オススメ参考書~読んだら即実践してみよう!

若者たちのニューノーマル

牛窪恵・著 日経BP・刊

900円 (税別)

冒頭のご挨拶で触れたように、「Z世代」は「X世代」「Y世代」に続く言葉として使われているため、言葉そのものにはあまり意味はありません。ただし、「Z」はアルファベットの最後なので、その次の世代を表す言葉としては、「α(アルファ)世代」が登場しています。こちらは2013年ころから2020年代中盤生まれの人を指します。

「X世代」はベトナム戦争やヒッピー運動の中で育ち、成人するころにソ連崩壊やダウンサイジングを経験したため就職難に遭遇しています。そしてドットコムバブルの中でネットビジネスを創業する人たちがこの世代から現れました。ラリー・ペイジやイーロン・マスクが代表的な人物です。

「Y世代」はインターネットの普及前に生まれた世代で、幼少期から青年期にかけてIT革命を経験したデジタルネイティブです。スマホやSNSが流行する前に育っているため、電子メールやブログ、掲示板投稿でのコミュニケーションを主とするオンラインカルチャーを形成していました。

本書のテーマである「Z世代」は、真のデジタルネイティブとして最初の世代であるといわれます。生まれたときからインターネットが当たり前に存在し、Webを日常風景として育ちました。また、パソコンよりもスマホが生活の一部となっている「スマホ世代」でもあります。

本書はそんな「Z世代」のことを、それより上の世代の人たちが多角的に知るために、物語とキーワード解説でまとめたものです。コロナ禍の若者たちが日々をどう過ごしていて、何を消費し、将来をどう考えているかがよくわかります。

本書を読むべきかどうかは、本書の裏表紙側の帯に並んでいるキーワード一覧を眺めてみるといいでしょう。ほとんどよく知っているという人は、あわてて本書を読む必要はないかもしれません。

コミュ力(りょく)、ナシ婚、悪目立ち、プチプチブランド、家計簿アプリ、親ラブ族、違法薬物、トリプルPB、コミュ欲消費、バナジュー、グローバルな「いいね!」、ノー密、デートDV、チルる、メイク男子、裏アカ(垢)、実況動画、こけ女、リノベっちゃう?、すきピ、ブラックインターン、グーグルよりインスタ、就活ユーチューバー、卵子冷凍保存、コロナうつ、スタサプ、ゆるつながり、スマホとジップロック、いまから薄毛予防、飲み会は仕事か問題、モノより思い出(コト)、プロ無職、SNSパトロール、核家族の地崩れ

著者は牛窪恵(うしくぼめぐみ)さん。テレビのコメンテーターとしてご存じの方も多いことでしょう。本業は「世代・トレンド評論家」で、マーケティングライターでもあります。

立教大学大学院客員教授で、マーケティング会社の有限会社インフィニティ代表取締役。トレンド、マーケティング関連の著書が多く、「おひとりさま」「草食系」を世に広めた人物として知られています。

なぜZ世代とコロナがテーマの本を書いたのかについて、著者は巻末の「おわりに」で次のように書いています。
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「いま社会で求められていることは、まさにZ世代が、コロナ前から求めてきたことだ!」
それが、コロナ禍の20年3月、若者たちの取材を始めて、真っ先に感じたことでした。
(中略)
コロナという脅威や逆境は、われわれ人間に与えられた「変革のチャンス」でしょう。
いまこそ、この戦いを放棄せず、Z世代と共に、いえZ世代の生き方・働き方・ニューノーマルな価値観をお手本に、私たち大人変革を楽しめたら……と強く思うのです。
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本書は延々と解説が続く書き方ではなく、物語仕立てでZ世代の考え方や行動様式、主要なキーワードが語られ、後にその解説がついている形式で作られています。
主人公は49歳のごく普通の会社員。その人物が2020年夏のコロナ禍において、ある朝起きたら21歳の若者に変身していたのです。

カフカの『変身』のような設定ですが、主人公はありえない事態に戸惑いながらも、なんとか21歳の日常に適応しようと悪戦苦闘します。そして息子を守るために、さまざまな誘惑に立ち向かいます。

そのストーリーを通じて、コロナ禍の若者の消費やトレンド、SNS、働き方、恋愛・結婚観、家族のリアルが読み解かれていきます。物語形式ではありますが、小説ではなく、一種のマーケティング本といえるでしょう。

本書の制作にあたって、著者はZ世代の若者130人にオンライン取材や詳細なアンケートを行い、膨大なデータを集めました。本書の制作について、著者はこう言っています。
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今回、主人公(正太)を私とほぼ同世代、そして変身相手を「Z世代」としたことで、私自身が若者に感情移入しながら書くことができ、コロナ禍でZ世代に聞かせてもらった胸の内や心の叫びを、要所要所で吐露できたと自負しています。同時に、この【若者生活・体感型】の執筆スタイルを通じ、改めて「今後withコロナ、afterコロナ時代のニューノーマルを先導するのは、Z世代に違いない!」と確信しました。
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今回はいつものような目次の紹介ではなく、各章で紹介されるマーケティングキーワードを列記することにします。そのほうが、本書への興味が増すと思います。

