オススメ参考書~読んだら即実践してみよう!

改訂新版 スーパー・ラーニング書く技術・伝える技術

倉島保美・著/あさ出版・刊

1,881円(キンドル版・税込)/1,980円(紙版・税込)

みなさんは「パラグラフ・リーディング」というものをご存じでしょうか。英語の長文読解に使われる技術で、パラグラフ=段落、リーディング=読解の意味が示すように、長い文章を頭から1文ずつ読んで理解していくのではなく、段落ごとに意味を把握して文章全体を理解する方法です。

英語の論説文は、その組み立て方に厳格なルールがあります。最初の段落に全体の要約があり、最後の段落に結論があること、各段落には一つのアイデアしか含まれず、それぞれの段落の最初の文はその段落を要約したものであることなどです。

そのルールがあるので、パラグラフ・リーディングが成立します。たとえば、最初の段落と最後の段落を読んで、その文章が言いたいことをつかみ、次に各段落の最初の文だけを飛ばし読みして文章の流れを理解します。その上で、重要だと思われる段落から読み込んでいくという方法がよく知られています。

この読み方が成り立つのは、欧米の教育で文章の組み立て方をしっかり教えているからです。残念ながら日本の国語教育では、そのような授業はありません。国語の作文の時間で強調されるのは、思ったこと、感じたことを素直に文章にすることだけで、論理的な文章の書き方を教わるのは、理系などの大学の授業くらいでしょう。

本書の紹介に入る前に長々と前置きを続けたのは、本書の内容が「パラグラフ・リーディングのできる日本語の文章を書こう」というものだからです。パラグラフ・リーディングのできる文章とは、すなわち論理的に組み立てられた文章であり、意味が誤解なく、素早く伝えられる高性能な文章です。

では、本書に入っていきましょう。大扉をめくると、「本書の目的」という四角で囲われた文章があります。
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本書の目的は、「読み手に負担をかけないビジネス文章」を書く能力の習得を手助けすることです。
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「読み手に負担をかけない」という部分が気になると思いますが、それはすぐ次で解説されています。
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ここでいう「読み手に負担をかけない」とは、次の3点を意味します。
●読み手になるべく文章を読ませずに、それでいて必要な情報を伝達できる
●内容を一読で理解してもらえる
●重要な情報を記憶に残せる
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また「ビジネス文章」という表記については、「ビジネスの世界で読み書きされるすべての文章を意味します」と明快に定義しています。

続いて「本書の特徴」として、次のように記しています。
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本書は、「読み手に負担をかけないビジネス文章」を書けるようになるために、次の特徴を有しています。
●文章やパラグラフの構成に焦点を当てている
●なぜそう書くのかという理屈を丁寧に説明している
●書き手が考慮すべきポイントを7つに絞っている
●多くの例文と演習問題を掲載している
●本書の説明そのものが、7つのポイントを守っている
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ここで注目すべきは「文章やパラグラフの構成に焦点を当てている」という部分です。すぐ次で「語句の選択や文の作り方については、重要性を下げています」と書いてあり、文章を作ることにおいて一番のポイントが文章とパラグラフの構成であるとはっきり謳っています。

その理由も明快です。
「なぜなら、要領を得ない、わかりにくい文章は、文章やパラグラフの構成に問題があるからです。語句の選択や文の作り方が悪いからといって、『何を言っているのかわからない』文章になるわけではありません」
ということです。

著者は自信を持ってこう言い切っています。
「文章やパラグラフをわかりやすく構成すれば、文章全体のレベルで、読み手の負担を軽減できます。その効果は絶大です」

そして、本書で学ぶ文章構成やパラグラフ構成は、日常の携帯メールやプレゼンテーションにも応用できるということです。つまり、本書をマスターすれば、わかりやすい文章を自然体で書くことができるようになるわけです。

