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世にも美しい三字熟語

西角けい子・著 ダイヤモンド社・刊

1,386円(キンドル版・税込)/1,540円(紙版・税込)

「三字熟語」と聞くと、「四字熟語じゃないの?」と問い返す声が多いでしょう。四字熟語は日本語の素養と密着しているため、常識を試す問題としてよく出題されます。

ちなみに、Google検索の四字熟語ランキングは、以下のようになっています。
第10位…大義名分
第9位…馬耳東風
第8位…支離滅裂
第7位…一朝一夕
第6位…臨機応変
第5位…大器晩成
第4位…八方美人
第3位…本末転倒
第2位…以心伝心
第1位…一期一会
普通に教養のある人なら、全部意味がわかりますね。

それに対して「三字熟語」は、普段あまり目にしない言葉です。アマゾンで検索しても4冊しかヒットせず、現在販売されているものは2冊だけ。うち1冊は本書で、あと1冊は『三字・四字熟語辞典』というタイトルです。

著者は本書の「はじめに」で、三字熟語が国語の世界であまり重要視されていないと指摘しています。だからこそ、「三字熟語」という言葉になじみのない人が多いわけです。

「熟語」といえば二字熟語が最もポピュラーで、あまりにも当たり前なため、ことさら「二字」にこだわって注目する人はいません。そして四字熟語は中国の漢文に由来するものが多く、教養に直結すると見られているようです。

しかし三字熟語には不思議な魅力があります。そのため著者は本書に「美しい」という形容詞をつけたわけです。著者はこう言います。
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どちらかと言えば、影が薄い「三字熟語」ですが、その世界に深く潜ってみると、そこには日本語がもつ豊かな漢字文化があり、大和言葉や漢語の世界が広がっています。語源や由来には中国文化に関わるものもありますが、日本の美を映し出す情景や歌舞伎や落語などの伝統芸能、歴史、文学に至るまで、壮大な日本の文化が展開されています。
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本書の表紙には、9例の三字熟語が載っています。すべて振り仮名つきです。
朧月夜(おぼろづきよ)
素頓狂(すっとんきょう)
麒麟児(きりんじ)
頓珍漢(とんちんかん)
綺羅星(きらぼし)
五月雨(さみだれ)
雪月花(せつげっか)
安本丹(あんぽんたん)
大団円(だいだんえん)

「四字熟語が仰々しくて、上から目線で、教訓めいた言葉が多いのに対して、三字熟語には、軽やかで、庶民的で、思わずクスッと笑ってしまうような言葉がたくさんある」と著者は言います。

著者の西角けい子氏は、ステージメソッド塾代表で学習コンサルタントです。オムロンを退職後、兵庫県西宮北口に現在の塾を開業しました。そして国語力を急伸させる独自の「ニシカド式勉強法」により、わずか半年でごく普通の成績だった7名の塾生を学力テスト日本一に。たちまちマスコミの取材を受けるようになりました。

「ニシカド式勉強法」は、「お母さんの言葉がけ」と「語彙力」「暗記力」「ノート力」「作文力」アップを重視したものです。その実力は超難関公立中高一貫校の合格者数14年連続No.1という成績によって証明されています。

そのため、ステージメソッド塾には片道3時間以上かけて通う小学生や、新幹線・飛行機で通塾する中学生もいるほど。なんと塾周辺に転居してくる家庭も多いそうです。

そんな著者が「三字熟語」の世界にハマり、「三字熟語クイズ」を作り始めます。三文字の真ん中を伏せ字にしたものですが、これがなかなかむずかしく、国語力のアップに最適と評判になりました。

それでは、本書の目次を紹介しましょう。
・はじめに
・第1章 人をほめる時に使う三字熟語
・第2章 使うとかっこいい三字熟語
・第3章 世にも美しい三字熟語
・第4章 使ってはいけない三字熟語
・第5章 思わず笑ってしまう三字熟語
・第6章 日本人の心情を表す三字熟語
・第7章 知らないと恥をかく三字熟語
・特別コラム 夏目漱石と太宰治の「三字熟語」の世界
・おわりに

第1章に登場する三字熟語は以下の通りです。
姐御肌/姉御肌、偉丈夫、韋駄天、一張羅、一頭地、男伊達、生一本、義侠心、気丈夫、綺羅星、麒麟児、金字塔、好々爺、好事家、女丈夫、真骨頂、先覚者、千里眼、素封家、手弱女、立役者、天眼通、独擅場、破天荒、美丈夫、左団扇、一粒種、風雲児、不世出、不退転、益荒男、見巧者、老大家

「一張羅」は「持っている中で一番上等な服」という意味です。最近は「着た切り雀」的に使う人もいるので、「ほめる言葉」だと認識しておきましょう。

「麒麟児」は相撲取りの四股名で知られましたが、「大成を予感させる天才児や神童」のことを言います。麒麟は中国に伝わる伝説上の動物で、ビールのラベルでおなじみですね。祝い事の前に現れる動物といい、麒はオス、麟はメスだそうです。

「金字塔」がピラミッドのことだというのは、時々クイズにも出題されるのでご存じの方も多いでしょう。「金の字の形をした塔」という意味で、後世に残る偉大な業績を意味します。

「手弱女(たおやめ)」はたおやかで優雅な女性のことです。反対語は「益荒男(ますらお)」。万葉集のころから使われていた言葉ですが、現代で使用するとなかなか意味が伝わらないかもしれません。

「独擅場(どくせんじょう)」はほとんどの日本人が誤読、誤用している言葉です。「その人だけが思う存分に振る舞うことができる場所」という意味は現代でも変わりませんが、自由に振る舞うことを意味する「独擅」が字が似ていることから「独壇」と誤記され、それを「どくだん」と読むようになって今に伝わっているわけです。

