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一生使えるプレゼン上手の資料作成入門

岸啓介・著/インプレス・刊

1,584円(キンドル版・税込)/1,980円(紙版・税込)

プレゼンテーションというとすぐ「パワーポイント」を連想してしまうことが多くなっていますが、パワポを使いこなして、相手が本当に理解できる資料を作成している人は、じつはそれほど多くはありません。

「パワポ職人」を自認している人の多くは、パワポで資料を作るのが本当に好きで、凝ったものを時間をかけて作り上げますが、その実は自己満足の見にくい、わかりにくい資料だったりします。

これは初期のネットショップと同じで、ホームページの作成に夢中になるあまりに、ひとりよがりのわかりにくいショップになっていたりするケースが散見されました。

どちらにも共通しているのは、ツールに踊らされて本質が見えなくなっていることです。ツールを使う以前に、自分がそのツールを使って何をしようとしているのか、その目的は何なのかをよく考える必要があります。

本書の30ページにはこうあります。「メモ帳を使ってスライド一覧を作るとラクチン」。パワーポイントを起動する前に、何をするかを目次にしておこうということです。

さて、本を紹介する前に内容に入ってしまいましたが、本書はプレゼンで一発OKが出る資料作りを解説した本です。パワポの使い方を説明した本は世の中に星の数ほどありますが、本書はパワポの技術的な話ではなく、プレゼンで「通る資料」には何が必要かをわかりやすく解き明かしています。

著者は1975年生まれのSBテクノロジーでシニアコーポレートアーティストをつとめている人物です。各種資料のデザインやロゴマーク制作、ブランド管理などビジネスにおけるデザイン表現全般の包括的管理が仕事で、社外では作家活動を行っており、第3回文化庁メディア芸術祭デジタルアートノンインタラクティブ部門で大賞を受賞した経験もあります。

本書が目指しているのは、一発OKが出る資料作りです。冒頭に「一発OKが出る資料の10箇条」が掲げられているので、紹介します。
(1)「だからどうしたい」が明確
(2)相手のメリットが提示されている
(3)結論に至るまでのストーリーが見える
(4)目次スライドを活用している
(5)メッセージの補強要素が盛り込まれている
(6)各スライドの意図がはっきりしている
(7)ゆとりあるレイアウトで見やすい
(8)キーワードは3回、繰り返す
(9)まとめスライドで印象が残る
(10)頭から終わりまでブレていない

これを受けて、「はじめに」で著者は次のように語っています。
***
この本は、日ごろ私のもとに寄せられる資料作成についての悩みや質問をメインに、実際によくあるものをビフォー・アフター形式で簡潔にまとめたものです。ポイントを最小限に絞っていますので、一般的な資料作成の解説本にハードルの高さを感じている方々にも、今すぐ活用していただけます。
***

それでは、目次を眺めてみましょう。

・はじめに
・INTRODUCTION 一発OKがもらえる資料とはどういうものか
・LESSON 1 資料の「説得力」が高まる構成の基本
・LESSON 2 言いたいことが伝わるスライドの基本
・LESSON 3 OKを引き出す! グラフとビジュアルの効果的な使い方
・LESSON 4 効率よく資料の見た目を整えるテクニック
・LESSON 5 資料作成のプラスワンテクニック
・COLUMN

まずイントロダクションから見ていきます。いきなりダメ出しからのスタートです。
1 相手側のメリットが感じられない資料
2 「結局どうしたい」という提案のない資料
3 全体のストーリーが見えない資料

それを著者はこう変えます。
1 どのように相手のビジネスが素晴らしくなるかを提示しましょう
2 製品紹介に終始せず、相手に寄り添う提案を!
3 起承転結を考え、目次を付けましょう!
こうすることで、一発OKがもらえる資料に変わるということです。

そして、「説得力のある資料はここが違う!」と著者は言います。
・キーワードを繰り返し提示
・タイトルにも気を抜かない
・スライドに詰め込みすぎない
・「何を言いたいデータか」を明確に

