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妻の実家のとうふ店を400億円企業にした元営業マンの話

山中浩之・著/日経BP・刊

1,683円(キンドル版・税込)/1,870円(紙版・税込)

まず「あとがき」を引用します。
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普通の人が経営する、普通の人が集まった組織は、「わからないこと、突っ込みどころがあってはならない」という気持ちから、なんでも数字で、理屈で、管理しようとする。これは立派なことではあるが、仕事の進め方から社内の階層や権限、人事まで、仕組みが複雑になりがちで、誰からも突っ込まれないように仕事をするだけでクタクタになってしまう。
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上記は、著者である日経BP社の編集記者・山中浩之氏が、本書の主人公である相模屋食料社長の鳥越淳司氏への長いインタビューを終えて、「なぜ我々はやりたいことより数字に縛られる組織をつくって、自らそれに甘んじているのだろう」という疑問を持った時に得た答えです。

著者はこう言います。「数字という客観評価は興味・関心が低い人にも伝わりやすいが、内部でのコミュニケーションや評価には、もっと主観的な軸があってもいいのではなかろうか」

つまり著者は、鳥越社長とのインタビューで、「会社を伸ばすには、数値目標よりも『やりたいこと』を目標にしたほうが効果がある」ということを確信したわけです。したがって、本書もそれが芯になっています。

前置きはこのくらいにして、本書の背景を説明することから始めましょう。

皆さんは「ザクとうふ」という商品名に聞き覚えはないでしょうか。2012年3月に登場するや、スーパーの豆腐売場に男性客が殺到するというニュースになったヒット商品です。

それは何かというと、あの「機動戦士ガンダム」に登場する最も有名な敵側の汎用モビルスーツである「ザク」を模した豆腐だったのですが、なんと2か月強で100万個を超える大ヒットとなり、さまざまなメディアに取り上げられました。

その「ザクとうふ」を発売したのは相模屋食料という業界トップの豆腐メーカーでしたが、その後2020年には「百式とうふ」を発売して、またも男性客を豆腐売場へ集めました。「百式」は「機動戦士ガンダム」の続編である「機動戦士Z(ゼータ)ガンダム」に登場する反地球連邦組織エウーゴの試作モビルスーツです

それらの仕掛け人となったのが、本書の主人公である相模屋食料の鳥越社長です。本書は著者と鳥越社長との対話に基づいて制作されています。

鳥越社長はもともと雪印の営業マンでした。ところが営業活動の中で知り合った女性と結婚したことで運命が大きく変わります。彼女の実家が豆腐メーカーの相模屋食料だったからです。

鳥越社長のその後の活躍は、本書の「はじめに」に載っている図表で一目瞭然です。
2002年     鳥越淳司氏、相模屋食料入社
2004年     専務就任
2005年     第3工場稼働
2007年     社長就任 第3工場増築
2008年     豆腐メーカー最大手になる
2009年     芳賀工場(揚げ製品)稼働 第1工場全面改装
2011年     芳賀工場B棟稼働
2012年     「ザクとうふ」発売 デイリートップ東日本(神奈川)グループ化
2014年     秀水(栃木)、群糧(群馬)グループ化
2016年     赤城工場、神戸工場稼働
2017年     石川サニーフーズ(石川)、日本ビーンズ(群馬)グループ化
2018年     匠屋(兵庫)設立
2019年     京都タンパク(京都)、丸山食品(福岡)グループ化
2022年     もぎ食品(埼玉)グループ化
2023年     ギトー食品(岐阜)、日の出(千葉)、丸福食品(大阪)グループ化

この21年の間に、相模屋食料の年商は約20億円から400億円を視野に入れるまでに伸びています。日本経済が「失われた○○年」と呼ばれて停滞していた時期に、20倍近い発展を遂げているわけです。

しかも、年表を見れば明らかなように、同社は「ザクとうふ」の大ヒットで一躍日本一を果たしたわけではありません。「ザクとうふ」を出す前から、すでに日本一を達成していたのですから。

それよりもこの年表から読み取れるのは、社長就任以来の積極的な設備投資と、継続的なM&Aです。それらが急成長の背景となっているのは明らかですが、もちろんそれだけではありません。

ご存じのように、豆腐や厚揚げなどの豆腐製品は、単価が100円前後の商品です。それらを売って400億円の売上を達成するには、日本国民がひとり何個も同社の製品を買ってくれなければなりません。

そのためには、人気商品を続々と生み出し、ヒット商品、ロングセラー商品を作り続ける必要があります。

そう思って同社の製品ラインナップを見てみると、次のような奇抜なネーミングの商品が並んでいます。
・おだしがしみたきざみあげ
・VEGAN TOFU NOODLE
・たんぱく質のとれるとうふにゅうめん
・とうふ麺:冷麺
・とうふグラタン
・とうふスープ
・おつまみやっこ
・はんなり湯葉おぼろ
・ひとり鍋
・焼いておいしい絹厚揚げ
・煮込んでおいしい絹厚揚げ
・うにのようなビヨンドとうふ

現在のラインナップに「ザクとうふ」「百式とうふ」はありませんが、同社ホームページにはそれらの商品が果たした功績を次のように示しています。
「初めて30~40代男性がおとうふ売場に殺到」
「初めて何もつけずにそのままおとうふを味わう」
「初めて1丁をひとりでまるごと食べる」

