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いたいコンサル すごいコンサル 究極の参謀を見抜く「10の質問」

長谷部智也・著/日本経済新聞出版・刊

970円(キンドル版・税込)/1,180円(紙版・税込)

タイトルの「すごいコンサル」については解説の必要はないと思いますが、「いたいコンサル」は現代でなければ通用しない表現でしょう。

少し前に「痛車」というものがありました。愛車にアニメキャラなどを派手にペインティングしたものを指す言葉で、「いたしゃ」と発音しました。「イタ車=イタリア車」との語呂合わせと思われます。

ここで使われる「いたい」という表現は、「はたから見ていて、もし自分だったら恥ずかしくて耐えられない状況にいる人または物」を表します。年齢にふさわしくない格好を喜々として楽しんでいる人、クサいセリフを真面目に口にしてしまう人、笑えないおやじギャグを連発する人などが相当します。

ということは、本書のタイトルに出てくる「いたいコンサル」とは、「能力が不足しているのに自分ではそのことに気がつかず、表面的に格好良く振る舞っているコンサルタント」ということになるのでしょう。

冒頭でも触れたように、現代の日本社会ではコンサルタントという商売は珍しいものではなくなりました。その結果、玉石混淆、つまり個人の能力差がとても大きくなってしまい、クライアントはそこを見抜かないと望む結果が得られないどころか、被害を受けてしまう可能性もあるという状況になりました。

本書はそんなクライアントのために、簡単な「10の質問」で目の前のコンサルタントが信頼するに値する人物なのかどうかを調べることができるというものです。

著者の略歴は以下のようになっています。北海道札幌市生まれ。東京工業大学大学院修了、ミシガン大学ビジネススクール修了(MBA Essentials for Executive Education)。三井住友銀行を経て、コンサルティング業界に転じ、A.T.カーニー、べイン・アンド・カンパニーで16年に及ぶコンサルティングを経験。べインでは日本支社のパートナーとして、金融プラクティス、業績改善プラクティスをリード。ベイン退社後、国内大手総合アパレルの株式会社TSIホールディングス上席執行役員を経て、同社特別顧問。2016年からクレジットカード国際ブランド企業の経営職に就く。著書に『企業価値4倍のマネジメント』(共著、日本経済新聞出版社)、ビジネス誌(ハーバードビジネスレビュー他)、金融業界誌(金融財政事情、金融ジャーナル他)への寄稿多数。経済同友会会員、IMA(国際経営者協会)理事。

「はじめに」で著者は、本書執筆の動機を次のように書いています。
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見た目が格好良く、仕立ての良いスーツを身にまとい、話がやたらとうまく、実年齢よりも年上に見られるように髭を生やしていたり、「人間的な奥深さ」を演出するために、文化や歴史に造詣が深く、教養豊かであったりするコンサルタントには注意が必要である。コンサルタントの表面的な格好良さに惑わされると、痛い目にあってしまう「交通事故リスク」が、昔よりもかなり高くなっている。
その一方で、私のコンサルタントとしての経験と、事業会社でコンサルタントを実際に起用する側の経験、その両方を通じて実感するのは、腕が確かな「本物」のコンサルタントを賢く起用すれば、財務的な成果を出す上で大きな助けになる。(中略)
本書は、企業で経営戦略を立案する立場の方で、戦略の構築に外資系コンサルティング会社を初めて起用してみようとお考えの方、すでにコンサルティング会社を何度か起用し、実はもっと「結果の出せる」コンサルティング会社やコンサルタントに巡り合うことができたのではないだろうか、と漠然とした疑問をお持ちの方のお役に立てると考えている。
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通常ならここで本書の目次を紹介し、それに沿って内容を見ていくのですが、本書は通常の書籍のような「章立て」がありません。コンサルティング業界の歴史をさらっと紹介する「序章」の次は、いきなり「10の質問」が続き、これが本書の大部分を占めています。最後に「コンサルティング業界の内憂外患」という章で、コンサルティング業界の内実を赤裸々に紹介しています。

「序章」で著者は、日本のコンサルティング業界を4つの時代に分けて説明しています。
・第1世代(1980年~)
・第2世代(1990年~)
・第3世代(2000年~)
・第4世代(2010年~)

第1世代はアメリカ流の分析技術と論理的思考法、欧米の先進事例を日本企業に持ち込んだ「異分子」の時代です。まだ「コンサルタント」という職業が知名度を得ておらず、「変わり者だがすごい人」という扱いを受けていました。

