オススメ参考書~読んだら即実践してみよう!

ひと言でまとめる技術 言語化力・伝達力・要約力がぜんぶ身につく31のコツ

勝浦雅彦・著/アスコム・刊

1,617円(キンドル版・税込)/1,650円(紙版・税込)

自己啓発書や健康書、ビジネス書がお得意のアスコムの本です。この出版社はテレビを使ったメディア戦略がお得意で、そのための担当者がいるくらいです。本の出版前からテレビのディレクターと接触して、番組に著者を出させたりして本の宣伝を巧みに行っています。まだ原稿が1文字も出来上がっていない企画段階での折衝なので、成立する確率が高いのだそうです。

著者は電通のコピーライターで、ほかに法政大学特別講師と宣伝会議講師という肩書があります。読売広告社、電通九州、電通東日本、と広告代理店を渡り歩き、現在は電通のコピーライター、クリエイティブディレクターとして活躍中です。著書に『つながるための言葉』(光文社)があります。

巻末の「おわりに」に、本書の発刊につながる著者の体験談が載っていました。18歳の高校生のころの出来事です。著者は暑い夏の夜、日課のランニングで自宅近くを走っている時、電柱に衝突して大破している乗用車を目撃します。運転席では血だらけの男性がわずかに体を動かしていました。

「早くしないとこの人が死んでしまう!」と著者は慌てましたが、周囲には民家はなく、公衆電話も見つかりません。とっさに著者は来た道を全速力で走り、自宅に駆け込みました。自宅の電話で救急車を呼ぶのが一番早いと判断したからです。

著者はその時の自宅への道のりを、今でもはっきり覚えているといいます。不思議なことに息を切らすこともなく、体中に見えないオーラのようなものをまとい、夜の空気を切り裂きながら走っているような気がしたそうです。

極限までの緊張の中で、著者は冷静に次のことを考えていました。「119番して、事故の状況を確実に、正確に、短い言葉で説明しなければならない。そうしないとあの人は死んでしまう」と。

著者は119をダイヤルすると、次の内容を話しました。「事故です。○○町○○の貯水槽東側の道路で、1台の車が電柱に突っ込んで破損しています。運転席で負傷した運転手が血を流しています。体を揺らしていたので生きていると思います。僕は○○町の勝浦雅彦です。ランニング中に事故を発見し、自宅に戻ってこの電話をかけています」

自分でも驚くくらい、すらすらと言葉が出たと著者は言います。全速力で駆け抜けた時間の中で、どうやって伝えたら場所と事故の状況が間違いなく伝わるかを考え続けていたからかもしれません。

事故現場に戻った著者は、警察官から事情聴取されたあとで、褒められました。
「通報、ありがとうございました。この場所、説明しづらかったでしょうに、よくその年で冷静に話せましたね。おかげで迅速に対応できました。運転手の方も命に別状はないようですよ」

著者が言うには、これが人生において「ひと言でまとめる」ということの重要性に初めて気づいた瞬間だったそうです。正確に、簡潔に言いたいことをまとめるという技術は、人の命を救うこともあるわけです。

「おわりに」にはこのエピソードに続けて、次のような著者の言葉が綴られています。
***
この本を手に取ったあなたは、「人前に出ると何を話していいかわからない」とか、「うまく考えがまとまらない」とか、「ダラダラと長く要領を得ない話をしてしまう」とか、そんな悩みを持っている方だったはずです。でも、それが人の生き死ににまで影響するなんて、考えたこともなかったのでは? 確かに私の体験は極端な例ですが、一方、心から本気にならないと、人はなかなか学ぼうとしないというのも変わらない習性だと思います。私は本書を「本気に、ひと言で伝えたい人」のために書きました。
***

それでは、本書の目次を紹介します。
・この本を手に取ったあなたに知っておいてほしいこと
・第1章 なぜあなたはひと言でまとめたいのか?
・第2章 ひと言でまとめるために、捨てる
・第3章 ひと言でまとめるための思考と法則
・第4章 さあ、ひと言でまとめよう
・おわりに

本書は「まえがき」の代わりに「この本を手に取ったあなたに知っておいてほしいこと」というタイトルの前説が8ページほどありますが、その前に「プロローグ」というか、「この本のまとめ」的なものがさらに8ページついています。そのため、目次に到達するまでにかなりのページがあるというのが第一印象です。これは、アスコムの本によくある形式です。

