世の中には「あの人は本当に説明が上手いなあ」と感心させられる人が少なからずいるものです。リアルであれネット越しであれ、そういう人の説明には思わず聞き入ってしまい、いつの間にかその人の意見に賛同している自分がいたりします。
そういう人はセールスの現場でも、プレゼンテーションの場においても、相手に対して望む結果を得やすいものです。歩合制の人だと、どんどん収入が積み上がっていくように見えるのではないでしょうか。
ではどうすれば、そのような「説明の上手い人」になれるのでしょうか。本書はそんなニーズに応じた参考書です。「こうすればできる」とは言わずに、「上手い人がやっていることをまとめてみた」と提示してくるところに好感が持てます。
著者の発刊意図を知るために、「はじめに」に目を通してみましょう。
いきなり「著者が実際に試してみて使えなかった説明法」がリストになっています。
・ロジカルトーキングで理路整然と伝える
・相手に思いが伝わるように熱意を込める
・必ず結論から端的に話す
・相手の話をさえぎらないように相槌を打ち続ける
・相手が理解しやすいようにまずは詳しい状況説明をする
・上司が判断しやすいように起きたことを時系列で話す
・モレがないように知っていることは全て話す
・ビジネス用語や横文字を駆使してカッコよく説明する
・指示する場合は「やること」だけを簡潔に伝える
・有名経営者のような華麗なプレゼンで魅了する
なぜこの10個の説明法がダメなのかは本文で説明しているそうですが、ここでは最初のロジカルトーキングについてだけ触れています。
ロジカルトーキングは正しい説明法と思われていることが多いようですが、「論理だけ」ではわかりにくいと著者は言います。その例として、いま流行しているサブスクについての2種類の説明が例示されています。
***
サブスクというのは、一定期間、定額料金を払うことで、継続的に商品やサービスを利用し続けられるビジネスモデルです。
***
***
サブスクというのは、要するに、1か月単位の焼肉食べ放題のようなもので、飲食以外にも、ファッションや音楽配信などいろんなモノがある感じですよ。
***
前者がロジカルトーキングの例、後者が著者の言う「上手な説明」の例です。後者のほうがわかりやすいと思う人が圧倒的に多数でしょう。
ここで著者はポイントとして「左脳と右脳を両方働かせること」と言っています。論理的な説明に身近なたとえを加えることで、相手を「なるほど」と納得させることができるというわけです。そして本書にはそういう説明をするためのテクニックが載っているということです。
著者の「ハック大学ぺそ」という人物は、アラサーのビジネス系YouTuberで、悩めるビジネスパーソンに向けた動画を配信して25万人のチャンネル登録者を獲得しています。最高140万回の再生数を誇る動画があるそうです。
YouTuberは専業ではなく、外資系金融機関勤務という仕事も持っていて、そちらでは年収2,000万円だと書いてあります。
ただし順風満帆のエリートビジネスマンというわけではなく、現在の会社は4社目で、これまで試行錯誤を繰り返す人生であったといいます。その時代に説明の上手い人の技術を盗もうと観察を続けた成果が本書であるということです。
本書の特徴は、著者自身が試してみて確実に「使える」とわかったテクニックだけを集めていることです。バイヤーとしての著者が選んだ説明法だけを売っているセレクトショップのようなものです。
説明が上手くなることのメリットについて、著者はこう言っています。
***
上手な説明ができるようになると、「この人はすごいな」「この人なら、大事な仕事を任せても、きっと上手くやってくれるに違いない」と結果を出す前に評価が上がるのです。(中略)あなた自身の「価値」を周囲に認めさせるツールにもなっているということです。
***
それでは本書の目次を紹介します。
・はじめに
・1章 説明下手な人にありがちな4つの特徴
説明が下手なのは考え方が正しくないから
特徴1 「相手が聞きたいこと」を考えず「自分が伝えたいこと」だけ話す
特徴2 毎回同じ人にダメ出しされているのに「攻略法」を考えない
特徴3 自分が理解し切れていないことを説明しようとする
特徴4 「説明の技術」を熱心に学ぶけれど実践しない
・2章 「結局、何が言いたいの?」と言われなくなる方法
テクニック1 魔法のように話がわかりやすくなる説明の4ステップ
テクニック2 「事実」と「自分の解釈」を分ければスッキリする
テクニック3 「改善」をよく使う人は説明下手
テクニック4 「暖かい」は気温何度? 「数字」を使いこなすテクニック
テクニック5 前例のない仕事で役に立つ「仮説」のつくり方
テクニック6 データがなくても「経験談」があれば説得力は段違い
・3章 「話がダラダラ長い」と言われてしまう人のためのメソッド
テクニック7 「ざっくりした大枠」があれば話がダラダラしない
テクニック8 「1分以内」で話すクセをつける
テクニック9 相手と自分の頭の中身を「チューニング」する
テクニック10 「はい論破!」は絶対NG! 感情的になって良いことはひとつもない
テクニック11 話の脱線を防ぐ「シェァの法則」
・4章 相手になかなか納得してもらえない人のためのメソッド
テクニック12 相手の「レベル」と「期待値」を知ればグッとわかりやすく話せる
テクニック13 専門家以外には「中学生でも通じる単語」を使う
テクニック14 「たとえ話」は半径3メートル以内で
テクニック15 相手の心のスクリーンに映像が浮かぶように説明しよう
テクニック16 上司になり切って自分にダメ出しをする「アクター法」