第2世代は企業経営者に刺激的な面白い話をしてくれる「一流企業出身の異分子」の時代です。コンサルタントとしては起業家的な立場の人たちで、自身の能力が企業の枠に合わずに飛び出してきた人が多かったようです。

第3世代はコンサルタントがエリートの立場を得ていく時代です。実際に高学歴を誇り、クライアントに論理的正解と財務的成果をもたらす救世主として待望されました。

第4世代は、コンサルタント大衆化の時代です。本物のエリートだけでなく、エセエリートやハリボテコンサルなど有象無象が口先八丁で跋扈しだします。それに伴って、クライアント側もコンサルタントを「参謀」から「下請け業者」として見始めます。

コンサルタント大衆化の時代になって、どんなことが起きているのか、著者はいくつか例を挙げています。
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さまざまなテーマのプロジェクトが社内の各所で走りすぎて、起用者であるクライアント企業の社長が、そのコンサルティング会社に年間総額いくら支払っているか、もはや認識していないような場合もある。
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IT系や会計系のコンサルティング会社の報告書と、戦略系コンサルティング会社の報告書を見比べても、コンサルティング会社の「社名」を隠されると、提言の質の違いが判別不能なこともある。
実際、腕が確かな会計系コンサルティング会社の戦略構築プロジェクトの報告書の方が、「いたい」戦略系コンサルティング会社の報告書よりも質が良かったりする、いわば逆転現象も起こっている。
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一方、戦略系とIT系、会計系でコンサルティングの報酬水準には依然2~3倍の開きがある。戦略系とIT系、会計系の提供サービスが「同質化」してしまった環境下、戦略系コンサルティング会社は、そのブランドや看板、シニアパートナーがCEOと大所高所の視点で対話できるといった提供価値で、価格プレミアムを何とか説明しようと懸命である。
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そうしたコンサルタント大衆化の時代にあって、クライアントの悩みは「いかに優秀なコンサルタントを見極めるか」につきます。コンサルタントは会計士、税理士、弁護士などの「士業」と違い、必要な国家資格がありません。そのためコンサルタント会社の知名度くらいしか判断材料がないことになります。

「友人、知人の紹介」というのもコンサルタント起用のきっかけになりますが、コンサルタントはもともとマッチングの要素が大きく、紹介元で成果を挙げたからといって、こちらで同様に成果を挙げられるかは未知数です。また個人のスキル差も大きいため、同じコンサルタント会社でも担当者によっては「ハズレ」となることもあり得ます。

そして、終了したプロジェクトの効果検証も簡単ではありません。戦略構築のプロジェクトで財務的成果が十分に出なかったとしても、その原因がどこにあるかを切り分けるのは容易ではないからです。提言された戦略が間違っていたのか、方向がずれていたのか、外部環境が想定以上に変わってしまったのか、社内事情で提言された施策が十分に実行できなかったのか、それらの要素が複雑に絡み合ったのか。

著者はそうしたコンサル選びの難しさを十分に知っていたことから、クライアントの立場で誰もが目の前のコンサルタントを審査できる「10の質問」をまとめました。以下、紹介していきます。

【質問1】
「わが社の属する業界の歴史と構造変化をどう見ていますか?」
→「業界構造」に精通しているか?

【質問2】
「今回お願いするプロジェクトの最終提言の仮説は何ですか?」
→最終提言を「第0日に30秒」で語れるか?

【質問3】
「わが社の中期経営計画で鍵となる施策とその利益効果の根拠は何ですか?」
→どんな数字も「自由自在に」つくれるか?

【質問4】
「わが社が競合に勝つために取るべき最も重要なアクションは何ですか?」
→能書きではなく「アクション」至上主義か?

【質問5】
「わが社の周辺事業への展開についてどうお考えですか?」
→すらすらと「定石」が出てくるか?

【質問6】
「現在のわが社の戦略で誤っている点、見逃している点は何ですか?」
→「直言」できるか?

【質問7】
「わが社の『意思決定プロセスの特徴』をどう見ていますか?」
→組織の「空気感」が分かるか?

【質問8】
「今回のプロジェクトは成功報酬でお支払いしてもよろしいですか?」
→「成功報酬」を歓迎するか?

【質問9】
「過去のプロジェクトで最長のもの、最大の効果を出したものは何ですか?」
→「長いプロジェクト」経験が多いか?

【質問10】
「今回のプロジェクトにあなた自身は、どれだけの時間を使ってもらえますか?」
→「パートナー」がしっかりと時間を使うか?

