本書は2019年の刊行ですが、売れ行きが好調だったらしく、本年9月に続編が刊行されています。本書をお読みになって「参考になった」と思われた方は、続編のほうもご覧になってみてください。
内容に入る前に、監修者と著者である船井総研グループについて触れておきましょう。以下、Wikipediaの記事を引用します。
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株式会社船井総合研究所は、大阪府大阪市中央区に本社をおく日本の経営コンサルティング会社。日本マネジメント協会に勤務していた船井幸雄が、コンサルティングの仕事を通じて「組織体の経営はトップ1人で99.9パーセント決まる」、「トップが『素直』『勉強好き』『プラス発想』の3条件を満たしていないと会社が発展しない」と考えるようになり、マネジメント協会と意見が合わず退社。1970年に「株式会社日本マーケティングセンター」を設立(後に社名変更)。地域で一番規模の大きな店を目指す「地域一番店戦略」を唱え、中小企業の経営者の支持を集めた。2005年に東証一部に上場。2014年7月に持株会社体制に移行した。
なお、大東市にある家電メーカー「船井電機」とは無関係。
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つまり船井総研グループは、中小企業を対象にしているコンサルティング会社であるということです。それを裏付けるように、本書の「はじめに」には、こうあります。
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日本の中小企業の経営者がこれからの時代、どのような経営を目指すべきか。このような時代に元気な経営を推進している企業にはどのような特徴と戦略、ビジネスモデルがあるのか、これらを解説する書籍の出版企画に参加させていただくことになりました。そこで船井財団が毎年開催しているグレートカンパニーアワードの歴代受賞企業の中から数社をセレクトしました。それら優秀企業の取り組みと成功事例をご紹介しながら、優秀企業創りに必要な視点と中小企業のビジネスモデルの作り方の解説に重点を置き、読者の皆様の企業経営にお役立ていただけるように構成しています。
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つまり本書は、船井総研が毎年開催している「グレートカンパニーアワード」の受賞企業の中から、とりわけ優れたビジネスモデルを有する企業8社を選んで掲載しているものということになります。
その「グレートカンパニーアワード」ですが、船井総研による定義は次のようになっています。
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グレートカンパニーとは、社会的価値の高い「理念」のもと、その「企業らしさ」を感じさせる独特のビジネスモデルを磨き上げ、その結果、持続的成長を続ける会社のことです。そして、社員も顧客も誇りを持つような独特のカルチャーが形成されている企業を、グレートカンパニーと定義します。
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さらに、グレートカンパニーには次の5つの要件が求められるといいます。
1.持続的成長企業であること
2.熱狂的ファンを持つ、ロイヤルティの高い企業であること
3.社員と、その家族が誇れる、社員満足の高い企業であること
4.自社らしさを大切にしていると思われる、個性的な企業であること
5.地域や社会からなくてはならないと思われている、社会的貢献企業であること
ちなみに、「グレートカンパニーアワード2023」の受賞企業は、次の7社です。
・グレートカンパニー大賞 城南信用金庫
・顧客感動賞 株式会社biima
・働く社員が誇りを感じる会社賞 社会福祉法人風の森
・ユニークビジネスモデル賞 株式会社サテライトオフィス
・社会貢献賞 かすもり・おしむら歯科 口腔機能クリニック
・社会貢献賞 株式会社いちごの里ファーム
・業績アップ賞 株式会社ニッソウ
ところで、私達が日常、当たり前のように使っている「ビジネスモデル」という言葉ですが、20世紀終盤から有名になった概念です。そのため『デジタル大辞泉』には「企業が行う事業の仕組みや方法」と、そっけない解説があるだけです。
そのあたりは、話題のChat-GPTに解説してもらったほうがいいでしょう。
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ビジネスモデルとは、企業がどのように収益を上げるかを示す仕組みのことです。ビジネスモデルは、企業がどのように顧客ニーズを満たし、市場の変化に適応するかを考える上で重要な役割を果たします。すでに確立したビジネスモデルには、広告モデル、販売モデル、小売モデル、サブスクリプションモデル、レンタルモデル、従量課金型モデル、フリーミアムモデル、ライセンスモデル、マッチングモデル、コレクションモデルなどがあります。例えば、広告モデルでは、FacebookやGoogleが代表的な例です。
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さらにChat-GPTは、ビジネスモデル選択の要素を次のように挙げています。
・市場のニーズ:顧客が求める価値とニーズにマッチしたモデルを選択
・競合状況:競合他社との差別化ポイントを明確にし、競争力を高める
・収益構造:あなたのビジネスはどのように収益を得るのか?