次に「本書を読んでほしい人」という題で、以下の文章が掲げられています。
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本書は、論理的な文章の書き方を学んだことがある、ないにかかわらず、すべてのビジネスパーソンをターゲットにしています。
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本稿の冒頭で触れたことがここに記されています。
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まず、論理的な文章の書き方を学んだことがない人は、本書でその基礎知識を習得してください。日本では、学校教育で論理的な文章の書き方をほとんど教えてくれません。したがって、ほとんどのビジネスパーソンは、論理的な文章の書き方を知りません。基本を知らなければ書けるはずはありません。
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次に、論理的な文章の書き方を学んだことがある人は、本書でその知識をスキルに発展させてください。論理的な文章の書き方を学んだことがある人から見れば、本書で書かれていることは、特段目新しいことではないかもしれません。何しろ、欧米では学校教育で学ぶ内容ですから。
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しかし、知識とスキルは違います。知っているからといって書けるわけではありません。だからこそ、欧米では1年もかけて学習するのです(「ライティングはアメリカに学べ!」39ページ参照)。
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「本書の構成」という部分では、次の7つのポイントが明記されています。
(1)文章の冒頭には、重要な情報をまとめて(総論を)書いている
(2)詳細はパラグラフを使って書いている
(3)パラグラフの冒頭には要約文を書いている
(4)文頭にはすでに述べた情報を書いている
(5)並列する情報は同じ構成、同じ表現(パラレリズム)で書いている
(6)ひとつの文では、ひとつのポイントだけを書いている
(7)無駄なく、簡潔に書いている

つまり、本書そのものが著者の言う「論理的な文章」の見本になっているわけです。なので、本書は冒頭で紹介した「パラグラフ・リーディング」が可能です。パラグラフの最初の文を読んで、詳しく知る必要がないと思ったら、そのパラグラフは読み飛ばしても大丈夫だということです。

それでは、目次を見ていきましょう。

・本書の目的
・本書の読み方
【基礎編】「書く技術」が身につけば、仕事の効率はもっと上がる!
・基礎1 「読ませない」文章を書こう
・基礎2 文章の良し悪しがビジネスの成否を分ける
・基礎3 「書く技術」は経験では身につかない
・基礎4 文章を構成するには読み手のメンタルモデルに配慮しよう
・基礎5 負担をかける文章とかけない文章、どこに差があるの?

【理論編】「書く技術」が驚くほどアップするビジネス・ライティング7つの法則
・法則1 文章の冒頭には重要な情報をまとめて書く
・法則2 詳細はパラグラフを使って書く
・法則3 パラグラフの冒頭には要約文を書く
・法則4 文頭にはすでに述べた情報を書く
・法則5 並列する情報は同じ構成、同じ表現で書く
・法則6 ひとつの文には、ひとつのポイントだけを書く
・法則7 無駄なく、簡潔に書く

【実践編】パターンと手順を覚えて、実務の文章作りにトライしよう
・実践1 ビジネス文章は、この型を覚えよう
・実践2 ビジネス文章は、この手順で書き上げよう
・実践3 提案書を作ってみよう
・実践4 調査報告書を作ってみよう
・実践5 技術報告書を作ってみよう
・実践6 回答書を作ってみよう
・実践7 作業指示書を作ってみよう
・あとがき
・奥付

基礎編の最初に出てくる「読ませない文章」とはどういうものでしょうか。
著者はこの項目を次のように要約しています。
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ビジネスのための文章では、伝達性と論理性、作業性が求められます。特に伝達性が強く求められるので、読み手に負担をかけない文章を書くことが大事です。そのためには、読み手になるべく文章を読ませず、それでいて必要な情報を伝達できなければなりません。また、内容を一読で理解してもらうことや、重要な情報を記憶に残せることも大事です。
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著者はここで文章には「楽しみのための文章」と「ビジネスのための文章」の2種類があると解説しています。楽しみのための文章とは、小説やエッセイなど、読み手が進んですべてを読む文章のことを指し、ビジネスのための文章とは、情報を伝達し合うために読み手が仕方なく必要な部分だけを読む文章であるといいます。

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ビジネスのための文章は、読み手の誰ひとりとして文章を読みたいとは思っていません。読みたくないのですが、その文賞に書かれている情報が必要なので、仕方なく読むのです。読み手は、できるだけ文章を読むことに労力を使わず、それでいて、必要な情報を入手したいと思っているのです。したがって、読み手は、必要な箇所だけを選んで読むことになります。
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そこで、ビジネス文章の書き手に求められるのは、読み手に負担をかけない文章を書くこととなります。それが「読み手になるべく文章を読ませずに、それでいて必要な情報が伝達できる工夫」となります。

ではどうやったら「なるべく文章を読ませない」ということが可能になるのでしょうか。著者は「あらゆる文章には必要な情報と不要な情報が混在している」といいます。その不要な情報を読み飛ばしてもらう工夫があれば、読み手の負担が減らせるわけです。