つまり「ザクとうふ」「百式とうふ」は単なる話題作り、売上の起爆剤ではなく、豆腐への関心が薄かった人たちに注目してもらう「切り込み隊長」の役であったというわけです。

これらを紹介した「はじめに」の結びには、次のように書かれています。
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本書では、一介の(失礼)営業マンが、沈滞する業界の中で相模屋を日本最大の豆腐メーカーに成長させることができた理由を、ご本人である鳥越社長との対話を通して探っていく。(中略)「そんなバカな」と思われるであろう考え方が次から次へと出てくる。だが、どうか最後まで読み通していただきたい。我々は、もしかしたらあまりに真面目に「数字」を意識した仕事をやり過ぎて、実は会社を停滞させていたのかもしれない。仕事で優先すべきこととは何なのか、改めて考えてみるきっかけになれば幸いだ。
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それでは、本書の目次を紹介します。章のタイトルを読むだけで、何が言いたいかが見えてくると思います。

・はじめに
「失われた20年」に「20倍」に成長した会社 妻の実家に転職した営業マンは何をやったのか

・第1章
「現場に数字ばかり言い出すのは会社が傾いてきた印です」

・第2章
「うちは営業にも工場にも損益責任を持たせません」

・第3章
「数字で管理“しない”から全体最適ができるんです」

・第4章
「社員全員モチベーションが高い会社なんて、まああり得ません」

・第5章
「数字で説明できることで差別化するのは難しい」

・第6章
「変なものを出すよねと言われるとうれしくてゾクゾクします」

・第7章
「拡大と効率を信じていた頃の話をしましょうか」

・第8章
「死角だらけの相模屋は生き延びることができるか?」

・第9章
「社内資料を独占公開 近未来の戦略をまるごと明かす」

・あとがき
鳥越社長のメソッドを“普通の会社”に取り込むには?

第1章の冒頭では、相模屋食料の躍進を支えたM&Aの話が語られます。本書ではこのM&Aを「救済M&A」と呼んでいます。つまり、潰れかかった中小の豆腐メーカーをグループ化することで再生していったわけです。

実は、同社の利益率は今が最高ではありません。まだM&Aを始める前、「ザクとうふ」を発売する前の、売上高が150億円くらいだったころが利益率のピークでした。

その時代は、次々と工場を新設、リニューアルして豆腐や油揚げ、厚揚げなどの定番商品の生産性を上げていました。それが功を奏して利益率が最大になったわけです。

しかし、鳥越社長は「それじゃ何しろ面白くない」と言います。自分たちだけがよければいいという考えでは、会社がそれ以上に大きくなることができないと考えたからです。

「面白いことをやろうとすると、市場を触発してお客さまが増えますし、業界も活性化しますし、技術力のある他業界の会社さんが『いいね、それ』と近づいてきてくださる。そうすると仕事がどんどん面白くなってくるわけです」と社長は語っています。

それに対して著者は「経営者が、利益率より面白いほうが大事、と言っちゃってもいいんですか?」と質問します。その答えは、次のようなものでした。

「はっきり言えば、『数字は目的ではなく結果』ですし、『社長の自分が責任を取ればいいだけの話だ』と思っています。面白いと思えることをやったほうが、自分も社内も燃えますし、それが成長につながるんじゃないかと」

同社の救済M&Aはこれまでに11社。すでに9社が黒字化を達成しています。鳥越社長は「助けてくれと言われたら、絶対行こう」という考えでやってきたと言います。そもそもなぜ豆腐メーカーは傾いてしまうのかについては、次のようなパターンが見えてきたそうです。

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会社って、傾いていきますと現場に対して数字ばかり言い出すんですね。たとえば生産効率がどうしたとか、ロス率がどうしただとか、歩留まりがどうしただとかです。(中略)そうすると何が起きるかと言いますと、一生懸命おとうふをつくっているはずだった人たちが「白い塊」をつくるようになってくるんですね。味よりも、「重量約300グラム、水分含有率90%の塊を大豆を原料に製造する」という意識になるんです。
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元々工場の人たちは「おいしいおとうふをつくりたい」と思っていたはずなんですよ。それが毎日「ロス率が」「原価率が」と言われるので、いつの間にか数値目標に呪縛されていきます。目の前にあるのはおとうふじゃなくて、ロス率何パーセントの白い四角い塊、そんな感じになっちゃっていることがすごく多いんですね。いわば「地球の重力に魂を引かれた人たち」になってしまう。
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最後のフレーズで思わずニヤリとした人は、正真正銘のガンダムファンだと思います。本書にはあちこちにこのようなガンダム語が登場します。何しろ鳥越社長の趣味は「ガンダム」ですから。

鳥越社長は再建を託された会社に出向くと、工場にしか行かないそうです。工場に行って現場の人と話をして、ラインを見て、どうやったらおいしいものができるか、もっとおいしくするにはどうするかを考えるそうです。その答えが必ず工場で見つかるからです。

さらに鳥越経営哲学を紹介しようと思っていたら、もう紙幅が尽きました。先の話が知りたい人は、ぜひ本書をご購入ください。「ザクの頭部をおとうふにして売りたいっていう商品企画、知らない人に真顔で話せます?」という誕生秘話や、ガンダムまみれの裏話が読めますよ。


 

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