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よけいなひと言を好かれるセリフに変える 言いかえ図鑑

大野萌子・著 サンマーク出版・刊

1,400円 (税別)

表紙カバーは淡い色合いの地紋のように見えるマンガがバックに敷いてあります。そして帯の下には「×」と「○」が。

「×」は「つまらないものですが」「疲れてる?」「私のこと、覚えていますか?」という例が挙げてあり、「○」には「気持ちばかりですが」「元気だった?」「あのときお会いした大野です」という言いかえ例が並んでいます。

なぜそういう言いかえが必要なのかを、著者は「はじめに」で語っています。
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言葉というのは怖いもので、使い方を一歩間違えると人間関係にヒビが入ったり、取り返しがつかなくなったりすることもあります。でももっと怖いのは、相手をイラッとさせることを言っている自覚がない人。(中略)ハラスメントの行為者(加害者)になりやすいのも、このように無意識のうちによけいなひと言を口にしているタイプです。
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つい相手の気に障る言葉を発してしまい、「そんなつもりじゃなかったのに」と反省する人は多いはずです。でも、だからといって言いたいことを我慢して人と話すことを避けるようになってしまうと、コミュニケーションが取れなくなってしまいます。

そのために、本書では「よけいなひと言」を「好かれるセリフ」に言いかえるパターンを141例、15章のシーン別に分けて掲載し、解説を加えています。

著者は一般社団法人日本メンタルアップ支援機構代表理事で、産業カウンセラーと2級キャリアコンサルティング技能士の資格を持った人物です。企業内カウンセラーとして現場経験を積み、人間関係改善スキルを専門にしています。おもな著書に『「かまってちゃん」社員の上手なかまい方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『言いにくいことを伝える技術』(ぱる出版)などがあります。

それでは、先に目次を紹介しておきましょう。
・はじめに
・第1章 挨拶・社交辞令
・第2章 お願いごと・頼みごと
・第3章 断り方
・第4章 気遣い
・第5章 ほめ方
・第6章 返事
・第7章 自己主張
・第8章 注意・叱り方
・第9章 他人との距離
・第10章 聞き方
・第11章 謝罪の仕方
・第12章 SNS・メール
・第13章 マイナス意見
・第14章 子育て
・第15章 ハラスメントになりやすいNGワード
・おわりに

第1章の「挨拶」と「社交辞令」は似ているようで大きく違います。挨拶はコミュニケーションの基本であり、特に第一印象を決めるときには大事な要素になります。一方で社交辞令はどうしても必要なものではありませんが、相手との関係性維持のために使うことが多くなります。

ここで最初に登場する「よけいなひと言」は「ご苦労さまです」。著者は「お疲れさまです」と言いかえるように勧めています。なぜなら、「ご苦労さま」は上の立場の人が目下に対して使う表現だからです。それを知らずに平社員が部長に対して使ったりすると、「きみにそんなことを言われる筋合いはない!」と不快感を持たせてしまうことがあります。

さらにいえば、最近では「疲れてもいないのに『お疲れさま』と言われるのは不快だ」と感じる人も増えています。単なる挨拶であるなら、「お先に失礼します」などのほうが適切でしょう。ねぎらいの言葉をかけたいのなら、「お帰りなさい」「例の件が無事に済んだようで何よりです」といった言い回しのほうが気持ちが伝わると著者は言います。

同様に「大変ですね」というのもブラックワードなのだそうです。相手の忙しさや窮状、複雑な状況などをあまりにも大雑把にひとくくりにする印象を与え、表面だけの社交辞令であるという感じに伝わるからです。

また、相手に「はい」か「いいえ」で答えを求める「クローズドクエスチョン」はデリカシーに欠けた言葉としてとらえられます。相手を気分的に追い詰めてしまうことがあるからです。たとえば「仕事はうまくいってるの?」はNGで、「最近、どう?」といった「オープンクエスチョン」で問いかけるべきだといいます。

第2章の「お願いごと・頼みごと」では、うまい言い回しが思いつかずに悩んだ経験のある人も多いでしょう。いかに相手に気持ちよく引き受けてもらうかは、コミュニケーションの重要なスキルです。

たとえば相手に何かの作業を依頼するときは、あいまいな表現はトラブルの元になります。「ちゃんと」「しっかり」「徹底的に」といった言葉は避け、「この作業はここまでやってください」と誰が聞いてもわかるように具体的に指示します。

「ちょっと」とか「後で」といったあいまい表現も相手によって受け取り方が異なるので、NGです。「10分ほどお時間ありますか?」「明日のお昼までにお返事します」というように具体的に期限や期日を伝えるようにするべきです。

「なるはや」と略して伝えられる期限もあいまい表現なので、「明日の17時までに」「月末までに」とするべきです。そうしないと、必ず「そんなつもりじゃなかったのに」という行き違いが生まれます。

