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先読み!IT×ビジネス講座 ChatGPT 対話型AIが生み出す未来

古川渉一・酒井麻里子・著/インプレス・刊

1,386円(キンドル版・税込)/1,540円(紙版・税込)

2022年11月にOpenAIが公開した人工知能チャットボット「ChatGPT」は、公開後わずか2か月でアクティブユーザー数が1億人に達しました。これはInstagramの2年半、TikTokの9か月を大幅にしのぐ、史上最速のペースといわれます。

本書は、その話題のChatGPTの入門書ですが、発売日は2023年4月6日ですから、これまた非常に速いペースで制作された書籍といえます。さすがに2023年3月に有料で公開されたChatGPT4の情報までは盛り込まれていません。

本書は、古川渉一と酒井麻里子という2人の著者の会話で本文が組み立てられています。古川氏は株式会社デジタルレシピ取締役CTOで、GPT-3を活用した国内向けサービス「Catchy」の事業責任者です。酒井氏は幅広い分野で活躍するITライターで、WEBマガジン「Zat's VR」の運営者でもあります。

この2人の会話で説明が進むため、非常に読みやすく、あっという間に読み終えることができます。それでいて、重要なポイントはきちんと押さえられているので、「とりあえずChatGPTを概略だけでも知っておきたい」というニーズに合った本といえるでしょう。

それでは、本書の内容をつかんでいただくために、目次を紹介します。

・はじめに
・プロローグ
・Chapter 1 ブレイクスルーを起こした対話型AI
今大注目の対話型AI「ChatGPT」とは?
なぜ今「会話で文章を作るAI」が注目されているの?
ChatGPTが作り出す文章を見てみよう
ChatGPTは何がすごいの?
ChatGPTの登場までには、どんな流れがあった?
これまでの対話型AIと ChatGPTの違いは?
・column Microsoftも高い期待を寄せる OpenAI

・Chapter 2 ChatGPTと会話してみよう
使いながらChatGPTを理解する
ChatGPTを使い始めるには?
ChatGPTが語る「ChatGPTとは」
ChatGPTの生成結果はどのくらい使える?
思いどおりの答えを引き出すには?
使いこなすためには人間側のスキルも必要?
連続した質問と新規チャットの違いは?
ChatGPT利用時に注意することは?
ほかの生成AIと連携できる?
・column 画像生成AIが「生成系AI」ブームの火付け役に

・Chapter 3 対話型AIはどんな技術で成り立っている?
AIを使いこなすために技術的な背景を理解する
AIはどうやって「人間の言葉」を理解しているの?
機械学習の基本的なしくみを知ろう
ChatGPTの精度を支える「強化学習」
精度を向上させる「深層学習」について知ろう
ChatGPTはどんなデータから学習しているの?
AIは、人間と同じように考えて文章を作っているの?
・column APIで多くのサービスが生まれる可能性

・Chapter 4 ビジネス活用の事例とポテンシャル
多種多様な分野で活用できる ChatGPT
文章生成AIは、ビジネスのどんな用途で役立つの?
Web記事を作成する
キャッチコピーや企画を考えるときに活用する
カスタマーサービスに活用する
プログラミングに活用する
創作活動に役立てる
対話型AIを検索エンジン代わりに使うことは可能?
対話型AIのサービスを自社開発する場合に意識すること
・column Googleが開発する言語モデル「LaMDA」

・Chapter 5 Generative AIとの付き合い方
Generative AIと共存する
不正確な生成結果とどう向き合えばいい?
AIが生成した文章を見分けることは可能?
権利侵害が問題になることはない?
犯罪などに悪用されるリスクは?
差別が助長される文章が生成されてしまう可能性は?
対話型AIの発展でできるようになることは?
生成系AIの進化により、なくなる仕事はある?
AIとうまく共存するには?
さらに広がる生成系AIの世界
・column Alexaでオリジナルストーリーを生成

