オススメ参考書~読んだら即実践してみよう!

起業のすすめ さよなら、サラリーマン

佐々木紀彦・著 文藝春秋・刊

1,500円(キンドル版・税込)/1,650円(紙版・税込)

佐々木紀彦氏といえば、かつて「東洋経済オンライン」の名物編集長として同サイトを全面リニューアルし、ビジネス系サイトのトップに押し上げた立役者として、また、NewsPicksに電撃移籍して編集長に就任し、月間5500万PVを記録した人物としてよく知られています。

本書はそんな佐々木氏が100人以上の起業家やプロフェッショナルに徹底取材し、起業に成功するための秘訣を詰め込んだ「起業の教科書」です。

どんな内容かは、目次を一読すればすぐわかります。
・はじめに 私が起業を決断した日
・第1章 起業家になるべき5つの理由
1 サラリーマン思考から卒業できる
2 キャリアアップにつながる
3 金銭的な報酬が大きい
4 人生の自由を得られる
5 社会を変えられる

・第2章 起業にまつわる5つの誤解
1 起業するには若くないといけない
2 起業するにはお金持ちでないといけない
3 起業に失敗すると借金地獄になる
4 起業家はエリートしかなれない
5 起業家はチャラくて尊敬されない

・第3章 起業型キャリアの5つのタイプ
1 成長志向スタートアップ
2 プロフェッショナル独立
3 スモール&ミディアムビジネス(SMB)
4 スタートアップ幹部
5 大企業イントレプレナー

・第4章 起業を成功させる5つのステップ
1 自己分析――まずは己を知る
2 ミッション、ビジョン、バリュー
3 事業づくり、プロダクトづくり
4 パートナー探し、チームづくり
5 資本政策・ファイナンス
・おわりに 70年サイクルが終わり、企業家の時代が来る

「はじめに」では、著者自身の起業についてが語られています。2021年春、起業準備をしている時にNHK大河ドラマの「龍馬伝」を見ながら、著者はこんなことを思いました。「もし、明治維新の志士たちが現代に生きていたら、どんなことをしただろうか」

坂本龍馬は「メガスタートアップの起業家」としてインターネットとAI、宇宙ビジネスでイーロン・マスクやジェフ・ベゾスと世界中のフォロアー数で張り合う。

勝海舟は「政策起業家」として政府の改革にまっしぐら。世界が羨むようなデジタル政府を設立して、マイナンバーの統一化もあっさり実現。

西郷隆盛は「農業起業家」としてロボットやドローンを駆使した農業改革を進め、ECやマーケティングを強化して世界に作物を売り込みます。

福沢諭吉は「教育起業家、メディア起業家」として暴れ回ります。日本の大学の現状に激怒し、慶應義塾を超える新たな学校を設立、世界中から金を集めて、これぞと思う人物に投資するはずです。

著者は次のように語りかけています。
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世の中を変えたい、何か面白いことをしたい、低迷する日本を建て直すとともに、世界にインパクトのある何かを成し遂げたい――そう思う人は、組織の内外で起業家として事業を立ち上げるべきです。壊れた古いシステムに嫌々順応し、悶々とした日々を過ごすくらいなら、大きな壁が立ちはだかろうとも、自らが新しいシステムを築いた方が話は早い。起業家こそ、令和の志士なのです。
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ここで著者の経歴に触れておきましょう。
1979年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、東洋経済新報社に入社し記者として活躍。2007年9月より2年間休職し、スタンフォード大学大学院で修士号(国際政治経済専攻)を取得。帰国後は「週刊東洋経済」編集部で「非ネイティブの英語術」などのヒット企画を担当した後、2012年に「東洋経済オンライン」編集長に就任。最高で月間5500万PVを叩き出す人気メディアに育て上げました。2014年、ユーザーベースに電撃移籍し、「NewsPicks」編集長に就任。2021年に経済コンテンツサービスを手掛けるPIVOT株式会社を創業。著書に『米国製エリートは本当にすごいのか?』(東洋経済新報社)、『日本3.0』(幻冬舎)、『編集思考』(NewsPicksパブリッシング)などがあります。

著者は大学時代、竹中平蔵ゼミで学んでいたこともあって、「卒業したら外資系金融機関に就職」と考えていたようです。しかし内定をもらった企業にインターンで行ってみたら、まったく肌に合わないと感じ、1日で内定辞退。

その後、ロンドンに短期留学したりして就活を再開するものの、どこも採用は終わっていて内定が取れません。そこで「新卒ではなく既卒で就活をやり直す」と決意して入ったのが東洋経済新報社でした。「世の中に語り継がれる出版物を生み出したい」と決意してのマスコミ入社でした。

入社5年目に著者は会社を2年間休職し、スタンフォード大学大学院に留学します。「メディアの世界は他業界に比べて競争にさらされる機会が少なく、そこに浸ってしまっては一流になれない」と感じての決断でした。

2年間の留学で、著者は「とにかくリーダーになりたい」と思うようになり、「東洋経済オンライン」の編集長に名乗りを上げます。歴史ある紙媒体では30代でリーダーになるのは難しくても、ウェブ媒体なら可能性があるのではないかと考えてのことです。

