オススメ参考書~読んだら即実践してみよう!

ビジュアル アイデア発想フレームワーク

堀公俊・著 日本経済新聞出版社・刊

1,000円 (税別)

ひと言で本書を評するなら、「アイデア発想法のポケット事典」です。新書サイズよりちょっと大きなB6判横組み2色刷り164ページのハンディな装幀の中に、古今東西のアイデアの達人たちが生み出してきた発想技法が170も詰め込まれています。

著者は日本ファシリテーション協会の初代会長です。チームによる活動を効率的・効果的に進めるための支援をファシリテーションと呼び、その推進役をフィシリテーターといいますが、アイデアを生み出すプロセスとは密接な関係があります。

著者は神戸に生まれ、大阪大学大学院工学研究科修了後、大手精密機器メーカーにて商品開発や経営企画に従事しました。95年からは組織改革、企業合併、教育研修、コミュニティ、NPOなどの多彩な分野でファシリテーション活動を展開し、有志とともに日本ファシリテーション協会を設立します。

そして初代会長に就任し、研究会や講演活動を通じてファシリテーションの普及・啓発に努めています。現在は日本ファシリテーション協会のフェローです。著書には『ファシリテーション入門』『アイデア・イノベーション』『ビジネス・フレームワーク』(日本経済新聞出版社)などがあります。

「まえがき」には本書についてのこのような説明があります。
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いくら机の前でうなっていても良いアイデアは出てきません。アイデアを生みやすくするための方法やセオリーがたくさんあり、それらを身につけるのが得策です。

発想の原理やメカニズムを探求した先人たちは、「創造性開発技法」とも呼ばれる数多くの手法を編み出しました。誰がやっても一定のアイデアが出せるのがありがたく、主に製品開発や生産改善といった分野で用いられてきました。

それに対して、メカニズムよりも感性やひらめきを大切にするアプローチがあります。定型的な手法に落とし込みにくいものの、内なる想像力を喚起するのに役立ち、マーケティングやデザインなどの分野で用いられてきました。

これら2つの流れをうまく統合したのが、いま注目の「デザイン思考」や「フューチャーセンター」です。アイデア発想という行為を、真面目にコツコツと詰めていくものから、みんなでワイワイとポジティブに語り合うものに変身させてくれました。そのお陰で、ビジネスのみならず社会全般のイノベーションへと、活用領域が大きく広がりました。

本書は、そんな100年にわたる先人たちの智恵を、アイデアを生み出す基本ステップに沿って集大成したものです。(中略)項目ごとに関連する技法を複数紹介していますが、すべてを覚える必要はありません。普段から持ち歩いて、発想に行き詰まったときにパラパラとめくり、新たな切り口を発見するのに活用していただければ幸いです。
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本書の構成は全6章。巻末には便利な索引があり、ここで読みたい項目を探すのも手です。さらに「発想フレームワークお薦め本」や「使えるビジネス・フレームワーク69」もあるので、巻末部分だけでも役に立ちます。

第Ⅰ章は「情報収集のフレームワーク」。「アイデアは既存の要素の新しい組み合わせ」と、発想法のバイブルといわれる『アイデアのつくり方』を書いたジェームス・W・ヤングは喝破しています。であれば、「既存の要素」をたくさん頭にインプットすることが、アイデア発想の早道であるといえます。

そのために第Ⅰ章は効率的な情報収集のやりかたを紹介しています。「カラーバス」「変化と兆し」「共感図法」「ロールプレイング」「フィールド・インタビュー」「グループ・インタビュー」「ブラウジング」「コンテクストマップ」「タイムライン」「リッチピクチャー」「ビジネスモデル分析」の11種です。

最初に出てくる「カラーバス」は、直訳すれば「色を浴びる」という意味。たとえば街を歩くとき「今日のテーマは赤」と決めて赤いものに注目すると、ぼーっと歩いているときの何倍もの情報が入ってきます。つまり、しっかりした課題を持って現場に足を運ばないと、必要な情報は手に入らないということです。

二番目の「変化と兆し」は、直接現場に足を運んで発想のヒントを探すときのフィールドワークのやり方です。
・変わらずあるもの
・なくなってしまったもの
・新しく現れたもの
・まだ現れないもの
の4種類に分類しながら現場を調べ、「そうなったのはなぜか」を考えます。

第Ⅱ章は「自由発想のフレームワーク」。アイデアを求めるときは一発ホームランを狙うのではなく、ありとあらゆるアイデアを出し尽くして試行錯誤することが大切です。そのための方法が12種類紹介されます。

登場するのは、「ブレーンストーミング」「ブレーンライティング」「アンチプロブレム」「ゴー・ストップ法」「フィリップス66法」「マインドマップ」「マンダラート」「仮想ストーリー」「ピクチャーカード」「モノ語り」「ワールドカフェ」「オープン・スペース・テクノロジー」。ご存じのものもいくつかあるのではないでしょうか。

最初の「ブレーンストーミング」は、おそらくこの中で最も有名でしょう。アメリカの広告会社の幹部であったアレックス・F・オズボーンが考案した会議法といわれ、日本ではよく「ブレスト」と略されます。

