アマゾンの商品ページには、出版社が用意したPOPがあります。その中でひときわ目を引くのが「30代・女性」の読者の声です。
***
ちょ、聞いてほしい…この本……
紙質が最高だぞ。
やわらかでしっとり感もありながらサラッスルッとした手触り…
薄めの紙厚なのでしなりが文庫本みたいで読みやすいし
あとエンボス感が……めっちゃ……良い点…
***
本の宣伝にシズル感を使ったものというのは、非常に珍しいと思います。電子書籍にゆっくりとシフトしている現代だからこそ、ひときわ目を引きます。
…ですが、キンドル・アンリミテッドに登録している人は、今のところ無料で読めます。まず電子版で読んでみて、気に入ったらシズル感満点の紙版を購入してみるのもいいかもしれません。
脱線しますが、森林資源の保護など環境問題を考えると、そういう本の買い方が本道になっていくのかもしれません。すでに音楽の世界は配信→パッケージ購入という流れになっていますね。
ここで著者を紹介しておきましょう。著者のいしかわゆきさんは、早稲田大学卒のフリーランスライターです。まったくの未経験からWebメディアの「新R25」編集部で働き、2019年に独立して現在に至ります。本人いわく、「コミュ障」だったそうです。
なぜ著者が本書を書いたのかは、「はじめに」に綴られています。
***
「書く」ことは最高のひとり遊びでもあり、良き相談相手でもあり、口で言わなくても自分の気持ちを相手に届けてくれる最強のツールでもあります。口ではうまく言えないからこそ、自分の書いたものを相手に見せると、「こんなことを考えていたなんて知らなかった」と言ってもらえることもあります。また、自分自身も気づかなかった自分の本音が、書くことで見えてくることもあります。
***
***
つまり「書く」ことは、仕事に繋がることもあれば、新しい自分を発見させてくれたり、すばらしい未来を引き寄せてくれたりもするということ。
***
はじめにおことわりしておきますが、本書は堅苦しい「文章読本」のたぐいではありません。独学で文章を学んだ元コミュ障の著者が、自分の中にある「書くこと」のノウハウをすべてさらけ出したやさしいハウツー本です。
とはいうものの、ふわっとした感性の本というわけでもありません。この後で目次を紹介しますが、かなりしっかりとロジックで構成が立てられています。すばらしいのは、「はじめに」のすぐ次に「お悩み診断チャート」があり、Yes、Noをたどっていくだけで、どの章から読み始めるべきかがガイドされます。これはなかなか親切な仕掛けです。では目次を紹介しましょう。
・はじめに 人生なんて「書く」だけで変わる
・第1章 言葉と仲良くなれば書けるようになる
・第2章 習慣になれば書くのが楽しくなる
・第3章 ネタを見つけられると止まらなくなる
・第4章 ちゃんと伝わると嬉しくなる
・第5章 読まれるともっと好きになる
・第6章 「書く」ことが与えてくれるもの
・おわりに 「書く」ことで変わるもの、変えちゃいけないもの
・「書く習慣」をつくる52のコツまとめ
・「書く習慣」1ヶ月チャレンジ
「お悩み診断チャート」は親切ですが、「おわりに」の後にある「まとめ」と「チャレンジ」はさらに有効です。目次にさらっと目を通してから、「まとめ」を見て読むべきページを探すのもいいかもしれません。
そして「チャレンジ」は、30日分の課題がずらりと並んでいます。すなおにこれに従ってみると、簡単に文章を書く力が増強されるかもしれません。
ではここからは、「まとめ」から本稿の読者に参考になりそうなものを拾っていくことにします。
***
「誰かに見せる」を意識すると着飾った文章になる。誰にも見せない前提で本音を書く練習をしてみよう。
***
まわりの反応を気にして当たり障りのない文章を書くくらいなら、誰にも見られない前提で本音を言葉にするほうが、読む相手の興味を引くということです。
***
「書く」ための言葉にわざわざ変える必要はない。
飾り気のない言葉に「自分らしさ」が滲み出る。
***
著者は「『うわぁ~』と思ったら、『うわぁ~』と書いてしまえ」と言っています。「うわぁ~」にこそ人柄や本音が滲み出ているのだから、変に言い直したらもったいないということです。ありのままの飾らない文章のほうが、絶対に読ませる力があるはずと著者は力説しています。
***
目に入るところに置くことから「習慣化」ははじまる。
書くためのアプリをホーム画面に追加してみよう。
***
目に入る状態にしておくのが習慣化の一歩だそうです。そのために著者は次のようなことをしています。
・スマホのホーム画面にメモアプリを置く
・リビングやベッドサイドに手帳を広げて置いておく
・パソコンのブックマークに「書く」ためのツールを入れる
そして、いつも持ち歩いているスマホで文章を書くことが、習慣化への最大の早道だと著者は言います。実際に本書の半分くらいはスマホで書いたものだそうです。
***
Twitterは「書く」ことの習慣化に最適なツール。
「実況ツイート」で「要約力」を鍛えよう。
