オススメ参考書~読んだら即実践してみよう!

整える習慣

小林弘幸・著 日経BP・日本経済新聞出版本部・刊

800円 (税別)

「自律神経って、何?」と聞かれて、「それはね…」と即答できる人はどのくらいおられるでしょうか。

『デジタル大辞泉』によると、自律神経とは「意志とは無関係に作用する神経で、消化器、血管系、内分泌腺、生殖器などの不随意器官の機能を促進または抑制し調節する。交感神経と副交感神経からなる」と解説されています。

交感神経と副交感神経については、いくらかご存じの方が増えるのではないでしょうか。起きている時が交感神経優位、寝ている時が副交感神経優位であるとか、交感神経と副交感神経の交代がスムーズでないと寝起きが悪いとかの知識をお持ちの方もおられるでしょう。

近年、この自律神経の不調が生活習慣病などと深い関わりを持っていることがわかってきました。たとえば睡眠時無呼吸症候群は寝ている間に何回も呼吸が止まってしまう病気ですが、このために頻繁に交感神経と副交感神経のスイッチングが発生し、血圧が上がったり、血糖値が上昇したりすることが判明しています。

今回取り上げる『整える習慣』は、この自律神経の不調を取り去り、自律神経を健康に保つことで自身の心身や周辺の人間関係、ひいては地球環境の健全化までも視野に入れた「整える」ための本です。

昨今のタイトルとサブタイトル、キャッチコピーで内容や効能をくどくどとアピールする本と比べると、あっさりしすぎているようなタイトルですが、本書をよく読むとその味わい深さが理解できます。

本書が属している「日経ビジネス人文庫」は、2000年11月に創刊された「働く人たちのための我が国唯一の文庫シリーズ」です。創刊後20年で2000タイトル、累計2000万部が発刊されています。

よく知られている既刊としては、『経済ってそういうことだったのか会議』『稲盛和夫の実学』『なぜ会社は変われないのか』『松下幸之助 夢を育てる』『本田宗一郎 夢を力に』などがあります。

本書の著者である小林弘幸氏は順天堂大学医学部教授で、日本体育協会公認スポーツドクターです。順天堂大学医学部卒業後、同大学大学院医学研究科を修了、ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属医学研究センター、アイルランド国立小児病院外科勤務を経て、順天堂大学小児外科講師、助教授を歴任し、現在に至ります。

自律神経研究の第一人者として、数多くのプロスポーツ選手、アーティスト、文化人へのコンディショニング、パフォーマンス向上指導に関わり、テレビ出演などメディアでも大人気の医師として活躍中です。

よく売れている著書を並べてみると、著者のレパートリーの広さがわかります。
『眠れなくなるほど面白い 図解 自律神経の話』
『免疫力が10割――腸内環境と自律神経を整えれば病気知らず』(共著)
『最高の体調を引き出す超肺活』(共著)
『自律神経を整える「長生き呼吸法」』
『医者が考案した「長生きみそ汁」』
『本当にやせたいのならこのスープを毎日飲んでください』
『死ぬまで歩くにはスクワットだけすればいい』

このレパートリーの広さは、それだけ自律神経というものが多方面に影響するという証拠でもあります。

著者は本書の冒頭で、次のように書いています。
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じつにちょっとしたことですが、日常生活の中に「これっていいな」「おもしろいな」と感じる瞬間をつくり出す。そんなことで自律神経は整い、気分は上向いていきます。漫然と日々を過ごすのではなく、その瞬間に小さなリセットができる。コンディショニングにとって非常に大切な部分です。
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この文章でわかるように、本書は自律神経を整えることがテーマですが、その内容はむずかしいものでも、大げさなものでもありません。「え、そんなことでいいの?」と思ってしまうような日常の軽い何か。そこに目を向けようというものです。

著者はコロナ禍の弊害を次のように語ります。
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新型コロナウイルスが本当の意味で私たちから奪っているのは、まさにこの「毎日希望を持って、イキイキ生きること」ではないでしょうか。
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「コロナ鬱」という言葉に代表される、巣ごもりを強要されることによる閉塞感。それが人々の健康を害しているというのです。