テクニック17 「何のために」を伝えないと相手はロボットになる
・5章 相手を思い通りに動かすテクニック
テクニック18 相手の右脳を刺激する鉄板テクニック「共感マクラ」
テクニック19 相手がグッと興味関心を示す「釣り針」をしかける
テクニック20 「わざと大事なところを話さない」から話が盛り上がる
テクニック21 相手を思い通りの結論に導く「一人フリ&ツッコミ」
テクニック22 大人数を相手に説明するときでも「一人ツッコミ」は有効
・6章 手ごわい相手に「YES」と言わせるテクニック
テクニック23 プレゼンにも「サプライズ」は必要だ
テクニック24 プレゼン必勝法「4段階のテンプレ」を押さえよう
テクニック25 プレゼン資料は1ページ目から読むな
テクニック26 キーパーソンを味方につける2つの気配り
テクニック27 スティーブ・ジョブズになってはいけない
テクニック28 勝負どころのプレゼンで必要な「意外性の最大化」
テクニック29 「会話」をするようなプレゼンで聞き手を惹きつけよう
テクニック30 わざとマイナスを伝えた方が絶対的な信頼感につながる
テクニック31 YouTubeの動画でも有効な「期待をあおる」テクニック
それでは1章から気になったところを見ていくことにしましょう。目次を見て気になったところを紹介できなかった時は、ぜひ本書をお求めください。
1章はいわゆる「説明下手」な人が陥りがちなポイントを指摘しています。ポイントは4つですが、その前に決定的なことが著者から言い渡されます。それは、「説明が下手なのは考え方が正しくないから」という問題です。
著者は説明が下手な人たちを観察しているうちに、その人たちが同じような思考回路をしていることに気づきました。それが次から述べられる4つの特徴です。著者はそれらの考え方が「間違っている」と断言しています。その考え方を改めないかぎり、いくらテクニックを学んでも説明は上手くならないそうです。
その1つめは、相手が聞きたいことを考えず、自分が伝えたいことだけ話すというものです。それは相手を無視していることにほかならず、その姿勢は必ず相手に伝わります。
それを防ぐためには、「自分はこれから、何のために説明するのだろう? 相手は自分から何を説明されるとうれしいのだろう?」と確認するクセをつけることがよいと著者は言います。
いい説明は必ず聞く側にメリットがあるものです。裏返すと、自分ファーストで展開される説明は、どんなにスムーズに行われても、相手には伝わらないということです。
2つめは、説明する相手の攻略法を考えるというものです。ゲームのラスボス相手に戦う時のように、相手を観察し、情報を集めて攻略法をまとめることが相手好みの説明の形を探り当てることにつながります。
3つめは、自分がこれから説明しようとしていることを完全に理解しているかどうかです。考えていないことは説明できません。それを防ぐには、自分で「これについて自分はどう思うか」と自問自答してみることです。これを習慣化すれば、わかっていないことについて説明するという愚を防止できます。
4つめは、テクニックを学ぶばかりで実践しないということです。これはビジネス書の愛読者に多く見られる傾向です。テクニックは適切なタイミングで使えてこそ効果を発揮しますから、学んだら実践することを繰り返さないと新しい力は身につきません。
2章からはテクニック編となります。最初のダメ出しは「自分の頭に思い浮かんだ順番で話してしまう」という説明法です。ここで著者は「魔法のように話がわかりやすくなる説明の4ステップ」について解説しています。
(1)Point 結論
(2)Reason 結論に至る理由
(3)Example 理由の具体例や根拠
(4)Point 再度の結論
頭文字をとって「PREP法」とも呼ばれるこの4ステップは、魔法のように説明力を上げる鉄板の法則です。
次のダメ出しは、「事実と自分の解釈を混ぜる」というものです。上手な説明のためには、事実と自分の解釈を分けなければなりません。その例が3つ挙げてあります。
(1)今日の気温は?
【事実】20℃です 【解釈】けっこう暖かいです
(2)あの人は何歳?
【事実】30歳です 【解釈】まだ若いんです
(3)契約更新の現状は?
【事実】未確定です 【解釈】悪くなさそうです
ビジネスの判断は基本的に事実に基づいて行われますから、事実をまず共有した後で自分の解釈を述べるべきです。これができないと「重要な話にノイズを入れてくる危険な人」と認識されかねません。
それに続くダメ出しは、「ご指摘を厳粛に受け止め、改善してまいります」のようなあいまいな言葉によるポーズだけの意見表明です。これだけでは具体的に何に取り組むのかがわかりません。
「今回、人員配置の確認が甘かったと認識しています。今後は前日の終業時に必ず再確認するようにし、ミスを防ぎます」と言えば、改善したかどうかの検証もしやすく、相手からの信用も得やすくなります。
次に、数字を使って状況を明確に示すテクニックが出てきます。「おかげさまで現状、全体の30%程度の行程まで進んでいます」と言えば、順調なのか問題ありなのかを相手がすぐに判断することができます。
そして「仮説」を使った説明の例が示されます。「直接的なデータはありませんが、よく似ている△△のデータ、同じターゲット対象の××のデータを見ると可能性はありそうです」
仮説は前例のない仕事を進める時に役立ちます。さまざまなデータを集めて仮説思考を行うことで、効率良くある程度の正解に近づくことができます。
というところで紙幅が尽きました。まだ2章の途中です。この先が気になる方は、ぜひ本書でお楽しみください。