「左団扇(ひだりうちわ)」は「生活が安泰である」ことのたとえです。なぜそういうかというと、一般の人は右利きなので、左手で団扇を使うとゆっくりとした動きになります。そこから、あくせく働かなくてもゆったりとした生活ができることの表現になりました。

「見巧者(みごうしゃ)」は現代ではあまり見かけない表現ですが、芝居などのものの見方が達者なことをいいます。「巧者」は技や芸に巧みなことや、その様子、またその人のことを表す言葉です。

第2章に登場する三字熟語は以下の通りです。
阿修羅、過不及、歓喜天、閑古鳥、帰去来、橋頭堡、芥子粒、健啖家、小半時、強談判、匙加減、三幅対、獅子吼、初一念、上手物、大団円、大盤石、太平楽、短兵急、知情意、長口舌、長大息、鉄面皮、等閑視、如夜叉、野放図、贔屓目、一悶着、福禄寿、不如意、摩天楼、満艦飾、翻筋斗/飜筋斗

「過不及(かふきゅう)」は過不足と同じ意味で、「過ぎたるは猶及ばざるが如し」からきた言葉です。過不足と書くところにわざとこの言葉を使うと、ちょっと教養が滲みます。

「閑古鳥(かんこどり)」は店などがガラガラの時に使われる言葉ですが、もともとはカッコウのこと。カッコウの鳴き声が寂しさを感じさせることから、商売がはやらないことを表すようになったといわれています。

「橋頭堡(きょうとうほ)」は、いまでは新聞の見出しくらいでしか見ることがありませんが、もともとは軍事用語で渡河作戦や上陸作戦の際の攻撃拠点のことをいいました。

「小半時(こはんとき)」は約30分を表します。半時が1時間なので、その半分という感じです。30分と言わずに小半時と言うと、文学的な感じになります。

「強談判(こわだんぱん)」は非常に厳しい姿勢で相手に迫り、自分の主張を通すこと。「談判」という言葉も最近は使いませんが、物事の決まり事を作ること、けりをつけることをいいます。

「大団円(だいだんえん)」は、劇や物語のクライマックスのことです。多くがハッピーエンドであることから、単にハッピーエンドのことと認識している人も少なくありません。

「知情意(ちじょうい)」は知性、感情、意志の人がもつ3つの心的要素を表す言葉です。これら3つがバラバラに働いているのではなく、相互に関連して人間の心が出来上がっているということを踏まえて、この言葉が使われます。

「翻筋斗/飜筋斗(もんどり)」は難読熟語のひとつ。空中で体を一回転させる、とんぼ返り、宙返りのことです。「もんどり打って」のような使い方で現在でも生き残っている言葉です。

第3章に登場する三字熟語は、以下の通りです。
朝月夜、十六夜、朧月夜、案山子、寒垢離、𠮷左右、五月雨、不知火、白南風、真善美、雪月花、蝉時雨、日照雨、手水場、桃源郷、十日夜、半夏生、八百万

難読熟語ばかりなので、読みを並べておきます。あさづくよ、いざよい、おぼろづきよ、かかし、かんごり、きっそう、さみだれ、しらぬい、しらはえ、しんぜんび、せつげっか、せみしぐれ、そばえ、ちょうずば、とうげんきょう、とおかんや、はんげしょうず/はんげしょう、やおよろず

以下、各章に出てくる三字熟語を並べてみます。難読と思われる言葉は読みも記します。
第4章 青瓢箪(あおびょうたん)、似而非(えせ)、阿多福(おたふく)、黄口児(こうこうじ)、三白眼、村夫子(そんぷうし)、美人局(つつもたせ)、都人士(とじんし)、不見転(みずてん)

第5章 安本丹(あんぽんたん)、我楽多/瓦楽多(がらくた)、奇天烈(きてれつ)、最後屁(さいごっぺ)、雑魚寝/雑居寝(ざこね)、地団駄/地団太(じだんだ)、素寒貧(すかんぴん)、助兵衛、素頓狂(すっとんきょう)、素天辺(すてっぺん)、駄法螺(だぼら)、猪口才(ちょこざい)、珍紛漢/珍糞漢(ちんぷんかん)、珍無類(ちんむるい)、突慳貪(つっけんどん)、手薬煉(てぐすね)、出鱈目(でたらめ)、唐変木(とうへんぼく)、頓珍漢(とんちんかん)、野呂松/野呂間(のろま)、破廉恥、仏頂面、不貞寝(ふてね)、自棄糞(やけくそ)

第6章 悪太郎、伊呂波(いろは)、産土神(うぶすながみ)、十八番(おはこ)、下手物(げてもの)、守破離、序破急、垂乳根/垂乳女(たらちね)、転失気(てんしき)、土性骨(どしょうぼね)、南無三(なむさん)、昔気質/昔堅気(むかしかたぎ)

第7章 依怙地(いこじ)、自堕落、守銭奴、太公望、生兵法、傍迷惑(はためいわく)、半可通(はんかつう)、鼻下長(びかちょう)、日和見(ひよりみ)、風馬牛(ふうばぎゅう)、風来坊、不寝番、無調法/不調法、不束者(ふつつかもの)、無頼漢、偏執狂、朴念仁(ぼくねんじん)、木強漢(ぼっきょうかん)、三行半(みくだりはん)、没義道(もぎどう)、野暮天(やぼてん)、遊冶郎(ゆうやろう)、世迷言(よまいごと)、四方山(よもやま)

153の三字熟語が出ていますが、すべて知っていた人はおそらく皆無なのではないでしょうか。国語の雑学を仕入れるのに、あるいは暇つぶしに、読んで楽しく勉強になる本です。


 

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