オススメ参考書~読んだら即実践してみよう!

その仕事、生産性ゼロです

山本大平・著/日経BP・刊

1,777円(キンドル版・税込)/1,870円(紙版・税込)

OECDのデータに基づく2021年の日本の時間当たり労働生産性は、先進7か国中最下位で、OECD加盟38か国中27位という悲惨な低さです。アメリカと比べると6割にも及ばず、「仕事をするのが下手くそな国民」というデータになっています。

しかもこの傾向は最近のものではなく、バブル期以前からしばしば問題になってきました。先進7か国中最下位という不名誉な記録は、なんと1970年からずっと続いています。

ここで言われる時間当たり労働生産性とは、仕事で生み出す1時間当たりの付加価値のことです。世界各国が1990年代以降に生産性の数値を高めたのに対して、日本はそれに追随する伸びを記録することができませんでした。

その理由として、日本企業や政府のITに対する消極的なスタンスが挙げられています。主要先進国は1990年代以降、IT投資額を急激に伸ばしていますが、ひとり日本だけが横ばいで、その差は3倍以上になります。

それを如実に示すのが1997年に行われたOECDの調査で、ホワイトカラー100人当たりのパソコン保有台数を比較したものです。日本は24台で、アメリカの5分の1、ドイツの3分の1以下でした。

アメリカの6割の生産性ということは、同じ金額を稼ぐために日本は10人の社員を必要とするところで、アメリカは6人しか必要でないということです。社員数が同じなら、アメリカ企業は日本企業の1.7倍稼ぐことになります。

そんな低い労働生産性は、どうやったら上げることができるのでしょうか。現場で働く人の意識改革で、少しでも改善することができるのでしょうか。その問いに答えるのが本書です。

本書は、処女作の『トヨタの会議は30分』(すばる舎)で10万部のヒットを記録した著者による、生産性を向上させる仕事のやり方指南です。

著者は新卒でトヨタ自動車に入社し、エンジニアとして新型車の開発業務に携わった後、まったく畑違いのTBSに転職。「日曜劇場」「SASUKE」「輝く!日本レコード大賞」などの看板番組のマーケッターとして活躍しました。

そしてアクセンチュアで経営コンサルタントの腕を磨き、2018年に独立。特にAI活用の領域を得意として活躍しています。

著者は「はじめに」でこう語っています。
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あなたが「当たり前」と思って日々やっていることのなかに、実は恐ろしいほどのムダがあふれている、それが今の日本の現状なんです。ちょっと身のまわりに目を向けてみてください。成果を生み出さない定例会議、上司のハンコ待ち、上司が帰るまで部下も帰れない雰囲気、見栄えにこだわった社内資料……こんな生産性ゼロのあれこれに、あなたの大切な時間を奪われていないでしょうか。
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著者はコンサルタントの仕事で多くの企業と付き合いがありますが、その多くがアメリカの企業と比べて生産性が低いと実感していると言います。

ただし、すべての企業が生産性が低いわけではなく、非常にイノベーティブでスマートな生産性の高い会社も存在します。そして例外なくそれらの企業では社員が生き生きして社内に活気があるそうです。

本書は、自社の生産性を上げる方法を説いた経営書ではありません。現場で働くホワイトカラーのために、500人のアンケートをもとに抽出した42の疑問に答えた、Q&A形式のビジネス書です。

では、目次を紹介しましょう。
・はじめに
・第1章 生産性ゼロの仕事を手放してみる
・第2章 生産性を確実に上げる仕事のやり方
・第3章 ストレスは生産性の天敵!賢い人間関係構築法
・第4章 考え込む時間がもったいない!ムダのないアイデア発想法
・第5章 やる気がない…を無くす方法
・おわりに

各章にQ&Aとコラムが配されており、読者は頭から読んでも、適当なQに対するAを拾い読みしてもいいように作られています。以下、気になったQ&Aを見ていくことにしましょう。

Q いる仕事といらない仕事、どうやって見分ければいい?
A 何も生み出せていない仕事は潔く手放そう

生産性を上げたいなら、真っ先にやるべきは、勇気を出して「いらない仕事(ムダな仕事)」を手放すことであると著者は言います。今8時間かかっている仕事を4時間で終わらせるためには、新しい機械を導入するとか、スキルアップをするとか、担当者を増やすといったことが必要になりますが、それにはコストや時間がかかります。

しかし、いらない仕事を手放すのであれば、今すぐできてコストはかかりません。だから、生産性を上げるために簡単で最強の方法であるということです。

では、いる仕事といらない仕事をどうやって見分けるか。それはその仕事にかけている時間やコストなどのリソースと、そこから得られる価値のバランスをチェックすることです。

たとえば出席してもひと言も発する機会のない打ち合わせや、誰も見返さない議事録の作成などは不要な仕事の代表格です。「不要な仕事は生産性ゼロ」と覚えておきましょう。

Q 作業時間を短縮する工夫は?
A 「問題解決の型」を持てば、処理速度を上げることができます

著者によれば、仕事には大きく分けて「問題解決型の仕事」と「クリエイティブ型の仕事」の2種類があるそうです。

クリエイティブ型の代表例として、著者は自分がかつて働いていたTBSの番組制作を挙げています。面白いものが生み出せるまでエンドレスで働き、さらに面白くするためにオンエアの直前まで手を加えるという世界は、労働生産性という指標がそもそもなじみません。

