オススメ参考書~読んだら即実践してみよう!

「30秒で伝える」全技術
「端的に話す」を完璧にマスターする会話の思考法

桐生稔・著 KADOKAWA・刊

1,500円 (税別)

2年目に入ったコロナ禍の中で、話し方が下手になった人が増えているといいます。集まりを制限され、対面コミュニケーションの場が減り、オンラインミーティングを強要され、常時マスクをしているためだそうです。

人はコミュニケーション能力を人との関わりの中で磨いていきます。日々の実践が膨大なトライ&エラーの蓄積となり、そのことで話す力、聞く力が高まっていくわけです。ところがコロナがそれを阻害しているので、人々のコミュニケーション能力が少しずつ損なわれていきます。

もともと能力の高かった人は、コロナがあまり逆風になっていません。オンラインコミュニケーションでも問題なく意思の疎通ができているという人は、コロナ以前から十分な話す力、聞く力を持っていたわけです。

本書のターゲットは、そうしたコミュニケーション能力に恵まれた人ではなく、「話し下手」「言いたいことが相手にうまく伝わらない」といった悩みを持っている人が対象です。そういう人たちが文字通り「30秒で」相手に意思を伝えるテクニックが30個、示されています。

著者は株式会社モチベーション&コミュニケーション代表取締役。簡単にいえば「話し方の先生」です。1978年新潟県生まれで、小さいころから体が弱く、人見知りで営業成績もビリだったそうです。それが左遷をきっかけに会話力を磨き、全国ナンバーワンに。

ボイストレーナーに転職してからは350名の講師をマネジメントして世に出しました。2017年に現在の会社を設立し、年間2000回のセミナーや研修を実施。「伝わる話し方」に特化したオリジナルメソッドが評判となり、マスコミで紹介されるようになりました。

著書には『10秒でズバッと伝わる話し方』(扶桑社)、『雑談の一流、二流、三流』(明日香出版)があります。後者はコロナ禍真っ最中の発売にもかかわらず、8万部のベストセラーとなりました。

「はじめに」では、世間話のような柔らかい語り口で「要約」「たとえ話」「数字を使う」といった「伝わる話し方」の代表的なメソッドを紹介し、「伝わる話し方には決まったパターンが存在する」という本書の中心コンセプトが示されます。

本書のカギになる数字は「30」です。本書には伝わる話し方のメソッドが「30」紹介され、本書のテーマは「30秒」という時間です。

なぜ30秒なのかというと、日々の仕事の中で相手に情報を伝えるシーンを考えてみると、30秒程度の短いやり取りが圧倒的に多いからです。その30秒で伝えるべきことが完全に伝われば、コミュニケーションの効率は100%となります。

著者は次のように断定しています。
「30秒で伝わる人は人前で30分話しても伝わるし、30秒で伝わらない人は人前で30分話しても伝わりません」

それでは、本書の目次を紹介しましょう。
■はじめに
■1章 2020年、「伝え方」の根本が覆された
・突然ですが、残酷な話をします
・アウトプット激減なのに「情報爆発時代」に突入
・この潮流は止まらない、時代に対応できる準備をする
■2章 たった30秒の会話が未来を拓く
・「素早く、短く、濃く」の伝え方を手に入れる
・普段の生活では短いやりとりが圧倒的に多い
・30秒を制する者がビジネスを制する
・なぜ「30秒で伝える」とミラクルが起きるのか?
・20年間の集大成にして究極の「30秒メソッド」
■3章 30秒を制する会話術基礎習得編
<1>スタートは「30秒体内時計」を刻むことから
<2>何かを話し始める前に「BOX」を用意する
<3>相手を安心させる「要約力」を身につける
<4>「主語使い」のプロになる
<5>「たとえ話」を巧みに駆使して一瞬で伝える
<6>ハイスピードで伝わる「ナンバーディスプレイ」
<7>全体像を明らかにする「ナンバリング」
<8>納得を生み出す「ロジック」を組み立てる
<9>「前提」をロックして無駄な話を撲滅する
<10>「ショートセンテンス」を意識して話す
■4章 30秒を制する会話術上級テクニック編
<11>強烈な印象を残す「語彙力」
<12>自信を持って断言する「語尾力」
<13>視覚に高速で訴えかける「絵力」
<14>秒速で伝わる圧倒的な「表現力」
<15>自分の世界に惹きつける「エピソードトーク」
<16>聞き手を飽きさせない「変化の法則」
<17>短い会話でお願いごとを通す「プリフレーム」
<18>まずい空気を一瞬で変える「ワンワード」
<19>30秒で的確に指示を把握する「2W1H」
<20>話が噛み合わないをなくす「具体化力」
■5章 30秒を制する会話術マスター編
<21>いざという時に助かる「クイックスピーチ」
<22>30秒で答えてほしいときの「BBQ」
<23>相手の話を30秒でまとめる「T字フォーマット」
<24>30秒トークの「初期設定」をチームに徹底する
<25>「エナジートーク」を使って30秒で勇気づける
<26>「学び」すらも30秒で自分のものにする
<27>「思考の尺度」を広げるストレッチ
<28>「言語化する力」で響くメッセージを届ける
<29>30秒の「ラストシーン」から描く
<30>神の30秒
■おわりに

