オススメ参考書~読んだら即実践してみよう!

情景ことば選び辞典

学研辞典編集部・編 学研プラス・刊

624円(キンドル版・税込)/693円(紙版・税込)

「学研」という出版社の名前を知らない人はいないと思います。年配の方なら「科学」と「学習」という付録付き(学研では「付録」と呼ばず、「教材」と呼んでいました)雑誌のお世話になったことと思いますし、学校の図書館で学研の図鑑を目にした方もいたでしょう。

かつては講談社を核とする「音羽グループ」、小学館を核とする「一ツ橋グループ」に対抗して「池上グループ」と呼ばれ、出版界の眠れる巨人と言われたこともありました。

なぜそう言われていたかというと、他の大手出版社とは違い、学研はその売上の過半数を「直販」で稼いでいたからです。「科学」「学習」はその稼ぎ頭で、ほかにも職域雑誌や化粧品部門、トイ・ファンシー部門などを抱えていました。

学研がそういう会社になったのには理由がありました。それは戦後に誕生した教育出版社だったため、ライバルの妨害で取次店の協力が得られなかったからです。出版は取次店を経由して本や雑誌を書店に送り届けるのが王道の流通ルートでしたから、その道が開けないというのは死活問題でした。

そこで学研は活路を見出すべく、全国の退職した校長先生を組織して、直販網を築いたのです。いわゆる「学研のおばちゃん」の誕生です。最盛期にはその人たちが全国で2万人もいたと言われています。

そうやって独自の流通網を築いた学研は、取次ルートの付録制約である「素材は紙に限る」「本の厚みを超えないこと」などとは無関係の魅力的な付録(教材)を付けた「科学」と「学習」で一世を風靡しました。

プラスチックを多用した付録(教材)を次々と開発するために、通常の出版社の生産管理部門なら紙の印刷と製本のみを扱うところが、さまざまな素材を扱うことのできる研究開発部門に育ちました。そこからトイ・ファンシー部門や化粧品部門が派生したわけです。

ところが「イノベーションのジレンマ」が学研を襲います。通販を利用した後発のライバルたちに比べて、自前の直販網が足かせとなってしまったのです。共稼ぎ家庭の増加も、学研のおばちゃんによる訪問販売を妨げるようになりました。

こうして学研はもがき苦しむ巨人となり、長い低迷の時を経て、ようやく最近になって存在感を発揮するようになりました。そのV字回復のドラマについては、学研の社長が書いた本がありますので、近いうちにご紹介したいと思います。

さて、前置きが長くなりました。本書は学研の「ことば選び辞典」シリーズの1冊です。このシリーズは学研が「物書きのため」に作ったもので、文章がワンパターンに陥らないためのさまざまな言い換えや多彩な表現を目的別に収録したものです。

これまでに『ことば選び実用辞典』『感情ことば選び辞典』『ことばの結びつき辞典』『創作ネーミング辞典』『難読漢字選び辞典』『美しい日本語選び辞典』『感じの使い分け辞典』『和の感情ことば選び辞典』『英語ことば選び辞典』『色のことば選び辞典』『「エヴァンゲリオン」×「ことば選び辞典シリーズ」』が出ています。
https://gakken-ep.jp/extra/kotobaerabi/

本書はさまざまな情景や風景をありきたりな言葉でしか表現できずに困ったときに開くためのものです。気象、自然、時、色などをより美しい言葉で表現したいと思ったとき、必ず役に立ちます。しかも紙版はコンパクトでハンディなため、持ち歩きにも便利。値段もお手頃です。なお、老眼鏡が手放せない人のために、大きな活字の版もあります。

それでは内容に入っていきましょう。目次は次のようになっています。
・気象
明るい 暑い 雨 嵐 風 雷 霧 霞 靄 雲 暗い 氷 寒い 涼しい 露 霜 晴れる 雪
・自然
泡 沫 石 海 崖 川 煙 坂 島 空 太陽 月 土 波 野 火 炎 光 星 水 湖 森 林 山
・草木
枝 木 草 竹 花
・生き物
獣 魚 鳥 虫
・人体
足 頭 腕 顔 髪 体つき 口 唇 声 背 手 歯 鼻 腹 髭 鬚 額 眉 耳 目 眼
・色
青 赤 黄 金 銀 黒 白 茶 緑 紫
・時・季節
朝 夜明け 秋 夏 春 昼 冬 夜 夕方
・付録
十二か月の異名 二十四節気七十二候 季節の動植物

