オススメ参考書~読んだら即実践してみよう!

日経テクノロジー展望2023 世界を変える100の技術

日経BP・編集 日経BP・刊

2,640円(キンドル版・税込)/2,640円(紙版・税込)

紙版と電子書籍版がピタリ同じ価格というのは、もはや珍しい設定となりました。見方によれば、古本として売却できない電子書籍のほうが割高とも思えます。この本のような500ページ近い重厚なものになると、電子版の利便性が高いので割引しないという考え方なのかもしれません。

本書は2022年9月の発行ですから、2022年前半における最先端の技術トレンドを概観できる本と考えてよいでしょう。アマゾンでは2017年版からのものが買えますので、興味と時間のある人は読み比べてみるのも面白いかもしれません。

本書は日経BPの各専門誌編集長やサイト編集長、総合研究所のラボ所長など50人が選んだ「今後世界を変える可能性があるテクノロジー100件」の概要紹介です。グリーン技術、Web3、メタバース、人工肉、最新治療、エネルギーなど幅広い最新テクノロジーを専門記者が解説しているので、自分の詳しくない分野の知識を手っ取り早く補強するのに役立ちます。

さらに役立ちそうなのが、ビジネスパーソン1000人が選ぶ「期待できる技術」ランキングです。アンケート調査による「今重要性が高い技術」と「2030年において重要性が高い技術」が順位付けされています。

などと御託を並べるより、掲載されている100の技術を紹介するほうが早いでしょうね。では目次を引用します。

・はじめに
・第1章 Web3&メタバース
Web3、DeFi、DAO、メタバース、ボリュメトリックキャプチャービデオ、バーチャルプロダクション、空中ディスプレー、五感センサー、触覚フィードバック

・第2章 ソフトロボット&グリーントランスフォーメーション(GX)
ソフトロボット、バイオハイブリッドロボット、鳥型ロボット、第6の指の身体化、視覚に代わる新感覚デバイス、カーボンリサイクルシステム、ゼロカーボンシティ、DAC、グリーン水素、人工光合成、グリーンコンクリート、人工肉

・第3章 2030年の有望技術
ビジネスパーソン1000人調査

・第4章 クルマ&ロケット
完全自動運転、無人運転MaaS、車載AI半導体、EV向け変速機、1.5GPa級冷間プレス材、小型電動アクスル、歩行者保護エアバッグ、運転者の脳機能低下予測、給電道路、AI自動車教習所、空飛ぶクルマ、宇宙輸送、宇宙ゴミ除去、低軌道周回衛星、宇宙往還機

・第5章 建築&土木
防災デジタルツイン、都市OS、IoT住宅、バーチャル設計、大型パネル工法、木プレファブリック、リファイニング建築、環境DNA分析、重機自動化、遠隔操作式の人型重機、建造物3次元プリンティング

・第6章 検査&診断
法医学向けIoTにおいセンサー、排尿予測センサー、イヤホン型脳波計、血糖測定器付スマートウォッチ、糖尿病モニタリング、あぶらとり紙で診断、認知症診断支援ソフト、座るだけで心臓の触診、フォトンカウンティングCT、ARフィットネス

・第7章 治療
光免疫治療薬、中分子創薬、ミトコンドリア機能改善薬、キメラ抗原受容体T細胞療法、核酸標的薬、デジタルセラピューティクス(DTx)、MR医療、病院CRM、医療ロボット、介護ロボット、腸換気法

・第8章 ワークスタイル&ビジネス
マテリアルズ・インフォマティクス、映像を使った遠隔検査、仮想オフィス、ピープルアナリティクス、人間デジタルツイン、オンライン教育、調理ロボット、ドローン配送、セラミックス3次元プリンティング、エンベデッドファイナンス、キャッシュレス、ローコード内製、VTuber向けモーションキャプチャー

・第9章 IT
量子コンピューター、量子誤り訂正、耐量子計算機暗号、アダプティブ・バルク・サーチ、オブザーバビリティー、IaC、CSPM、SOAR、GPiSE、IoT時代の認証暗号、AIつぶやき、分割DNN、サリエンシーマップ、文書読解AI

・第10章 エネルギー&エレクトロニクス
次世代原子炉、ナトリウムイオン電池、次世代パワー半導体、スピントロニクス半導体、ペロブスカイト型太陽電池

「はじめに」で日経BP常務の望月洋介氏は「変化が激しく見えるのは技術と技術が融合するから」と言っています。リアル技術とバーチャル技術が合体することで、次々と新しい世界が生み出されるわけです。

したがって、「何と何が融合したのか」に注目することで、その技術の位置づけや期待される効果が見えてきます。それだけではなく、「この技術は何と融合できるか」と考えることで、新たなブレイクスルーが起こせる可能性もあります。

