まず、アマゾンに掲載されている広告コピーから引用します
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「朝、起きたけど、ベッドから出られない」
「かけなくてはいけない電話を、まだかけられていない」
「提出しなくてはいけない書類を出せていない」
この本は、毎日そんな自分にイライラしながらも、なんとか「変わりたい」と思っている人のために書かれました。
「とにかく1分だけやろう」
「作業をできるだけ小さく分けてやる」
「ご褒美を用意する」
先延ばしを克服するコツは、たくさん知っているけど、そのコツさえ実行するのを先延ばしにしてしまう。
そんな人は、まず本書にある、「マインドフルネス」と「モメンタム」のワークを実践してみてください。
簡単にできて、ユニークなものを厳選しました。
好きな時に、楽しみながら、やってみる。
そうするうちに、いつの間にか、あなたの心に「勢い」が出てきて、面白いように、行動し続けられる人になるのです。
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ということで、さっそくそのワークを覗いてみることにしましょう。まず「マインドフルネスワーク」から。
・1分で整う「手のひらサウナ」
・スマホを置いて「10分散歩」
・お掃除ロボットの動きを観察「ルンバ瞑想」
「モメンタムワーク」はこんな感じです。
・ヨーガの秘術「火の呼吸」
・時間を気にせず、推しに没頭する
・自分だけのヒーローポーズを決める
それだけでは何の意味があるのかわかりませんよね。では「まえがき」から見ていきましょう。
最初にこんな一文が出てきます。
「現代人は、動けなくなっている」
コロナ以降、対人不安を感じる人が増え、もともと人付き合いが好きだった人まで、コミュニケーションに喜びを感じられなくなっているというのが、現代社会の特徴なのだそうです。
コミュニケーションの意欲がない人が増えると、「社会とつながりたい」とか「誰かの役に立ちたい」という意欲も希薄になります。これではスキルが身につきませんし、組織がうまく動かなくなります。
それに加えて、最近ではデジタルツールの活用が促進され、脳疲労が蓄積される傾向にあります。ストレスと脳疲労は精神疾患のリスク要素ですが、貯まっていくにつれて「何をするにもだるい、面倒くさい」と思うようになります。
昨今では「マインドフルネス」という言葉が流行しています。心のモヤモヤ、イライラを晴らして落ち着かせる効果のあるものですが、著者たちはそれだけでは不足であるといいます。
「マインドフルネス」といえば「禅」が有名ですが、禅にはマインドフルネスともう一つ、モメンタムという要素があると著者たちは指摘しています。心を落ち着かせるマインドフルネスと、心を勢いづかせるモメンタムの、いわばブレーキとアクセルのような機能を活かすことで、心身の健康が実現すると著者たちは言います。
ここで2人の著者を紹介しておきます。
川野泰周氏は精神科医・心療内科医で、臨済宗建長寺派に所属する林香寺の住職です。1980年横浜市に生まれ、慶應義塾大学医学部医学科を卒業後、精神科医として診療に従事します。2011年より建長寺専門道場にて禅修行に入り、2014年末より横浜にある林香寺の住職となりました。現在は、寺務のかたわら横浜市内のクリニックなどで精神科の診療にあたっています。『ずぼら瞑想』(幻冬舎)、『半分、減らす』(三笠書房)など多数の著書があります。
恩田勲氏はJoyBizコンサルティング株式会社の代表取締役で、一般社団法人日本モメンタム協会の理事を務める人物です。1957年生まれで、日本大学法学部法律学科を卒業後、国内最大手の民族系コンサルタント会社で人材開発を主としたコンサルタントとして活躍。2009年より現職です。著書に『イノベーションを起こすために問題解決のセンスをみがく本』(総合法令出版)があります。
では、本書の目次を紹介しましょう。
・まえがき
・1章 「心の勢いづけ」の差が、仕事・人生に差をつける
・2章 「心の勢い」で動ける人になる
・3章 行動する人になるためのステップ1 心の雑音を断ち切る
・4章 行動する人になるためのステップ2 心を鼓舞する
・5章 行動する人になるためのステップ3 燃焼モメンタムを焚く
・6章 燃焼モメンタムを生みだす心の土台をつくる
各章の末尾には「章のまとめ」がついています。ここを拾い読みするだけで、その章に何が書いてあるのかがつかめます。1章から順に見ていきましょう。
【1章のまとめ】
・動けないのは、やる気が足りないからではなく、心の「着火剤」が足りないから
・「モメンタム」とは、アメリカのスタートアップでも重視される「心の勢い」
