オススメ参考書~読んだら即実践してみよう!

英語の読み方
ニュース、SNSから小説まで

北村一真・著 中公新書・刊

902円 (税別)

世界で最も共通的に使われている言語は、いうまでもなく英語です。英語のネイティブスピーカーは4億人ですが、英語を話せる人は17億人いて、世界の人口の4分の1を占めています。

そういう状態が背景にあるので、世界の情報を素早く入手するなら、英語サイトが不自由なく読める必要があります。機械翻訳が急激に進化していますが、まだまだ人間の翻訳能力には追いついていません。

しかし、私たちは日常的に英語サイトを日本語サイトと同じ頻度で利用しているでしょうか。大量の英文に尻込みしてしまい、翻訳された情報を求めてしまうことが少なくないのではないでしょうか。

冒頭のご挨拶でも触れましたが、コロナ禍による巣ごもりのために、手軽な英文読解の入門書が売れています。本書は3月下旬に初版1万2000部で発売されましたが、6月に入ったところで4刷4万5000部を記録しています。おそらく秋までには10万部を超えるでしょう。

同じ中公新書から出ている『英文法再入門 10のハードルの飛び越え方』(澤井康佑著)も、5刷3万9000部を記録しているので、世の中全体の英語ニーズが、会話から読解にシフトしているといえそうです。

本書の著者である北村一真氏は、1982年(昭和57年)兵庫県生まれ。慶應義塾大学大学院後期博士課程単位取得満期退学。現在は杏林大学外国語学部准教授で、中央大学法学部兼任講師。学生時代は大学受験塾で難関大学対策の英語講座を担当していました。

本書について、著者は「はじめに」で次のように述べています。
***
使える英語というのは「読み書き」ではない、「聞いたり話したりする英語」であるというイメージを持つ方も少なくないかもしれません。(中略)それは2つの点で誤った、あるいは少なくとも非常に偏った見方です。
***

それに続けて、著者は英語をきっちりと読むことができる場合のメリットを次のように挙げています。
(1)日常的に触れることのできる情報の幅がかなり広がる
(2)英語を聞く力、話す力を自力で高めていける

(2)については、意外に思う人も少なくないかもしれません。しかし、リスニング力、会話力のレベルが低い人は、たいてい読解力が低いと著者は経験的に語っています。

たとえば現在では英語学習に役立つ動画や音声に簡単にアクセスすることができます。その中には、英語字幕を付けたり、台本を手に入れたりすることが可能なものもあります。ある程度の英文読解力があれば、字幕や台本を参考にして、リスニングやスピーキングを磨いていくことが可能です。

本書は、第1章と第2章で基本となる読解力とその応用の方法について触れ、第3章以降でジャンルごとに異なるタイプの英文に取り組んでいく形をとっています。第3章では新聞や雑誌などの時事英文、第4章では評論文や講演、第5章ではSNSやコミック、小説を扱います。

本書の読者対象は、大学受験レベルの英語を一度は学んだことがあり、辞書を使って時間をかければ、ある程度のレベルの英文が理解できる人を想定しています。つまり、大多数のビジネスパーソンが対象です。

それでは、目次を紹介します。
・はじめに
・凡例
・第1章 英文を読む前に
――日本人に適した英語の学び方――
・第2章 英文に慣れる
――インターネットを活用したリーディング――
・第3章 時事英文を読む
――新聞、ニュースに挑戦――
・第4章 論理的文章を読み解く
――スピーチ、インタビュー記事から論文まで――
・第5章 普段使いの英文解釈
――SNS、コミック、小説を読みこなす――
・あとがき
・引用文献一覧
・巻末付録 「一歩上」に進むための厳選例文60

第1章の冒頭で、著者は読者にこんな質問をしています。
***
ここ1年で読んだ英語の本(小説でもエッセイでも評論でも何でもよいです)を数冊挙げて下さい、と言われてサッと挙げられる人はどれくらいいるでしょうか。あるいは英字新聞や英語雑誌を定期的に読んでいる、英語のサイトで日常的に情報収集している、という人はどれくらいいるでしょうか。
***