「はじめに」で著者の一人である古川氏は、次のように述べています。
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私たちはどのようにAIと向き合えばよいのでしょうか? 私はAIを正しく理解することが大事だと考えています。ここでいう理解とは、なにも技術や歴史を正確に把握する必要がある、という意味ではありません。(中略)本書はChatGPTのような対話型AIができること、今はまだできないことなどの概観をその背景とともに理解できるような書籍になっています。
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続いて「プロローグ」では、もう一人の著者の酒井氏がこのように述べています。
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ChatGPTでは、チャット形式の画面に質問などを入力すれば、まるで人と会話しているように答えが返ってきます。(中略)そんなChatGPTとうまくつき合っていくにはどうしたらよいのでしょうか? 本書では、日本語の文章生成AI「Catchy」を手がける株式会社デジタルレシピでCTOを務める古川渉一さんにお話をうかがっています。(中略)インターネットが普及して以来、当たり前のようになっていた「わからないことはネットで検索する」という行動に「チャットでAIに聞く」という新しい選択肢が加わり、多くの人たちの行動に変化をもたらしつつあります。
***

Chapter 1は、ChatGPTの登場前後の話と、その背景についての解説です。特に、ChatGPTの前に登場して大きな話題となった画像生成AIについて触れられています。2022年夏ごろから一般ユーザーでも利用できる「Stable Diffusion」や「Midjourney」などの画像生成AIサービスが登場し、SNSで多くの画像が発表されるにつれて「これまで人間が作っていたものをAIが作れるようになった」という認識が拡がっていきました。それが土壌としてあったので、テキストを生成するChatGPTが比較的好意的に受け入れられたのだというのが本書の説明です。

あわせてChatGPTの「GPT」の説明もあります。GPTとは「Generative Pre-trained Transformer」の略で、「事前学習モデル」を意味します。つまり、一般ユーザーがすぐに使えるように事前学習を済ませたAIサービスだという意味です。

本書で解説しているのは現在でも無料で使えるChatGPT3.5ですが、その前にGPT-3というサービスが存在しました。両者の違いは、「質問文の前提を間違いとして否定できるかどうか」です。これにより、「AIの割には上手」な回答文のレベルが、「人間よりクオリティの高い文章をAIが書けるようになりつつある」ところまで引き上げられました。

ChatGPTとSiriなどの前から存在したAIの違いは、「その場で新たな答えを生成しているかどうか」です。たとえばSiriに「今日は少し疲れているんだけど、昼食は何を食べるのがいいかな?」と尋ねたら、「この近くの飲食店」を検索して教えてくれるでしょう。しかしChatGPTは「疲れている時は栄養バランスの良い食事が重要です。たとえばたんぱく質を含む食品(鶏肉や豆類など)と、炭水化物を含む食品(ごはんやパンなど)、野菜をバランス良く摂ることがおすすめです」というように、「疲れている」に対応した答えを返してきます。

続いてChapter 2では、実際のChatGPTとの会話を中心に話が進んでいきます。冒頭に書かれているのは「実際に使いながらコツをつかむ」ことと、「生成された文章のファクトチェックが不可欠」であることです。「ChatGPTは嘘をつく」ということが評判になりましたが、なぜそうなってしまうかの理由とともに、人間による内容のチェックと他人の権利を侵害していないかの確認が必要であることが念押しされています。

本書ならではのユニークな試みとして、「ChatGPTによるChatGPTの解説」が何種類か掲載されています。最後に「本に載せるコラムとして、ChatGPTの今後の可能性について100字くらいでまとめて」という質問に対しては、次のような答えが返ってきました。

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ChatGPTは、自然言語処理タスクにおいて高い精度を持つ深層学習モデルであり、将来的にはさらに進化し、更に自然な文章生成や対話システムを実現する可能性があります。また、自然言語処理に関連する様々なアプリケーションにも利用される可能性があり、医療や法律などの専門分野においても活用される可能性があります。
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この回答に対して、古川氏は「質問文の『本に載せるコラムとして』という表現が曖昧なため、回答文が少し漠然としている」というダメ出しをしました。そして質問文を「若手のビジネスパーソンに向けた本に載せるコラムとして」と書き換えたところ、次のようになりました。

