オススメ参考書~読んだら即実践してみよう!

その言い方は「失礼」です!

吉原珠央・著 幻冬舎新書・刊

840円 (税別)

帯に著者である美女が微笑んでいるので、つい手に取ってしまいそうな本です。そして著者の写真の隣には「遅くなりました!」「かわいそう」「疲れて見えるけど大丈夫?」「偉いですね」という用例が「すべてNG」であると書かれています。

「え? 普通に使っていたけど、それって失礼なの?」と思ったら、みごと著者の術中にはまったことになります。たぶん手に取った本書をレジに運ぶ、あるいは購入ボタンをクリックすることになるでしょうから。

なぜ「遅くなりました!」が失礼な言い方か。149ページに解説があります。「遅くなりました!」は単なる状況報告であり、謝罪の気持ちが一切表れていないからと著者は言います。約束の時間に遅れたという事実を、約束を破った当人が軽く流すことで、相手に不誠実な印象を与えてしまうのです。

「かわいそう」がダメな理由は、20ページに載っています。相手の状況を勝手に不幸だと決めつける、上から目線の言い方であると著者は指摘しています。何かというと「かわいそう」を連発する人は、相手に「上から目線の人」であると認識されるようになります。

「かわいそう」は話者の感想ですが、明らかに相手と価値観が合致していない場合に使うと、価値観の押しつけになります。そこに優越感が透けて見えたら、聞かされた相手は不快になるだけでしょう。

「疲れて見えるけど大丈夫?」は本文の最初に出てくる項目です。見出しには「『疲れて見える』と本人に伝えるな」とあります。

言われた当人にしてみれば、「疲れて見える」と言われても、どうにも対処のしようがありません。「そうか、私は疲れて見えるのか…」と落ち込んでしまうかもしれません。

言われた相手が複雑な心境になったり、落ち込んだり、傷ついたりする言葉は、徹底して慎むべきだと著者は言います。特に「疲れて見える」は女性に対しては禁句だと強調しています。

「偉いですね」も上から目線の言い方に聞こえる場合があります。小さな子供に「ひとりでお使いができて、偉いね」と言うのは自然ですが、早出をしてオフィスの掃除をしている上司に「偉いですね」と言うのはケンカを売るようなものです。

著者はキャリアカウンセラーやイメージコンサルタントとして企業研修や講演を行うほか、ストレスフリーをコンセプトにしたライフスタイルブランド「PURA Tokyo」を立ち上げ、商品企画を担当しています。プライベートでは2児の母親で、旅行と人間観察を趣味にしているそうです。著書は『「また会いたい」と思われる人の38のルール』『「もっと話したい!」と思われる人の44のルール』『人とモノを自由に選べるようになる本』『自分のことを話すな!』(幻冬舎)、『パワーウーマンのつくり方』『「選ばれる女性」のシンプルな習慣40』(宝島社)、『シンプルだけど心にひびく大人の気くばり』(三笠書房)など多数あります。

1976年、埼玉県生まれの著者は、十文字短期大学英文科卒業後、全日空に入社。客室乗務員として勤務しました。その後、証券会社の勤務を経て、イギリスでビジネスコミュニケーションを学び、キャリアコンサルタント・カウンセラーとして独立。現在に至ります。

著者が本書を世に出した目的は、「まえがき」にあります。
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本書は「失礼な言動」の正体を明確にし、より信頼される人になるための実践的な話し方や振る舞い方を紹介しています。
さらには、万が一失礼な言動をとる人があなたのそばにいても、どのように反応すればストレスが軽減でき、自分自身を守れるかについても述べています。
(中略)
私たちは、人と会うときは常に相手を大切に思い、それを相手に確実に感じてもらうための言葉と態度を工夫すべきなのです。
***

それでは、本書の目次を紹介しましょう。
・まえがき
・第1章 ひんぱんに遭遇する「失礼な言動」
・第2章 失礼な人ほど「自分は正しい」と思っている
・第3章 礼儀正しい人は無敵である
・あとがき

第1章では、身近にある失礼な言動のあれこれを取り上げ、その背景にある話者の心理に迫ります。あわせて、そのような言動に直面したときの対応策についても考察します。

たとえば、一つひとつの言葉は問題がなくても、「話が長い」「相手の話をさえぎって言いたいことを主張する」などの問題行動を起こす人がいます。会話や会議の中で意見を求められると、堰を切ったように話し始める人というのはよく見かけるものです。

そういう人は、「相手は自分の話を聞きたがっている」と思い込んでいたり、「自分の話には価値がある」と信じ切っていることが多いものです。でも、相手が自分に話題を振ってくれたのが、単に話をする機会を与えてくれただけだったとしたら、どうでしょう。

おそらく「自分勝手な人だ」「自己顕示欲の強い人だ」という印象を相手に与えてしまい、次からは簡単に意見を求めなくなってしまうかもしれません。そんなことが繰り返されると、やがてはそういう場に呼ばれなくなることもあり得ます。

話すのが大好きな人は、「聞くのにもエネルギーがいる」という事実をよく認識するべきです。人の話を聞いて理解するには、頭の中で聞いたことを分解し、咀嚼する必要があります。それはけっこう大変な脳の活動です。

