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あなたもだまされている 陰謀論とニセ科学

左巻健男・著 ワニブックス・刊

891円(キンドル版・税込)/1,045円(紙版・税込)

この分野では知られた著者による最新刊です。発刊は2022年4月ですから、おそらく最も新しい陰謀論とニセ科学の本といえるでしょう。

著者は1949年生まれの東京大学非常勤講師で、理科教育と科学コミュニケーションを専門にしている人です。おもな著書に『面白くて眠れなくなる理科』(PHP研究所)、『世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)などがあります。

ニセ科学についての著書だけをみると、『健康にいいものばかり食べていると早死にします』(カンゼン)、『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社)、『学校に入りこむニセ科学』(平凡社)、『水はなんにも知らないよ』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『ニセ科学を見抜くセンス』(新日本出版社)など、ぞろぞろ出てきます。

著者は「はじめに」で、なぜ本書で普通の人に向けて「陰謀論とニセ科学」について、そして少々ですが「オカルト」についての入門的な本を書いたのかを説明しています。

著者は科学者ですから、まず自分の扱う対象の定義から始めています。「陰謀論」については、こうです。
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陰謀論とは、ある事件や出来事について、事実や一般に認められている説とは別に、世に隠された不正な謀略とか策謀によるものであると解釈する考え方です。多くは、背後で強い権力を握った個人や組織、たとえばアメリカ合衆国政府、イルミナティ、フリーメイソン、ロスチャイルド家、ロックフェラー家などの巨大財閥が悪だくみをくわだてているとします。
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そして例として次のようなものが挙げられています。
・アポロの月面着陸は捏造だというアポロ計画陰謀論
・航空機から有害物質を含む何トンもの微粒子状物質が散布されているというケムトレイル陰謀説
・アメリカ政府の自作自演だったというアメリカ9.11同時多発テロ事件陰謀説
・東日本大震災はアメリカが起こした人工地震だという陰謀説

もうひとつのニセ科学の定義は、こうです。
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科学ではないのに「科学っぽい装いをしている」あるいは「科学のように見える」にもかかわらず、科学とは呼べないもの。
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その例としては、次のようなものが挙げられています。
・ゲーム脳や「人間の脳は全体の10%しか使っていない」「右脳人間、左脳人間が存在する」などの神経神話
・水からの伝言、マイナスイオン、EM菌、ナノ銀除染、フリーエネルギー、血液型性格診断など

「ニセ科学」については、「その内容の100%がニセモノではなく、本当の科学が混ざっていることが多いので厄介」と著者は説明しています。

そして目に見えない「オカルト」「心霊現象」「占い」などは本来ニセ科学ではないものの、「科学的に装う」という要素があるとニセ科学に含まれるということです。著者は「幽霊、超能力、魔術、宇宙人の乗り物としてのUFOなど科学的な存在が実証されていない超自然現象がオカルトに該当する」と言っています。

続いて著者は「どんな人が陰謀論やニセ科学を信じるのか」を説明しています。それによれば、まず全体の2%くらいを占める「先覚者」が先頭を切って信じます。彼らはものごとの重要性にいち早く気づく人たちで、男女比は2:8で女性がメインだそうです。

先覚者の3割か4割が動き出すと、次の「素直な人」のグループが追随します。この人たちの割合は全体の20%ほどです。先覚者に同調するのは、そのうちの半分くらいといわれています。

先覚者と素直な人が動き出して社会的なムーブメントになると、第三の「普通の人」の中から追随する人が出てきます。このグループは全体で最も大きく、70%弱くらいを占めます。

最後まで同調しないのは「抵抗者」と呼ばれるグループで、全体の10%弱です。学者やマスコミ関係者が多く、50歳以上の男性に多いそうです。

「先覚者」や「素直な人」はニセ科学に引っかかりやすく、批判する人たちが科学的にその根拠のなさや非科学性を説明しても聞き入れません。理屈ではなく感覚で行動を起こす人たちだからです。

著者はその人たちにアプローチするのを諦め、その人たちに同調することで被害を受けそうな「普通の人」たちに対して予防接種的な役割を果たそうと、この本を企画したそうです。「素直な人」の中のいくらかにも届くことを期待していると表明しています。

ということで、本書の内容に入っていきましょう。まず目次から紹介します。
・はじめに
・第1章 有名陰謀論を解剖する
1 「アポロ疑惑」――実は、アポロは月に行っていない!?
2 米国の9.11テロ事件は政府の自作自演?
3 地震兵器の攻撃で大地震が起こった説
4 3.11東日本大震災は気象兵器で起こされた?
5 「ロズウェル事件」――UFOは宇宙人の乗り物?
6 「影の世界支配機関」がケムトレイルをまいている!?
7 「電子レンジで濡れた猫をチン」などは都市伝説
8 陰謀は存在する――湾岸戦争時の米国の例

・第2章 オカルト&ニセ科学の「霊」と「超能力」
1 フォックス姉妹の告白
2 「こっくりさん」騒動とその正体
3 前世の記憶を口にする子ども――「お母さんを選んで生まれてきた」
4 超能力ブームの火付け役ユリ・ゲラー
5 手かざし治療師のパワーの有無を明らかにした9歳の少女
6 ノストラダムスの大予言

・第3章 Qアノン陰謀説から反ワクチンまで
1 Qアノンにつながった2016年のピザゲート陰謀説
2 Qアノンの登場とQアノン信奉者の拡大
3 Qアノンは日本にも影響を与えてJアノンを生んだ
4 反ワクチン論を検証する
5 新型コロナ関連で不安心理に乗じるニセ科学