著者はそのような資料を作るための7つのステップを示しています。
STEP 1 メッセージを考える
STEP 2 相手のメリットを考える
STEP 3 ストーリー構成を考える
STEP 4 目次を作る
STEP 5 必要なデータを集める
STEP 6 スライドを作成する
STEP 7 完成後に見直す

こうした資料作りを通じて、仕事で大切な次のことが得られるというのが著者の主張です。
・業務の前に事前確認をする習慣が付く
・プロセスを意識した仕事をする基礎が身に付く
・資料に盛り込む情報を集めるために新しいネットワークができる

それでは、LESSON 1から順に本書を見ていきましょう。
LESSON 1は資料の構成の基本を学びます。
最初の項目「001」では、資料を作るときに一番気をつけるべきこととして、「メッセージを明確に」としています。

「何かを説明しただけ」「情報を提示しただけ」の提案がない資料はNGで、その資料を通じて「何が言いたいのか」というメッセージを明確にする必要があるわけです。そしてそのセッセージには、伝える側の要望と相手のメリットの両方が含まれていると効果的であると著者は言います。

「002」は「相手ファースト」です。上司や顧客に響く資料の基本は、相手のメリットがしっかりと提示されているものでなければなりません。相手の立場や嗜好を考慮した内容だとベストです。

「003」は「誰に見せる資料かを考慮する」です。経営層に見せるのであれば経営視点を取り入れた資料を、管理職に見せるのであれば稟議を通しやすいかどうか、現場担当者に見せるのであれば、現場の仕事に役立つかどうかがポイントです。

さらに、見せる相手の嗜好をくすぐるという手もあります。新しい物好きの相手であればトレンドを示し、目立つのが好きな人であれば「業界初」「世界一」などを目立たせます。堅実派の相手なら、「導入実績1,200件」といった事例の多さや安心感を際立たせます。

「004」は「メッセージの補強」です。一番伝えたいことを単独でプレゼンしても、それだけで相手の興味を引くことはむずかしいでしょう。そこで、メッセージを補強する要素を加えて説得力を増します。「伝えたいこと」と「相手のメリット」の両面を補強する要素だと、さらに効果的です。

「005」は「資料作成は下準備が命」です。これは耳の痛い人が多いのではないでしょうか。漫然とパワポを動かし始めてしまい、結局中途半端な仕上がりの資料になってしまったという経験を持つ人は多いはずです。

「いきなりパワーポイントで作り始めると流れの悪い資料になりやすい」と著者は指摘しています。パワポを立ち上げる前に、手描きでもいいので短い言葉と図形などを使って大まかな展開をざっくり作ることが成功のコツです。

下準備では、起承転結を意識して最終的に一番言いたいメッセージに収束させるように流れを作ります。そして本稿冒頭で触れた「メモ帳を使ってスライド一覧を作る」というのが次の「006」になります。

このスライド一覧は、資料作成に入る前の設計図です。この段階で関係者のチェックを受けておけば、構成や方向性の転換も楽にできます。資料全体の分量が予想できるのもメリットですし、最終的にはスライド一覧がそのまま資料の目次に転用できます。

「007」では「資料の構成」をコーチします。基本は「目次」「本編」「まとめ」の3パートですが、時間のない相手に対するプレゼンの場合は、「目次」と「本編」の間に「サマリー」を挟みます。

「008」では本編における提案の形式を「課題・解決法・結論」のワンセットにするようにアドバイスしています。「課題」と「結論」だけだと解決のイメージがわかずに納得しづらくなりますが、そこに相手に合わせた「解決法」を示すことでリアリティのある提案になります。

「009」は「補足」の使い方です。話の中でいろいろな説明が入ると全体の流れが悪くなり、ストーリーが見えにくくなります。そこで本編はストーリーを妨げない説明のみとし、その他は補足資料にまとめてしまうというわけです。

この章の最後にはCOLUMNがありますが、そこには「本編の資料は10枚まで」というアドバイスがあります。人間がじっと聞いていられる情報量がそのくらいだということです。「資料10枚で説得できないものを、資料20枚で説得できることはない」と著者は言います。