・キーリソース:価値提案を提供し、収益を得るために必要な資源やアクティビティは何か?
そして、競合他社との差別化についてはこのように指摘しています。
・価格:競合他社よりも安い価格を設定する
・品質:競合他社よりも高品質な商品やサービスを提供する
・デザイン:競合他社とは異なるデザインを採用する
・カスタマーサポート:競合他社よりも優れたカスタマーサポートを提供する
・ブランド:競合他社とは異なるブランドイメージを作り上げる
・機能:競合他社にはない機能を提供する
・サービス:競合他社にはないサービスを提供する
・マーケティング:競合他社とは異なるマーケティング戦略を採用する
と、本書を理解するうえでの基礎知識が整ったところで、目次を紹介しましょう。
・はじめに
・本書の構成
・プロローグ 50年間の成長企業研究、グレートカンパニー研究からわかった優秀企業の条件
・第1章 オーレンスグループ(北海道)
・第2章 インフォマート(東京都)
・第3章 白ハト食品工業(大阪府)
・第4章 温泉道場(埼玉県)
・第5章 富士運輸(奈良県)
・第6章 パイオニア工進(京都府)
・第7章 医療法人くすのき会 新門整形外科・新門リハビリテーションクリニック(鹿児島県)
・第8章 ジョンソンホームズ(北海道)
・本書のまとめ
・執筆者紹介
最初に登場する北海道のオーレンスグループは、2016年にグレートカンパニー大賞を受賞した農業経営・財務のコンサルティング会社です。農業分野の税務申告代行に特化した業務内容で、この分野で圧倒的なナンバーワン企業となっています。
創業は1989年で資本金は4,000万円。グループ全体の従業員数は134名。本社所在地は北海道標津郡中標津町です。
同社の特徴は、農家の経営支援の一環として、インターネットが普及する前から、自社でアンテナを建て、インターネットプロバイダーとして農家の通信インフラを支えてきたことにあります。
船井総研の調査では、同社の社員満足度は75.8%とグレートカンパニーの平均を上回り、その数字は10年間平均の退職者数が4%未満であるところにも現れています。顧客にとって「なくてはならない存在」であり、離脱顧客がほとんどないという安定性の高さも同社の強みです。
2番目のインフォマートは2018年のグレートカンパニー大賞受賞会社です。IT化の遅れが目立つフード業界を対象に、企業間の商取引を電子化するクラウド型サービスを提供し、利用企業数30万社、流通金額8兆円を超える企業に成長しています。
同社の強みは、サービス価格の安さと使い勝手の良さにあります。そのため、導入した企業が取引先にも導入を勧めるケースが多く、それが利用企業数の増加に繋がっています。
本社所在地は東京都港区、創業は1998年、資本金32億1,251万円、従業員数452名というのが現状ですが、創業のきっかけは「まだ誰も手掛けていないことで世の中の役に立ち、必要とされ、喜んでもらえるビジネスをつくりたい」というところにあったそうです。
3番目の白ハト食品工業は、「冷凍大学イモ」で国内販売シェア80%を誇る食品会社です。単品を追求して高められた技術力と、「ダサい」を「かっこいい」に変えるプロモーション力で成長を果たしてきました。
業務内容はさつまいもの洋・和菓子の製造販売、たこ創作料理・たこ焼き・明石焼き専門店の運営で、本社所在地は大阪府守口市。創業は1947年で資本金4,500万円。グループ従業員総数は1,039名となっています。
同社の経営理念は「芝居浄瑠璃いもたこなんきんを通してお客様の小さな幸せに何度も何度も役立ち続けていきたい」というもの。「芝居浄瑠璃いもたこなんきん」とは、江戸時代の川柳に出てくる言葉で、当時の女性の好きな「芝居」「浄瑠璃」「いも」「たこ」「なんきん(かぼちゃ)」を並べたものです。
その言葉の通り、同社は「いも」「たこ」を使った食品群を中心に据え、現在はそこから発展して農業への展開を始めています。
4番目に登場するのは、日帰り温泉ファンなら知らない者のない温浴施設運営会社の「温泉道場」です。同社は2018年のグレートカンパニーアワードにおいてユニークビジネスモデル賞を受賞しています。
この会社は私もファンなのでよく知っているのですが、利が薄く設備投資が重いといわれる温浴業界にあって、若い顧客に焦点を当てた経営方針が脚光を浴びています。共用部分に大きな投資をして、お風呂だけでなく1日中リラックスして過ごせる空間を提供したことが話題になりました。
