オススメ参考書~読んだら即実践してみよう!

HUMAN+MACHINE 人間+マシン―AI時代の8つの融合スキル

ポール・R・ドーアティ H・ジェームズ・ウィルソン・著/小林啓倫・訳/保科学世・監修/東洋経済新報社・刊

2,156円(キンドル版・税込)/2,200円(紙版・税込)

昨年からの生成AIブームで、出版界でも「あやかり本」が多数出現しています。しかしそれらの多くは単なる使用説明に留まるものばかりで、「AIを使いこなすとどう仕事は変わるか」「AIと人間が協調して働く仕事のあり方はどのようなものか」といった本質的な内容のものはなかなか見かけません。

そんな中、本書は2018年の出版で6年前の「古い本」なのですが、到来しつつあるAI革命の時代を真正面から見据えた、人間とAIが協調して働く時代を勝ち抜くための本といえます。AIと協調して働くためには今の業務プロセスを根本的に変えなければならないという本書の主張には、大いに賛同できるものがあります。

本書の位置づけについては、監修者による「日本語版への序文」を読むと明確になります。

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日本はアジア各国に先駆けて少子高齢化時代を迎え、2018年時点でも労働集約産業を中心に労働力不足が顕在化している。この労働力不足が加速する日本において、人手不足を解消し、経済成長を維持するには、AI(人工知能)やロボティクス技術(マシン)の活用は必須である。

(中略)本書は「人間とAIとの協働」を主軸に、製造、サプライチェーン、会計、R&D、営業、マーケティングというそれぞれの部署でAIとどのように協働できるか、協働するために必要な8つの融合スキルを示したものである。

各産業、各分野での導入方法や活用術、実践について述べられたものは今までもあったが、会社全体の「経営」という観点から、幅広い領域で俯瞰的に述べたものは稀であるように思う。
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それでは本書の著者・監修者・翻訳者を紹介します。
著者のポール・R・ドーアティはアクセンチュアの最高技術責任者(CTO)兼最高イノベーション責任者(CIO)です。アクセンチュアにおいて、長年にわたりAI、研究開発部門のリーダーとしてAI関連の研究・ビジネスの立ち上げに携わってきました。先端技術開発、エコシステム部門も統括しています。

もう1人の著者H・ジェームズ・ウィルソンはアクセンチュア・リサーチのマネジング・ディレクター。アクセンチュアのIT、ビジネスリサーチ部門のリーダーとして活躍しています。

監修者の保科学世はアクセンチュアアプライド・インテリジェンス日本統括でアクセンチュア・イノベーション・ハブ東京の共同統括でもあるマネジング・ディレクターです。AIハブプラットフォームや需要予測・在庫補充最適化サービスなどの開発を手がけるとともに、アナリティクスやAI技術を活用した業務改革を数多く実現してきました。『データサイエンス超入門』(共著・日経BP社)、『データ・アナリティクス実践講座』(監修・翔泳社)などの著書があります。

訳者の小林啓倫は筑波大学大学院修士課程修了後、システムエンジニアとしてキャリアを積み、米バブソン大学でMBAを取得してから外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動している人物です。著書に『FinTechが変える!金融×テクノロジーが生みだす新たなビジネス』『IoTビジネスモデル革命』(ともに朝日新聞出版)、訳書に『FinTech大全 今、世界で起きている金融革命』(日経BP社)、『プロフェッショナルの未来 AI、IoT時代に専門家が生き残る方法』(朝日新聞出版)などがあります。

先ほど紹介した「日本語版への序文」では、本書は翻訳作業にあたってAIを最大限活用したと書かれています。

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人とマシンの協働をテーマとする本書を出版するにあたって、この出版プロセスの中でも、「協働作業」を取り入れてみた。本書は、英語版の原著を日本語に翻訳・加筆して出版した書籍であるが、AIによってなくなる職業として挙げられることも多い「翻訳」という作業を、翻訳者の協力のもと、最大限AI技術を活用して行ったのである。
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注記によれば、翻訳に使用されたAIはNTTコミュニケーションズのAI翻訳プラットフォームサービス「COTOHA Translator」であるとのことです。現在でもサービスが提供されている定額サービスです。

使った結果、監修者・翻訳者は「しっかり翻訳エンジンを使いこなすことで、プロの翻訳家の作業をも十分サポート可能」とわかり、翻訳工数を大幅に削減することができたと報告しています。

ただし、この「使いこなせば」という部分がクセモノで、そこが本書のテーマと深く関わることがわかったそうです。翻訳エンジンの特性を見きわめた上での人間との役割分担や、単語レベルのチューニングを含む「機械を育てる」ことの重要性が痛感されたからです。

