オススメ参考書~読んだら即実践してみよう!

2040年の未来予測

成毛眞・著 日経BP・刊

1,700円 (税別)

ちらっと見ただけでは地味な表紙なのですが、よくよく見るとずいぶん凝った装幀です。帯にある「知っている人だけが悲劇を避けられる」というコピーの「避」だけが銀色の箔押しで、ある角度に傾けるとキラリと光ります。

タイトルよりも大きな「2040」の文字は、「2」と「0」がサイドに回り込んでいます。「0」のほうは背表紙ですが、「2」は本文の小口。つまり「爪」と呼ばれる辞書の見出しみたいな技法で「2」の回り込みを表現しているわけです。

カバーを外すと、「2040」が表紙と裏表紙にぐるりと記され、さらにインパクトを与えます。デザイナーが好きなようにデザインした装幀だとわかります。

最近の本は見た目が似ているものが多いのですが、それは編集部がヒット作に似たデザインを要求するから。あるいはヒット作を出しているデザイナーに仕事を集中させるから。おかげで書店の平台には、よく似た本がずらりと並んでいます。

その点、本書は著者が有名人であるためか、「よく似たデザイン」を採用しなくて済んでいます。「似たようなデザインの商品」は、市場の成長を阻害しますから、こういう本を見るとほっとします。

さて、著者は言わずと知れた元日本マイクロソフト社長で、現在は投資コンサルティング会社「インスパイア」や書評サイト「HONZ」で活躍している著述家です。そして著者は、本書を最後に、しばらく著述を休むと宣言しています。

それでは、先に目次を紹介しておきましょう。
・はじめに
・#01 テクノロジーの進歩だけが未来を明るくする
・#02 あなたの不幸に直結する未来の経済――年金、税金、医療費
・#03 衣・食・住を考えながら、未来を予測する力をつける
・#04 天災は必ず起こる
・おわりに
・参考文献

「はじめに」の冒頭に出てくるのは、スマートフォンです。2008年7月に登場したiPhoneが、13年かけて私たちの日常を変えました。著者は次のように指摘します。「これまでの10年よりこれからの10年の方が世界は大きく、早く変わるだろう」

そして第1章に入ると、100年前のアインシュタイン来日の話題が語られます。1921年に「光電効果」でノーベル物理学賞を受賞したアインシュタインは、翌年の秋にフランスから40日の船旅で日本にやってきました。

神戸港に着くと、京都で一夜を明かし、東海道線の特急で10時間かけて東京に到着。翌日は慶應義塾大学に2000人以上の聴衆を集めて5時間もの講演を行います。それから日本に40日間滞在し、全国を講演して回りました。

40日の船旅は、今では12時間のフライトで済みます。10時間の汽車の旅は新幹線では2時間です。そもそもわざわざ日本に来なくても、今ならオンラインで講演ができます。100年でそれほどテクノロジーは進歩したということです。

しかし、新しいテクノロジーが登場すると、多くの人がそれに反対を唱えます。1970年代の終盤に登場したショルダー型の携帯電話を見て、「ほしい!」と飛びついた人は何人いたでしょう。だから、「いち早くその可能性に思いを巡らせられる人にはチャンスがある」と著者は言います。

アインシュタインがノーベル賞を受賞した「光電効果」は、今日では太陽電池パネルやデジカメの撮像素子などに応用されています。彼の開いた世界が、量子力学や半導体の発展へと続きました。

たとえば通信の世界の技術革新がどのように進んできたかを、著者は携帯電話の規格を例にとって説明しています。
・1979年…1G(ショルダーフォン)
・1993年…2G(デジタル方式。PHSなど)
・2001年…3G(W-CDMA方式。写メールなど)
・2010年…4G(LTE方式。1Gの10万倍の通信速度)
・2020年…5G(4Gの100倍の通信速度)
・2030年?…6G(5Gの10~100倍の通信速度で同時接続機器が1000万台)

6Gの普及と同時に、身のまわりのあらゆるものにコンピューターチップが埋め込まれ、通信で繋がるようになります。現在「IoT」と呼ばれている「物のインターネット」が当たり前になり、人々の身のまわりにあるものすべてが情報処理能力を持つようになるでしょう。

その時代には、交通はすべて自動運転となり、空中を荷物を積んだドローンが飛び交います。遠隔医療、遠隔教育が当然となり、AIによる自動翻訳で国際会議も通訳なしで行えるようになります。

