ネットでビジネスをする人にとって、「正確に伝わる文章を書くこと」は死活問題です。いくら文豪のような名文を書き上げても、読者にこちらの意図が伝わらなければ何の意味もありません。
世の中に「うまい文章を書くコツ」を教える本は山ほどありますが、ビジネスで使える「伝わる文章」を書くための本となると、なかなかいい本には巡り会えません。
そこで選んだのが本書です。著者は日経新聞記者として30年間、延べ1万本もの記事を書いてきたベテラン。やはり「伝える文章」となると、新聞記者の右に出る人はいません。
「伝える」ことが目的のビジネス文書では、うまく書くよりも大切なことがあります。相手をその気にさせて、納得して読み進めてもらうことです。そのとき、文章は道具でしかありません。
発行元のCCCメディアハウスは、ご存じTSUTAYAのカルチュア・コンビニエンス・クラブの連結子会社です。2014年に阪急コミュニケーションズの会社分割により誕生しました。
主要出版物は、月2回発行の雑誌「Pen」、月刊女性ファッション誌の「FIGARO japon」、週刊誌の「ニューズウィーク日本版」です。そのほか、本書のようなビジネス系の書籍も多数発刊しています。
本書のキモを著者は「はじめに」でこう語っています。
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文章には「型」があり、伝えるためには「コツ」があります。その種類は多くありません。「結論」あるいは「主張」を先に書き、それを補足する理由や客観的事実を重要な順に書いていく――ただそれだけです。
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著者は続けて、相手にこちらが思うように動いてもらう文章のポイントとして、新聞記者がマスターしている文章術が有効だと言っています。
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本書は新聞記者として培った文章術をお伝えするのが目的です。具体的には、ファクト(客観的事実)、データ(数字)、ロジック(論理)の3つの要素が揃った「説得力」と「納得感」のある文章をはやく書くテクニックです。
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それでは、本書の内容を概観するために、目次を紹介します。
・はじめに
・第1章 伝えるためには「型」がある
・第2章 文章の構成を考える
・第3章 ファクトと数字の大切さ
・第4章 ロジックとは「流れ」が自然なこと
・第5章 「伝わる文章」のために
・第6章 データの集め方と使い方
・第7章 さて、文章を書く前に
・第8章 実際に文章を書いてみる
・おわりに
第1章の最初の項目は、こんなタイトルです。
「文章は読んでもらえないもの」
著者はこう言います。
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文章は基本的に「読まれない」ものなのに、多くの人が「読んでもらえる」と思いすぎです。特に「誰でも興味があるはず」というスタンスで書かれた文章はいただけません。
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そして著者は「書きたいこと」と「読みたいこと」にはズレがあると指摘しています。
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飲食店なら、お客さんが食べたい料理を提供すべきです。「俺が出すものを黙って食べろ!」「俺の料理がまずいわけないだろう!」といった高飛車な料理人の店は敬遠したくなるのがふつうの感覚でしょう。文章も「自分が読む立場である場合、それを読みたいか?」を常に考える習慣をつけたいものです。
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つまり、読まれない文章は、書き手の「書きたいこと」と読み手の「読みたいこと」にギャップがあるということです。そのギャップを解消するためには、文章を書く前に「読み手は誰か」というターゲットと目的をはっきりさせておくことが必要になります。
そして著者は「文章が苦手だという人は『共感』してもらう姿勢が足りないだけ」と言います。読者の立場に立ち、読者が疑問に思うことを察知してていねいに説明していく心配りがあれば、その文章は伝わるはずだということです。
続いて「文章は導入部が命」という話題があります。前置きが長く、何を言いたいかがなかなかつかめない文章は、最後まで読まれることがありません。そのために導入部の工夫として次のような手法が提案されています。
(1)読み手に問いかけ、考えさせる
(2)話し言葉(台詞)や情景から始める
(3)読み手にとって切実な課題を取り上げる
(4)タイムリーな話題を盛り込む
(5)意外性のある言葉を投げかける
そして文章を書き始めるコツとして、著者は「箇条書き」を勧めています。
書くために集めた材料を整理し、「何をどう伝えたいか」という要旨を一文で考えます。新聞の見出しを書く要領です。それからメモを仕分けし、優先順位で並べ直せば箇条書きは完成です。
よく言われる「5W1H」や「6W3H」も重要です。
5W1H……Who、When、Where、What、Why、How
6W3H……5W1H+Whom、How Many、How Much