あいまい表現に続いて本書でダメ出しされているのが「甘えた表現」です。例として「これもついでにお願い」という言い方が挙げてあります。

その言い方には「大したことないから、これもやっておいて」というニュアンスがあり、相手は自分が見下されていると感じるかもしれません。そう思われないためには、「この件も追加でお願いできますか?」と元の話と分けて依頼するべきです。

第3章の「断り方」も、コミュニケーションにおいてむずかしいとされる言い方です。著者は「断る=拒絶ではない」と強調しています。「断ると相手を拒絶しているようで不快な思いをさせてしまうのでは」と思い込んでいる人が多いのですが、そんなことはないからです。

むしろ断りたいのに態度をあいまいにして、かえって相手に迷惑をかけてしまうことのほうが問題です。上手な断り方をマスターしておくことで、コミュニケーションを円滑にすることができます。

ここでのポイントは、断るときに理由を伝える必要がないことと、代案を用意することです。たとえば「今ちょっと忙しいので」はNGで、言いかえ案として「今週は厳しいですが、来週でしたら」が挙げられています。

また、依頼された案件に自信がない場合は、「私には無理です」と言わずに、「私にはまだそのスキルがないのでできません」と言うべきなのだそうです。また、「無理です」と言う人の中には、迷惑をかけたくないために本気で断っている人と、「そんなことないよ」「あなたなら大丈夫」と言ってほしいためにわざと断っている「かまってちゃん」の2種類がいることが、問題をややこしくします。

第4章の「気遣い」では、古来美風とされた言い方が最近では通用しなくなってきている例が挙げてあります。謙遜のつもりで言ったのに、過剰に卑下しているととられがちな「つまらないものですが」「粗品ですが」「ほんのお口汚しですが」は「気持ちばかりの品ですが」「お口に合うかどうかわかりませんが、私が好きなお菓子を買ってきました」といった今日的な表現に変えるべきだそうです。

日本人らしい謙遜の気持ちがネガティブな言葉になっていないかを自分でチェックして、ネガティブが強い場合には言いかえたほうがいいと著者は言っています。

いわゆる「上から目線」が匂う言い回しも注意しなければなりません。「ご存じないと思いますが」という言い方は、相手が本当に知らなくても、いい感じはしません。「ご存じかもしれませんが」と言いかえるべきでしょう。

第5章は「ほめ方」です。相手をほめるつもりが、そこに嫉妬や上から目線が少しでも混じると、相手には敏感に伝わります。「要領がいいね」というのは、「立ち回りがうまい」というニュアンスにとられると、ほめ言葉ではありません。そこはストレートに「仕事が早いね」と言えばいいのです。

また、「感心しました」は目上の人に対して使ってはいけません。「感銘を受けました」「感服しました」と言うべきだそうです。

第6章の「返事」では、相手を軽んじていない気持ちが伝わるようにしなければなりません。相づちのつもりで多用される「なるほど」は、ともすれば上の空に聞こえます。「そうなんですね」「よくわかりました」と共感を伝えるべきです。

同様に返事の言葉としてよく使われる「検討します」も、本当に検討してくれるのか、拒絶の婉曲表現かがよくわからないため、言いかえが必要です。「検討して来週中にお返事します」と言えば、門前払いではないことが伝わるでしょう。

第7章の「自己主張」は、相手に自分の意見を伝える言い回しです。しかし、これを上手にできる人はなかなかいません。つい自分が言いたいことだけ言って終わりにしたり、相手を否定または批判したりする場合が多くなりがちです。あくまでも主体は相手であることを意識すると、トラブルを防ぐことができます。

たとえば「それはやめたほうがいい」という言い方は、単なる主観の押しつけです。「私はこういう理由でこうしたほうがいいと思う」と、あくまでも自分の意見であることを強調して伝えるようにします。

また、「こんなこと言いたくないんだけど」と前置きして、相手の批判をする人がいますが、少しでも相手をバカにした要素があると、パワハラと認定されかねません。「気になっているので伝えておくね」と言えば、過剰な警戒を招かずに済みます。

さらにハラスメントにつながりやすいのが第8章の「注意・叱り方」です。自分の希望を相手に押しつけるのではなく、事実を伝えて自分の考えを述べるようにする必要があります。

「やる気あるの?」といった、ケンカを売るような言葉ではなく、「パフォーマンスが低いように見えるけど、何か困っている?」と事実をベースに相手に寄り添う姿勢が望ましいと著者は言います。

ここまでで本書の約半分を紹介しました。300ページを超える厚さですが、読みたい章からページをめくれば、「言いかえ辞典」としての機能もあります。

「おわりに」で著者は大事なことを言っています。
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コミュニケーションの是非は「自分の在り方」で決まるのです。自らの意思や思いを把握できてこそ、人にそれを伝えることができます。わかり合うための基本です。
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実用的でありながら、コミュニケーションの基本が学べる1冊です。


 

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