第1章
ゆるつながり、コミュ力、スクールカースト、あつ森、ナシ婚、悪目立ち、プチプチブランド、群れ社会、家計簿アプリ、ワイドなコスパ、親ラブ族、ママっこ男子、オヤカク(親確)、就活ルール廃止、イン活、違法薬物、コンビニ限定商品、トリプルPB、コミュ欲消費、カロリーの見える化、バナジュー、SNS映え、ちょこちょこ買い、シェアリングエコノミー、SDGs、グローバルな「いいね!」、スクハラ、オンライン研修

第2章
ノー密、デートDV、エモい、チルる、香水効果、メイク男子、Vライン脱毛、裏アカ(垢)、鍵アカ(垢)、実況動画、#StudyWithMe、カーシェアリング、クルマと安心空間、テラハ、シェアハウス、パリピ、こけ女、リノベっちゃう?、スモール・ストロング・タイ、ラブホで割り勘、すきピ、ソフレ、自己責任論、ソーバーキュリアス、泡アート、イオニスト、地元志向、ふるさと副業、SNS監視、ASMR

第3章
二刀流、妊活、コロナうつ、ブラックインターン、就活ルック、グーグルよりインスタ、フィルターバブル、エコーチェンバー現象、ダイバーシティー経営、ホワイト企業、就活セクハラ、ボランティア教育、就活ユーチューバー、自己PR動画、生産性の再定義、ワンオンワン、トイレ&社食効果、英語力デフォルト、ジョブ型雇用、卵子冷凍保存、不妊治療の保険適用、専業主婦志向、スタサプ、高校生起業家

第4章
先祖返り、反バブル、エナジードリンク、ジュニアバブル、祖母ラブ、インビジブル・ファミリー、スマホとジップロック、いまから薄毛予防、憧れの多様化、社畜、飲み会は仕事か問題、実・学一体、フェス、モノより思い出(コト)、ソー活、プロ無職、SNSパトロール、内定辞退率、核家族の地崩れ、海外旅行熱、クラウドファンディング、おばあちゃんラッパー、サイファー、副業願望

各章の章末には「Z世代を知るフレームワーク」と「Z世代を知るポイント」というコラムが付いています。メインの物語とは別の角度から、Z世代の情報を得ることができます。

物語のあらすじは、これから本書を読む人のために伏せておきますが、ここからはいくつか本書の後半で解説されているキーワードを紹介しましょう。

「プチプチブランド」はプチプライス、つまり価格の安いブランドのこと。Z世代の人気アパレルは、ユニクロ、GU、ビームス、ハニーズ、アースミュージックアンドエコロジーなどです。

「家計簿アプリ」は、コスパ重視のZ世代にとって必須のツールで、マーケティング会社であるアスマークの調査結果では、20代の約5割が家計簿をつけているそうです。

そしてZ世代のコスパ感覚は、中長期的な視点が特徴です。「環境に優しい商品なら少し高くても買う」「高くてもヤフオクで値崩れしないものなら買う」といった意見が目立ちます。

「親ラブ族」や「ママっこ男子」という言葉の背景には、物心ついてからずっと不況の時代で育っている若者の考え方があります。「国も会社も守ってくれないから、親こそが最後の砦」と思うようになるのです。これは日本だけでなく、韓国や中国、アメリカでも顕著です。

「コミュ欲消費」は、SNSのネタのために行う消費のことで、特に飲みたくもないタピオカミルクティーの名店に並んでみたりすることを指します。インスタ映えの経済効果は、7700億円といわれ、これは家計消費額の0.7%にあたります。

「シェアリングエコノミー」は、全体的にZ世代に支持されています。フリマアプリのメルカリで使いかけのコスメや産直野菜を売り買いするのもZ世代の傾向のひとつです。

その一方で、Z世代はあまりエコバッグは利用しません。エコバッグの利用率は年齢とともに高くなる傾向があり、若者たちは「持っていない」「持ち歩くのが不便」「レジ袋が数円程度だから」と敬遠しているようです。

そしてSNSが当たり前のツールであるZ世代にとって、複数アカウントは当たり前。「4個以上のTwitterアカウントを持つ人が2割」という調査データもあります。裏アカ、鍵アカを駆使するのが、この世代の特徴といえそうです。

「スマホで実況中継」というのも、Z世代ならではの行動です。「#一緒に勉強しよう」「#StudyWithMe」のハッシュタグが付いた動画は、トータルで2億回以上も視聴されているそうです。

なぜ淡々と机に向かって勉強する様子が映されるだけの動画に人気が集まるのか。彼らは「自分と同じように頑張っている人を見ると励まされる」「見られていると思うとサボれない」と言います。

マスメディアでは「今の若い人はクルマに関心がない」と伝えられますが、じつはZ世代はクルマに興味を持ち始めています。「クルマがあれば世界が広がる」「他人と接触せずに消費や音楽を楽しめる空間」という意見が多くなり、実際に中古車店を訪れる若者の数は増えているそうです。

「こけ女」はこけしを集める女子、「ぬか女」はぬか漬けにハマる女子のことです。地味でニッチな分野に興味を持つ人が増えているのは、ゆるくつながれるSNS時代ならではの現象です。

知っているつもりでも知らないことばかりだったと気づかせてくれる1冊です。


 

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