年の瀬が近くなると発刊される本書ですが、紙版は書籍ではなく年に1回発行される雑誌として流通しています。出版元では「年鑑雑誌」なる言葉を使っています。
創刊75周年と聞くと、「そんなに古いのか」と驚いてしまいますが、最初の版が出たのは終戦間もない1948年です。
一時期は1200ページを超えるボリュームとなったこともありますが、現在では誌面をリニューアルし、文字をびっしり詰めることによりページ数を抑えています。今号は352ページです。
「現代用語の基礎知識」というと、一時期は集英社の「イミダス」、朝日新聞社の「知恵蔵」というライバルが登場して激戦を繰り広げましたが、今ではライバルが休刊となったことにより、ふたたび1社独占の体制に戻っています。
本書の特徴は、一般的な百科事典は内容が古くなるのを防ぐために、新語や流行語の収録を避ける傾向があるのに対して、それとは真逆の姿勢であることです。そして出版元がユーキャンと提携したことで、「現代用語の基礎知識編 ユーキャン流行語大賞」が毎年発表されるようになりました。
ところで「百科事典」と「国語辞典」では「事典・辞典」の2種類の表記がありますが、その区別をご存じでしょうか。昔から辞書を作っている出版社では、両者を「ことてん」と「ことばてん」と発音して混同を避けていました。
「ことてん」は百科のように森羅万象の事物を収録したもので、「ことばてん」は語学辞書のように言葉を収録したものです。それで漢字が使い分けられています。
それでは、本書を巻頭から眺めていくことにしましょう。
巻頭見開きは、おなじみの「やくみつる 世相フラッシュ」です。4つのテーマのマンガが並び、2022年の世相を思い出させてくれます。
その次が目次になりますが、膨大な量ですのでとても引用しきれません。そしてキンドル版の目次にはジャンプ機能がありません。あまりに細かい誌面レイアウトなので、リンクがつけられなかったのでしょうか。
続いて「エリザベス女王とチャールズ新国王」「2022年のキーパーソン【人物ファイル】」「世界の国旗」「ロシアによるウクライナ侵攻とこれからの世界」「岐路に立つ政治と宗教」「おもねらず生きる分断社会の処方箋」「ニュースのおさらい」「沖縄本土復帰50年とこれから」「数字で読む2022」「創刊75年、現代用語の基礎知識はどんな時代を刻んできたのか」と特集記事が並びます。
「2022年のキーパーソン」に登場するのは、ゼレンスキー大統領、羽生結弦、坂東彌十郎、桂二葉、反田恭平、是枝裕和、藤井風、森大翔、泉房穂、斉加尚代、イーロン・マスクの各氏。この中の何人、ご存じですか?
「世界の国旗」は世界各国の国旗を地域別にずらりと並べたもの。ベタな企画ですが、改めて眺めてみると意外に自分が各国の国旗を知らないことに気づかされます。デザインや色の似通った国を探してみるのもおもしろいものです。
「ニュースのおさらい」は、今さら聞くのはちょっと恥ずかしいテーマについて、「どうした」「そもそも」「どうなる」の3つの見出しでまとめた記事です。「人間の安全保障とウクライナ危機」「ウクライナ避難民」「AI兵器」「安倍元首相銃撃死事件」「財政民主主義」「東京五輪と多重利権」「インボイス制度変換で危機」「土地利用規制法」「技能実習生の孤立出産」「女性自衛官性被害」「森友問題」が取り上げられています。
「数字で読む2022」は数字をキーワードにしたコラム集です。「135億光年=ウェッブ宇宙望遠鏡がとらえた距離」「1万3000基=これまでに世界で打ち上げられた人工衛星」「130カ国=無人兵器を保有する国」「2%=アメリカが同盟国などに求める防衛費の対GDP比」「51年=中華人民共和国の国連加盟からの年数」「13兆円=ロシアがウクライナ侵攻から100日間にエネルギー輸出で得た収入」「1.5度=COP26が抑制目標とする気温上昇」「2人目=皇族以外で戦後に行われた国葬」「50年=沖縄返還から現在まで」「24年ぶり=円相場が145円台になった日」「1億2322万3561人=日本の人口」「約1000万戸=2023年に余る住宅」「13歳3カ月=仲邑菫二段の最年少100勝」が解説されています。
「創刊75年、現代用語の基礎知識はどんな時代を刻んできたのか」は、5年、10年ごとに本書が記録してきた2本の世相を振り返る企画です。
「1948→1952」では「東京裁判」「冷戦」「ワンマン」「貧乏人は麦を食え」「レッドパージ」「老兵は死なず」「君の名は」が取り上げられています。
「1953→1962」で登場する言葉は、「街頭テレビ」「死の灰」「三種の神器」「1億総白痴化」「太陽族」「神武景気」「団地族」「国民車」「所得倍増」「地球は青かった」「巨人・大鵬・玉子焼き」などです。
「1963→1972」では「シェー」「カギっ子」「みゆき族」「夢の超特急」「ウルトラC」「黒い霧」「ミニスカート」「核家族」「中流」「イザナギ景気」「ナンセンス」「オー・モーレツ」「人類の進歩と調和」「ウーマン・リブ」「ドル・ショック」「シラケ世代」などが登場します。
「1973→1982」では「省エネ」「シルバーシート」「日本沈没」「金権政治」「サラ金」「記憶にございません」「窓ぎわ族」「キャリア・ウーマン」「家庭内暴力」「竹の子族」「粗大ゴミ」「逆噴射」「指示待ち世代」「いいとも」が選ばれています。