「批判厳禁」「自由奔放」「質より量」「便乗歓迎」の4つのルールで会議を進め、連想ゲームのように芋づる式にアイデアを連鎖させるのが特徴です。

ただし、ブレストはルールが簡単なだけに運用には工夫が必要です。まず前提条件をしっかりさせないと、うまく進められません。「何人が」「いつ、どれくらいの時間」「どんな場所で」のアサインがものを言います。

そして最初に、テーマを決めておく必要があります。抽象的なテーマよりも適度な制約のある具体的なテーマがいいそうです。会議が始まったら、進行役であるファシリテーターの腕の見せどころ。4つのルールの監視役であると同時に、会議のテンポをつくり、全体を推したり引いたりしながら全員の脳を活性化させます。もちろん、記録係の存在も重要です。

その次の「ブレーンライティング」は、別名「沈黙のブレスト」と呼ばれるドイツ生まれの会議手法です。ブレストは派手で盛り上がりますが、社交的で声の大きな人が目立つのに対して、こちらはじっくり考える慎重な人にもスポットライトが当たります。

やり方は原則6名の参加者が、与えられたテーマに対して1人ずつ1枚の紙に3つのアイデアを書いていきます。まずAさんがアイデアを3つ書き、それを隣のBさんに回します。制限時間は1人5分。30分後には18個のアイデアがまとまるというわけです。

ポイントは、前の人が書いたアイデアを参考にして考えることができるところです。そして、必ずしも全員が同じ場所に揃う必要はありません。紙を回覧していくのですから、別の部屋にいても、リモートでも実施可能です。話をしませんから、コロナ禍に向いた発想法といえそうです。

第Ⅲ章は「視点変換のフレームワーク」。強制的にアイデアを出したいとき、今までの発想法でやっていて煮詰まったときに有効な方法が並べられています。既存のアイデアを発展させたり、ひねりを加えたり、新たな視点で考えることが可能になります。

登場するのは「オズボーンのチェックリスト」「6つの帽子」「5W1H」「刺激ワード法」「ワードダイヤモンド」「カタルタ」「加減乗除」「マトリクス法」「逆設定法」「アズ・イフ」「アイスブレイク」「リフレーミング」「ポジティブ・アプローチ」「質問会議」の14種類。どれも強力な方法です。

「オズボーンのチェックリスト」は、ブレーンストーミングの考案者であるアレックス・F・オズボーンが提唱したアイデア抽出の手法で、しばしばブレストと組み合わせて用いられます。会議が停滞したとき、ファシリテーターがこのチェックリストから提案を投げかけるのです。

チェックリストは「ほかに使い道は?」「応用できないか?」「修正したら」「拡大したら」「縮小したら」「代用したら」「アレンジし直したら」「逆にしたら」「組み合わせたら」の9つ。頭文字を取って「SCAMPER」とも呼ばれます。

これは会議でなく、1人でも使える方法です。あらかじめチェックリストを用意しておき、テーマに沿ってどんどん書き込んでいくことで、アイデアが生まれやすくなります。

また、テーマを細かい要素や属性に分けてしまい、それぞれにチェックリストを当てはめるという方法もあります。ユニークなアイデアが出やすくなる方法として知られています。

「6つの帽子」は、バランスよくテーマを検討するための手法で、水平思考を説くE・デ・ボーノが開発したものです。6色の帽子を人数分用意して、司会者の合図でかぶりながら会議を進めていきます。

6色の帽子にはそれぞれ次の意味があります。
・白=客観的に考える(事実・情報)
・赤=直感的に考える(感情・直感)
・青=肯定的に考える(メリット)
・黒=否定的に考える(デメリット)
・黄=創造的に考える(アイデア)
・緑=管理的に考える(手順・プロセス)

まず全員が白の帽子をかぶって事実や情報の洗い出しをし、次に赤の帽子をかぶってテーマに対してどんな感情や直感を持ったかを話し合います。このように次々と帽子を取り替えながらテーマを深めていきます。

制約なしに会議をしていると、どうしても赤、黒、緑にかたよりがちになりますが、この方法を取れば整理された形で議論を進めることが可能になります。

第Ⅳ章は「発想支援のフレームワーク」です。よいアイデアを出すためのシステマチックな手法が紹介されています。「KJ法」「セブンクロス」「欠点列挙法」「属性列挙法」「形態分析法」「シネクティクス法」「NM法」「バリュー・エンジニアリング」「バリューグラフ」「TOC」「因果ループ図」「TRIZ」「KT法」「フューチャーサーチ」の14種類です。

第Ⅱ章から第Ⅳ章までがアイデアを生み出すプロセスに関するもので、続く第Ⅴ章「試作検証のフレームワーク」と第Ⅵ章の「評価決定のフレームワーク」はアイデアを企画に煮詰めていくためのプロセスです。

第Ⅴ章で紹介されるのは「モデリング」「コラージュ」「メタファ」「イメージカタログ」「カバーストーリー」「スキット」「インプロ」「シナリオプランニング」「ギャラリーウォーク」の10種類のフレームワークです。

最後の第Ⅵ章には、「ドット投票」「PMI法」「SUCCESs」「ハイ・ロー・マトリクス」「星取り表」「Who/What/When」「満足度マトリクス」の7種類のフレームワークが並んでいます。

今まで耳にしたことがある発想法、実践したことがある発想法が少し、聞いたこともない発想法が大半だと思いますが、身近に置いてパラパラ眺めるのに適したアイデア発想の「武器」です。ぜひお手元に1冊どうぞ。


 

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