オススメ参考書~読んだら即実践してみよう!

自動翻訳大全
終わらない英語の仕事が5分で片づく超英語術

坂西優・山田優著 三才ブックス・刊

1,534円(キンドル版・税込)/1,870円(紙版・税込)

三才ブックスという出版社名に「おっ」と思った方は、たぶんオタクでしょう。「ラジオライフ」「ゲームラボ」の月刊誌に「ラジオ番組表」や多数のムックがありますが、どれもマニア向けの媒体です。

書籍でもいくつかの大ヒット作があり、なかでも絶景ブームの引き金になった『死ぬまでに行きたい!世界の絶景』はアマゾン総合1位を獲得し、シリーズ累計で66万部を記録しています。

そのほか萌え本の嚆矢といわれる英単語参考書『もえたん』は40万部を販売してテレビアニメ化されています。最近では有害図書指定を巡って、鳥取県とバトルを繰り広げ、新聞紙上を賑わせていたりもします。

ところが本書は、そんな社風とは無縁のまったく真面目な実用書です。どんな本であるか、カバー袖のコピーを引用してみましょう。
***
「自動翻訳なんて使えない」
今日からその認識は変わります。
「使い方のコツ」を押さえれば、
自動翻訳はもうミスをしません。
長い文章や専門的な会話であっても、
日本語を英語に、英語を日本語に
一瞬で、そして正確に翻訳します。
終わらなかった英語の仕事が、
ラクに片づけられます。
本書では、
今すぐできて、誰にでも役立つ
「自動翻訳の使い方のコツ」の
すべてを紹介します。
***

ということで、「あとは書店かアマゾンでお買い求めください」と結べばいいようなものですが、それでは本稿の意味がありません。以下、本書が解説していることを順を追って見ていくことにしましょう。

まず2人の著者について触れておきます。坂西優氏はさまざまな自動翻訳サービスを開発・運営している八楽株式会社の代表取締役です。オンライン翻訳プラットフォームの「ヤラクゼン」は、高い操作性と品質、セキュリティが評価され、幅広い業種の1000社以上の企業に導入されています。

山田優氏は、関西大学外国語学部外国語教育学研究科教授。フォード・モーターの社内通訳者、産業翻訳者を経て株式会社翻訳ラボを設立し、現在は大学教員および翻訳研究者として翻訳通訳研究に従事しています。

では続いて、本書の目次を詳しく紹介しましょう。
・はじめに
・CHAPTER 1 人間を超えた「AI翻訳」の波に乗れ
・01 自動翻訳の進化が止まらない!
・Column 「単語ごと」の翻訳から「文章単位」での翻訳へ
・02 自動翻訳を仕事に使うとこんなにメリットが!
・Column 海外と仕事をしている人たちはすでにAI翻訳を活用している
・03 AI翻訳のクセを知るのがうまく使うための第一歩
・04 英語の質は自動翻訳する「前」と「後」で決まる!

・CHAPTER 2 秒速で「読む」
・01 英文は「区切る」だけで速く読める!
・02 文を区切るときは翻訳結果を「見比べながら」が基本
・03 長い英文をどこで区切る? まずは「コンマ」の後で改行!
・04 コンマがない長文は「5つの接続詞」で区切る
・05 短くした英文にもピリオドは必ずつける
・06 日本語訳がおかしいときに10秒でできる対処法
・Column 英文を「速く読む」のに役立つ辞書サイト
・07 英文のビジネスメールを読んでみよう!
・08 海外の英語ニュースを読んでみよう!
・09 英語のプレゼン資料を読んでみよう!
・Column 絶対に誤読できない文章は「翻訳支援ツール」で読む!
・「読む」ためのポイントまとめ

・CHAPTER 3 完璧に「書く」
・01 日本語の書き方次第で完璧な英文がつくれる!
・02 “英語にしやすい日本語”に書き換える「プリエディット」
・03 長い文章は区切って1文を短くシンプルに!
・04 「敬語は無視」して日常語でシンプルに書く
・05 主語は省略せず「誰が」をハッキリと書く
・06 それは誰のものなのか「誰の」を明確にする
・07 「いつ」の話をしているのか時間情報を補う
・08 「ご飯を食べる」では正しい英文にならない
・Column 日本語の「慣用句」はそのまま使うと誤訳する
・09 略語や略称は避けて「正式名称」を書く
・10 文末には句点をつけて「文の終わり」をハッキリと
・11 ひらがなよりも「漢字」漢数字よりも「アラビア数字」
・12 固有名詞や専門用語は英語で表記するのが確実!
・13 日本語の「特殊な記号」は使わない
・Column 日本語の「オノマトペ」はうまく英語に訳せない
・14 ミーティングの議事録を英語でまとめてみよう!
・15 日本語のプレゼン資料を英語に書き換えてみよう!
・16 英文のビジネスメールを書いてみよう!
・17 「ポストエディット」で英文を“100%”に仕上げる
・Column ここが違う! プロ翻訳者のポストエディット
・「書く」ためのポイントまとめ