次に重要なのは、内容が一読で理解できるような文章を書くということです。忙しい読み手は、文章を1回さっと読んだだけですぐ作業に取りかかるので、何度も読み返してはくれません。したがって、一読で誤解なく意図が伝わる文章を書かなければなりません。

3番目に重要なことは、大事な情報が読み手の記憶に残ることです。そのような描き方のテクニックは確かに存在します。

最後に、管理職のような多忙な読み手は、文章を読み始めて30秒でその文章に対する行動を決めるといいます。そのために、重要な情報が30秒で、一読しただけで伝わるように書く必要があります。

次に「メンタルモデル」という概念が登場します。メンタルモデルとは認知心理学の言葉で、人が頭の中に作る自分なりの理解の世界のことを指しています。

たとえば、「これから説明する結論には3つの理由があります。1つめは…」という書き出しがあれば、読み手は「あと2つの理由が続くのだな」と思いながら文章を読み進めます。それがメンタルモデルのひとつの例です。

理解しやすい文章とは、読み手にメンタルモデルをできるだけ具体的に作らせ、そのモデルを壊さないような展開がなされるもののことです。

予想通りに展開する文章を読むと、読み手は内容をすぐに理解します。それが「一読で理解できる文章」です。メンタルモデルがいったん頭の中に作られると、メンタルモデルに関する情報が活性化して、入力情報が高速に処理されるからです。

逆にメンタルモデルが崩れるような文章に出会うと、読み手は「わかりにくい」と感じて情報の処理が遅くなります。情報がメンタルモデルの予測通りに入力されないからです。メンタルモデルの修正が必要な文章は、一読では理解できず、読み手を混乱させてしまいます。

それらのエッセンスを凝縮してまとめたものが、目次にある「法則1」から「法則7」です。これは欧米の学校で教えている文章の書き方と同じものです。この法則に沿った文章を作れば、パラグラフ・リーディングも可能になりますし、読み手のメンタルモデルを混乱させません。

この法則に沿った文章は、次のような構成になります。
大見出し1
総論
中見出し1-1
総論
小見出し1-1-1
総論
各論
各論
各論
小見出し1-1-2
総論
各論
各論
各論
中見出し1-2
総論
小見出し1-2-1
(以下略)

この構造で書かれた文章には「必要な相手に必要な情報だけを短時間で正しく伝えられる」という効果があります。著者は次の5つの効果を挙げています。
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(1)読み進むべきかを的確に判断できるので、必要な情報だけを読める
(2)メンタルモデルを作ってから読めるので、一読で理解できる
(3)根拠を確認しながら読めるので、一読で理解できる
(4)ポイントが強調できる場所に書いてあるので、重要な情報を記憶できる
(5)話が脇にそれにくくなるので、論理的に構成できる
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たとえば、小見出し1-1-2の総論を読んで、そこが自分のビジネスに直接関係がないと思えば、以下の各論は読み飛ばすことができます。または中見出し1-2の総論を読んで必要ないと思えば、その下の小見出しはすべて読み飛ばせます。こうして、スピーディーに読み手が自分の必要な情報だけを吸収できるということです。

この構造で書かれた文章は、たとえば次のように道を教えるのに似ています。
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市役所でしたら、こっちのほうに歩いて10分ほどです。交差点を4回曲がります。まずこの道を~
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これだと最初に方向と距離感が頭に入り、4回曲がるという説明から以下の細かい説明の位置づけもわかります。

しかし、次のような教え方だとどうでしょう。
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この道をまっすぐ行って、2つめの交差点を右に折れ、最初の信号を左に、次の二股を左に~
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説明が終わるまで全体像が頭の中で描けないため、どの説明も聞き逃すことができず、聞き手は緊張してしまいます。その結果、重要な曲がり角を忘れてしまうかもしれません。論理的でない文章で何かを伝えるのは、これに似ています。

どの見出しの次にも総論があるという構造は、ポイントを強調しながらの伝達になるため、相手に記憶に残りやすいという特徴があります。

そして「総論には主張」「各論には根拠やデータ」というのも重要なルールです。まず主張があり、その主張を裏打ちする根拠やデータが並ぶというのが論理的な文章の構造です。

このほか、本書ではパラグラフを使った各論の組み立て方や、豊富な例文を使ったトレーニングが掲載されています。「駄目な文」の例が新聞記事から多く取られているのも興味深いところです。いかに日本語の世界が論理的でないかの証拠といえます。

伝わる文章を書きたいすべての人におすすめの1冊です。


 

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