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本書全体を通したテーマであるが、人間か、機械かの二者択一ではなく、AIが得意なところ、人間がやらねばならないところを見きわめた上でそれぞれの強みを活かし、何よりマシンが人をサポートすることが重要である。人間がAIを育てることで、ビジネスにおけるパフォーマンスを大きく改善することが可能になることを、この本の出版の過程でも体験することができた。
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それでは、この300ページを超える本の目次を紹介します。
・日本語版への序文
・イントロダクション AI時代における人間の役割とは
・Part 1 「人間+マシン」の未来を現在から考える
・第1章 自己認識する工場
・第2章 会計業務をするロボット
・第3章 究極のイノベーション・マシン
・第4章 フロントオフィスにボットがやってくる

・Part 2 ミッシング・ミドル
・第5章 アルゴリズムを正しく設計する
・第6章 普通の人々が素晴らしい結果を生み出す
・第7章 業務プロセスを再設計する
・第8章 人間とマシンのコラボレーションを発展させる

・結論 人間+マシン時代を生き残るために
・解説 日本語版監修によせて、日本と日本企業が取り組むべきこと

「イントロダクション」には副題の「AI時代における人間の役割とは」がついていて、次の6つの見出しに分かれています。
・メカニックからオーガニックへ
・第3の波
・ウェイズのように考える
・「ミッシング・ミドル」に注目する
・誰が勝者となるのか――本書で解説する内容
・5つの重要な原則

本書を読み解くためには、このイントロダクションの理解が重要だと思われましたので、詳しく見ていくことにしましょう。

イントロダクション冒頭の舞台はドイツ南部の町ディンゴルフィングです。そこにあるBMWの自動車工場で話がスタートします。そこでは人間の作業者とロボットが協力してトランスミッションを製造しています。

人間がギアケーシングを準備すると、ロボットアームが5kg以上のギアを拾い上げてケーシングの中に正確に置きます。それが終わると、ロボットアームは別のギアをピックアップするために離れていきます。このロボットは軽量で、周囲の空間を認識することが可能です。

工場の別の区画では、先ほどとは異なるロボットアームが、自動車ガラスの端に接着剤を均等に塗布しています。人間はその区画の間を歩き回り、ロボットアームのノズルを拭いたり、ウインドウガラスを運び去ったりしています。著者はその光景を「まるで人間とロボットが巧みに振り付けられたダンスを踊っているかのようだ」と評しています。

そこで次の文が続きます。
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近年におけるAI(人工知能)の発展により、私たちは今、ビジネスにおける大きな変革の最前線に立っている。組織運営の基本ルールが毎日書き換えられるような、新しい時代に入ったのだ。AIシステムは多くのプロセスを自動化するだけでなく、より効率的な処理を可能にしている。そして彼らは、人間とマシンが斬新な方法で協力することを可能にしている。それにより仕事の本質は変わろうとしており、私たちは業務と従業員をこれまでとまったく違った形で管理する必要がある。
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これまで、ロボットが稼働する工場の現場は、人間の作業者から隔離されてロボットが置かれていました。ロボットの仕事は特定のタスクのみで、他のタスクは人間が行っていました。しかしそのような従来の工場とは対照的な新しい工場が出現しているというのです。そこではロボットは従来よりもはるかに小さくて柔軟で、人間と一緒に働くことができます。

そのロボットにはセンサーが内蔵され、高度なAIアルゴリズムが使われています。その結果、周囲の環境を認識し、理解し、行動し、学習する能力が備わっています。これにより、作業プロセスを自己最適化させることが可能になりました。従来の知性がなく融通が利かない産業用ロボットとは違い、目の前の状況に臨機応変に対応することができる「人間とチームを組むことのできるマシン」に変わったのです。

このような変化が製造現場だけでなく、セールスやマーケティング、カスタマーサービス、R&Dの現場でも起きていると著者は言います。

「メカニックからオーガニックへ」の見出しの後で、著者は次のように言っています。
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AIが持つ「ビジネスを変革させる力」は、かつてないほど大きなものだ。しかしそれは同時に問題も抱えており、その緊急度と深刻度は増す一方となっている。企業は今、AI活用に関して岐路に立たされている。私たちはAIを、「認識、理解、行動、学習を通じて、人間の能力を拡張するシステム」と定義している。企業がそのようなシステムを導入すると、短期的にある程度の生産性向上が達成される場合もある。しかしそうした成果は最終的に失速してしまうのだ。一方でゲームのルールを変えるようなイノベーションを起こし、生産性向上にブレークスルーをもたらすことに成功する企業も存在する。この違いを生み出すものはいったい何だろうか?
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その答えは「AIがもたらす影響の本質を理解できるか否か」であると著者は断言します。従来のように特定の業務だけを自動化するために機械を使うのではなく、人間と高度なAIシステムがチームを組んで業務プロセスをより流動的で適応力のあるものにできるかどうかがカギであるということです。