情報端末は多様になり、たとえばAR(拡張現実)用のメガネに必要な情報が映し出されます。相手の名前が思い出せなくても、ARメガネの視野には名前や肩書、自分との関係が次々と表示されるようになるでしょう。

2010年にインターネットに接続された機器は、全世界で125億台でした。1人当たりにすると2台です。それが2040年には1人当たり1000台になると予想されています。家中の家電や自動車など、使うもの触れるもののすべてがインターネットで接続される計算です。

そうなれば、個人の生活の隅々にまでサービスが入り込んできます。医療情報とのリンクも進み、健康に害のある行動がとりにくくなっていくでしょう。その時代の家電製品にはスイッチやボタンはなく、自動または音声での制御になっていそうです。

そのように技術が進展する一方で、日本の少子高齢化はますます進みます。2040年の日本は老人ばかりになっているでしょう。そして経済の見通しは明るくありません。

よく、年金制度が破綻すると言われますが、それは現在のシステムがそのままで、少子高齢化が進んだ場合の話です。著者の計算では、70歳近くまで働き、年金受給を遅らせれば、これからも今の65歳の人がもらえる年金と同じ額がもらえるそうです。

現在でも世界のトップレベルにある日本人の寿命ですが、近未来はさらに延びそうです。というのも、ガンの治療や遺伝子治療、ワクチン開発などにテクノロジーの進展が寄与するからです。これに痴呆の対策が加われば、老人大国となる日本でも、寝たきりの人は少なくなるかもしれません。

食糧事情はどうなるでしょうか。世界の人口は増加の一途ですから、食糧の需給は厳しくなりそうです。おそらく、代用肉や遺伝子編集の魚が一般的になり、自然界の食品が高級品になりそうです。

すでに現在、昆虫食に注目が集まっています。コオロギやある種の幼虫をタンパク源に使うもので、そのままの姿では抵抗のある人も多いでしょうが、粉末にして加工することで、一般化が進められています。

住宅事情に関しては、「持ち家」という概念が一般の人から消えると予想されます。人口減で2033年には2100万戸が空き家になると見られていて、特にマンションの価値下落が激しいという予測があります。

2018年の時点で、全国のマンションの4分の3が修繕積立金不足であるそうです。すると転売ができずに価値が下落する住居が増え、日本全体で家が値下がりすることになります。

その時点で「持ち家信仰」は消滅し、賃貸住宅に住むという選択が当たり前になるでしょう。サブスクリプションで好きな場所に転々と引っ越すというライフスタイルも登場しそうです。

コロナ禍で普及した「オンライン」ですが、仕事と教育に普及するようになれば、通勤・通学に便利な場所に住むという選択もなくなりそうです。それ以前に、すでに日本は大学進学率で世界第23位と低迷しており、学歴の意味もなくなりかけています。

若者が少なくなれば、大量に雇用してその中から優秀な人材を育てるというモデルが破綻します。そうなれば学歴は関係がなくなり、個別の能力が評価されるようになるでしょう。これからは、早いうちに好きなことを見つけて、能力を伸ばすような教育が有効になるでしょう。

こうして見ていくと、未来の日本はテクノロジーは進化するものの、若者の少ない老人社会となり、国際的競争力は伸びが期待できないという、暗めの予想が浮かんできます。

そうした中で明らかに進展するのは、シェアリングエコノミーです。所有するのではなく、必要なときだけ使うというライフスタイルが進展し、耐久消費財の所有は激減するでしょう。

2018年に1兆8874億円であったシェアリングエコノミーの市場は、2030年には11兆1275億円と、約10倍になると予想されています。経済的に豊かであれば、人々は所有することを好みますが、貧しくなればそんなことは言ってられないからです。

エネルギーの面では、再生可能エネルギーと全固体電池を搭載した電気自動車の組み合わせに期待が集まっています。太陽光発電や風力発電の欠点は、安定した発電ができないことですが、安価な蓄電ができればその欠点は克服できます。

そのためのインフラになると期待されているのが、リチウム電池に代わる未来技術の全固体電池です。この分野は日本が世界をリードしている数少ない部門でもあります。

本書の最後では、世界が水不足になるという警鐘が鳴らされています。水不足になりそうな国は、パキスタン、中国、インド。そのいずれもが核保有国であるというのが、なんとも不気味です。

いずれにせよ、来るべき未来を生きぬいていくためには、その時々の環境に対処していくしかありません。そのためにも、本書に書かれた情報をよく理解しておきたいものです。


 

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