それだけでなく、「またこの人の演説が始まった」「そんな話をしていたら、会議の時間が終わっちゃうよ」などと思いながら、不快感を押し殺してただ聞いているというのは一種の苦行です。

自分の得意な分野の話、誰かに聞かせたくてたまらない新鮮な情報を話すときは、まず「これから相手の時間を借りて、相手にエネルギーを使わせることをする」と認識してから話の口火を切るようにするといいでしょう。すると、必要以上に相手の時間を浪費させずにすみます。

失礼な言い方をよくしてしまう人の特徴は、「ありがとう」「お願いします」「ごめんなさい」といった基本的な言葉が反射的に出てこないところです。そして、すぐに「だから○○はダメなんだ」とばっさり切り捨てるような言い方をすることが多いものです。

コンビニの店員の対応がまずくても、「だからバイトはダメなんだ」という言い方は失礼です。すべてのアルバイト店員を統計的に見てきたのでもないかぎり、「バイトはダメ、正社員はいい」というのは思い込みでしかありません。思い込みを口にするのは、多くの場合相手を不快にします。

そのような失礼な言動を繰り返す人からは、距離を置くのがいいのでしょうか。著者は「相手の失礼は自分を磨くヒントにするべき」と言います。

プロフィールのところで紹介したように、著者の会社は「PURA Tokyo」というライフスタイルブランドを展開していますが、その中心になる商品は化粧品です。あるとき、その化粧品を愛用している友人とおしゃべりをしていたら、その場に居合わせた別の女性がこんなことを言いました。

「なんで、みんなすぐに化粧品ビジネスに走りたがるの? そんなに儲かるの?」

このフレーズには、「みんな」「すぐに」「走りたがる」「儲かる」と、相手を不快にさせる言葉が4つもあります。著者も「もし自分が20代だったら頭にきていただろう」と言っています。頭にきて、その人を遠ざけるようになったかもしれないと。

でも著者はこう返して受け流しました。「儲かっている人たちは、きっとすごく努力されているんだろうね。私の会社は、全然まだまだだけどね」

著者はこう言います。「たった一つの違和感によって、相手を『嫌い』「付き合いたくない』などと判断する必要はないかもしれません。焦点を当てるべきは、『違和感を覚えた相手』ではなく、『自分が感じた違和感』だけでいいのです」

そして、こう続けています。「生活の中で感じる『違和感の正体』を放置せず、その原因を突き止めたら、『私は自分の価値観に自信を持っていればいいだけのこと』と考え、振る舞うことが、私の目指したい在り方です」

失礼な言動をする相手に対しては、「違和感チェックリスト」を当てはめることが有効だと著者は言っています。
・誰かが傷つく内容か?
・相手からの敵意を感じる内容か?
・相手の敬意を感じられるか?
・自信を持って人にも話せる内容か?
・自分の気分がよいか?

よくないのは、相手の言動に違和感を感じているのに、「あの人は悪い人ではない」「今回はたまたまだ」「私のメンタルが弱いせいだ」「私の心が狭いからだ」などと無理やりに思い込んで自分の気持ちを抑え込んでしまうことだと著者は言います。

そうではなく、「あの態度は○○さんに対して失礼だ」「あの言い方で私は傷ついた」などと、いったん判断して結論を下すことが有効だそうです。違和感を明確にすることで、自分の価値観を守れる一方で、相手との距離感を保ち、ストレスを軽減することができるからです。

第2章の冒頭には「『だから』は不快感を与える言葉」という項目があります。上から目線で自分の正しさを前面に出す態度を象徴する言葉なのだといいます。相手から何か言われるたびに「だから、それは…」と返すと、相手は恥をかかされたような気持ちになります。

続いて「お客様を『さん』づけで呼ぶな」「場所を選ばず、プライベートな質問をするな」「人前で注意をする残念な人たち」という項目が並んでいます。

第3章は「『後ろの人』に気を遣えるか」という項目から始まります。街を歩いているとき、建物の中で、後ろにまったく気遣いをしていない人たちを目にします。特にお年寄りに多いようです。自分の後ろに気配りをできる人は、たいてい失礼な言動をとらないものです。

そして「失礼な言い方」の反対に、「一気にやる気が上がる魔法の言葉」が挙げられています。それは「もっと」「さらに」「ずっと」「より」といった副詞群です。

「次はきっとよくなるよ」では、現在はゼロであるというニュアンスが伝わってしまいますが、「次はもっとよくなるよ」と言えば、相手は傷つきません。

同様に、「ご活躍を願っています」よりも「今後も、さらに活躍されることを願っています」のほうが、「応援しています」よりも「ずっと応援しています」のほうが、「ここを修正すると説得力が増します」よりも「ここを修正すると、より説得力が増します」のほうが、相手に伝わる印象はいいでしょう。

さらりと読めて参考になる部分が多く、さすが元客室乗務員(著者の年代が、スチュワーデスからキャビンアテンダントに切り替わる時代です)は違うと思わせる本です。


 

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