オススメ参考書~読んだら即実践してみよう!

回想脳 脳が健康でいられる大切な習慣

瀧靖之・著 青春出版社・刊

1,400円 (税別)

「昔は良かったなあ」を繰り返すようになると、老人になった証拠だと言われます。さらに進んで、昔の成功体験を振りかざし、若い人のやり方を批判するようになると、「老害」の烙印を押されます。

このように、一般的には過去の良い思い出を振り返ってばかりいることは、あまり良いこととは思われません。むしろ、「過去から離れて、未来へ目を向けなさい」などと言われたりします。

しかし、特に高齢者の場合、過去の栄光を振り返るのは心身の活性化に役立ちます。認知症の非薬物療法のひとつとして知られている「回想法」は、まさにこれを利用したもので、1960年代から治療に利用されています。

また、自叙伝を手掛けるライターや編集者は、口を揃えて「本作りのためのインタビューを始めたら、みるみる著者が若返り、気力が充実していくのがわかった」と言います。施設に入所していたお年寄りが、自分史を書き始めたとたんに、要介護度が下がったという話もよく聞きます。

本書の著者である東北大学加齢医学研究所教授の瀧靖之氏は、本書を「認知症が気になる高齢者」だけでなく、働き盛りの人、若い人にも読んでほしいと語っています。脳のMRI画像16万人分を見てきた経験から、「回想」が年齢に関係なく脳を活性化することがわかっているからです。

著者は「はじめに」でこう語っています。
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時間というものは、過去から未来へと流れていき、けっして戻ることはありません。そのため、未来に向かって行動していくことはポジティブで、過去を振り返ることは後ろ向きでネガティブな行為だと思われがちです。しかし、さまざまな脳医学の研究によって、過去を振り返ることでむしろポジティブな気持ちになること、老若男女を問わず脳の健康を維持し、さらには将来の認知症リスクを下げる可能性があることなどがわかってきたのです。
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作家の五木寛之氏は『回想のすすめ』(中公新書ラクレ)という本で回想の利点を語っていますが、そこでは回想が感傷的な行為ではなく積極的なもので、生きる力につながっていると明言しています。

本書はその意見に科学的エビデンスで裏付けし、さらに多方面からの「何歳になっても脳が健康でいられる方法」を提唱したものです。

著者は本書執筆の動機を、次のように語っています。
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先行きの不透明な今、未来のことを考えようとしても、かえって不安になるばかりで、足がすくんでしまうかもしれません。しかし、過去を積極的に振り返ることで、自分のなかから幸福感が湧いてくるとともに、前に向かって進んでいこうと思えるようになる。そのような回想の素晴らしい力を、今こそ多くの方に知っていただきたいと思い、私はこの本を書こうと思い立ちました。そして、回想によって健康な脳になることを「回想脳」と名づけました。
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では、本書の目次を紹介します。
・はじめに
・1章 脳を健康にするヒントは「過去」にある!――最新医学でわかった!「回想」の驚きの効果
・2章 脳を喜ばせる「頭」の使い方――「記憶」×「知的好奇心」
・3章 「体」を動かせば脳は元気になる!――「記憶」×「運動」
・4章 「人とのつながり」で脳がよみがえる――「記憶」×「コミュニケーション」
・5章 「回想脳」が生きる力を引き出す――脳の健康と「幸せ」の関係
・付録 「回想脳ワーク」におすすめの懐かしアイテム、ホームページ、博物館
・参考文献

1章では、「回想」がどのように脳を活性化するのかが具体的に示されます。最初の項目では、著者自身の体験から、本書執筆に至る研究の成果が示されます。
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私は、10代のころから過去を振り返り、昔を懐かしむことの好きな子でした。(中略)「懐かしいなあ」という気持ちに満たされていくと、不思議なことにストレスが解消され、知らず知らずのうちに頭と心がスッキリして、勉強もはかどるようになるのです。
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そして、過去を振り返ることは、脳に次の4つの効果を与えることがわかってきました。
1.脳の健康を維持し、認知症の進行を抑える
2.未来に向かって生きる力をつける
3.ストレスを解消し、気分転換を助ける
4.幸福感が得られる

最初の効果は、「回想法」そのものです。回想法は1960年代にアメリカの精神科医ロバート・バトラーによって開発された治療法で、おもに介護施設などでグループ単位で行われることの多いものです。