「1983→1992」に登場するのは、「おしんする」「フォーカスする」「ネクラ/ネアカ」「戦後政治の総決算」「民営化」「新人類」「バブル」「24時間タタカエマスカ」「セクハラ」「オヤジギャル」「おたく」「3K職場」「バブル崩壊」といった言葉です。
「1993→2002」あたりになると、そろそろおなじみの言葉が出てきます。「Jリーグ」「ドーハの悲劇」「非自民」「マインド・コントロール」「規制緩和」「価格破壊」「就職氷河期」「ライフライン」「地下鉄サリン事件」「インターネット」「オーガニック」「臨界」「自民党をぶっ壊す」「悪の枢軸」「W杯」「拉致」などです。
「2003→2012」では、「イラク戦争」「SARS」「ワンフレーズ・ポリティクス」「マニフェスト」「オレオレ詐欺」「ネット心中」「自己責任」「認知症」「郵政解放」「韓流ブーム」「格差」「婚活/終活」「派遣切り」「政権交代」「3.11」「スマホ」がキーワードとして選ばれています。
「2013→2022」に出てくるのは、「二刀流」「アベノミクス」「アンダーコントロール」「ヘイトスピーチ」「コンプライアンス」「集団的自衛権」「働き方改革」「生前退位」「忖度」「SDGs」「SNS」「コロナ禍」といった言葉です。
ここから先がいわゆる「本文」で、現代用語の解説が「宗教」「政治・経済」「世界情勢」「科学・医療」「情報・社会」「時代・流行」「文化・スポーツ」のテーマに分類されて掲載されています。
もっとも、それらの分類で読みたい項目を探さなくても、巻末には詳細な索引がありますから、そちらで用語を探してもいいでしょう。
たとえば「科学・医療」の中の「エネルギー価格の高騰と持続可能な生産・消費」というコラムに続いて出てくる用語を見出しだけ拾っていくと、以下のようになります。
ESG金融、温室効果ガス(GHG)、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)、カーボンニュートラル、再生可能エネルギー、カーボンプライシング、カーボンクレジット、持続可能な開発目標(SDGs)、プラスチック資源循環促進法。
「情報・社会」の中の「コロナ後のビジネスマナー」に続いて出てくる用語の見出しは以下のようになっています。
人的資本、(選択的)週休3日制、リスキリング/リカレント教育、改正育児・介護休業法/育業、テレワーク、副業人材/副業詐欺、ギグ・ワーカー、ジョブ型、FIRE(ファイア)、働かないおじさん/会社の妖精さん、採用手法の変化、就活セクハラ/就活セクシズム、ガクチカ、インターン選考、配属ガチャ、ゆるブラック企業、学歴フィルター、エセDGs学生。
「オンライン化で孤独に陥る」というコラムに続いて出てくる用語の見出しは以下です。
マッチングアプリ、侮辱罪厳罰化、IT/ICT、インターネットエクスプローラーのサポート終了、Web(ウェブ)会議、デジタル庁、テック人材、デジタルトランスフォーメーション(DX)、スマートフォン(スマホ)、格安スマホ/格安SIM、ahamo/povo/LINEMO、SIM(シム)カード、ガラケー、6G(シックスジー)、QRコード、プラットフォーマー、電子マネー、キャッシュレス決済、暗号資産、AI(人工知能)、画像生成AIツール、メタバース、NFT(非代替性トークン)、フィンテック、IoT(モノのインターネット)、シェアエコノミー、不正アクセス、エモテット、ボット、ランサムウェア、サポート詐欺、E2EE、生体認証、紛失防止タグ、SNS、ユーチューブ、ツイッター、インスタグラム、TikTok(ティックトック)、TikTokクリエイター、LINE(ライン)、フェイスブック/メタ、ディスコード、音声SNS、ライバー、タイムライン、凍結、インフルエンサー、ハッシュタグ、既読スルー、SNS疲れ、ソーシャルハラスメント、SNS犯罪被害、ネットリテラシー、ネットパトロール、デジタルタトゥー、改正プロバイダ責任制限法、ゲーム依存、自画撮り、特定屋、ステルスマーケティング、転売ヤー、クラウドファンディング。
巻末近くには「新語・流行語大賞 全記録」という1984年から続く流行語大賞のまとめがあります。興味深いので、1993年までの金賞を拾ってみましょう。
1984年新語「オシンドローム」、流行語「まるきん/まるび」
1985年新語「分衆」、流行語「イッキ! イッキ!」
1986年新語「究極」、流行語「新人類」
1987年新語「マルサ」、流行語「懲りない○○」
1988年新語「ペレストロイカ」、流行語「ドライ戦争」
1989年新語「セクシャルハラスメント」、流行語「24時間タタカエマスカ」
1990年新語「ファジィ」、流行語「ちびまる子ちゃん」
1991年新語「…じゃあ~りませんか」、流行語「若貴」
1992年新語「きんさん・ぎんさん」、流行語「冬彦さん」
1993年新語「サポーター」、流行語「規制緩和」
巻末の索引は、これだけ眺めていても頭の体操になるくらいです。自分にどれだけ知らないことがあるのかを客観的に知るためにも、時々は眺めてみましょう。
今すぐ何かの役に立つという本ではありませんが、手許に置いておくだけで知識の幅が広がる1冊です。