・ほんのちょっとの行動がやる気に火をつける
・立ち上がるだけでも、モメンタムは上がる
・行き詰まったら、ちょっとだけ動いてみる
・交感神経を優位にする呼吸を使ってみる
・呼吸法を覚えると気持ちを上げるのも下げるのも、コントロールできるようになる
このまとめを斜め読みするだけで、本書のエッセンスが見えてきます。
ベンチャービジネスの栄枯盛衰が盛んなアメリカで、「心の勢い」すなわちモメンタムが重視されていること。
モメンタムはほんのちょっとの行動であげることができること。
呼吸法がモメンタムをコントロールする要素であること。
では続いて2章のまとめを見てみましょう。
【2章のまとめ】
・「マインドフルネス」は疲れた心を癒す
・日本人は欧米人に比べて仕事に対する目的意識が薄く、また自己肯定感も低い。日本人こそ、モメンタムが必要
・「なんだかパッとしない状態」にある人には、自奮力が欠けている
・禅僧の修行には、大きく「理入」と「行入」の2つがある。理入は経典を読むなどして理屈から、行入は行動、身体から入る修行を指している
・「莫迦になって、今すぐやる」人になるための修行が「行入」
・意識を変えたければ、行動から変えること
・やる気を持続させるためには、「着火モメンタム」「燃焼モメンタム」「サマタ瞑想」「ヴィパッサナー瞑想」の4つのアプローチが必要
専門用語が出てきましたので、本文を参照しながら読み進めていきます。ここでは著者の川野氏が主導して、禅僧の修行やその効能が解説されます。長く注目されてきた禅宗の「瞑想」すなわちマインドフルネスは、マイナス状態にある心をニュートラルに戻す効果があります。しかし、それだけでは前向きな心を得ることができません。そこでモメンタムに火をつける必要があるというわけです。
川野氏によれば、禅僧は「莫迦(ばか)になって、今すぐやる」ことの達人なのだそうです。厳しい禅の修行は、いわば「莫迦になるため」のもの。莫迦になることで感覚が鋭くなり、モメンタムが高まりやすくなるといいます。
そして、理屈から入る「理入」と体験から入る「行入」の2つのアプローチが説明されます。両方をバランス良く取り入れることで、文武両道が実現します。そして本書の本論にあたる3章以下に入っていきます。
【3章のまとめ】
・私たちの脳が処理しなければならない情報量は、それ以前に比べて、数十倍規模に増えている
・疲れたままの脳では、モメンタムの効果も半減。マインドフルネスはいわば、「行動し続けられる人になる」ための第1歩
・「単純な動作の繰り返し」は、瞑想の効果大
・瞑想によって「今、この瞬間」に意識を向け、注意容量を使い切れば、何も考えずに動けるようになる
・マインドフルネスレベルを向上させると、先延ばしグセ傾向が減少する
・マインドフルネスによって「学習性無力感」を改善できる
・「童心に返る」と、世の中の面白いことを再発見できる
3章のサブタイトルは「心の雑音を断ち切る」です。冒頭で、簡単にすぐできる「一息瞑想」のやり方が紹介されます。これは、左右どちらかの手のひらの真ん中に向けて、均等に息があたるように呼吸するというものです。腹式呼吸とか胸式呼吸とか、ロングブレスとかを意識する必要はありません。ただそれだけで頭がすっきりしていきます。
川野氏によれば、現代人は身体の疲れよりも脳の疲れのほうがずっと深刻で、一晩寝たくらいでは回復しないくらい脳が疲れているそうです。なぜそんなに脳が疲れているかといえば、情報過多のせいです。
インターネットの登場により、脳が処理しなければならない情報量が飛躍的に増えています。そして複数のタスクを同時に処理するマルチタスクも増えました。これにより、脳の疲れが増加の一途をたどっています。
そんな脳の疲れを取り、前向きな気持ちを取り戻すためには、まずマインドフルネス、次にモメンタムのワークの順に取り組む必要があるとのことです。
そこで紹介されているのが「ずぼら瞑想」です。たとえば「キャベツの千切り瞑想」は、何も考えずにただキャベツを切る包丁の感覚に意識を向けます。単純な動作の繰り返しが、瞑想の効果を大きくします。
「納豆かきまぜ瞑想」は、ただひたすら納豆をかきまぜることに集中することで、頭の中から言葉を消し、心を澄ませていきます。起きていない未来や変えられない過去のことが頭から消え去ります。
同様にして「卵を溶く瞑想」「大根をすりおろす瞑想」「ネギを刻む瞑想」「靴を磨く瞑想」が紹介されています。
サウナがマインドフルネスに有効であることはよくいわれていますが、誰もがすぐにサウナに行くことはできません。そこで著者たちは「1分で整う手のひらサウナ」をおすすめしています。