・第4章 日常生活に入り込むニセ科学
1 スティーブ・ジョブズがハマったがん治療法
2 絵門ゆう子さんがハマったがん治療法
3 白血球にある免疫細胞を体外で培養して戻す療法には注意
4 がんを防いだり治したりするサプリはある?
5 ベータカロテンの神話――抗酸化力に期待薄
6 デトックス(解毒)と経皮毒
7 ゲームをやりすぎると「ゲーム脳」になる?
8 発達障害はミネラルや食事で治るの?
9 虫食い野菜・果物は健康に良いか――農業と有機農法

・第5章 なぜ水商品にはニセ科学的なものが多いのか
1 ニセ科学的な水商品の3つの特徴と「クラスター」説
2 いちばん悪質なニセ科学的水商品「創生水」とは
3 水素水は体にいいのか?
4 メンタリストを広告塔にした「シリカ水」は健康にいい?
5 酵素を摂取すると健康やダイエットにいい?
6 ある清涼飲料水の健康効果根拠が問われた裁判と判決
7 胃腸内視鏡医のベストセラー本で広がった牛乳有毒論
8 磁石の間に水を通すと水は活性化する?
9 NMR効果で赤サビ除去するニセ科学装置がマンションを狙う

・第6章 「水からの伝言」と「EM」を解剖する
1 怪しそうな本『水からの伝言』を解剖する
2 学校・環境活動・福島復興・政治に介入するEM&EM菌
3 オカルト&ニセ科学の「波動」と波動測定器

・第7章 なぜ「陰謀論」や「ニセ科学」を信じてしまうのか
・参考文献
・協力者一覧

第1章に出てくる「アポロ疑惑」については、耳にしたことのある人も多いことでしょう。著者はあるとき、東京大学での授業で学生たちに「アポロ宇宙船は月面に着陸したと思うか」と質問してみました。すると驚いたことに過半数の学生が「月面着陸はなかった」と答えたというのです。

アポロ計画では人類は6回にわたって月面に降り立ち、その模様はテレビでも放送されました。持ち帰った月の石は合計400グラム近くもあります。しかし、アポロ計画は1960~1970年代のことで、学生たちにとっては古代史の出来事です。

彼らはライブで月面着陸の映像を見ていない代わりに、アポロ陰謀論を取り上げたテレビ番組は見ています。そして「米国とソ連の冷戦の中で、米国がソ連を出し抜くためにでっち上げたアメリカ政府の陰謀だ」というストーリーを信じ込まされていたわけです。

陰謀論の「証拠」のひとつに、「アメリカ国旗が掲げられたとき揺れていた。真空中で旗が揺れるわけがない」というものがありました。しかし、旗にはワイヤーが仕込まれていて、掲げるときの振動で揺れが収まらなかったことが、NHK-BSプレミアムの検証番組で実験により実証されています。

もうひとつ、「背景の空が真っ暗で星が写っていないのは、スタジオで撮影したからだ」という論拠もありましたが、これは単に宇宙空間で光のコントラストが強すぎるための結果であることが判明しています。

何よりも陰謀論が成立しにくいと考えられるのは、アポロ計画には40万人もの人が関係者として関わっていることです。それらの人すべての口を封じるか、あるいはその人たちの誰にも知られないようにして秘密裏にスタジオ撮影するというのは、かなりの無理があります。

そして何より、本当にでっち上げだったとしたら、当時のライバルであるソ連が黙っていないはずです。宇宙飛行士のアームストロングは「あれをでっち上げるのは、実際にやるより難しいだろう」と語っているそうです。

日本の月探査機「かぐや」は、アポロ15号の着陸点で噴射の跡を写真に収めています。また、アポロ14号でアラン・シェパードが人類初の月面ゴルフをした跡も、はっきりと写しています。これでアポロ陰謀説の息の根が止まりました。

最後の第7章で、著者はなぜ人々が陰謀論やニセ科学を信じてしまうのかを解き明かしています。そのヒントは「確証バイアス」です。人間は自分の信じていることに矛盾する証拠を無視したり、曲解する傾向がありますが、さらに信じていることを裏付ける証拠や議論ばかりに目を向け、認知する心的傾向があります。これが「確証バイアス」と呼ばれるものです。

確証バイアスは簡単に言えば「自分の都合のよい事実だけしか見ない、集めない」ということで、都合の悪い事実は無視したり、探す努力を怠ったりします。これにより、自分は間違っていないと思い込んでしまいます。

そのワナにハマらないためには、自分の考えに対しても批判的な態度を持つことです。それが科学的に考えるということで、それさえできれば、やすやすと陰謀論やニセ科学にハマることがなくなります。

最後に著者が示した「健康情報に接するときのフローチャート」を示しておきます。
・ステップ1 具体的な研究に基づいているか →NO 聞き流す
・ステップ2 研究対象はヒトか →NO 話半分に聞く
・ステップ3 学会発表か論文か →発表 しっかりした研究ではない
・ステップ4 定評ある医学誌に掲載された論文か →NO 信用性はうすい
・ステップ5 コホート研究または無作為割付臨床試験か →NO 根拠なし
・ステップ6 複数の研究で支持されているか →NO 判断を保留
以上をすべてクリアした説については、結果を「とりあえず」受け入れるが、常に結果がくつがえる可能性も頭に入れておく

認知のワナや「科学的であること」について、しっかりと学べる本です。


 

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