それでは、本書の目次を紹介していきましょう。
・文庫化にあたって
・はじめに
・自律神経を意識するとなぜ仕事がうまくいくのか?
・第1章 まず、モノを片づけて、心を安定させる――身の回りの整え方
・第2章 一日ごとの体の変化を意識する――時間の整え方
・第3章 無理したつき合いは断つ――人間関係の整え方
・第4章 体のスイッチを意識する――体の整え方
・第5章 食べ物と食べ方を少しだけ変える――食の整え方
・第6章 今夜の振り返りが、スムーズな明日をつくる――行動パターンの整え方
・第7章 ストレスには正しく対処する――メンタルの整え方
・第8章 自分のタイプを知る――自分らしさの整え方
・毎日、イキイキと生きる7つのレッスン

著者は「ちょっとした意識や行動を変えるだけで『出せる力』の質が変わる」と言っています。それはこれまでに40冊以上の著書で自律神経を解説してきた著者ならではのアドバイスです。

著者によれば、自律神経とは「体の状態を自動的に整えてくれている器官」なのだそうです。だからこそ、自律神経を整えることは体の状態を整えることと同義であり、自分のコンディションを整えて今ある実力を十分に発揮させることにつながるわけです。

では第1章をくわしく見ていきましょう。

第1章には12の行動術が記載されています。こんな感じです。
・鞄の中を探した瞬間に、あなたは乱れている
・鞄に徹底的にこだわる
・欲しい情報は「ひと目でわかる状態」にしておく
・「片づける場所」を決める
・モノを探すときは制限時間を設定する
・窮屈な服や靴は選ばない
・シャツは「白一択」
・天気の悪い日は明るい色のネクタイ
・服を捨てると集中力が増す
・電子マネーは早めにチャージする
・財布の整理を1日1回
・「帰る前の片づけ」を儀式にする

「鞄の中を探した瞬間に、あなたは乱れている」とは何を意味しているのでしょうか。著者は次のように解説しています。
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モノを取り出すために、鞄の中を探し回る。じつは、そんなささいなことで私たちの自律神経は乱れ、仕事への集中力は大きく下がってしまいます。(中略)そんなちょっとした瞬間に、交感神経は跳ね上がり、血流は悪くなり、集中力は下がり、結果として仕事のパフォーマンスは著しく低下します。
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仮に探しているものが運良く見つかったとしても、一度でも気持ちが焦り、自律神経が乱れた状態になってしまったら、その後の仕事のクオリティは下がってしまうのだそうです。だから「コンディションを整えるための第一歩は鞄の中を整理することだ」と著者は言います。

しかし、どんなに整理したとしても、何かを探す行動はゼロにはならないでしょう。そのために著者は「モノを探すときは制限時間を設定する」と提言しています。

自律神経が乱れるのを最小限に抑えるために、「この10分は探し物をする」「10分で見つからなかったら、そのときには代替案を考える」とはっきり決めてから探し物を始めるべきだというのです。

デッドラインを決めると、不思議なことに気持ちは落ち着き、自律神経が整い始めるので、集中して探すことができるそうです。デッドラインや落とし所をはじめに決めておくことで、不安がなくなり集中できるというわけです。

「窮屈な服や靴は選ばない」という項目では、体を締めつけることの弊害を解説しています。体を締めつける服や靴は、それだけで交感神経を上げてしまい、コンディションを崩すからです。

たとえば職場でネクタイが必要な人は、通勤時にはノーネクタイでワイシャツの一番上のボタンも外しておき、職場でネクタイを締めることを著者は勧めています。何本かのネクタイを職場のロッカーに置いておくのは「とてもいい習慣」だそうです。

「シャツは『白一択』」というのは、著者自身の習慣です。スーツは黒、シャツは白と決めておくことで、服選びのストレスから回避されるということです。もしも著者と同じように「毎朝、服を選ぶのが面倒」という人は、真似してみるといいかもしれません。

以下、生活のさまざまなシーンにおけるストレス回避の方法がたっぷり載っています。「自分はストレスに弱い」という自覚のある人、「なんだか体調がイマイチ」という人、「ここぞというところでやる気が出ない」と悩んでいる人におすすめの1冊です。


 

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