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頭がいい人、悪い人の健康法

和田秀樹・著/PHP研究所・刊

765円(キンドル版・税込)/990円(紙版・税込)

和田秀樹さんといえば、2022年度No.1ベストセラーの『80歳の壁』を筆頭に、『70歳が老化の分かれ道』『大人のための勉強法』『テレビの大罪』『自分は自分人は人』など多数の著書(「ブクログ」登録数1657)がある精神科医です。

本書の著者肩書に「老年精神科医」とあるように、還暦を過ぎてからは高齢者問題に焦点を当てた著書が目立つようになりました。

本書も健康法の本ですが、サブタイトルにある「ラクして長生き」という言葉でもわかるように、やはり高齢者を読者として意識しているようです。

タイトルの「頭がいい人、悪い人」というのは、世にあふれる世俗的な健康法を無批判で信仰している「頭が悪い人」になるのではなく、何が正しいかを客観的なデータや論考から見つけ出し、自分に適用して生きる「頭がいい人」になろうと読者をリードする意味合いからきています。

では著者はどんな健康法が「頭が悪い」と断じているのでしょうか。その一例が表紙にある「肉は食べる」「小太りでいる」「手術するかは余命しだい」という3つのコピーです。

世間一般の「常識」では、「高齢者になったら(コレステロールを増やさないために)肉は控える」「肥満は万病の元。体重は適正範囲がベスト」「医師が手術を勧めたらそれに従う」となっていました。表紙のコピーはその反対の内容です。

著者の論拠は明快です。コレステロールを増やさない、肥満を防ぐという健康法は、死因のトップが脳と心臓の血管障害である西欧社会の論理であり、がん死が死因のトップである日本にはふさわしくなく、肉を食べる人、小太りの人のほうががんになりにくいというデータを踏まえた生活をするべきとのことです。

手術は余命しだいという考え方も、きわめて論理的です。手術によりがん化した患部を切除するのは、転移がなければ有効な延命措置のように思えますが、体の一部を切除したことにより患者のQOL(生活の質)が大きく下がることを踏まえて手術をするかどうかの判断をするべきだということです。

著者は本書で「頭がいい健康法」を4つの視点から述べています。
(1)日本人の健康法は「がんにならない」を第一に考えるべき
(2)あらゆる判断は「確率」をもとに考えるべき
(3)歳を取ったら「引き算」ではなく「足し算」で健康法を考える
(4)「心の健康」を重視し、テレビをだらだら見る生活を改める

それでは本書の目次を紹介していきましょう。

・はじめに
・プロローグ 医師の肩書より統計データを信じなさい
いまよりプラスの状態を望む高齢者に医師は無力
健康のプロを自任する医師の思い上がり
「脚気=細菌説」に固執した森鴎外
いまでも医学部では栄養学をほとんど教えない
新型コロナに感染しなければ健康なのか
歳をとるほど理屈どおりにはいかなくなる
権威のある医師が陥る「欧米追随」の罪
偉い人が「頭がいい」とはかぎらない

・第1章 頭がいい人は、「がんで死ぬ国の健康法」を考える
いま信じ込まされている健康法の正体
コレステロール値が高い人ほどがんになりにくい
免疫機能がとり逃がしたがん細胞が増殖
欧米の健康法から抜け出せない医師たち
小太りの人がいちばん長生きする
肉食を控えることは死を招く
精神状態が免疫機能に大きく関係している
「がんになったとき」を考えておく
がん手術には病理医のいる病院を選ぶ
がんに対する「免疫療法」について
現時点でのベストな治療を受けるために
がんが見つかったら残りの寿命を考えておく
受動喫煙より怖い排ガス
総合的な知恵が社会に求められている
警察による健康阻害

・第2章 頭がいい人は、常に確率で考える
コロナ禍による不安に駆られた日本
コロナ感染で死ぬ確率、コロナ自粛で要介護になる確率
「コロナは怖い」という印象が強く刷り込まれた
オミクロン株で死ぬ確率は大きく下がった
どんな弱い病気でも人は死ぬ
メリットとデメリットを明確にして判断する
高齢者が死亡事故を起こす確率、免許返納で要介護になる確率
高齢運転者がみんな暴走するわけではない
運転免許の返納問題を確率から考える
確率が低いものにただ怯えているだけでいいのか
国の施策は高齢者をヨボヨボにする
発がん性があるといっても確率しだいで対処が変わる
薬を飲まないと本当に病気になるのか
検査データの「異常」の意味を知っておこう
独り暮らしだからといって孤独とはかぎらない
確率を考えないと頭が固くなる