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Chat GPTは、人工知能による自然言語処理技術を活用したチャットボットなどのカスタマーサポートやFAQの自動応答、コンテンツ生成、翻訳など多岐にわたる業務効率化に役立つ可能性があります。また、近年の深層学習の技術の進化により、より自然な対話を実現するなど、将来性も高いです。
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この回答に対して「ちょっと抽象的ですね。もっと具体的に教えてください」と質問を返したところ、次のような文章が生成されました。

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Chat GPTは、自然言語処理を活用したチャットボットやFAQの自動応答システムなど、カスタマーサポートやコンテンツ生成などに利用することができます。また、翻訳や文章の要約、文章の作成など、様々なタスクにも使用できる可能性があります。さらに、深層学習の技術の進化により、より自然な対話を実現することも可能です。
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さらに古川氏が「様々なタスクってなんですか?」と質問を重ねたところ、返ってきたのはこのような答えでした。

***
Chat GPTは、自然言語処理を活用することで様々なタスクを実現することができます。
例えば、
・カスタマーサポートにおけるチャットボットやFAQの自動応答
・コンテンツ生成(ニュース記事、ブログ記事、製品説明など)
・翻記
・文章の要約
・文章の作成
・生成モデルによる文章、画像、音声などのデータ生成
・データ分析、レポート作成などのビジネスタスク
などが挙げられます。
***

このように、ChatGPTは質問の仕方によって求めている答えが引き出せたり、物足りない結果に終わったりします。本書では、効果的な質問のコツを次のようにまとめています。

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わかりやすい説明が必要なら「○○について小学校5年生にも理解できるように」、仕事の悩みを相談するなら「社会人1年目の営業職ですが」などと、質問の前提となる条件や文脈のようなものを具体的に与えるといいですよ。質問の内容によっては、「この分野は初心者だけれど、この部分は詳しいです」みたいな聞き方も有効だと思います。
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そして追加の質問を重ねることで、徐々に求めている回答に近づけていくことができます。前の質問をもとに、「ここの部分をもうちょっとわかりやすく教えてほしい」とか「具体例を挙げてほしい」というように、人間に話しかけるように伝えていくことができます。

また、相手の役割を指定して質問することもできます。悩みを相談するなら、「コーチとして」とか「占い師として」と指定すると、興味深い答えが返ってきます。

時として、ChatGPTからの回答がいきなり英文になることがあります。その場合はGoogle翻訳やDeepL翻訳などのAI翻訳ツールを使いましょう。

ちなみに、相手が機械だからと意識して話し方を変える必要はありません。あくまでも人間に話しかけるときと同じように思っていることを伝えれば高い精度でのコミュニケーションが可能です。

生成系AIが画像やテキストだけでなく、動画や音楽、3Dの世界にも拡がっていくのは時間の問題です。その場合、入力する指示文(「プロンプト」といいます)をどう作るかがポイントですが、これは簡単ではありません。

それを解決するヒントは、ChatGPTにプロンプトを作らせることです。たとえば「Midjourneyで空飛ぶ猫のデジタルアートを描くためのプロンプトを作って」と指示すれば、出力された文をMidjourneyに入力するだけで画像が生成されます。

また、生成画像のプロンプトを参照できるサービスでは、それをコピーして「このプロンプトをもっとクリエイティブに書き換えて」と指示することもできます。このように、言語化が難しい指示を生成するために文章生成AIが使われるシーンは、これからどんどん増えていくでしょう。

Chapter 3は技術面での話なので飛ばして、Chapter 4のビジネス活用の事例を見てみましょう。まず冒頭に出てくるのが、すでにMicrosoftのBingで実装された「検索エンジンと対話型文章生成AIの統合です。