そして著者は読者の多くに対してこう言い切ります。
「英語を多少は読める、と言っても、実用的なレベルには到達していないということです」

一般的な英語話者の読解スピードは「1分間に200語」であるといわれます。これはセンター試験のすべての英文を20分強で、共通テストの英文でも約30分で読み終えるスピードです。

著者は日本人の大半はその半分もしくは3分の1以下の読解力であろうと推定しています。この英語能力ではネイティブスピードでの会話はできません。だから、「日本人は英語を読めるけど会話できない」という見方は誤りで、「ネイティブの半分以下のスピードでなら読めるけど、ネイティブスピードでの会話はできない」というのが実態なのです。

著者は「英字新聞を読む速度が1分間に150語以上になれば、リスニングはかなり楽になるはず」と言います。要するに、まともに読めるようになれば、会話能力も備わるということです。

「日本人は受験英語で難解な英文解釈に慣れている。これが日本人のメリット」と、著者は逆説的な見解を述べています。帰国子女などで普通の英会話に不自由しない人が、少し難解な英文でつまずくケースが非常に多いのだそうです。しかも、それを克服するのはかなり大変だといいます。

したがって、日本人が英語をマスターするためには、これまでのやり方を捨てて英会話をマスターするよりも、読解力の基礎を強みとして進めたほうが効率がいい、というのが著者の主張です。

続いて、著者は3つの例文を示しています。これをすらすら読めるかどうか。わからないとしたら、それは単語の意味がわからないのか、それとも文法でひっかかっているのか。そのあたりから本書の内容に入っていきます。

(1)The person believed to have helped the thief escape has denied he had anything to do with the incident.

(2)What I think is important is if this restaurant will become a hit among young people.

(3)When I opened the door, I was so shocked that he was there that I was utterly speechless.

この3つの文が、単語の意味がすべてわかっていてもすんなりと理解できないなら、それは文法力が足りない証拠だということです。これらの文が理解できるような解説は、本書にきちんと載っています。

次は語彙力です。著者は英語のニュースによく出る単語で、受験レベルより少し高いものを抜き出しました。これらの大半がわかる人は、すぐに好きな英文にトライして構わないそうです。

ceasefire「停戦」
reciprocal「互恵的な」
subsidize「資金的に援助する」
thorny「厄介な」
truce「休戦」

decent「きちんとした」
reckless「無茶な」
predecessor「前任者」
infuriate「ひどく怒らせる」

baffle「当惑させる」
custody「拘留、親権」
extradition「犯罪者の国外引き渡し」
prosecutor「検察」
rampant「はびこった」
rigged「仕組まれた」

epidemiologist「疫学者」
death toll「死亡者数」
detain「勾留する」
quarantine「隔離する」
whistleblower「内部告発者」

次は熟語です。
bear the brunt of...「(批判などの)矢面に立つ」
hit home with...「…の痛いところをつく」
bring A home to B「BにAを痛感させる」
by (in) a landslide「(選挙などの勝利が)大差で、圧勝で」
beef up「…を強化する」
go on to say「続けて言う」
on bail「保釈中の」
as of「…の時点で」
there is talk that...「…といううわさがある」
run for「(選挙などに)出馬する」

上記のような単語、熟語は、映画のセリフなどにもよく使われるものです。つまり、英語の映画を字幕なしで楽しむためには、このレベルの知識が必要だということです。

ではどうすれば、という読者に対して、著者は語彙力増強の参考書を何冊か挙げています。基本的なもの、語源がわかるもの、例文がユーモラスなもの、日本語の解説があるもの、ニュースでよく出てくる単語・熟語が載っているものなど、さまざまです。

そして勉強の一歩として、自分が背景知識を持っているジャンルの英文を読むことを著者は勧めています。たとえば新聞ならThe Japan NewsやThe Japan Timesがおすすめだそうです。よく知っている事柄をWikipedia日本語版で調べてから、英語版の記事を読むというやり方も効果的だといいます。

本書には紙版と電子版があります。どう使うかで便利なほうを選ぶといいでしょう。


 

Copyright (C) 2004-2006 OCHANOKO-NET All Rights Reserved.