金だったことがわかり、友達価格であることはまちがいなかった。(中略)それでも私は今の“ダサい”ホームページを使い続けるつもりだ。理由は、カッコいいホームページに作り替えても、コンサルタントの仕事が増えるイメージが湧かないからである。
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