最初のまとめページは、こんな内容です。8ページを凝縮してご紹介します。
***
「あなたは人からこんな指摘をされたことがありませんか……?」
話している相手から「何が言いたいのかわからない」と言われてしまった。
メールの文章が長すぎて、肝心な要件が伝わっていなかった。
取引先の要望がありすぎて、どれを上司に伝えればいいのか……
先日の打ち合わせではAに決まったけど、自分はBのほうがいいと思ってるんだけど……
うちの会社の売りは低価格だと思うんだけど、機能性も伝えたほうがいいかも……
頭のなかにあることを、うまくまとめて伝えられたらいいのに……
でも、「ひと言でまとめる技術」を習得すれば……?
1 捨てる
2 まとめる
3 伝える
仕事はスムーズになり効率も大幅に改善。何より「伝わらない」がなくなる!
まずは「どれを残し」「何を捨てるのか」を判断するコツを手に入れましょう。
そのための方法をこれからお伝えしていきます。
***

著者が本書で言いたいことの大筋がつかめたかと思います。要するに、「ひと言でまとめる技術」とは、「捨てる」「まとめる」「伝える」の3つがカギであるということです。

次の前書き部分から、太字になっている部分を含む文章を抜き書きしてみます。
***
私は本書を、「言いたいことはあるけれど、言葉がうまくまとまらない人」のために書きました。

「ひと言でまとめる技術」とはずばり、言葉を「短く」し、「要約した状態」で相手に伝える技術です。

のちの章でも解説しますが、物事をわかりやすく説明するためには、小学校までに習った言葉で十分なのです。

ある研究によれば、現代社会にあふれている「情報」の量は、インターネットの登場を機に爆発的に増加し、江戸時代の1年分、平安時代の一生分の情報が、現代社会のたった1日で生まれ、消費されているそうです。

大量の情報におぼれないために、「伝えるべき情報は何かを自分の頭で考え、ひと言にまとめていく練習」が必要です。

私はベンチャー企業のお手伝いもしていますが、優れた技術やあっと驚く特許を持っていても、自分たちのよさをうまく伝えられていないケースがとても多いです。なぜなら、企業も人間と同じで自分のことを客観的に見るのは苦手だからです。
***

ここで、著者は自分たちのようなコピーライターの仕事を次のように簡潔にまとめています。

客観的に

その技術によって幸せになる人の目線に立ち

誰もが理解できるかたちで

ひと言でまとめて、世に打ち出していく

著者は「本当に伝えたいことは、ひと言でまとめられる」と断言しています。たとえば朝礼の訓示の受けが悪いと相談してきた社長に、著者は「5分限定でひとつの話題しか話さない」という縛りをかけることをアドバイスしました。すると、社員の受けがよくなり、社長の話をしっかり覚えてもらえるようになったとのことです。

さて、いよいよ本文に入ります。本書は目次が非常に細かくて、各章の中見出し、小見出しまでが掲載されています。それを拾い読みするだけでも、その章で著者の言いたいことが大体見えてきます。第1章はこんな感じです。

***
第1章 なぜあなたはひと言でまとめたいのか?
■ひと言でまとめる前に、まずは自分を知り、相手を知る
・ひと言でまとめるための「8つのプロセス」を知る
・「観察力」と「洞察力」の違い
・プロセス8
・人間関係を発展させる
・人間関係の「発展」と「崩壊」には5段階ある
***

「8つのプロセス」について、今すぐ知りたい方もおられるでしょうから、ネタバレになりますが紹介しておきましょう。
(1)勇気(言う気)を持つ
(2)自分を知る
(3)伝えたい相手を知る
(4)目的地を明確化する
(5)「コア」を探す
(6)ばっさり捨てる
(7)相手がどう動いたかを観察する
(8)人間関係を発展させる

ここで著者からのクイズが出題されます。「伝える」と「伝わる」の違いとは? が問題です。

答えは、「伝える」が行為であるのに対して、「伝わる」は状態であるというものです。英語にすれば、伝えるはTELL、伝わるはGETとなります。相手がゲットしなければ、伝わったことにならないわけです。

第2章の中見出しと小見出しは次のようになっています。
***
第2章 ひと言でまとめるために、捨てる
■「捨てる技術」を身につけて伝え方をアップデートする
・「捨てる」と「残す」を見極める
・捨てる技術その1 「解釈」を捨てる
・捨てる技術その2 「感情」を捨てる
・捨てる技術その3 「自分だけ得するトーク」を捨てる
・捨てる技術その4 「個人的な意見」を捨てる
・捨てる技術その5 「曖昧なゴール」を捨てる
・捨てる技術その6 「ぼやけた全体像」を捨てる
・捨てる技術その7 「曖昧な返答」を捨てる
・捨てる技術その8 「抽象的な説明」を捨てる
・捨てる技術その9 「難解な専門用語」を捨てる
・捨てる技術その10 「言い訳」を捨てる
・捨てる技術その11 「完全無欠なプラン」を捨てる
・捨てる技術その12 「問い詰める質問」を捨てる
・捨てる技術その13 「事実の羅列」を捨てる
***

「解釈」を捨てるとは、どういうことでしょうか。物事には「事実」があり、「それをどのように受け止めたか」という「解釈」がありますが、個人の感想である「解釈」は相手に伝えないということです。

