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世界の一流は「雑談」で何を話しているのか

ピョートル・フェリクス・グジバチ・著/クロスメディア・パブリッシング・刊

1,485円(キンドル版・税込)/1,738円(紙版・税込)

著者のピョートル・フェリクス・グジバチ氏はプロノイア・グループ株式会社代表取締役、株式会社TimeLeap取締役、連続起業家、投資家、経営コンサルタント、執筆者という肩書を持つポーランド出身の人物です。

2000年に来日し、モルガン・スタンレーを経て、Google Japanでアジアパシフィックにおける人材育成と組織改革、リーダーシップ開発などの分野で活躍し、2015年に独立。未来創造企業のプロノイア・グループを設立しました。

2016年にHRテクノロジー企業モティファイを共同創立し、2020年にエグジット。2019年に起業家教育事業のTimeLeapを共同創立。ベストセラー『ニューエリート』(大和書房)、『パラダイムシフト 新しい世界をつくる本質的な問いを議論しよう』(かんき出版)など多数の著書があります。

著者は「はじめに」で「日本人は雑談を世間話や無駄話と考えている」と指摘しています。これまでに会った数多くの日本人ビジネスマンが、「今日は暑いですね」「今日は本当に寒いですね」といったフレーズから会話を始めることが不思議でならなかったそうです。

来日してしばらくの間は、「日本ではビジネスマンも季節の移り変わりを大切にしているのか?」と思っていたそうですが、やがてそうではないことに気づきます。天気の話は雑談を始めるための常套句だったのです。

そして天気の話に続くのは、SNSで話題になっていることや、お互いの業界の噂話など、とりとめのない会話でした。著者のような外国人の場合は、「日本料理では何が好き?」といった質問がそれに加わります。

そのようなあまり中身のない会話「雑談」は、日本のビジネス社会では本題に入る前の潤滑油と考えられているようですが、著者はそれを「とてももったいないこと」と感じるようになりました。それが本書を著した動機であるようです。

著者が在籍していたグーグルでは、「Let's chat !」というフレーズが飛び交っていたそうです。翻訳すれば「雑談しましょう!」になりますが、ここでいうchatは日本語での雑談ではありません。

「オープンでざっくばらんな情報交換」。それがグーグルでいうchatです。全員がフレックスタイムで働いているグーグルでは、コミュニケーションの機会を意識的に増やしておかないと、仕事に支障が出てしまいます。そのための会話がchatなのです。

日本のビジネスマンが交わしている「雑談」と、世界のビジネスマンの会話はどこが違うか。著者はこうまとめています。「話す側と聞く側がお互いに理解を深めながら行動や意識を変化させるような創造的なコミュニケーション」。

そこには次の5つの意図が必要です。
(1)状況を「確認する」
(2)情報を「伝える」
(3)情報を「得る」
(4)信用を「作る」
(5)意思を「決める」

こうした考えの元に展開される会話と、あたりさわりのない常套句の羅列である雑談では、コミュニケーションの質と量が大きく異なります。

なぜ日本と世界のビジネスシーンでそういう違いが出てくるのかについて、著者は「日本のビジネスマンの雑談には戦略的な視点が抜け落ちている」と指摘しています。そして「日本には気配りやおもてなしの文化があり、人間関係に対しても非常に敏感な人が多いと思いますが、さまざまなことに配慮しているわりには部下とのコミュニケーションが下手であったり、どこか無神経なところがあるのが不思議」と言います。

多くの日本人ビジネスマンは「雑談がうまい人=おしゃべりが上手で面白い話をする人」と考えているようですが、世界基準のビジネスの最前線は違います。「明確な意図を持ち、そこに向かって深みのある会話ができる人」が雑談のうまい人の定義です。