そして就任するや、サイトを全面リニューアル。本誌のネット版にすぎなかったメディアを、オリジナル記事満載のコンテンツに作り替え、ネットメディアの代表的成功事例となりました。

そして、さらなる飛躍を狙って、「NewsPicks」へ転身。ここでも一定の成功を収めて、いよいよ起業というのが、著者の昨年1年間でした。

目次を見てわかるように、本書はきわめてストレートに起業の魅力とその成功法をまとめています。そして、今の沈滞した日本を救うには、国民の多くがサラリーマンを卒業して起業家になるべきだと力説しています。

働く人の9割がサラリーマンである日本には、「サラリーマン病」とでもいうべき弊害が蔓延していると著者は言います。「サラリーマンはアヘンである」とまで極論するほどです。

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日本には、自己満足に陥る“罠”が随所に張り巡らされています。ひととき、ハングリー精神を持っていた人や企業でも、あっという間に初心を忘れてしまいます。メディアにちやほやされたり、SNSがバズったり、あぶく銭を手にしたり、西麻布を飲み歩いたり、一見さんお断りの高級レストランに行ったり、芸能人と友人になったり、ファンに甘い言葉をかけられたり、「気持ちよく」なるためのアヘンが充満しています。(中略)サラリーマンも一種のアヘンです。いつの間にやら、心身に忍び込むのがアヘンの怖いところです。
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著者は自分で体験してみて、「起業とは現代の“元服”である」という認識を得ました。サラリーマンから卒業することで、大人の階段を駆け上がることができたのだというわけです。

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起業家になる醍醐味とは何か? それは、自分の人生の「独裁者」になれることです。自分の責任で、自分で決断して、自分の大義のために生きることができる。
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1953年の就業者数に占めるサラリーマンの割合は43.1パーセントでした。それが2020年には90パーセントへと倍増しています。日本は70年間で完全なるサラリーマン社会になりました。

その結果、日本人は「サラリーマン教」とでもいうべき思想に冒されてしまいました。そのサラリーマンというシステムが完全に時代遅れになってしまったために、今の日本の状況があるわけです。

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サラリーマンはとにかく世間が狭い。会社、部、課、係といった村の掟に縛られて、自分の頭で考えられなくなってしまっています。(中略)世界、日本、業界といった視点がスッポリ抜け落ちている。サラリーマンとは“現代の田舎者”なのです。
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ここで著者は「起業家とサラリーマンの違い」を3点まとめています。
(1)不確実な状況下で成功する能力(起業家)/確実な状況下で成功する能力(サラリーマン)
(2)プロジェクトをみずから始め、自分のものにする強烈な願望(起業家)/既存のプロジェクトを引き継ぎ、会社のために成長させる願望(サラリーマン)
(3)他人を説得できるというかけがえのないスキル(起業家)/社内を説得できるというかけがえのないスキル(サラリーマン)

日本で起業マインドが低いのは、いくつかの誤解が大手を振っているからでしょう。著者はその誤解を5つに絞って丁寧に反論しています。

一番目は、「起業するには若くないといけない」という誤解です。これについては、学生時代に起業して成功した人々の例がよく知られているためでしょう。ビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブズ、マーク・ザッカーバーグ、ホリエモン、藤田晋などです。

しかし日本政策金融公庫の調査では、2020年に起業した人の平均年齢は43.7歳。8年連続で年齢が上昇しているのだといいます。これは起業先進国のアメリカでも同様で、42歳となっています。

二番目は「起業するにはお金持ちでないといけない」という誤解です。これは古い常識がいまだに幅を利かせているということでしょう。

現在、起業に必要なコストはどんどん下がっています。会社設立に必要なコストは25万円ほどで、クラウドサービスなどを利用すれば、コストと手間は最低限で済みますし、リモートを活用すればオフィスすら不要になります。

また、近年になってようやく日本でもスタートアップブームが起きてきたため、資金調達はかつてより容易になりました。まだまだアメリカの50分の1以下、中国の20分の1以下ですが、年々スタートアップに投じられるお金は増えています。

三番目の誤解は「起業に失敗すると借金地獄になる」というものです。これは自身が個人保証して借金によってスタートするという古いイメージを引きずっています。

四番目は「起業家はエリートしかなれない」というもの。これも古いイメージからくるもので、実は日本はアメリカに比べると、学歴の重要性が低い国です。起業家はビジョンと結果の世界ですから、学歴は重要ではありません。

五番目は「起業家はチャラくて尊敬されない」というものです。これはある特定の人をイメージしてのものでしょう。たしかに日本では「起業家=成金」というイメージが強く、成功した起業家に対する尊敬の念は先進国で最低レベルです。しかし、このような誤ったイメージは、時代とともに変わっていくはずです。

以下、本書には起業家の背中を押す言葉が詰まっています。これから起業する人も、すでに経営者の人も、あるいは会社の経営に関わる人も、一読して損のない内容といえるでしょう。


 

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