一般的な目次ではなく、これはキーワード一覧になっています。キンドル版では、それぞれの言葉をタッチもしくはクリックすると、該当のページにジャンプします。

では「気象」の最初の項目「明るい」を見てみます。次のように記述されています。
***
ほのかな光。また、日の出前や日の入り後の空がかすかに明るいこと。【薄明かり】窓から薄明かりが差し込む。
ほのかに明るい様子だ。【薄明るい】窓の外が薄明るくなってきた。
(月の光が)白く輝くさま。【皓皓(こうこう)】皓皓たる月夜。
太陽などが明るく光り輝くさま。【燦燦(さんさん)】陽光が燦燦と降り注ぐ。
夕日が沈んであたりが暗くなってからも残っている太陽の光。【残照】残照が空を染めている。
水や大地などが澄み切って明るいこと。【澄明(ちょうめい)】澄明な山の空気。
月の光。「月明(げつめい)」とも。【月明かり】月明かりで、道がよく見える。
(以下略)
***

最初に見出しとなる説明があり、続いて該当の言葉が【】内に表示され、次に用例が示されています。【】内の言葉を拾い読みしてもいいし、説明を読んで該当する言葉を探してもいいでしょう。間違った使い方をしないためには、用例が参考になります。

また、項目の最後には「そのほかの表現」としてまとめられた言葉が載っています。「明るい」の項目には次の二つが掲載されています。
***
【時明かり(ときあかり)】(1)明け方近くに、東の空がかすかに明るくなること。(2)雨天のとき、空がときどき明るくなること。
【西明かり(にしあかり)】日没後しばらくの間、西の空が明るいこと。
***

では本書の中から適宜、拾ってみましょう。
「暑い」の項目には次の言葉が載っています。説明と用例は省きます。
【うだる】【炎暑】【炎天】【炎熱】【草いきれ】【激暑】【酷暑】【酷熱】【残暑】【灼熱】【暑気】【盛暑】【熱波】【薄暑】【避暑】【人いきれ】【蒸し暑い】【猛暑】

日本にはたくさんの「雨」にまつわる言葉があるそうですが、本書にはこれだけあります。
【秋時雨】【朝雨】【雨脚】【淫雨】【陰雨】【陰霖】【雨下】【煙雨】【お湿り】【快雨】【片時雨】【甘雨】【寒雨】【寒九の雨】【寒の雨】【喜雨】【急雨】【暁雨】【霧雨】【軽雨】【紅雨】【豪雨】【小糠雨】【細雨】【催花雨】【桜雨】【五月雨】【小夜時雨】【山雨】【地雨】【糸雨】【慈雨】【時雨】【篠突く雨】【繁吹き雨】【秋雨】【驟雨】【秋霖】【宿雨】【春雨】【春霖】【甚雨】【翠雨】【瑞雨】【青雨】【積雨】【疎雨】【袖笠雨】【暖雨】【鉄砲雨】【天気雨】【凍雨】【通り雨】【菜種梅雨】【涙雨】【俄雨】【沛雨】【白雨】【麦雨】【花の雨】【春時雨】【飛雨】【微雨】【氷雨】【肘笠雨】【日照り雨】【暮雨】【暴風雨】【叢雨】【叢時雨】【戻り梅雨】【夜雨】【夕立】【雪時雨】【雷雨】【涼雨】【緑雨】【霖雨】【冷雨】【零雨】【私雨】

この項目の「そのほかの表現」もなかなか興味深いものが掲載されています。
***
【卯の花腐し(うのはなくさし)】梅雨の早い時期に降り続く雨。卯の花を腐らせるほどに降り続く雨。「うのはなくだし」とも。
【液雨(えきう)】立冬から小雪のころに降る時雨。
【送り梅雨(おくりづゆ)】梅雨が明けるころに降る大雨。
【狐の嫁入り(きつねのよめいり)】日が照っているのに雨が降ること。天気雨。日照り雨。
【木の芽流し(きのめながし)】浅い春、樹木が芽吹くころに降る長雨。
【曽我の雨(そがのあめ)】陰暦五月二十八日に降る雨。曽我兄弟が仇討ちをしたとされるこの日が雨だったことから。
【照り降り雨(てりふりあめ)】照ったり降ったりして定まらない空模様。
【虎の雨(とらのあめ)】「曽我の雨」に同じ。
【糠雨(ぬかあめ)】「小糠雨」に同じ。
【遣らずの雨(やらずのあめ)】人が帰るのを引き留めるかのように降る雨。
***