・第3章 頭がいい人は、「足し算健康法」を心がける
高齢になるほど「足りない害」が大きくなる
「引き算」が前提のメタボ対策からは卒業しよう
「足し算」をするには栄養学が大切
「よい脂肪」と「悪い脂肪」を理解する
食物から摂らなければならない脂肪もある
結核や脳卒中が減少したのは栄養学の成果
糖尿病の人のほうがボケにくい
高齢者はもっと塩分を摂ったほうがいい
「足りない害」によって高齢者の交通事故が起こる
高齢者は意識障害を起こしやすい
不足を補うサプリメント
加齢にともなうホルモンの減少で老化する
男性ホルモン治療はドーピングなのか
コロナ自粛で免疫力が低下したことは想像できる
歳をとるほど筋肉は動かしたほうがいい
メタボ対策からフレイル予防に切り替える
前頭葉を若々しく保つには強い刺激が必要
血糖値が高いほうがアルツハイマー型認知症になりにくい
健康を測る尺度は幸せと思えるかどうか
頭と体を使いつづけると認知症にブレーキがかかる
避けられないけれども遅らせることは可能
料理や会話、歌を楽しむことがボケ防止の手段

・第4章 頭がいい人は、「心の健康」を軽んじない
心の健康は寿命に直結する
認知症より怖い老人性うつ
老人性うつと認知症の違いを見極める
意外に多い高齢者の自殺
メンタルヘルスにはテキトーが大事
笑いの効用は大きい
テレビをダラダラと見つづけない
老人性うつを遠ざける生活術
感情の老化予防のために前頭葉をフル稼働させる
依存することをいとわない
備えあれば憂いなし
重視すべきはプロセスではなく結果
楽に結果が出る健康法を探す
知識の探し方を身につける
「老いの品格」とは何か

・エピローグ 待合室の患者さんが元気な病院はいい病院
高齢者を知らない大学病院の医師たち
医師のかかり方、つきあい方
医師は、自己決定を手助けしてくれる人だと思え
元気でニコニコしている“健人”はみな“賢人”

今回は目次に掲載されている小見出しをすべて載せました。どれかひとつでも引っかかる項目があったら、本書を手に取っていただこうと考えてのことです。どうか目次をじっくり眺めてみてください。

さて、一般的な本には「前書き」や「はじめに」と題した短い文章が掲載されています。多くの場合は目次より前に配置されます。ここには著者の執筆動機や完成までの裏話、内容についての簡単な導入が書かれています。

本書はロジカルな思考による著書を多く世に出している著者らしく、「はじめに」に本の内容のエッセンスが濃縮されています。まずこれを熟読すれば、本書の理解が格段に深まると思える内容です。

以下、「はじめに」から順を負って引用し、本書の該当する部分と照らし合わせながら紹介していくことにします。

まず冒頭でこんな文章があります。
「長年、高齢者医療にかかわっていると、健康というのは、検査データを正常にすることではなく、元気に生きられることなのだと痛感します」

これは、その前に投げかけられている「日本での健康法とは、悪いデータを正常値にすることが多い気がする」という文章を受けてのものです。著者は「データを正常にするのが健康法なのではなく、本人が元気に生きられるようにするのが本当の健康法のはずだ」と言いたいわけです。

そのすぐ後の文章はこうなっています。
「食生活を変えたり、薬を飲んだりして、たとえばコレステロール値が下がっても、かえって活力がなくなったと感じる人は大勢います。じつは、コレステロールは動脈硬化の危険因子とされていますが、高齢者の意欲を保ち、筋肉量を維持するのに必要な男性ホルモンの材料なのです」

要するに著者は、「健康になろうとしてコレステロールを下げると、生きようとする意欲が薄らぎ、筋肉が減って活動的でなくなる恐れがある」と指摘しているわけです。コレステロールはただ下げればよいという物質ではないわけです。

同じような例を著者は挙げています。
「血圧も血糖値も高いときのほうが活力がある、逆に、下げると頭がフラフラするということはざらにあります」

そして驚くべき著者のカミングアウトが続きます。
「かくいう私も、放っておけば最大血圧は200mmHg以上、血糖値は600mg/dl超えという重症の高血圧、糖尿病の患者ですが、正常値まで下げるとフラフラします」

血圧200mmHg、血糖値600mg/dlという数値は、お医者様によっては「すぐ入院です」と宣告されかねない数値ですが、著者(専門は精神科)は自分でそれを管理しているそうです。

「血圧は170mmHgくらい(これは薬は使っているが量を減らすということです)、血糖値は300mg/dlくらい(運動でこの程度に下げていて、それを超えた日だけ薬を飲みます)でコントロールしています。おかげで体調もよく、頭も冴えていて、2022年は60冊も本を出しました」

日ごろ、主治医から血圧や血糖値についてやかましく言われている人からすると、「なんだ、そんなことでいいのか」と思うかもしれませんが、そう思わせるのが著者の思惑でしょう。既存の医学常識に一石を投じ、これまで無意識に従ってきたことに疑いの目を持ってもらうことが著者の目的なのです。読者に「頭が悪い」状態から「頭がいい」状態に変わってもらうためです。

そのことが、次の文章に書かれています。
「そういう意味で、本書は、医師の言うことに縛られず、どうすれば元気でいられるかを長年の高齢者医療の経験からお伝えし、逆に、何が高齢者の元気を奪うかを考える内容になっています」