しかし、もうひとつの問題解決型の仕事は、生産性を上げる要素が含まれている可能性が大きいそうです。いらない作業が存在していたり、そこまでていねいにやらなくていいことに時間をつぎ込んでいる場合があるからです。

例として、著者は次の3つを挙げています。
・書類の作成中に「うーん」と考え込んでしばらく手が止まってしまう
・データをひとつ示せば済むところで、手の込んだ資料を作ってしまう
・成果と直結しない不要な情報を大量に集め、その読み込みに長時間かけてしまう

そういうムダを防ぐ手段として「問題解決の型を作れ」と著者は言います。
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やみくもにゼロから考えるのではなく、毎回「型」に当てはめてパターン化して思考することで、効率よく問題の原因を見極め、解決策を導くことができます。
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そのやり方は、次のような流れです。
(1)課題を大ざっぱなものから細かく具体的で問題点が明確に見えるかたちに
(2)解くべき問題をアジェンダ化
(3)問題の要因を環境要因と自己要因に分け、細分化して真因を特定
(4)真因が複数ある場合はランクづけ
(5)真因の対策案を検討しスケジュール化して実行
(6)後日、必要に応じて再検討

この型に沿って思考する癖をつければ、必要のない調査や情報収集に時間を使ったり、思考がストップして手が止まってしまうことを避けられます。その結果、ムダな時間がそぎ落とせるわけです。

Q 移動時間を減らすにはどうしたらいい?
A 1対1での対面仕事はオンラインで! リアルな移動はまとめて

著者が多くの方から相談を受けるのがこの問題だそうです。それに対して著者は「もっとテレワークを活用しましょう」と答えています。ここぞというときだけは対面で、あとはなるべくテレワークでというのが理想とのことです。

テレワークは参加者が3人以上になると仕切りが必要ですが、1対1ならリアルと同じように話し合いが可能です。このとき、必ずカメラをオンにするというのが著者のアドバイスです。

なぜなら、メラビアンの法則が示すように、コミュニケーションにおいて影響を与える割合は、視覚情報が55%、聴覚情報が38%、言語情報が7%だからです。相手がどんな表情で話を聞いているかは、とても重要な情報であるということです。

リアルでの対面が必要な場合は、移動効率を考えて1日にまとめるようにします。A社の訪問が決まったら、近隣のB社やC社も同日に回れるように予定を組みます。さらに沿線のD社にも立ち寄れるといいですね。これで週に何回も外出しなくて済みます。

Q 忙しくて大事なことが後回しになってしまいます
A 緊急度と重要度のかけ算で優先順位を決めよう

1、2日で手早く処理しなくてはならない案件と、数日かけてじっくり取り組むことが必要な重要案件が同時進行するような場合、つい大事なことが後回しになってしまって仕事の精度が下がってしまう。そういう経験は誰にでもあるでしょう。

なぜ大事な仕事が後回しになってしまうかといえば、あなたが仕事の優先順位をつけられないか、優先順位をつけ間違えているからです。

ここで著者は仕事の優先度を決める方法をレクチャーしてくれます。ある仕事の優先度を決めるのは、その仕事の緊急度と重要度を判断軸にして考えればいいそうです。

タテ軸に重要度を、ヨコ軸に緊急度をとれば、仕事は大まかに4つに分類されます。
(1)重要で緊急な仕事
(2)重要だが緊急でない仕事
(3)重要でないが緊急の仕事
(4)重要でも緊急でもない仕事

著者のアドバイスはこうです。
(1)→すぐにやる
(2)→いつやるのか決める
(3)→誰かに任せる
(4)→後でやるか排除する

多くの人は重要度を優先して仕事の順位をつけてしまいますが、著者は緊急度を優先すべきだと言います。時間が優先されるビジネスの世界では、とにかく緊急度の高い仕事から先に片づけるべきだということです。

さらに、日本の職場でよくあるのは、「重要だから緊急」という刷り込みです。本当に急ぎの仕事なのかをよく吟味してから仕事の優先順位をつけなければなりません。

また、誰しも人間ですから体調がいまいちの時もあります。体調不良を押して無理をしてしまうと、結局仕事に穴を開けて誰かに迷惑をかけてしまいます。そのためにも、緊急度が高い仕事ほど余裕を残して先に済ませておく必要があります。

Q スケジュール通りに仕事を進めることができません
A ToDoリストとスケジュールをGoogleカレンダーに集約させる

労力をかけて緻密なスケジュールを組んでも、実際はその通りには進みません。なぜなら、そういう人のスケジュールは空き時間にタスクを全部埋め込んであるからです。

でも実際の仕事では、緊急の案件が持ち込まれたり、体調がすぐれず処理がおくれてしまったりすることがあります。そうなると、きちきちに詰め込まれたスケジュールでは全体がベタ遅れになります。

著者がおすすめするスケジュールの組み方は、「何時何分に何をする」というスケジュールは相手がある予定のみにするということです。ToDoの作業は空き時間にアバウトに入れます。GoogleカレンダーのToDoリストに期限の早い順に書き込んでおくといいでしょう。

42のQ&Aのうち、5つしか紹介できませんでしたが、興味のある人はぜひ本書で残りを確かめてみてください。きっと何かひとつは新しい習慣にできるヒントが見つかるでしょう。


 

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