温泉道場の理念は「おふろから文化を発信する」です。これを具現化したのが最初に手がけた「昭和レトロな温泉銭湯 玉川温泉」でした。埼玉県ときがわ町という、マイナーな場所に昭和レトロをコンセプトにした日帰り温泉を開業し、その後はお風呂とカフェを融合した「おふろカフェ」を次々にオープンして人気を博しました。
5番目の企業は、大型トラックの長距離輸送というレッドオーシャンに見える業界で、さまざまな工夫により効率化を図った結果、グループのトラック保有台数1,500台、全国60拠点という近畿最大の運送会社に成長した富士運輸です。
最新の大型トラックを早期売却を前提として一括購入することで原価を抑え、さまざまな工夫で輸送コストを抑えるとともに、IT管理によって空車率を激減させた結果、グレートカンパニーアワード2015でユニークビジネスモデル賞を受賞しました。
運送業界では大型・長距離は敬遠されがちでしたが、そこに敢えて特化することでニッチ分野のナンバーワン企業となり、輸送ビジネスの新たな可能性を切り拓きました。
そして拠点を増やし、GPSを装備したトラックの空車状況を公開することで、空車率を劇的に低減。トラックを価値のあるうちに売却する早期売却サイクルを確立することで、収益の安定も図れています。
現在、同社の資本金は3,000万円、グループ従業員数は1,800名です。
6番目の企業は、2015年のグレートカンパニーアワードで顧客感動賞を受賞した工進です。農業用ポンプ、噴霧器の製造販売会社ですが、国内70%、海外160か国で30%のシェアを獲得しています。
同社の強みは「顧客起点」の理念をベースにユーザーの声を反映した新製品を開発していること。新製品が新たなマーケットを生み出すことで、成長が持続しています。
同社の創業は1948年。本社所在地は京都府長岡京市で、資本金は9,800万円。従業員数は190名です。
業界大手がテレビコマーシャルで農機具を売り込んでいるのに対して、同社の販促は「チラシ」のみ。チラシで顧客に製品を告知し、販売店で実物に触れてもらう戦略で売上を伸ばしてきました。
7番目に登場するのは、人口10万人の鹿児島県薩摩川内市で、開業以来20年以上も増収を継続している医療法人くすのき会 新門整形外科・新門リハビリテーションクリニックです。外来から術後のリハビリテーションまで、整形外科領域のほぼすべてを網羅する態勢で、実績を伸ばしてきました。2017年のグレートカンパニーアワードでユニークビジネスモデル賞を受賞しています。
最新鋭の医療機器を導入するほか、人材難にある地方でもスタッフをゼロから育て、大学病院レベルの診療を実現しています。開業時は1人医師体制でしたが、現在は総勢160名を擁する医療機関に成長しています。
同クリニックの成功のポイントは、地域医療機関であっても「ワンストップ」を実現したこと。患者に移動の負担をかけないことが、大学病院レベルの診療とあわせて人気を呼びました。
最後に登場するのは、グレートカンパニーアワード2015でグレートカンパニー大賞を受賞したハウスメーカー、ジョンソンホームズです。独自の手法で購入時の顧客の不安を払拭し、建てた後の暮らしを重視して事業を展開していることが人気を呼んでいます。
同社の施策は、次の通りです。
・定額制注文住宅の導入
・住宅展示場以外での住宅販売を実施
・「ジョンソンレディ」を引き渡し後3か月に1回派遣
・ワークショップ運営や各種イベントを開催
その結果、縮小傾向にある市場にあって、顧客と従業員の支持を得た経営が可能になっています。
ここまでの例を見てわかることは、本書に収録された企業の業種や所在地がバラバラであることです。そのため読者がどんな業種や立地の人でも、何かヒントを掴める可能性が高くなっています。
最後の「まとめ」では、「これからの時代を生き抜く優秀ビジネスモデルの条件」が掲載されています。
・「グレート」と称される企業づくりを目指す
・「5つの視点」は高収益化を目指すための基礎的要素
※5つの視点とは「財務評価」「ビジネスモデル評価」「社会性評価」「顧客満足度評価」「組織力評価」
・より狭属性マーケットで突き抜けた一番化を実現
・収益性
・持続的成長性
・人材吸引力
「わが社のビジネスモデルをもっと磨きたい」と思ったら、ぜひ手に取ってほしい1冊です。