さらに、著者は問題提起をしています。
「もう一つ、訴えたいのは、死ななければそれでいいのかという問題です。あるテレビ番組を見ていると、司会者もコメンテーターの医師も、日本の新型コロナ対策は成功だったと総括していました。感染者も死者も、欧米より少なかったことが根拠です。(中略)ただ、私が問題にしたいのは、死ななければそれでいいのかということです。日本はご存じのとおり、世界でいちばん長い自粛政策をとりました。若い人はそれでいいかもしれませんが、高齢者の場合、3年間もろくに外に出ず、人との会話や会合が減れば、足腰の機能も認知機能も確実に落ちてしまいます」

著者が言いたいのは、日本のコロナ対策は感染者と死者を大幅に抑え込んだが、その代わりに大量の要介護高齢者を生み出したかもしれないということです。

「私の考える健康というのは、ただ命を伸ばすことより、少しでも要介護になる時期を遅らせることです。ですから、栄養状態や運動などが大切になるのです。『若い人はそれでいいかもしれませんが』と書きましたが、日光を浴びず、家に閉じこもりがちの生活をしていると、若い人でもセロトニンという神経伝達物質が減って、うつ病になるリスクが増します」

そして本書のキモである「日本はがんで死ぬ国」という大前提が顔を出します。
「私が多くの健康法や、日本の医師は『頭が悪い』と考えるのは、日本ががんで死ぬ国だということが忘れられているからです。前述のコレステロールにしても、免疫細胞の材料なので、その値が低いと免疫機能が落ちてしまうとされています。この免疫機能というのは、外からの細菌やウイルスだけでなく、体内でできた、できそこないの細胞をやっつけてくれるのでがんの予防につながります」

つまり、日本人の死亡原因の1位であるがんのリスクを軽視して、ほかの病気の原因を一生懸命に潰しているのが日本の医療だということです。それを称して、著者は「頭が悪い」と言っているわけです。

「コレステロールを下げ、血糖値を下げ、血圧を下げ、体重を落とし、お酒をがまんするなどの健康常識は、すべて心筋梗塞や脳血管障害の予防のためですが、日本では心筋梗塞で死ぬ人の12倍以上が、がんで死んでいます」

今、健康診断や定期検診でうるさく指摘される上記の問題は、欧米で死亡原因のトップまたは上位にある心疾患や脳疾患が念頭にあるわけです。しかし日本ではそれらの病気よりもがん死の確率がずっと高いので、意識を変えなければならないと著者は主張しているのです。

「欧米では心疾患が死因のトップである国がたくさんあるので、その手の健康法は長寿につながるのでしょうが、日本の場合は、がんを予防するためにストレスを減らし、楽しむことが大切です。とくに、高齢者は、NK細胞(ナチュラルキラー細胞=がん細胞などを攻撃するリンパ球)の活性が若い人の4分の1くらいに減っているので、その活性を維持し、できれば高めていくことが重大な問題です」

ではなぜ日本の医師は欧米追随で、日本の国情に合った医療を提案しないのでしょうか。著者はその原因を明治時代から続く欧米追随思想にあると言います。

「日本の医師の『欧米追随』は、いまに始まったことではありません。本書でくわしく書きますが、ドイツ医学を盲信した森林太郎(鴎外)という陸軍のエリート軍医は、脚気が感染症だと信じて陸軍の食事を変えなかったので、日露戦争では約3万人の脚気死者を出しました」

「先進国で唯一、日本でがん死者が増えているのも、日本の医師が欧米の医学を盲信して、心脳血管障害の予防ばかりを患者さんに押しつけ、心の健康や患者さんの幸福感を無視しているからかもしれません」

そして「はじめに」の最後に、著者は医学の限界について語ります。
「最後に申し上げたいのは、高齢化が進み、若い頃より衰えた人が多くなると、健康になるということは、マイナスをなくすことだけではなく、いまよりプラスにもっていく必要があるということです」

医学はマイナスをなくすことはできますが、マイナスをプラスにすることができません。いまより元気になる治療や健康術は、「若返りと同じ」ということで保険医療の対象にはならないからです。

「いまより元気になるためには、栄養や運動を足し、あるいは老化して減ってきたホルモン(とくに男性ホルモンや女性ホルモン)を足す必要があります」

そのためには栄養学の知識が必要になりますが、日本の医学部ではほとんど栄養学を教えていないそうです。日本の医学会が長年、「足し算医療」をないがしろにしてきたからです。

そういう医学の限界を認識し、自分の頭で健康になるということが、本書の言う「頭がいい健康法」です。いまの日本のピンチを救うには、高齢者が元気になり、労働力になり、消費者にいることが必要だと著者は考えています。

いま健康診断で要注意項目が出ている人は、とくに次の小見出しに注目してください。
・コレステロール値が高い人ほどがんになりにくい
・小太りの人がいちばん長生きする
・肉食を控えることは死を招く
・受動喫煙より怖い排ガス
・糖尿病の人のほうがボケにくい
・高齢者はもっと塩分を摂ったほうがいい
・メンタルヘルスにはテキトーが大事

人々が無意識に「正しい」と信じてきた医学知識に一石を投じる、刺激に満ちた健康法ガイドです。


 

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