・CHAPTER 4 あらゆる状況で「聞く」
・01 “今、話されている英語”は「音声翻訳」で聞ける
・02 聞く状況に応じて最適なアプリを選べ
・03 音声翻訳にもまずは「Google翻訳」
・04 英語ミーティングには翻訳履歴が残るアプリを!
・Column ヤラクスティック(β)でミーティングを同時翻訳する
・05 スピーチやプレゼンは「音声認識アプリ」で聞ける!
・Column 「Googleドキュメント」の音声入力でも聞き取れる
・06 訪日外国人との対話で活躍するアプリとデバイス
・Column 会話用アプリで翻訳精度が高いのはどれ?
・07 音声翻訳を成功させる5つのポイント
・08 外付けマイクの活用で翻訳精度はさらに上がる!
・Column ビジネス英語が聞ける! 音声翻訳アプリデータ集
・「聞く」ためのポイントまとめ

・CHAPTER 5 今すぐ「話す」
・01 「音声翻訳」で相手に伝わる英語をスラスラ話す!
・Column オンラインで音声翻訳しながら話せるツール
・02 プリエディットを駆使すると英語は「自力で」話せる
・Column 英語が苦手な人こそ「語順」で話しはじめよう
・03 いいたいことを英語に変える「3つの語順」
・04 「A=B」の語順で「AはBである」を表現する
・Column 日本語の「言い換え方」は1通りだけじゃない
・05 「A=B」で使える5個の“イコール動詞”
・06 自分の意見や思いを伝える「主+動+A=B」
・07 「主+動+A=B」に使える10個の動詞
・Column どんぴしゃな単語が出ないとき手持ちの単語で乗り切る方法
・08 単語を並べるだけで英語が話せる「主+動+A+B」
・09 「主+動+A+B」に使える14個の動詞
・10 実際に声に出して話すときは「抑揚」が一番大事!
・11 語順は「1つだけ」でもどんなことでも話せる
・Column 「主語+動詞+目的語」の直訳英語じゃダメなの?
・12 ビジネス電話も「語順」を使うとラクになる!
・13 いざ英語を話しはじめて困ったときの切り抜け方
・「話す」ためのポイントまとめ

・CHAPTER 6 自動翻訳を使いこなして英語力を上げる!
・01 自動翻訳を使いこなすほど英語力はアップする!
・02 「アウトプット不足」も自動翻訳で補える!
・03 「コツコツ勉強する」ことのハンディ
・04 「ラクをしたい」もポジティブなモチベーション
・05 AI翻訳の「限界」を知っておくことは重要
・06 英語を使いこなすために求められるスキルが変わる
・おわりに

簡単にまとめると、第1章は自動翻訳の紹介、第2章は英文を日本語文に翻訳して読む方法、第3章は日本文を英文に翻訳して書く方法、第4章は英語の音声を日本語として聞く方法、第5章は日本語を英語に翻訳して話す方法、第6章は自動翻訳についてのおまけです。

ちなみに、本書で紹介している自動翻訳ツールは、無料で使えるおなじみの「Google翻訳」で、この本のために新しいアプリやソフトを導入する必要はありません。

第1章では、進化を続ける自動翻訳の世界が紹介されています。誰もが一度は無料で使える自動翻訳を使ってみたことがあると思いますが、「使えない」とか「頼るのは危険」という感想を持った人も少なくないでしょう。

しかし、自動翻訳の誤訳がひどかったのは2016年ころまでの話だと著者は言います。なぜなら、2016年の秋に「Google翻訳」の制度が飛躍的に向上したからです。ニューラル機械翻訳(NMT)と呼ばれる新しい翻訳技術が導入されたのがこのタイミングでした。

ニューラル機械翻訳は、いわゆるAIのディープラーニング(深層学習)を活用した翻訳システムで、ヒトの脳の神経回路を模したニューラルネットワークを使って、膨大な対訳データを自律的に学習し、翻訳精度を向上させていく技術です。

