『地球の歩き方』は1979年創刊の旅行ガイドブックシリーズです。世界各地を1冊ごとに紹介するシリーズで、総タイトル数は100以上。それまでの旅行ガイドが観光スポットの案内を中心にしていたのに対して、個人旅行者をターゲットに現地での移動や滞在をガイドするものとして人気を博しました。
長らくダイヤモンド・ビッグ社発行、ダイヤモンド社発売という形でしたが、2021年1月より学研グループに事業譲渡され、地球の歩き方発行、学研プラス発売というスタイルに変わりました。コロナ禍で旅行者が激減したことが背景にあるといわれています。
『ムー』は同じく1979年創刊の月刊オカルト情報誌です。「世界の謎と不思議に挑戦するスーパーミステリーマガジン」というキャッチコピーで定期刊行される唯一のオカルト情報誌として、熱狂的なファンの支持を集めています。
こちらは創刊以来学習研究社(現学研ホールディングス)の発行でしたが、学研のグループ再編に伴い、学研パブリッシング、学研プラス、ワン・パブリッシングと発行元が変わっています。
この「同い年」ではあるものの、共通点がそれしかない刊行物が「本気で」コラボレーションしたのが本書です。片やガチガチの実用書、片や実用性0%の趣味書であり、読者層もほとんど重なっていない両者がなぜコラボレーションしようと思い至ったのか、その答えは電子版限定の地球の歩き方・宮田×月刊ムー三上の編集長激突対談にありました。
やはり大方の予想通り、『地球の歩き方』が学研グループに入ったことがきっかけで、双方のトップが「コラボで何かできないか」と考えたところから始まった企画のようです。
地球の歩き方がその前に出した『世界197ヵ国のふしぎな聖地&パワースポット』でお互いの編集部が交流を持ったことも背景にありました。
『デジタル大辞泉』によると、「コラボレーション」とは、異なる分野の人や団体が協力して制作することだそうです。この言葉がカタカナ語としてよく目に触れるようになったのは比較的新しく、今世紀に入ってからのことです。それまでは芸術分野で使われる専門用語的なものでした。
現在の「コラボレーション」に期待されるニュアンスは、「意外な組み合わせ」によって「1+1=3以上」といった付加価値が創出されることです。同時に、その組み合わせが意外性を持つほど、ニュースバリューも高くなるので話題を呼びます。
実際にこの『地球の歩き方 ムー』は発売が発表されてからさまざまなメディアで紹介され、たちまち予約が殺到しました。現在までに重版を重ねて累計12万部というヒットを記録しているようです。
通例ですと、このあたりで本書の目次を紹介するのですが、何しろ400ページを超える厚い本である上に、章立てとかが特になく、目次をずらっと並べただけで本コラムの規定分量をオーバーしてしまいます。そのために目次の紹介は割愛させていただき、目に留まったコーナーを順にご紹介することにします。
まず目を引くのは、折り込みページです。
・地球の歩き方不思議スポットMAP 古代遺跡からパワースポットまで
・ムー 世界ミステリーMAP 幻の大陸からUFOスポットまで
・地球の歩き方×ムー 超古代から未来予想まで 世界歴史年表
「不思議スポットMAP」では、世界中の古代遺跡とパワースポットが世界地図に網羅されています。ぱっと見てわかるのが、中南米、中東、北アフリカにスポットが集中していることです。
「世界ミステリーMAP」には、世界地図にレムリア大陸、ムー大陸、アトランティス大陸が重ねて描かれています。ムー大陸がイースター島から日本のすぐ近くまで、太平洋をほとんど占める大きさで描かれているのは圧巻ですし、レムリア大陸が東南アジアからアフリカ東海岸までを覆っていたということも初めて知りました。
両編集部の共同作業による「世界歴史年表」では、紀元前45万年から歴史が始まっています。紀元前20万年にはレムリア文明が存在し、紀元前1万年にアトランティス大陸とムー大陸が同時に海没しています。
「年表」の2020年より先は「ムー」の記述で、「2025年グレートリセット」「2036年ジョン・タイター時間旅行」「2043年『ヨハネ黙示録』の『終末』が始まる」などと記載されています。
ページをめくると「地球の歩き方&ムー 新着情報」という3ページのコラムがあります。トピックスはこんな感じです。
・「創世記」の町ソドムは隕石の空中爆発で滅びた?
・ビッグフットの映像が公開される
・ネブラ・ディスクとストーンヘンジが大英博物館でコラボ
・火星でヘリコプターがホバリング
・アメリカ海軍情報局、新たにUFO映像を公認
・大エジプト博物館いよいよOPENか
ここから先は「ムー」と「地球の歩き方」それぞれが同じテーマで記事を編集するページが続きます。最初はイースター島のモアイ像です。
「地球の歩き方」での紹介はこんな感じです。
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イースター島で見られる謎の巨石人型建造物モアイ。島内には大小さまざまな1000体ものモアイ像が立っており、ここでしか見られない神秘的な光景を作り出している。驚くべきはイースター島が、最も近い有人の島まで約2000kmも離れたまさに絶海の孤島であり、日本の小豆島とほぼ同じ面積の小島であるということ。交流も人口も限られたなかで、大きなものでは全長20mを超え、重さは160トンもあるモアイを建造、運搬していたという事実が、この建造物の神秘性をさらに高めている。
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それが「ムー」の紹介ではこんなふうになります。
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1万2000年前の超古代文明の技術で建築? イースター島のモアイ像はムー大陸の遺産なのか!