LESSON 2は「言いたいことが伝わるスライドの基本」です。最初の「010」では効率重視の「つぎはぎ資料」にありがちなトラブルについての注意です。コピペでやってしまいがちないろいろな問題について、「最低限の手間はかけよう」と警鐘を鳴らしています。

「011」では「目次スライド」の必要性を説いています。目次スライドがないと、どんな展開なのかが最後までわからず、聞き手が飽きてしまったり、疲れたりしてしまいます。

最初と要所要所に目次スライドが表示されると、今全体のどのあたりかがわかり、安心して内容を理解してもらえます。また、時間がないときは目次から必要なところだけ選んで説明することもできます。この場合、相手にどこを省略したかもわかります。

「012」は「まとめスライド」の必要性です。いきなり終わってしまうとメッセージを忘れやすくなりますが、最後にまとめが入ると、伝えたかったことがダイレクトに伝わります。多忙な相手に対しては、まとめスライド1枚だけを強調することもできます。

「013」は「箇条書きの言葉の長さ」です。長すぎず、短すぎない言葉を選び、箇条書きの文字数を揃えると見栄えが良くなります。最低限の判断材料となる説明だけを付けた適度な長さがベストです。

「014」は「カタカナ用語を多用しない」です。「ボトルネック解消のベストプラクティス」は「問題解決の最善策」としたほうがベターです。見た目の格好良さより平易な言葉づかいの方が読む人が内容に集中できます。

「015」は「スライドタイトルの必要性」です。「サンプル01」とか「提案A」といった区切りでしかないタイトルは読み手を迷わせます。「分析結果の活用例~製造業~」といったスライドの内容がすんなり理解できるようなタイトルを付けましょう。

「016」は「減らす・メリハリ」です。情報が詰め込まれたスライドはひと目で理解しにくく、頭に入ってきません。情報の優先度や上下関係に応じて削除、整理し、文字サイズや色でメリハリを付けましょう。

「017」は「レイアウトの基本」です。「左から右」「上から下」の基本を守って流れを作り、ストーリーが伝わりやすいスライドにします。

「018」は「レイアウトパターン4種」です。
(1)解決策とその方法+メッセージ
(2)従来→これから+メッセージ
(3)並列要素(ビジュアル)+メッセージ
(4)並列要素(テキスト)+メッセージ

「019」は「大事なことは3回繰り返す」です。キーメッセージやキーワードは3回繰り返すことで相手の記憶に残します。表紙、サマリー、まとめスライドの3回提示するのが基本です。この場合、言い回しは変えずにすべて統一します。

「020」は「1スライド1トピック」という資料作りの基本です。1枚のスライドに複数のトピックを入れてしまうと、追加変更があった場合に作り直しになりますが、1スライド1トピックの基本を守っていれば、追加や順番の変更に対応しやすくなります。

この章の最後、「021」では、「完成後に見直すべき2つのチェックポイント」について述べられています。
(1)資料全体のメッセージから各スライドの要素に落とし込まれているか
(2)スライドの要素が資料全体のメッセージに結びついているか

続いてLESSON 3では「グラフとビジュアルの効果的な使い方」が、LESSON 4では「効率よく資料の見た目を整えるテクニック」、LESSON 5では「資料作成のプラスワンテクニック」が展開されていきます。LESSON 5には「資料作成で使える! 便利な素材・ツール」が無料編と有料編に分けて掲載されています。

本稿は文字だけで紹介してきましたが、本書はフルカラー184ページの大型本です。豊富なビジュアルが理解の助けになるでしょう。

なお、本書は本日現在、「キンドルアンリミテッド」になっているので、加入している人は電子書籍版なら無料で読むことができます。「とりあえずさらっと眺めてみたい」という方には、そちらがおすすめです。

「パワポのことなら今さら聞かなくても大丈夫」という人にこそおすすめしたい本です。


 

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