本書はその論点から語られていきます。では目次を紹介しましょう。

・はじめに
・第1章 「世界」の雑談と「日本」の雑談
・第2章 強いチームをつくる「社内雑談力」の極意
Part 1 グーグルは雑談とどう向き合っているのか?
Part 2 なぜ「社内の雑談」が必要なのか?
Part 3 マネジャー(上司)に求められる雑談とは?
Part 4 メンバー(部下)に必要な雑談とは?
・第3章 武器としてのビジネスの雑談

・第4章 こんな雑談は危ない! 6つのNGポイント
雑談のNG01 相手のプライベートに、いきなり踏み込まない
雑談のNG02 「ファクト」ベースの質問は意外に危険
雑談のNG03 ビジネスの場で「収入」の話はしない
雑談のNG04 「シチュエーション」を考えた雑談を心がける
雑談のNG05 「宗教」の話は無理に避ける必要はない
雑談のNG06 「下ネタ」で距離感が縮まることはない
・おわりに

第1章の冒頭で、著者は日本の雑談に定番のフレーズが多い理由として、日本人の奥ゆかしさ、謙虚さを挙げています。しかしそれは外国人から見ると「日本人は本音を言わない」「何を考えているのかわからない」という不満につながっているそうです。

それに対して世界基準のビジネスマンは「その人に特化した雑談」をしているといいます。「How are you ?」と定番の挨拶をされても、その返事は「I'm fine, thank you.」ではなく、「最近は最悪です。ちょっと仕事が忙しすぎます。うちのボスがバカなんです」とか、「最近は調子いいですよ。この間、出世しました」といった自己開示を伴った中身のある答えが返ってきます。

この「自己開示」が日本のビジネスマンと世界基準のビジネスマンの違いであると著者は言います。そして「自己開示ができるような質問をする」というのも世界の雑談の特徴です。

続いて著者は「日本人が自己開示に慣れていない理由」に踏み込みます。その理由の第一は、ヨーロッパやアメリカでは「社会的な会話ができることが美徳とされている」ということです。社会や政治、経済、歴史などのあらゆることについて、自分なりの意見を持ち、それを話すことが大人のたしなみと考えられているからです。

しかし日本ではそのような共通認識はありません。子どものころから自分の意見を持ち、それを表現して自己開示するという教育を受けていないので、自分の頭で考えて意見を持ち、それを表現することに慣れていないのです。

丸暗記の受験勉強を経て大学に進み、卒業したら新卒で会社に就職。新入社員研修を受けて人事部などが適性を判断して各部署に配属するというのが日本の一般的なシステムですから、自分が何をしたいのか、どうなりたいのかを真剣に考えなくても社会人として働けてしまいます。

自分の選択肢が社会的に用意されているため、個人としての意見が持ちづらい、持つ必要がないというのが日本社会の特徴です。だから日本だけの村社会で生きていくのであれば、定型的で内容のない雑談でも問題にはならなかったでしょう。

しかし国際化が進み、ダイバーシティー&インクルージョン(多様な人々がお互いの個性を認め、一体感を持っている状態)の考え方が強くなっていくと、雑談を通じて自己開示していくことの必要性が増してきます。

では今すぐ会話に自己開示を取り入れたらいいのかと思いますが、著者はそこにストップをかけます。その前に自己認識が必要だというのです。

著者はスムーズな会話をするためには、その準備段階として次の3つを自分自身に問いかける必要があると言っています。その3つとは、
(1)「価値観」…何を大切にしているのか?
(2)「信念」…何が正しいと思っているのか?
(3)「希望・期待」…何を求めているのか?
です。

この3つは、自分自身の「軸」になるものです。これが自分自身できちんと認識されていれば、自己開示をするときに話がブレることがありません。この3つがむずかしければ、自分が何が好きで何が嫌いかをはっきりさせるだけでもいいでしょう。