望月氏は本書を「ビジネスをする上でこれからずっと役立つ技術の図鑑あるいは教養書」を目指して作ったと述べています。たしかに、本書をざっと読んでおくだけで、近未来の技術の概略が理解できるでしょう。

通常なら第1章から順に見ていくところですが、本書ではまず第3章に注目したいと思います。ビジネスパーソン1000人がどんな新技術に期待しているのか。まず「2022年のテクノロジー期待度ランキング」からベスト10を引用します。

1 介護ロボット
2 カーボン・リサイクルシステム
3 量子コンピューター
4 ドローン配送
5 医療ロボット
6 無人運転MaaS
7 MR医療
8 完全自動運転
9 オンライン教育
10 グリーン水素

続いて「2030年のテクノロジー期待度ランキング」からのベスト10です。

1 介護ロボット
2 量子コンピューター
3 完全自動運転
4 ゼロカーボンシティ
5 無人運転MaaS
6 医療ロボット
7 人工肉
8 カーボンリサイクルシステム
9 ドローン配送
10 MR医療

ふたつのベスト10を比べてみると、ほとんどが同じ項目であることがわかります。それだけ、これらの技術に期待が寄せられているということでしょう。ビジネスチャンスとしても注目されているわけで、これからその分野に挑戦するのは、ちょっとハードルが高いかもしれません。

それでは改めて、第1章から気になる技術を拾っていくことにします。

トップバッターは最初に登場する「Web3」です。これは簡単にいうと「ブロックチェーンで次世代インターネットを実現する技術」で、インターネットの利用者が自分の情報を自分で所有し、発信したり提供したりできるようになるものです。

初期のWebは発信者が静的なHTMLを使って情報を公開し、利用者がブラウザーを介してそれを読むという情報の一方通行的な流れが基本でした。

JavaScriptを利用した動的なHTMLが実用化されると、リアルタイムで画像を編集したり、イラストを作成することが可能になりました。そこで「Web2.0」という言葉が生まれ、流行語となりました。

さらに進んで、利用者が情報を所有することを可能にしたのがブロックチェーン技術を利用した取引履歴の維持による「Web3」です。これにより、デジタルアート作品の安全な販売が可能になりました。

黎明期のWebはメディアを破壊し、Web2.0は編集者を破壊したといわれていますが、Web3が何を破壊するのか、興味深いところです。

次に注目したいのは、やはり話題の「メタバース」でしょう。ネット上の作られた仮想空間で、いかに現実の映像を取り込んで融合させるかがこれからの課題です。そのためにメタバースの3次元空間に向けた没入型高臨場感メディア「イマーシブメディア」に注目が集まっています。

メタバースに対する認知が広がったのには、コロナ禍が一役買っています。3密を避けるためのオンライン会議の普及によって、動画によるコミュニケーションやリモートワークが当たり前になったからです。

この先、メタバースが普及していくためには、現実世界をどこまで仮想空間に取り込むことができるかがカギになります。そのために実在の人物やその人の動き、位置などを3DデータとしてCG化するボリュメトリックキャプチャー技術や、リアルな被写体とバーチャルな背景を合成するバーチャルプロダクション技術の進化に期待が集まっています。

SF映画などでよく見られる「空中ディスプレー」も、メタバースに関連して関心が集まっている技術です。何もない空間に映像を表示し、非接触で入力することが可能な空中ディスプレーは、コロナ禍に伴って開発が加速されています。

2022年2月にセブン-イレブン・ジャパンは空中ディスプレー技術を採用するキャッシュレスセルフレジ「デジPOS」の実証実験を都内の6店舗で開始しました。離れたところからは天板がガラスの台にしか見えませんが、正面に立つと空中に浮かぶレジ画面が見えるというものです。

続いてビジネスパーソン1000人が1位に選んだ「介護ロボット」を見てみましょう。AIを搭載した人型ロボットを介護分野で活用しようというもので、すでに技術成熟度は「中」となっています。

頭部にカメラを搭載し、施設内の3次元地図を自動で作成。自己判断で移動し、入居者や職員の顔を識別、音声でコミュニケーションが取れるなどの機能が想定されています。

脚部には超音波センターや赤外線センサーなどを搭載し、周囲との距離を計測するほか、椅子や人などが倒れていた場合は自動検知して衝突を回避し、職員に通報することができます。

どんなことができるかといえば、物品の運搬、施設内の定期巡視や見守り、緊急時の連絡、入居者とのコミュニケーションなどの用途が見込まれています。

ごくわずかしか紹介できませんでしたが、興味のある人はぜひ購入してお手元にどうぞ。しっかり読めば世界が広がります。


 

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