たとえば、「雨が降っている」は事実ですが、「今日は天気が悪い」は解釈です。物事をわかりやすく簡潔に伝えるためには、まず自分の思い込みである「解釈」を排除しなければなりません。

「自分だけ得するトーク」とは、相手が言ってほしいことを言わずに、自分の言いたいことばかり言うことです。言葉を発する前に相手をよく見ることで、自分も相手も得をするトークが形成できます。

「曖昧なゴール」とは、政治家がよく使う「永田町用語」のような難解で意味のわかりづらい言葉を使うのではなく、自分の意思を明確に伝えるためのわかりやすい言葉を使うべきだという話です。

「スピード感を持って改善」「極めて遺憾」「注視」などはよく使われますが、具体的にどんな行動が伴うのかはわかりません。責任を取りたくない、謝罪したくない、ごまかしたいという気持ちが透けて見えることは、避けるべきです。

相手に伝わりやすい話の流れは、「全体像の提示」「具体的な提示」の順に話すことです。そのためには、最初に提示される全体像が明確なものでなければなりません。もしも「ぼやけた全体像」が話の中に入っているのであれば、明快な全体像と差し替えることで改善できます。

「難解な専門用語」を捨てるとは、一部の専門知識を有する人にしかわからない言葉を使わないということです。ここで著者は「世の中の9割は素人である」という格言を引き合いにして、わかりやすい説明を心がけることの大事さを強調しています。

「問い詰める質問」を捨てるでは、著者から「選択肢を与えない質問はしない」という提案がなされます。「選択肢のない状況に対して、人は判断できないことが多い」からです。

第3章の中見出しと小見出しは次のようになっています。
***
第3章 ひと言でまとめるための思考と法則
■ひと言でまとめるために必要な「適切な物の考え方」とは?
その1 「つまり」思考法
その2 20文字の法則
その3 W問いかけ法
その4 KISS思考法
その5 三感法
その6 スパイシーサンド法
その7 ポジティブ変換法
その8 アスリート式伝達法
その9 瞬間最大描写法
その10 ネーミングの法則
その11 たとえ思考法
***

「つまり」思考法とは、上手に概念をまとめられない人に著者がおすすめしている考え方です。「つまり、それってどういうこと?」という問いかけを自分自身に繰り返すことで、「ひと言でまとめる」プロセスを実現してしまいます。

自分の伝えたいことを紙に書き、それに「つまりどういうこと?」と問いかけます。出てきた答えがひと言になるまで、それを繰り返します。著者自身は、こうやって広告コピーを案出しているそうです。

「20文字の法則」は、過去の名キャッチコピーがほとんど20文字以内で構成されていることにヒントを得て著者が考えたものです。
「お口の恋人」(ロッテ)
「おしりだって、洗ってほしい。」(TOTO)
「目の付けどころがシャープでしょ。」(シャープ)
などが好例です。

「W問いかけ法」は、「つまり」思考法の発展形です。最初に「誰に、何を、なぜ伝えたいか」を問いかけ、次に「つまりこういう言葉なら伝わるはずだ」とアイデアを練ります。

「KISS思考法」はKISS=Keep It Simple, Stupid(シンプルに、愚鈍にせよ)という言葉を前面に出して、簡潔にわかりやすい提案を作り上げる考え方です。

「三感法」とは、「共感」「実感」「快感」の3つを連続して相手に与え、気持ちよくわかってもらうようにする方法です。
「スパイシーサンド法」とは、「強烈な提示」+「なぜそうなったのか」+「結論」の三層構造のことです。記号にすると「!」「?」「。」となります。この順序で話を組み立てると、内容が伝わりやすくなります。

「ポジティブ変換法」とは、すべての物事をいいように捉えるものの見方です。一見ネガティブな事実でも、視点を変えれば相手を楽しませる言い方ができるはずです。

「アスリート式伝達法」は、伝え方をスポーツだと思って取り組むやり方です。頭で考えるだけでなく、体を使って言葉を絞り出すイメージでトレーニングします。

「瞬間最大描写法」は、相手の頭に映像が浮かぶように伝える方法です。最も伝えたい部分をワンシーンとして絵が浮かぶように話し、相手に印象づけます。

「ネーミングの法則」は、複雑な状況やまとめづらい状態に名前を付けて、理解しやすくする方法です。コピーライターが最も得意とする手法です。

「たとえ思考法」は、たとえ話で理解を得る方法です。相手が理解しづらいものを違う言葉でたとえることにより、記憶に残りやすくします。

第4章はひと言でまとめるための実践編ですが、ここまで読んで興味を持った方は、ぜひ本書でご確認ください。コピーライターがどんなふうに伝わりやすい情報を加工しているのか、その一端がわかる本です。


 

Copyright (C) 2004-2006 OCHANOKO-NET All Rights Reserved.