本書では次のような流れが明記されています。
・「自己認識」する

・「自己開示」する

・「自己表現」する

・「自己実現」する

著者は次のように言っています。
「外国人としてだけではなく、人材育成のコンサルタントの立場から見ても、日本のビジネスマンには「自己認識」と「自己開示」が圧倒的に足りていないと思います。きちんと自己認識して、自己開示ができれば、自然と雑談で話す内容も変わってくることになります」

本書では雑談の目的を「雑談を通して信頼、信用、尊敬のある関係を築き、心理学でいう『ラポール』を作ること」としています。ラポールとは、お互いの心が通じ合い、穏やかな気持ちで、リラックスして相手の言葉を受け入れられる関係性のことです。

世界のビジネスマンは目の前の相手とラポールを作ることを目指して、自分の全能力を駆使して雑談を組み立てています。それに対して日本のビジネスマンはどの程度、雑談にエネルギーを割いているでしょうか。

ビジネスにおける会話の最終的な目標は、成果を出すことです。雑談はそのための第一ステップです。あたりさわりのない天気の話などがステップになるはずがないことは、誰にでもわかるでしょう。

天気の話や思いつきの世間話でラポールを作るのは、不可能に近い作業だと著者は言います。たとえその場の雰囲気が和やかになったとしても、求めている最終的な成果に結びつくことはないでしょう。

「日本的な雑談を否定するつもりはありませんが、今日のような変化の激しいビジネス環境で結果を出していくためには、考え方を改める必要があると思っています」というのが著者の言葉です。

日本と世界の雑談の違いについて、著者はもうひとつの理由を提示しています。それは「日本が世界に類のない『ハイコンテクスト社会』であるため」です。

コンテクストとは空間的、時間的、社会的な「場面」、「文脈」、「背景」を意味する心理学の概念です。日本は民族の多様性が小さく、価値観や慣習がお互いに似通っているため、明確に言葉で表現しなくても、その場の雰囲気や顔の微妙な表情によって、相手に自分の意図が伝わるという社会が形成されています。そのため、自己開示の必要性が高くなく、自分の好みを相手に伝えることが美徳とされません。

そのため「ローコンテクスト社会」であるヨーロッパやアメリカと雑談の意味合いが違うのだということです。

その特徴が大きく出るのが、「雑談の事前準備」です。ヨーロッパやアメリカのビジネスマンは面会の前に相手とどのような雑談をするかを準備するのが常識ですが、日本でそういうことをする人は少数派です。

その実例として、著者は自分のところに面会にくるビジネスマンの過半数が自分に関する予備知識を持っていないと言っています。そのために開口一番で「お国はどちらですか?」と聞かれたり、「和食好きですか?」と聞かれたりするそうです。

「和食が嫌いなら、23年も日本にいませんよ!」と言いたくなるのを毎回我慢していると著者は言います。

「おわりに」で著者は、次の2点を強調しています。
「リモートワークの増加が雑談の重要性を浮き彫りにした」
「雑談に必要なのは『好奇心』『知識』『経験』の3要素」

オンラインミーティングは便利ですが、意思の疎通が曖昧になるなど、コミュニケーションに障害がでることが明らかになっています。それを防ぐのが事前に準備された内容のある雑談だというのです。

そして、そのような雑談を成功させるには、相手の360度すべてに興味・関心を持ち、自分がこれまでに蓄えた知識と経験を総動員して相手を理解するための会話を心がけることが大事だということです。

最後に著者はこう言います。
「いくら雑談をしても、上っ面の表面的な会話ばかりを繰り返していたのでは、お互いの信頼関係が高まることはありません」
そして4つのポイントを意識せよと注意しています。

(1)相手を驚かせないレベルの「自己開示」をして、自分という人間を知ってもらう
(2)好奇心を持って、相手の「人間性」や「人となり」を知ろうとする
(3)「信頼関係」の構築が目的であることを忘れない
(4)相手と「ラポール」を作れているか、客観的な目で観察しながら話す

コミュニケーションの基本を再確認するための有意義な1冊です。


 

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