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ワークマン式「しない経営」
4000億円の空白市場を切り拓いた秘密

土屋哲雄・著 ダイヤモンド社・刊

1,600円 (税別)

「ワークマン」というお店については、みなさんご存じでしょう。群馬県に本拠を持つ流通大手のベイシアグループの一員で、全国に900店以上のネットワークを持つ、日本一の作業服専門店です。

最近、客層を現場作業員から一般顧客に広げてきたために注目されるようになりましたが、その歴史は結構古く、1980年に株式会社いせや(ベイシアの前身)の一部門として、群馬県伊勢崎市に「職人の店ワークマン」1号店をオープンしたのがスタートです。

その2年後には株式会社ワークマンとして独立し、群馬県高崎市に流通センターを設置。店舗網を埼玉県に広げます。翌年、栃木県に出店し、さらに茨城県、千葉県、長野県、新潟県、福島県、山形県に拡大していきます。

そして1988年に100店舗を達成すると、1992年には200店舗、1997年に300店舗、2000年に400店舗、2002年に500店舗、2008年に600店舗、2012年に700店舗、2017年に800店舗と順調に成長してきたことがわかります。

昨今のワークマンブームは、屋外や工場での作業を念頭に置いた高機能商品のコストパフォーマンスの良さに目をつけたインフルエンサーが、SNSなどで広めた結果です。オートバイの愛好家に作業服や安全靴が売れたり、厨房用の滑りにくい靴が妊婦に売れたりしています。

この流れを受けて誕生した新業態の店舗が「ワークマンプラス」です。従来の作業員(ワークマンでは「ブルーワーカー」と呼んでいます)向けの一般客や女性客が入りにくかった店舗を改装し、カジュアル向けのコーナーを独立させたスタイルで、改装した店舗は軒並み売上を伸ばしています。

それに合わせて高機能と低価格を訴求したアウトドア、スポーツ、レインウェアの新商品も開発し、ワークマンプラスだけでなく、従来のワークマンでも取り扱うようになりました。

さらには、「ワークマン女子」という作業服を扱わず女性客にフォーカスした新店舗も登場し、従来のロードサイド展開ではなく、ショッピングセンターに出店していくという方針もアナウンスされています。

本書は、そんな快進撃を続けるワークマンの成功の秘密に迫った本です。ユニークなのは、著者が外部の人間ではなく、「株式会社ワークマン専務取締役」という経営トップに近い人物であることです。

著者の土屋哲雄という名前を見て、「おや?」と思った人もいるでしょう。そう、著者はベイシアグループ創業者で、一代にして1兆円産業を築き上げた土屋嘉雄氏の甥に当たります。そしてその叔父に、新卒で勤務していた三井物産から定年間際に引き抜かれ、ワークマンに就職しました。

土屋嘉雄会長(当時)は、著者にこう言いました。「この会社では何もしなくてよい」と。しかし、それは「遊んでいても給料は払う」という意味ではなく、「大きな事業をやるために、しばらくは腰を据えて勉強せよ」という真意が隠されていたのでした。

その言葉で、著者は商社マンとして培ってきた「ジャングル・ファイター気質」を捨て、自分の仕事のやり方を変えることから始めました。

著者は三井物産時代、隙間産業を次々と開拓し、成果を収めました。日本語ワープロ専用機をアレンジして中国語ワープロを作り、大ヒット。細かい文字専用のプリンターで市場を席巻。ボウリング場のオンライン採点装置で大きな利益を上げたこともありました。

2006年からは三井情報開発の役員となり、ゼロからコンサル事業を立ち上げます。システムエンジニアにコンサルタントの肩書きのついた名刺を持たせ、プレゼン技術とトーク技法を教えることで、社員の時間単価を2倍に引き上げます。

しかし、それらの成果も商社のスケールでは「ゴミ同然」のレベルでした。著者はいつでも売上100億円、利益10億円の事業を作る自信がありましたが、商社で求められるスケールは、その1桁上の売上1000億円、利益100億円の事業だったのです。

土屋嘉雄会長の「何もしなくていい」という言葉は、そういうスケールの仕事をワークマンに持ち込むなという意味でもあったと著者は悟ります。

そこで著者はしばらくの間、ワークマンを徹底的に観察しました。それには、著者がこれまで自身を鍛えてきた「企業がどんな戦い方をしているのか」「どのように競争相手に対して優位性を作り上げているのか」を分析する習慣が役に立ちました。

その結果わかったのは、ワークマンが「ファイブフォースをすべて満たす希有な会社」だということでした。

ファイブフォースというのは、経営戦略の古典として知られる『新訂 競争の戦略』でマイケル・E・ポーターが提唱した分析手法です。著者はこれをワークマンに当てはめてみました。