続く「第3の波」という見出しの後で、著者はこのように説いています。
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AIが現在、そして未来に与える影響を正しく理解するには、それが業務プロセスにどのような変革をもたらすのかに注目しなければならない。さまざまな産業において、AIシステムが人間の仕事を奪うという誤解が蔓延している。(中略)しかし私たちの研究によって、AIが特定の機能を自動化するために導入されたとしても、その真価は人間の能力を補完・拡張する点にあることが明らかになっている。(中略)つまりマシンは、彼らが得意とする作業を担当しているのだ。それは繰り返しの作業や大量データの処理、定型化された作業などである。
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ここで著者は「ビジネス変革の3つの波」を説明しています。
1つめの波は「プロセスの標準化」がもたらした、ヘンリー・フォードによる流れ作業の組み立てラインです。自動車の製造工程を再構築することにより、大幅な生産性向上が実現しました。

2つめの波は「プロセスの自動化」です。IT技術の発展により、ビジネス・プロセス・リエンジニアリングが流行し、ウォルマートのような大手小売業者が世界をリードする存在になりました。

3つめの波は「適応力のあるプロセス」によってもたらされます。これまでの2つの波を土台としながらも、標準化もパターン化もされていないにもかかわらず、カスタマイズされた製品やサービスを提供しながら、利益を拡大することが可能になります。

その一例として、「Waze(ウェイズ)」というモバイル地図アプリが挙げられています。リアルタイムのユーザーデータを活用しながら、瞬間的に完璧な地図を生みだし、必要に応じて最適なルート再設定が行うことのできるものです。

これはGPSを使ったデジタル地図によるカーナビゲーションとは違い、AIアルゴリズムとリアルタイムデータを融合させることにより、動的で常に最適化される地図が実現されています。

著者はAIと人間が協働する世界を「ミッシング・ミドル(失われた中間領域)」と呼んでいます。失われた中間領域とは、人間だけの活動領域とマシンだけの活動領域の間にある「人間とマシンのハイブリッド活動領域」を意味します。

人間だけの活動領域には、「判断」「創造」「共感」「主導」といった要素があります。またマシンだけの活動領域には、「適応」「予測」「反復」「トランザクション」といった要素があります。

それに対してミッシング・ミドルである人間とマシンのハイブリッド活動領域には、「具現化」「相互作用」「増幅」「維持」「説明」「訓練」といった要素が考えられます。現在、この領域を埋めようとしている企業は、ごくわずかしか存在しないと著者は指摘しています。

ミッシング・ミドルでは、人間とマシンが協力して作業しますが、人間が担当するのはたとえばAIアプリケーションの開発やトレーニング、管理などです。マシンはそれに対して無数のソースから大量のデータを取得し、リアルタイムで処理・分析するなどのスーパーパワーを与えて人間の能力を拡張します。

このミッシング・ミドルの恩恵を受けるのは、デジタル企業に留まりません。たとえばグローバルな鉱業コングロマリットであるリオ・ティント社は、AIを使って中央管理施設から自動ドリルや掘削機、ブルドーザーなど膨大なマシンを管理しています。これにより、人間の作業者は危険な環境で働く必要がなくなりました。

イントロダクションに続くPart 1では、企業におけるAIの現状が解説されています。工場や小売店舗、バックオフィス、R&D、マーケティング、セールスなどの部門において、さまざまな企業がAIをどのように活用しているかが紹介されます。

Part 2では、ミッシング・ミドルについて探っていきます。同時に、伝統的な仕事の概念を見直し、再考するための具体的なガイドも提供されます。AIが持つ力をフル活用するためには、この見直しと再考が欠かせないからです。

著者たちの調査では、第3の波に乗っていた企業は、調査した1100社のうち9%でした。そのリーディングカンパニーに共通しているのは、組織のマインドセット、実験、リーダーシップ、データ、スキルの5つの原則でした。

著者はイントロダクションを次の言葉で締めくくっています。
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AI革命は「これから到来しようとしている」のではない――既に起きているのだ。そしてそれは、この技術が持つ「人間の能力を拡張する」という力を最大限に活用するために、企業のあらゆる部門において、業務プロセスを根本的に変えることを意味する。本書はこの新しい時代を理解し、勝ち抜くためのガイドとなろう。
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AIを活用して飛躍するための「考え方」が学べる本です。


 

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