よく冒しがちなミスとして、「一文に2つ以上の要素を入れてしまう」というものがあります。そして「一文を60~100字以内に収める」というコツも押さえておきます。さらに4~5行で改行をしたり、接続詞をうまく活用すれば、話の展開が簡潔でわかりやすくなると著者は言います。
それから「主語と述語を近づける」というのも文章をわかりやすくするポイントです。そのためにも、一文は短いほうが読みやすくなります。
細かいテクニックになりますが、「接続詞『が』を使わない」「形容詞はなるべく使わない」というのも挙げられています。
「が」は逆接か順接かがわかりにくく、文章がぼやけてしまいます。「が」でつながった文章は分けるのが原則だそうです。
また、「形容詞を使わない」というのは、平板で月並みな文章になるのを避けるためです。「おいしい」と書くより「だしの風味が鼻を抜ける、昔おばあちゃんがつくってくれた味」と書いたほうが、読み手の興味を引くでしょう。
助詞の「の」、語尾の「です」は連続使用しないという指摘もあります。「弊社の主力事業の環境緑化ビジネスの売上高の推移は横ばいである」という例文を見れば、明らかでしょう。
「です」や「ます」が3回以上続くと、文章が稚拙で単調な印象になります。表現を変えて、読み手の興味を引き続けるようにするべきです。
第2章の最初は、「長い文章に価値はない」から始まります。
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情報があふれかえる現代にあって、「読むか読まないか」は一瞬で判断されます。パッと見て「読みやすそう」と思ってもらえることはますます重要になってきているのです。
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読んでもらえそうなコンパクトな文章のお手本が「新聞記事」だと著者は言います。
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朝刊1部は新書2冊分の文字数があります。朝の忙しい時間にそんな文字数は読めません。時間がなくても様々なニュースが目に飛び込み、内容を理解できる工夫がなされています。
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その「工夫」こそが「逆三角形」構造だということです。記事の最初の段落に5W1Hの要素が含まれ、続いて重要度の高い情報から配置されています。整理部の記者は記事がスペースに収まらないとき、後ろから文章を削っていくという原則があるそうです。
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逆三角形構造のポイントは、「何をどう伝えたいのか」を一言(一文)で要約し、伝えたい要素から優先的に並べていくだけのことです。
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この場合、書き手が全容をきちんと理解していることが大切です。そうでないと、伝えたいことの優先順位がつけられず、読みやすい文章をつくることができません。
そして「長すぎる文章を削る」という作業も必要です。このときに大事なポイントは以下です。
(1)「説明しなくてもいいもの」を削る
(2)重複や繰り返しを削る
(3)「私は」「思います」を削る
(4)曖昧な「が」を削る
(5)余計な「という」を削る
(6)余計な「~こと」「~もの」を削る
(7)前置きを削る
第3章では読んで決断してもらうための文章の書き方が示されています。
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どのビジネス文章も、基本的には「誰かに何かをしてもらう」ために書かれます。(中略)「誰に何をしてもらうのか」を常に自問自答しながら書くことが大切です。
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読み手に何かをしてもらうためには、文章を読んで共感してもらうことが必要ですが、そのために重要なのが「納得感」です。そして納得のいく情報には必ずファクト(客観的事実、事実関係)とデータ(数字)が欠かせません。
たとえば「増えている」「多い」よりも「前年比50%増」「3,000人」のほうが説得力があります。こうして納得感を読み手に与えていきます。
ファクトとして理想的なのは、誰もが納得し、説得材料となる政府や国際機関の統計データです。かつては国会図書館などに出向く必要がありましたが、今ではインターネットで簡単に入手できます。
データとなる数字は、ただ並べても読者に刺さりません。比較すべき指標を示し、「なるほど」と思わせる必要があります。日本の歯科医院数が7万軒と言われてもピンときませんが、コンビニエンスストアの店舗数5万5000軒や郵便局数2万4000局と比べることで「なるほど、多いな」と思ってもらえます。
第4章では、できるだけシンプルな文章で論理的に書くことを「雲・雨・傘」理論を例にとって説明しています。
「雲が垂れ込めてきた」
「雨が降りそうだ」
「傘を用意しよう」
という筋道に沿った因果関係の説明です。「前提」「推論」「結論」と言いかえることもできます。
第5章では、中学生でもわかる文章を目標にせよと言っています。読み手の前提知識を「中学生程度」とすることで、多くの人に伝わる文章が書けるということです。
以下、応用編的な章が3つ続きますが、興味のある方はぜひじっくり読んでみてください。