1章では、コロナ禍の状況が人々の話し方をどんどん下手にしているという現状が紹介されます。リアルとオンラインでは相互に伝わる情報の量が格段に違い、マスクをすることで発話が困難になるからです。そもそも人が集まれないことで会話のスキルはどんどん下がります。

それなのに、世の中の情報量は爆発的に増えています。総務省の報告書によると1996年から2006年の10年間で、選択情報可能量が530倍に増えているとのことです。それからさらに15年経った今では、どのくらい増えたか想像もつきません。

つまり話しづらくなってアウトプットは減っているのに、情報爆発でインプットは激増しているわけです。アウトプット、すなわち伝える力が弱ければ、情報の渦に巻き込まれて自分の意見を影響力にすることができません。

2章では、発言を「素早く、短く、濃く」しなければならない理由が語られます。そして、人間が集中力を持続できる時間を「30秒」としています。30秒で語れる文字数は約150字。ツイッターくらいの情報量です。

テレビのコマーシャルが最長30秒であるのは、それが集中力の限界だからです。YouTubeでは開始15秒で半分が離脱し、30秒で2/3が離脱することが定説になっています。テレアポの実験では「15~30秒で9割切られる」という結果がいくつも出ています。

著者によれば、「30秒で言いたいことをまとめられない人が、人前で60分話すときだけはメチャメチャ話がうまいなんてことはありません」ということです。バットをボールに当てられない人がホームランを連発することなど、できるはずがないという理屈です。

30秒で伝えることができるようになると、どんなメリットがあるでしょうか。著者は次の5つの力が手に入ると言います。
1.スピード力
2.瞬発力
3.発信力
4.削ぐ力
5.信頼力

これらの5つの力が身につくと、次のような変化が自分に生じるそうです。
・突然話を振られたとしても、脳みそを高速回転させて話を整理することができるようになる
・急に質問されても、ひと言目から一番伝えたいメッセージを瞬発的に発信できるようになる
・いままで通らなかった意見が通るようになる
・会議で自信を持って発言できるようになる
・面接や昇格面談で聞かれたことに明確に回答することができるようになる
・商品の良さが一瞬で伝わり、決まらなかった契約が決まるようになる

著者は営業成績ビリだった時代に、飛び込み営業やテレアポで断られることを繰り返し経験し、「ファーストコンタクトの30秒が大事だ」ということを掴み取りました。そして「最初の30秒で相手から質問させる」というテクニックを会得します。

人材派遣の営業をしていた著者のトークはこうでした。「前日に急なオーダーが入ってきて、人手不足で依頼を断ってしまうことはありませんか?」これで反応率が上がったそうです。

その結果から、著者はファーストコンタクトの30秒間に全身全霊を注ぐようになりました。そのおかげで引き合いが増え、売り上げ達成率全国1位を獲得するに至ります。

30のメソッドは3章から始まります。3章は基礎習得編で、4章が上級テクニック編、5章がマスター編です。ではその中からいくつか紹介します。

まず最初は、30秒がどのくらいの長さなのかを体内時計に刻み込むところからです。それができないと、30秒に全身全霊を傾けることなど不可能です。そのためには、30秒で話す訓練を時計を見ながらひたすら繰り返す必要があります。これをやれば誰でも30秒で話せるようになります。

次に、その30秒で話すべき内容の「BOX」を用意し、その中を埋めます。たとえば「結論」「詳細」「まとめ」という3つのBOXを作ってから、その中身を言葉で埋めていきます。「内容」「理由」「事例」というBOXなら、次のようにします。
・内容→本日提案するのは、残業時間の削減です
・理由→ここ半年で、全社の残業時間が1.5倍に増加しています
・事例→特にA部署とB部署に関しては2倍に増加していますので、早急に残業時間の削減を実現していきたいと思っております
これで大体30秒です。

そして「話にタイトルを付ける」ということも重要です。全部聞かないと何の話かわからないような話し方は×。たとえば冒頭に「昨日クレームをいただきました」と言えば、クレームに関する話だと相手に伝わります。このように話にタイトルを付けることで聞き手を安心させることができます。

「たとえ話」もうまく使うと相手の心をつかむことができます。人気のあるお笑い芸人は、たいていたとえ話の名手です。たとえ話が大事なのは、心理学でいう「認知容易性」、すなわち人間はわかりやすいものを心地良く感じるという性質があるためです。

そして、要所で数字を使うのも伝えるテクニックのひとつです。「現在の進捗は50%です」と最初に言えば、相手は安心して続きを聞くことができます。「今年は3万人の方にご利用いただいております。昨年の10倍です」というフレーズの説得力は、いうまでもないでしょう。

同様に、話の順序に番号を振る「ナンバリング」も有効です。「本日のまとめは3点です。1点目~」といった話し方です。

以下、目からウロコのテクニックが解説付きで紹介されていきます。自分の「伝える力」を向上させたいすべての人におすすめの本です。


 

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