みなさんの中に、いわゆる「マスコミ関係者」が友人知人にいるという方は、どのくらいおられるでしょうか。
案外、マスコミの中の人と知り合いである人は少ないものです。というのは、マスコミ人の人口が意外に少ないからです。
知り合いにマスコミ関係者がいても、直接情報発信に関わる仕事に就いている人に限定すると、さらにターゲットは小さくなります。いくらテレビ局に勤めていても、総務部門の人では「テレビ番組に自社の情報を取り上げてほしい」というお願いはしづらいでしょう。
それに、冒頭の挨拶にも書きましたが、マスコミをうまく利用するためには、彼らの考えていることや求めているものを熟知している必要がありますが、それを知るためにも直接情報発信に携わっている人と仲良くなるのが一番です。
では、そういう伝手がない人がマスコミを利用して情報発信をするにはどうしたらいいのか。それについて書かれているのが本書です。著者は元日経新聞記者。現在はジャーナリストで社会情報大学院大学の客員教授をしている人物です。
ついでに版元についても触れておきましょう。出版社の宣伝会議は、日本で最初に広告専門誌を発刊した出版社です。創業は1954年で資本金5億円。売上高は53億円で従業員数は100名と発表されています。
社名の通り、主戦場は宣伝、広告であり、「コピーライター養成講座」は1957年の開講です。おもな出版物は、「宣伝会議」「販促会議」「ブレーン」「広報会議」「編集会議」「100万社のマーケティング」「環境会議」「人間会議」などの雑誌と、「日本の広告会社」「マスコミ電話帳」「広告制作料金基準表」などの定期刊行物、それに付帯する単行本です。
本書は「広報会議」に連載中の「記者の行動原理を読む広報術」をベースに、コロナ禍など最近の大きな変化を踏まえて加筆修正されたものです。
SNSなどインターネットメディアの台頭とともにかつての威力を失いつつあるといわれるマスメディアですが、まだまだその影響力を無視することはできません。「いずれ衰える」にしても、「今はまだ力がある」のですから、しっかり利用していくべきなのです。
それでは、本書の目次を見ていきましょう。
・はじめに
・第1章 広報仕事術「超基本」
・第2章 売り込みするには相手を知れ!
・第3章 企業価値を高める広報対応術
・第4章 不確実性の時代、これからの広報の行方
・おわりに
まず「はじめに」を要約してみます。
***
大手メディアの影響力は今も無視できない。ネットでバズった(もしくは炎上した)事例を見ても、規模が大きかったものはSNS単独で情報が拡散されているわけではない。ネットで話題になっていること自体をマスコミが「ニュース」として取り上げ、報道とクチコミの相乗効果によって爆発的な拡散が引き起こされているのが実態だ。
***
***
こうした変革期に、広報はどう適応していけばいいのか。筆者は「記者の行動原理」を理解することが、その第一歩になると考えている。報道をめぐる環境が大きく変わったとしても、記者のニュース価値の判断基準や問題意識といった基本については揺るがないと思うからだ。
***
***
また、「ポジティブ情報をどうすれば記者に取り上げてもらえるか」といったノウハウについても、記者側の視点から具体的に解説した。
***
第1章では、新任広報マンにメディア対応の基本を教えています。広報専門の部署がなく、経営者が広報マンを兼ねている中小零細企業にとっては、経営者がはじめに読むべきコーナーです。
ここで著者は「広報にとって最も大事なのは、心の片隅に『記者の視点』を持つことだ」と言っています。
なぜなら、マスメディアを利用して情報を拡散するには、メディアという利害が異なる第三者を介して間接的に情報を伝えなければならないからです。
それはなかなか座学では学べないため、著者は「ロールプレイング」の導入を勧めています。とくに有効なのは、新聞記者になったつもりで記事を書いてみることだそうです。
たとえば、新聞記事の本文だけを読んで見出しを予想し、実際の紙面を見て答え合わせをします。現場で整理記者がやっていることを体験するわけです。これを繰り返すうちに、見出しがどのようにして付けられているのかが理解できます。
次に、過去に他社が出したプレスリリースを読んで、それが記事化されたときにどんな見出しがついたかを予想します。実際の新聞記事と、それに対応するプレスリリースが用意できれば、すぐできます。大企業のプレスリリースなら、たいていはホームページから拾えるでしょう。