ここで文章生成AIを活用できる分野として考えられるのは、それによって「コストが削減できる」分野か「売上に貢献できる」分野であるということです。

コスト削減とは、AIの活用による外注費の削減などのことです。売上への貢献とは、たとえば営業担当者の業務の省力化などが考えられます。デスクワークにおける生産性の向上も、売上向上につながる可能性が高いでしょう。

ブログ記事などのコンテンツを生成するには、ChatGPTをそのまま使う方法と、より最適化されたサービスを使う方法があります。たとえば古川氏の会社で提供している「Catchy」は、ステップバイステップで日本語の記事を制作していくサービスです。汎用型と目的特化型の違いといえます。

ChatGPTでは、長い説明文から短いキャッチコピーを作ることや、文字数を制限しての要約文を作ることもできます。本書には次の例が載っています。

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【Q】「文章生成AIのビジネス活用の可能性」について書いた本の宣伝に使う、未来に希望が持てるような日本語のキャッチコピーの候補を10本考えてください。

【A】
1.“文章生成AIで、未来への扉を開けよう"
2.“あなたのビジネスを加速させる文章生成AI"
3.“新しい時代のコミュニケーションツール、文章生成AI"
4."文章生成AIで限界を超えるビジネスの新常識"
5.“人工知能による文章創造、ビジネスに生かす方法"
6.“文章生成AIがもたらす変革、ビジネスに活かす方法"
7.“未来のコミュニケーション、文章生成AIが導く道"
8.“人工知能による文章生成、ビジネスにおいての最先端手法"
9."文章生成AIがビジネスのパフォーマンスを大きく向上させる”
10."ビジネスの新しいフロンティア、文章生成AIへの挑戦"
***

ChatGPTはカスタマーサービスに利用することもできます。たとえばメール返信の自動化では、すでに「Ellie」というサービスが先行しています。メールの文脈を理解したうえで返信を作成してくれるだけでなく、過去の返信メールを学習して、まるでその人が書いたかのような文体で返信を作成することもできます。

また、古川氏は「集合人格」という耳慣れない概念を紹介しています。これまでに収集したデータを使って顧客の人格を集約し、その人格とチャットして商品開発などの意見を聞くといった使い方が考えられているそうです。

最後のChapter 5は、ChatGPTのような生成型AIとの付き合い方です。ここで著者たちは明確に「AIと人間の共存は可能!」と言い切っています。

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画像生成AIがブームに火をつけ、ChatCPTが話題になったことで一気に認知を広めた生成系AIは、これからもさまざまな分野に広がっていく可能性が高いでしょう。「AIをアシスタントにして仕事をする」ことが当たり前になる時代も遠くありません。そのとき、私たちは「自分だからできること」により注力することで、さらによいパフォーマンスを発揮し、「自分だから作り出せる価値」を、世の中に届けることができるようになるはずです。
***

生成系AIと人間との理想的な共存は、仕事の「最初の30%をAIで作る」といった使い方になりそうです。たとえば企業が新商品を発売するときのプレスリリースはある程度形式が決まっているため、その作業に最適化されたAIに必要事項を入力すれば、下書きが生成されるでしょう。

同様に、量産型Webコンテンツが人の手で作られることは減っていくでしょう。アメリカのセコイアキャピタルというベンチャーキャピタルの予測によれば、2025年には生成系AIが人の平均レベルで作れるようになり、2030年にはプロの作った最終ドラフトのクオリティに到達するそうです。そのころには弁護士事務所でAIが過去の判例や裁判例を探し出すようになっているでしょう。

そんな時代の人間たちの賢い生き方は、「AIが得意なことはAIに任せる」というものです。叩き台や基本となる部分を作る作業はAIに任せ、AIが作り出したものを人間が責任を持って選ぶというのが理想的な分業の形になりそうです。

その時代に必要なのは、人間たちが「自分にしかできないことは何か」を考え続けることだと著者たちは言います。たとえば「感情をもってものごとを人に伝える」というのは、AIにはできません。

大人気のChatGPTを解説しながら、来るべきAI時代における人間のふるまい方も考えさせてくれる一冊です。


 

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