絶海の孤島に立ち並ぶ巨像モアイ。その数はなんと1000体を超える。1722年の復活祭(イースター)にこの島を「発見」したオランダ提督ヤーコブ・ロッフェーロンは、島を囲んだ要塞の城壁上に、巨人たちがいると信じたという。だが、こうした巨石文明は絶海の孤島に、どうやってもたらされたのだろうか。実はイースター島には、偉大なる神であり知識の啓蒙者でもあるマケマケの伝説がある。マケマケは、海の底に沈んだモトウ・マリオ・ヒワという島の国王だったというのだ。もしかすると彼の故郷とは、大海に沈んだあのムー大陸だったのかもしれない。
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次のテーマはギザのピラミッドです。まずは「地球の歩き方」の記述から。
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カイロ郊外、ナイル川西岸に築かれたギザの3大ピラミッドは、古代世界の7不思議のひとつで、現存する唯一のもの。エジプト第4王朝(紀元前2575年~前2465年)のクフ王、カフラー王、メンカウラー王によって築かれた。建設方法は解明されていないが、周辺エリアには、3大ピラミッドに先行して築かれた階段ピラミッド、屈折ピラミッドなどが建っており、ピラミッド建設の試行錯誤、発展の過程を見ることができる。
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続いて「ムー」の記述です。
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超古代文明を終演に導いたのは、核戦争だった。ピラミッドに残る謎の空間はシェルターか軍事基地か
ギザの大ピラミッドには、いくつもの謎がある。なかでも最大の謎は建造年代だ。ギザの3大ピラミッドが天空に輝く3つ星を模して造られたという説「オリオン・ミステリー」に従えば、建造年代はなんと1万2500年前に遡るというのだ。奇しくもこの時代、あのアトランティスが滅亡している。ならば大陸を沈め、文明を滅ぼすほどの大変動をもたらしたものとはいったい何なのか。おそらくは進みすぎた文明がたどり着く過ち、地球規模の核戦争だったのだろう。そのとき大ピラミッドは、沈みゆく大陸から逃れた人々の「シェルター」として使用されたのかもしれない。
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その次に出てくるテーマは、おなじみのナスカの地上絵です。「地球の歩き方」ではこう紹介されています。
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紀元前後から800年頃にかけて描かれた巨大な地上絵。地表にある小石を取り除き、地肌を露出させることで描かれている。題材は動物や草木、直線や幾何学模様など実にさまざま。ハチドリは全長約97m、コンドルは全長約136mあり、古代文明が残した芸術作品のなかでも桁外れに大きい。地上からは全体像が把握することができず、制作された目的、理由についても多様な説が出されているが、判明していない。
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それが「ムー」ではこうなります。
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異星人がもたらした高度技術。地上絵が伝える宇宙へのメッセージとは!
ナスカの大地に刻まれた巨大な地上絵。空中からしか全体像を確認することができないこの絵は、誰のために描かれたのか。おそらく、天空から来る者へのメッセージに違いない。南アメリカの先住民の間には「ビラコチャ」と呼ばれる天空神伝説が残されている。彼らが築いた国「ハイチチ」は、「空への道」を手にしていたというのだ。もしもナスカの地上絵がその「空への道」だったとしたら、宇宙(天空)から訪れる異星人たちへの目印、灯台の役目をはたしていた可能性が高いだろう。実際、ナスカの遺跡からは、異星人としか思えない異形のミイラも発見されている。
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本書の中盤には、全部読むのに何日かかるかと思われる重厚な記事がぎっしりと詰まっています。少なくともこれ1冊あれば1、2週間くらいの旅行で退屈することはないでしょう。
後半の「失われた大陸」というコーナーでは、「ムー」の真骨頂が出てきます。こんな感じです。
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太平洋中心部に位置し、東西8000km、南北5000kmという巨大な大陸だったムー。そこには大神官ラ・ムーが統治する7つの都市があり、6400万人が暮らしていた。気候は温暖で食糧も豊富。独特の万字印をシンボルとし、7つの頭を持つ蛇神ナラヤナを崇めていた。その優れた航海術で、環太平洋地域から中国、東南アジアまで広く交易を行い、インド、エジプト、アメリカ大陸を植民地としていた。彼らがそこに残した文化はのちに、インド文明、エジプト文明、マヤ文明、インカ文明として発展していくことになる。だが、約1万2000年前に巨大地震、巨大火山の噴火に続き、巨大な津波が発生。ムー大陸は一夜にして海底に沈んでしまった。
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巻末に近づくにつれて、ガイドブックらしく実用ページが続きます。「不思議世界をスムーズに旅する」というコーナーでは、「旅のプランニング」「情報収集とお役立ちアプリ」「予算とお金」「服装と持ち物」「通信事情」「宿泊」「交通」「旅の食事」などが見開き2ページずつで解説されていきます。
その後に続くのが、なぜか「旅で使えるエスペラント会話」のページ。どこで使えるのか、いまひとつ納得できませんが、シチュエーション別の会話がカタカナつきでたくさん載っています。
そして「不思議グッズをおみやげに!」では、4ページにわたって「どこで集めたの?」と聞きたくなるような妙な物体がずらり。世の中には不思議なものもあるんだなあ、と感嘆してください。
そして保存版として参考になるのが、「映画&書籍セレクション」。8ページにわたって不思議世界を描いた映画と書籍が紹介されています。必見です。
この手の本では必須となる「索引」も充実しています。気になるテーマがあるなら、目次よりもこちらを先に見たほうがいいかもしれません。
ということで、まったく実用性はありませんが、好奇心を刺激するにはもってこいの1冊です。