つまり、2016年以降の自動翻訳は、AIが人間からの指示を待たずに自分自身で学習し、どんどん進化していくものになっているわけです。これにより翻訳の正確性は25%アップし、流暢性は70%、文章の統一性は20%向上しています。

しかも今の自動翻訳は高い精度のままで英語から日本語、日本語から英語への相互翻訳ができるようになっていますから、訳文が正確かどうかはただちにチェックすることができます。

このような自動翻訳をうまく使うことができると、英語の学習に時間とお金を費やす必要がなくなります。特に英語が好き、英語を自由に話したいということでなければ、もう英語学習のことは忘れてしまっていい時代になったといえます。

しかも私たちが英語を必要とする場合の多くはビジネス英語ですが、自動翻訳はビジネス英語との相性が抜群です。AI翻訳はシンプルでロジカルな文の翻訳が得意なので、マニュアルやビジネス英語の翻訳にうってつけなのです。

さらに著者が強調するのが、「自動翻訳を使いこなすと英語力が上がる」ということです。自動翻訳が訳し間違える余地のない文をつくる作業が、多言語の基礎能力を鍛えてくれるからです。自動翻訳で仕事の能率を高めながら英語力もアップするのであれば、まさに一石二鳥です。

ただし、自動翻訳の使い方にはコツがあります。まだ誰もが完璧な結果を得られるところまでは進化していないため、よりよい結果を得るためのスキルが存在します。本書はそれを網羅したガイドブックです。

最も重要な自動翻訳使いのコツは、翻訳にかける原文を機械が扱いやすくする「前編集」と出力された訳文の間違いを修正する「後編集」です。特に重要なのは日本語の文章を書き換える前編集で、本書にはそのテクニックがすべて掲載されています。

第2章では英文を翻訳して読むための方法が紹介されています。その最初のコツは、原文の英文を「短く区切る」ことです。

例文として次の文章が出ています。
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これを本書では次のように区切るように勧めています。
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その結果、自動翻訳の訳文は次のように変わります。
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区切ったことによって文章の趣旨が明確になり、誤訳らしい部分も解消されていることがわかります。

ただし、英文のどこでも適当に区切ってよいというわけではありません。どう区切るかは試行錯誤で日本語訳を見ながら進めていきます。このあたりは瞬時に無料で翻訳できるサービスならではです。

区切るためのルールとしては、「コンマの後で改行」「コンマがないときはbefore、after、when、if、butで改行」というものがあります。そして改行したらピリオドを必ずつけること。これでかなり正確な訳文が得られます。

うまく区切ったはずなのに訳文がおかしいときには、単語の意味が間違っているのかもしれません。Google翻訳では単語をダブルクリックすると辞書が開くので、単語に別の意味があるかどうかをチェックできます。

第3章では、自動翻訳で完璧な英文を書くための方法を伝授しています。そのために最も重要なのは、曖昧さのない日本語を書くこと。著者は次の3点を強調しています。
(1)文は短くシンプルに。敬語は使わない
(2)「誰が」「誰の」「いつ」などの省略は避けてハッキリと
(3)漢字、アラビア数字を使用し、数え方は「個」で統一

日本語の原文を短くするには、「文の述語が2つになるまで」と著者はアドバイスして次の例文を掲載しています。
顔認証の制度は年々向上しているとはいえ、認証システムは一時的な顔の変化にも左右されるため、日常的に認証を使用するのであれば、パスワードなどの予備の手段も用意しておく必要があります。

顔認証の制度は年々向上しています。しかし、認証システムは一時的な顔の変化にも左右されます。そのため、日常的に認証を使用するのであれば、パスワードなどの予備の手段も用意しておく必要があります。

この修正で、訳文は次のように変化しました。
Although the accuracy of face recognition has been improving year by year, the authentication system is also affected by temporary changes in the face. Must be kept.

The accuracy of face recognition is improving year by year. However, the authentication system is also subject to temporary facial changes. Therefore, if you use authentication on a daily basis, you should also have a backup method, such as a password.

以下、第4章の「聞く」では音声認識と自動翻訳を組み合わせ、さらに音声合成を経由して話された英語を日本語で聞き取る技術を紹介しています。一例として、Googleドキュメントの音声入力とGoogle翻訳の組み合わせが掲載されています。

第5章の「話す」では、まず日本語を英語の語順に並べ替えることからスタートします。それを第4章の手順で英語化すればいいわけです。そして最後の第6章で、自動翻訳を使いこなして英語力を上げる方法がレクチャーされます。

今すぐ英語を身近にすることができる本です。


 

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