1 作業服市場に業界外からの新規参入の脅威はほとんどない
2 作業服の買い手の交渉力は個人なので法人ほど強くない
3 作業服の代替品の脅威はほとんどない
4 作業服の供給者(売り手)の交渉力はワークマンに比べて強くない
5 作業服市場では個人向け製品の競争がほとんどない

これは、ワークマンが対象としている市場が「ブルーオーシャン」であることを示しています。法人向けという見かけ上大きな市場を捨て、個人向けという小さな市場で高いシェアを取るという戦略の勝利でした。

あるとき、著者は店舗でお客様が商品を購入する様子を見ていて驚きます。お客様が商品を手に取ってからレジに向かうまでの時間が異様に速いのです。さらに観察を続けているうちに、お客様が値札をまったく見ていないことに気づきました。

ワークマンのお客様は、機能やサイズはタグで確認しても、値札は見ません。レジで高いと不満を言うこともなく、さっと支払って帰って行きます。それは、ワークマンの商品が他社製品に比べて機能がよく、価格が安いということをお客様が確信しているからにほかなりません。これは大変な信頼感です。

ワークマンの値付けは次のようになっています。
・普通の防寒ブルゾン……1,900円(税込み)
・耐久撥水防寒ブルゾン…2,900円(税込み)
・完全防水ブルゾン………3,900円(税込み)

このように、機能と価格が比例するような価格体系になっているため、お客様は値札を見ないで買うことができるわけです。しかも、全体的に安い。そのためお客様は「作業服を買うならワークマン」という刷り込みがなされていて、後発企業による新規参入が非常にむずかしくなっています。

それでは、本書の題名である「しない経営」に焦点を合わせましょう。巻頭の「はじめに」に列記されています。

●社員のストレスになることはしない
・残業しない
・仕事の期限を設けない
・ノルマと短期目標を設定しない

●ワークマンらしくないことはしない
・他社と競争しない
・値引きをしない
・デザインを変えない
・顧客管理をしない
・取引先を変えない
・(加盟店は)対面販売をしない、閉店語にレジを締めない、ノルマはない

●価値を生まない無駄なことはしない
・社内行事をしない
・会議を極力しない
・経営幹部は極力出社しない
・幹部は思いつきでアイデアを口にしない

多くの企業がやっている「目標を定め、ノルマを決め、期限までにやりきる」といったことを一切せず、特に「頑張る」ことはしないどころか禁止。それで業績が10期連続で最高益更新中なのがワークマンです。

「しない会社」がどのようにブルーオーシャン市場を発見し、客層を拡大して業績を上げたのか。どのように自分の頭で考える社員を育てたのか。それが本書のテーマであると著者は言います。

それでは、本書の目次を紹介します。
・はじめに 4000億円の空白市場を切り拓いた秘密
・第1章 「しない会社」にやってきたジャングル・ファイター
・第2章 ワークマン式「第2のブルーオーシャン市場」のつくり方
・第3章 「しない経営」が最強の理由
・第4章 データ活用ゼロの会社が「エクセル経営」で急成長した秘密
・第5章 なぜ「エクセル経営」で社員がぐんぐん成長するのか
・第6章 興味こそがやりきる経営のエンジンである
・第7章 「両利きの経営」はどうすれば実現できるのか
・おわりに

最後に第3章にある「巨大アマゾンに負けない『しない経営』」をちょっとご紹介しておきましょう。多くの小売にとって最大の敵はアマゾンであると著者も言っていますが、そこでアマゾンに負けないためには、アマゾンが嫌がることを徹底的にやることが必要とのことです。

1 定価でアマゾンに負けない
2 配送費でアマゾンに負けない
3 販促費をかけない

まず「定価で負けない」ですが、機能が同じならアマゾンより安く、価格が同等なら機能で上回る商品を揃えること。そしてアマゾンにできない「作業服の10年供給保証」が、この市場での優位点となります。

次の「配送費で負けない」は、宅配を希望する個人客を切り捨てるところからスタートします。ネットで注文して店舗で受け取れば送料無料。ワークマンにあってアマゾンにないのは全国900の店舗ですから、それを最大限に利用します。ちなみに、ワークマンの店舗数はユニクロを上回ります。

「販促費をかけない」は、アンバサダーマーケティングを徹底することです。ワークマンはアンバサダー(ワークマン好きブロガーの中から採用した無給の販促担当者)が無償で製品紹介をブログやYouTubeを使って展開してくれますから、その活動をワークマンが店舗やネットで紹介することで、販促費無料の情報発信が可能になります。

このアンバサダーの存在がワークマンの強みです。その活躍の様子については、公式サイトを見るとよくわかります。
https://www.workman.co.jp/feature/ambassador/

業種や仕事の内容が違っても、必ずヒントが見つけられる本です。


 

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