これは氷を1かけら手のひらで握り、冷たさが我慢できなくなるまで握り続け、手を拭いてから胸にその手を当てるというものです。胸は冷たく感じますが、手はぽかぽかと温かくなっていきます。胸と手の両方に意識を向けると、頭のモヤモヤが消えていきます。
もうひとつのおすすめは、「スマホを置いて10分だけ散歩する」というものです。現代人はスマホが手放せませんが、あえてスマホと距離を置くことで、今まで気づかなかった周囲の景色が目に飛び込んできます。マインドフルネスの気づきのレベルがアップした証拠です。
「牛丼瞑想」という変わったワークもあります。これは、牛丼を食べるときに最初のひと口めを「玉ねぎだけ」と規制し、10秒間噛みしめるのです。これにより、「今、この瞬間」に意識を向ける訓練ができます。
「ルンバ瞑想」は、何もせずにただひたすらロボット掃除機の動きを目で追い続けるというものです。著者の知人は、これで失恋の痛手から立ち直ったそうです。
4章のサブタイトルは「心を鼓舞する」です。この章のまとめは次のようになっています。
【4章のまとめ】
・瞬間的に勢いを起こすのを「着火モメンタム」という
・人には感覚ごとに優位な感覚がある。自分に向いている感覚のワークでモメンタムを上げる
・「いつも元気で、何もしなくてもモメンタムが高い」と思われている人は、ルーティンで、モメンタムを高めている
・どれだけ小さくても、動き出すことで、やる気にスイッチが入る
・アウェアネスは、やる気の源。そして持続的な勢いづけの導火線
・「楽しい」「面白い」と思うことをやることが、モメンタムを高めるもっともシンプルな方法
心の勢いを作り出すモメンタムには、「着火モメンタム」と「燃焼モメンタム」の2種類があります。そして、モメンタムを高める方法は、その人の五感にどのような特徴があるかによって違います。著者の一人である恩田氏は、「マジンガーZ」の主題歌を聞くと火が着くタイプだそうです。
そして、心の勢いがつきにくい時には、行動の範囲をより小さくして手をつけます。いったん行動してしまうと、ドーパミンが出てやる気のスイッチが入ります。
5章は「燃焼モメンタムを焚く」というサブタイトルがついた章です。着火モメンタムで種火を起こした「やる気」を、持続的な「心の勢い」に変えていきます。ここのまとめは、次のようになっています。
【5章のまとめ】
・人の感情は「熱しやすく冷めやすい」。持続的にやる気を引き出すのが「燃焼モメンタム」
・行動し続ける人であるためには、やはり行動のもととなる「思い」を持っているかが大切
・「達成が難しそうな目標を、思い切って掲げる」とそれを実現するための、具体的な行動が見えてくる
・予測のしすぎは感動のレベルを著しく下げる。期待はできるだけ小さくしておいたほうが、感動は大きくなる
・モメンタムを高め、生き生きとして人生を送るために、非効率的なことをする“逆タイパ”がいい
・私たちはもう、強い意志を持たないと「休む」ことも、「遊ぶ」こともできない。休みや遊びは、ちゃんと予定表に書き入れる
・自分自身をまるで物語の登場人物のように扱うことで、生々しい感情から距離をとり、心を落ち着かせる
そして最後の6章は、本書全体のまとめになっています。
【6章のまとめ】
・行動できない人の多くは、たとえ「やりたいこと」があったとしても、「面倒くさい」「どうせ楽しくない」などと、口に出す前に否定するクセを持っている
・楽観はポジティブに考えようとするのではなく、ポジティブな状態になるように行動を起こすこと
・悲観に囚われる人は「過剰な達成度」を設定したり、「自分の行動が制御不可能」になることから生じる
・「結果ではなく、行動するプロセスそれ自体を楽しめる」と他人と比較しても落ち込まない
・「自分を大切にして」心を温かく満たすことが、楽観的な心の土台になる
・人間は不完全な生き物。減点しようと思えば、いくらでも減点できる
・他人のために行動しても消耗しない、「利他の心」を手に入れる
6章の最後で、著者たちは「認知の履歴書」を書くことをすすめています。書くという行為は自己認識力を促す効果が高いので、どんな経験を経て今の考え方になったのかを記すことで心の棚卸しができます。
(1)「すぐ動けない」原因となっている認知の内容と、その根拠になっているかもしれない出来事を書き出します
(2)根拠に対して、一つひとつ反論します
この繰り返しで、「すぐ動けない」原因となっていた認知が少しずつ和らいでいきます。
同時に「できたこと日記」も自己受容(セルフ・アクセプタンス)を高めるワークとして推奨されています。これは寝る前に「今日できたこと」を3つ、メモ帳に箇条書きするだけという簡単なものです。
ついつい先延ばししてしまうクセを感じている人にぜひ読んでいただきたい本です。