2つめは、過去を振り返るときに使われる脳内のネットワークと、未来のプランニングをしているときに使われる脳内のネットワークがかなり重複していることから生まれるものです。

3つめのストレス解消効果は、お金をかけずにその場で手軽にできることから注目されています。そして、ストレスを解消すると記憶力が向上し、感情表現が豊かになることが知られています。

4つめは、心理学でいう「主観的幸福感」が高まることにより、ストレスが解消されて脳が元気になるものです。昔を振り返ることで得られる主観的幸福感は、逆境に強い脳を作ります。

こうして「回想」が脳に良い影響を与えることを示したうえで、著者は脳の活性化に必要な3つのキューを挙げています。
1.知的好奇心
2.運動
3.コミュニケーション

これらは「長生きの秘訣」「ボケ防止のポイント」「いつまでも若くあるための要素」などとして、よく語られているものです。この3つの要素を「回想」と結びつけることで、2章から4章が構成されています。

2章では「記憶」×「知的好奇心」の観点から、脳を若々しく保つ方法を提示しています。たとえば「昔住んでいた家の間取りを描いてみる」という「回想脳ワーク」は、脳の奥深くにしまい込まれた情報を、少しずつ解明していく知的作業です。1人でやってもいいし、家族で協力して仕上げていくのもいいでしょう。

大の車マニアである著者は、最近、自分が若かったときに乗っていた車と同じ車種、グレード、色のモデルを中古車で買い求め、ノスタルジーに浸っていると告白しています。
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ドアを開けて乗り込むとき、メーターを見たとき、ハンドルを握ったとき、ギアをチェンジしたとき……、何かをするたびに、それにひもづいた昔のエピソードが浮かんできます。
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そこまで大げさなことでなくても、かつて好きだったものに親しむ、童心に返って遊ぶなどであれば、誰でも気軽に取り組むことができるでしょう。本書では「天体観測」「おもちゃ」がヒントとして挙げられています。

3章では「記憶」×「運動」がテーマになります。体を動かせば脳が元気になることはよく知られていますが、そこに「回想」が加わることで、相乗効果を得ようということです。

ひとつの例として「校舎」という提案が挙げられています。
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久しぶりに学校に行くと、自分がいた教室はもちろん、保健室、理科室、音楽室、体育館、さらには顔を洗った水道や休み時間に遊んだ遊具などを見たとたん、卒業以来ずっと忘れていた思い出があふれるようによみがえってくると思います。
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これを応用したのが、最近増えている古い木造校舎を利用した施設や、給食カフェです。たとえ見知らぬ学校であっても、校舎には共通点があるので、自分の体験や記憶を投影することができるからです。

同様に「学生時代の思い出の店に行く」という行動も、脳にとっては良い刺激になります。それを「町歩き」にまで広げれば、ウォーキングで脳に新鮮な酸素を供給することもできます。

4章では「記憶」×「コミュニケーション」の観点から、「人とのつながり」で脳を活性化する方法が教示されます。新しい本らしく、コロナ禍のことも話題に取り入れてあります。

記憶とコミュニケーションが交差するのは、みんなで共通の思い出を振り返るようなときです。たとえば同窓会やOB会では、それぞれが同じイベントの記憶を別の視点から語りますから、それによって過去の記憶がより立体的になります。

まだコロナ禍で大勢が集まるのはむずかしいですが、それなら「思い出を共有している人と一緒にアルバムを見る」というのはどうでしょうか。リモートでも可能です。これは夫婦、家族、同僚、学友など、いろいろな人を相手にして実施することができます。

「香り」や「音楽」は、記憶と直接的に結びついていることが多いので、それらを使った「回想」もできるでしょう。懐メロがなぜ人気なのかも、回想と結びつければ納得できます。

5章では、未来の自分に向けて「回想」の手がかりになるメモ日記をつけることをすすめています。データだと消えてしまうかもしれないので、アナログの手帳などに1日の行動をメモしておけば、思い出すときのヒントになります。

巻末の「付録」には、著者が役に立つと感じた雑誌、ムック、書籍、ホームページ、博物館が掲載されています。視野を広げてさまざまなものを見ることで、自分自身の「懐かしいと感じるもの」を見つけることができるでしょう。

手軽なストレス解消のためにも、ぜひ役立てたい1冊です。


 

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