***
著者はさまざまなSNSの中で、Twitterが最も「書くことの習慣化」に適していると言います。その理由は、ハードルが低くスピーディにアウトプットできることと、140字の制約があるからだそうです。
そして、その140字の制約を使ったトレーニングで最も効果的なのが、イベントの実況ツイートだということです。これは最初のうちはかなり難しく、イベントの進行についていくのも大変ですが、要約力を鍛えるにはうってつけだといいます。
これができるようになると、自分が感じたことを言葉にするのがうまくなるばかりでなく、情報を過不足なく要約する力が磨かれます。無料でできるトレーニングですが、そのツイートを通じて思わぬ人とつながれるという余録もあります。
***
本や漫画、映画などの感想をツイートすると、
自分の感情を言葉にする練習になる。
***
Twitterによる文章トレーニングの二つ目は、感想ツイートです。自分の中から出てきた言葉や感情を140字にまとめることで、読み手の心に響く文章が作れるようになります。
ビジネス書や実用書は箇条書きで、ストーリーものは140字目一杯を使って書くことを著者は勧めています。
***
好きなものについて書いた文章は、
熱量が高くなり、読者にも伝わりやすい。
***
著者は「ネタに詰まったら、とにかく好きなものについて書け」と言います。好きなものについて書くことは、どんな文章テクニックをも凌駕する最強のコンテンツだと断言しています。
現在、ネットで情報を得て何かを購入している人は、仲のいい友人か、好感を持っている芸能人か、あるいは自分に影響力のある誰かが推薦していたから選んだというケースが多いはずです。つまりそれは、誰かの「好き!」が熱量となって伝わってきたということです。
であれば、自分も「好き!」を発信しましょう。「好きなものがない」という人は、とりあえず心に余白を持つようにするといいと著者はアドバイスしています。
***
自分のなかから無理に言葉を探すのではなく、
外に目を向けてみよう。
***
誰しも「今日は書きたくないな」という日があると思います。そんなときはインプットが足りてないのかもしれないと著者は指摘しています。積極的に外部の刺激を求めるようにすると、ネタがたちまち湧いてくるそうです。
ただし、刺激を受けたらただちにメモしなければいけません。覚えているからいいだろうと思っていると、みごとに全部忘れていたりします。
***
読書は「書きかた」を学ぶ一番の近道。
心に残った箇所に印をつけ、すぐに感想を書こう。
***
著者は「後で売るつもりで本を読んではいけない」と言います。どんどん付箋を貼ったり、ページの角を折ったり、印をつけたりするべきだということです。そして、読み終わったら秒で感想を書くこと。
読書がインプットなら、感想を書くことはアウトプット。そして読書のメインはアウトプットにあると著者は記しています。
まず読み終わった本を精査して印をつけた箇所を見返します。そして最も心に刺さった部分を抜き取り、ノートやパソコン、スマホなどに書き写します。その後に、次のことを本音で書き加えます。
・なぜその部分が心に刺さったのか
・今の自分とどう重なったのか
・これを受けて、今後どうするか
***
「なにもしなかった」と書くと、
「なにかした」ことに気づける。
***
「ネタがない」と思った日は、とりあえず「今日はなにもしなかった」と書き始めてしまおうと著者は提案しています。するとそれを目で見て、「いやまてよ」とポジティブな気持ちが湧いてくるものだそうです。
***
専門的な言葉を多用すると届かなくなってしまう。
「中学生でも知っているか」を基準に書こう。
***
多くの人に確実に伝わるのは、簡単な言葉で書かれた文章であると著者は主張しています。ちょっとかっこいいからと横文字を多用すると、たちまち伝わりにくい文章になってしまいます。とくにビジネス書にその傾向が多いとのことです。
簡単な言葉で文章を書くには、頭を使わなければなりません。読み手に辞書を引かせたり、ググらせる文章は、思っている以上に相手に届かないものだそうです。
***
自分の知識を世間の当たり前だと思わない。
専門用語は使わず、固有名詞には説明を入れて。
***
文章を書くときに心がけなければならないのは、「相手は自分が思っている以上になにも知らない」ということです。そのために著者は次のことに注意をしているそうです。
・専門用語は使わない(とくに横文字)
・固有名詞には必ず説明を入れる
著者はこう言っています。
「狭い世界から一歩外に出れば力を失ってしまう言葉は、広く届けたい文章には必要ありません。文章を書きおえたあと、専門用語を無意識に使っていないか、チェックしてみてください。読者は自分のファンでも友だちでもありません。たまたまネットに落ちていた文章を拾って読む、まったくの他人であるのが大前提です」
まだまだ「書く」ことのヒントは続きますが、もっと知りたい人はぜひ本書でご確認ください。「書く」ことに少しでも苦手意識があるなら、読んで損のない本です。