「自然」の最初にある項目は「泡・沫」です。
***
〔水の〕あわ。【泡(あぶく)】水面に泡が幾つも浮かび上がってきた。
水の上に浮かんだあわ。【泡沫(うたかた)】泡沫のように消える。
液体や固体の中に空気などがはいってできる粒状のもの。【気泡(きほう)】水底から気泡が上がる。
水が物に激しく当たって砕け散る粒。【水沫(すいまつ)】滝は無数の水沫を立てて落ちていく。
細かく砕けて飛び散る水滴。【飛沫(ひまつ)】波の飛沫。
あわ。あぶく。【泡沫(ほうまつ)】泡沫の中に消える。
水のあわ。【水泡(みなわ)】水泡は夕陽に照らされてきらきらと輝いた。
湯が煮え立つとき、表面にわきたつ、あわ。【湯玉(ゆだま)】湯玉がわき立つ。
***

「そのほかの表現」はこうなっています。
***
【潮泡(しおあわ)】海水のあわ。「潮沫」とも。
【水粒(みつぼ)】水のあわ。水滴。「みなつぼ」とも。
【湯花(ゆばな)】「湯玉」に同じ。
【流沫(りゅうまつ)】流れる水のあわ。
***

次の「石」にもたくさんの言葉が集められています。
【雨落石】【霰零】【石塊】【石坂】【石敷き】【礎】【石畳】【岩】【岩石】【基石】【切石】【沓石】【沓脱石】【栗石】【細石】【砂石】【砂利】【砂礫】【擦火打】【石片】【石塊】【礎石】【台石】【立て石】【玉石】【延段】【乗石】【磐石】【火打ち石】【踏み石】【舗石】【蒔石】【道石】【道分石】【礫】【礫塊】【礫石】

「石」に関する「そのほかの表現」には、こんなものもあります。
【五百引岩(いおひきいわ)】動かすのに大勢の力を要する大石。
【鱗石(うろこいし)】三角形に刻んだ石。敷石に用いる。
【大砌(おおみぎり)】軒下の、雨だれを受ける敷石。
【布石(ふせき)】囲碁で対局の初めに打つ石の配置。

「崖」の項目に載っている言葉は次のようになります。
【岩垣】【岩壁】【岸壁】【懸崖】【絶崖】【絶壁】【岨】【断崖】【壁立】
岨(そば)という字はまず読めませんが、「山の、がけが切り立ったようになったところ」という意味です。

同様に珍しい表現を拾っていくことにします。「川」にはこんな言葉がありました。
【川門(かわと)】両岸が迫って、川幅が狭くなっているところ。
【小濁り(ささにごり)】水がちょっと濁ること。
【水無川(みずなしがわ)】ふだんは水がない川。
【瀬枕(せまくら)】川の水が石などに当たって盛り上がり、枕のようにみえること。
【八十川(やそかわ)】多くの川。幾筋にも分かれた川。

「煙」にはこんな表現もあります。
【形見の雲(かたみのくも)】火葬の煙。
【香煙(きょうえん)】香をたくときにでる煙。また、仏前でたく香の匂い。「こうえん」とも。
【松煙(しょうえん)】松を燃やすときに出る煙。また、たいまつの煙。
【翠煙(すいえん)】緑色の煙。
【暮煙(ぼえん)】夕暮れに立つもや。夕もや。

「枝」の項目ではこんな言葉が見つかりました。
【一朶(いちだ)】花のついた、ひと枝。
【翠蓋(すいがい)】松の枝などが、かさのようにおおうこと。
【楚(すわえ)】若枝の細くまっすぐなもの。
【粗朶(そだ)】切り取った木の枝で、たきぎなどに使うもの。
【蘖(ひこばえ)】切り株から出る新しい芽。
ぎ木(もぎき)】枝をもぎとった木。枯れて枝のない木。

「青」の項目には、知らないとイメージできない言葉がたくさんあります。
【笹色(ささいろ)】濃い紅色が乾いて黒ずみ、青く光る色。笹紅。
【納戸色(なんどいろ)】緑みを帯びたくすんだ藍色。
【鈍間色(のろまいろ)】野呂松人形の顔色のような青黒い色。
【花浅葱(はなあさぎ)】ツユクサで染めた浅葱色。わずかに緑みを帯びた青色。
【花色(はないろ)】ツユクサの花の色。鮮やかな青色。
【縹色(はなだいろ)】鮮やかな藍色。
【碧色(へきしょく)】青色。また、青緑色。
【褐色(かちいろ)】濃い紺色。
【甕覗(かめのぞき)】藍染めの淡い青色。緑がかった淡い青色。
【黛青(たいせい)】まゆずみのような濃い青色。遠くの山などの青々として奥深い色。

ちなみに、本書に使われているのは「辞典」という用字ですが、百科事典のときは「事典」を使います。辞書を作っている出版社では「ことばてん」「ことてん」として明確に区別しています。


 

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