これは記者がどのようにニュース価値を判断しているかを知る訓練になります。プレスリリースにはさまざまな情報が盛り込まれているものですが、その中で記者は何が最も重要なのかを選択して記事にしています。
ここで著者は、「ニュース価値の3要素」を読者に教えています。それは、次の3つです。
1 社会的影響(関係者の多さ、影響する分野の多さ、影響が続く長さ)
2 新奇性(新しさ、めずらしさ、面白さ)
3 読者の関心(進行度、読者層との関係の深さ、感情を刺激する度合い)
この訓練で自分の答えと実際の記事の見出しが違った場合は、その原因を分析することで新聞記者の情報に食いつく傾向が見えてきます。ここまでマスターすれば、自分たちが書いてほしい情報と、記者が重要だと考える情報の違いがわかります。
次の訓練では、いよいよ実際に新聞記事を書いてみて、新聞記者の作業を実体験します。ここでのポイントは、文字数や記事のスタイル、締め切り時間などを決めて作業することです。つまり、実際の記者と同じ制約を課すわけです。
***
例えば、見出しは「1本15字以内、2本の場合は合計25字まで」などと設定しておく。(中略)ニュース速報ではこれが標準的な長さだろう。本文は速報で使われる文体を真似て書く。特徴は、第1段落(リード)に重要な情報をすべて盛り込み、見出しと合わせて単独で記事として成立するように書く点にある。結論が最後ではなく冒頭にあるので「逆三角形」と呼ばれる
***
***
数をこなす場合は、この「見出しとリード」だけの原稿をたくさん書くとよい。速報はこの程度の分量だし、デジタル版では無料で読めるのはリードまでというケースが少なくないからだ。
***
***
この練習のもうひとつのポイントは、「記事にできる情報は意外なほど少ない」という事実を理解させることだ。書いてほしい情報をすべて盛り込むと、記者にとっては「読みにくいだけのリリース」になる。ネット速報が全盛の時代、人手不足で仕事が増えた記者はそうしたリリースを敬遠する。
***
そして著者は情報発信のタイミング、いわゆる「旬」の大切さについても触れています。「ベタ記事やボツになってしまうのは『旬』を外しているケースが多い」からです。
新聞記者にとっての「旬」を理解していると、記者サイドから「売り込みのうまい人」という評価が得られます。
記者のとっての「旬」がなんであるかについて、著者は3つ挙げています。
「季節」
「事件」
「流行」
の3つです。
最初の「季節」ですが、これは「旬」と同じ意味です。ただし、メディアは季節に応じた定番ニュースを流すものなので、そこに合致した情報は取り上げられやすくなります。
どんなニュースが定番として取り上げられているかは、図書館などで新聞の縮刷版を何年間分か眺めてみるとわかるでしょう。
次の「事件」ですが、あるニュースをきっかけに、関連する話題が急に注目を集めるようなことを指します。新聞が一面トップで扱うような大ニュースに関連した情報は、取り上げられやすくなります。
三番目の「流行」は、読者の受けがいいので、掲載される確率が高まります。SNSなどで使用・検索が急増しているキーワードに注意することで、ある程度の傾向はわかります。
見出しに取られることが増えている言葉は間違いなくバズワードなので、こちらが売り込みたい話題と関連付けてプレスリリースを制作するように工夫すれば、掲載される可能性が高まります。
実際にプレスリリースを制作するときは、記者にとってのニュース価値をあらかじめ知っておくことが大事です。著者がいう「究極のプレスリリース」とは、「見出しから文章までコピペすればそのまま記事になるもの」です。
そのようなプレスリリースを書くために、前述したような新聞記事を書く訓練が役に立つわけです。
***
裏返せば、よいリリースをつくる第一歩は、自分たちの発表を元に、メディアがどんな報道をするかを正確に予想するということだろう。これは不祥事会見などの対応でも同じだが、事前に新聞に載るであろう記事を想像して書くことができる広報は最強だと思う。
***
…と、ここまでで本書の冒頭の30ページ分しか紹介していません。この後が気になる人は、ぜひ書店で実物をご覧ください。
マスコミ対応のヒントを得るための有効な1冊です。