これらの質問は、起用を検討しているコンサルタントに適切なタイミングで尋ねることで効果が得られます。以下に各質問に対する著者が考えた答えのポイントを列記します。

【質問1】
「わが社の属する業界の歴史と構造変化をどう見ていますか?」

最初にこの質問をするのは、業界構造変化の理解なしにコンサルティングは不可能だからです。コンサルタントは事実関係の調査、情報収集、現場のインタビュー、定量分析のデザイン、初期仮説の構築、仮説の進化、提言の導出、コミュニケーションのための資料作成、プレゼンテーションといった方法論を身につけ、それをクライアントの業界に適用して価値を提供する仕事です。

コンサルティング黎明期は、この方法論自体が新鮮であったため、クライアント業界の知識が大してなくても、方法論だけで価値を出せていた部分もありました。しかし現在では、クライアント業界の歴史や構造変化に対する深い理解なくして「正しい答え」を導くことはできなくなっています。

さらに追い討ちをかける質問として、著者は次のことを用意しています。
「うちの業界の業態寿命についてどうお考えですか? 国内外での業界の歴史や業界構造の変化、その中でのわが社の立ち位置など、わが社が戦略を構築するにあたり、外部環境変化について何を考慮すべきだとお考えですか?」

この質問に対しての答えをチェックするポイントは、「市場シェア対利益率で見た競合上のポジショニングなどの考え方を駆使し、分析的な視点で語れるか。また、プロフィットプール、バリューチェーンの変遷、業界の歴史的な動きを正しく理解し、その変化がなぜ起こったのかについて自分なりの見解を持っているかどうか」です。

自分で勉強せず、目先のプロジェクトの作業だけにあくせくしているようなコンサルタントの場合、言葉に窮してしまうだろうと著者は見ています。

【質問2】
「今回お願いするプロジェクトの最終提言の仮説は何ですか?」

次の質問は「エレベータートークができるか?」のテストです。エレベータートークとは、クライアントの社長と偶然エレベーターで乗り合わせた時、「わが社の課題と解決策は何かね?」と問われて30秒で大事なポイントを語れるかというもので、コンサルタントの重要な資質を問うものです。

これができるためには、「コンサルタントとして常に仮説を持ち、それが簡潔に頭の中で整理されており、いつでも即答できる。さらにその仮説を日々のプロジェクトの事実収集とともに進化させていく」というコンサルタントの基本動作が必要です。

この質問の答えに対する評価ポイントは「まあこんな感じかなあ。一般論ではなく業界の事情をよく分かっているなあ」と思えるかどうかです。そういう納得感のある答えが簡潔に出てくれば、そのコンサルタントは有望といえます。

逆に業界の一般論に終始したり、話があちらこちらに飛んだり、事実や知識の羅列に過ぎなかったり、聞いただけで自社では到底アクションが取れなさそうな現実感のないことばかりを並べ立てるコンサルタントの起用は、避けるべきだと著者は言っています。

【質問3】
わが社の中期経営計画で鍵となる施策とその利益効果の根拠は何ですか?」

著者の言う「コンサルタントがクライアントに提言をする上での思考の第一歩」は、物事をシンプルな四則演算で因数分解することです。因数分解ができたら、次はその各要素について具体的な改善アクションを考えていきます。

したがってこの質問に続けて「わが社の中期経営計画で3年後に達成を掲げている営業利益×億円を、直近の営業利益○億円を発射台にして、仮説でいいので施策の効果の積み上げを概算してもらえますか?」と尋ねれば、そのコンサルタントの因数分解の方法や個々の施策の効果試算の積み上げ方法がわかります。

【質問4】
「わが社が競合に勝つために取るべき最も重要なアクションは何ですか?」

コンサルタントはプレゼンテーションに気合いを入れて臨む傾向があります。あたかも自身の「作品発表会」のように捉えて綿密に準備をする場合もあります。

しかし、クライアントに強いインパクトを与えたいと考えるあまりに、プレゼンテーション自体が目的化していることがあります。また、合宿で参加メンバーを「洗脳」してしまうようなプレゼンテーションも散見されます。

財務的成果につながるアクションの提言ができるコンサルタントかどうかを見極めるには「わが社として、明日の朝からでもすぐに取るべき最も重要なアクションは何ですか?」と尋ねてみることです。本当にクライアントのことを考え抜いているコンサルタントであれば、シンプルなアクションを即答できるはずであると著者は言います。

以下、まだまだ質問とポイントの解説は続きますが、くわしく知りたい方はぜひ本書でお確かめください。コンサルタント側にとっても、クライアント側にとっても、いろいろと勉強になる1冊です。


 

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