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著者の山﨑圭一氏は福岡県立高校の現役教師です。早稲田大学教育学部を卒業後、埼玉県立の高校教師を経て現職となりました。YouTuberになったきっかけは、昔の教え子から「もう一度、先生の世界史の授業を受けたい」と言われたことだそうです。
そしてYouTubeでの授業の動画配信を決意し、2016年から200回にわたる「世界史20話プロジェクト」の配信を開始しました。現在では世界史だけでなく、日本史や地理の授業動画も公開しており、これまでに配信した動画は500本以上だそうです。
そんな山﨑先生の世界史授業の特徴は、「年号や年代をいっさい使わないこと」。歴史の授業といえば、日本史、世界史を問わず「年号の暗記」に苦しめられた経験のある人が多いと思いますが、この先生はエピソードをつないで説明することで、年号を使わない世界史の流れを説明しています。
「そっちを先に見たい」という方は、YouTubeで「ムンディ先生こと山﨑圭一」で検索していただけばいいですが、こちらは本書の紹介を続けます。
本書の特徴はほかにもあります。難しい概念や制度を理解しやすくするために、たくさんの図解が掲載されています。多国間の関係が図解によりひと目でわかります。
もちろん、世界史の本ですから地図もたくさん載っています。これにより、世界史の予備知識がほとんどない人にでも、その当時の世界情勢が手に取るように理解できます。
そして、ともすれば客観的な描写に終始しがちな世界史本とは違い、「主語」を明確にして解説しています。そこの説明ではどこの地域が主役なのかをはっきりさせて、理解がスムーズになるようにしています。
ちなみに、本書はシリーズ化されており、「経済」や「宗教」で語った世界史の本や、日本史の本もあります。シリーズ累計で100万部を突破しているそうです。
それでは本書の目次を紹介します。
・はじめに
・ホームルーム(1)
・ホームルーム(2)
・ホームルーム(3)
・ホームルーム(4)
・序章 人類の出現・文明の誕生
・第1章 ヨーロッパの歴史
・第2章 中東の歴史
・第3章 インドの歴史
・第4章 中国の歴史
・第5章 一体化する世界の時代
・第6章 革命の時代
・第7章 帝国主義と世界大戦の時代
・第8章 近代の中東・インド
・第9章 近代の中国
・第10章 現代の世界
・おわりに
・巻末付録
・教養としておさえておきたい文化史
・年号も覚えておきたい人のための世界史年表
「はじめに」の冒頭で、著者はYouTube授業を始めたきっかけを披瀝しています。そして850万回にのぼる総再生回数を数えた社会科教科全般の動画のうちで、「世界史」がダントツの人気であったと語っています。
なぜそうなったかについて、著者は「世界史の一般的な教科書はわかりにくい」と指摘しています。それにより、世界史の「あらすじ」が語れない人が続出しているというのです。
そこで著者は「1つのストーリーに基づいて世界史を解説する」というやり方を試みました。それが動画の視聴数になって表れたわけです。
ここで著者は、先にふれた本書の特徴でもある自身の教え方についてまとめています。
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(1)一般的な教科書とは違い、すべてを数珠つなぎにして「1つのストーリー」にしている
(2)「主語」が変わるのを最小限におさえている
(3)年号を使わない
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「序章」の前には4つの「ホームルーム」と名づけられた解説があります。最初のホームルーム(1)では、なぜ一般の世界史教科書がわかりにくいかについて説いています。
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次の図をみてください。高校で使われる、一般的な『世界史B』の教科書を前から順に読んだときの項目の流れです。(図版)縦に年代、横に地域を並べ、「学ぶ順番」を矢印で表しています。図から明らかなとおり、矢印があっちこっちに飛んでいるため、教科書をはじめから読んでも“全体像”がいっこうに頭に浮かびません。(中略)何を学んでいるのかさっぱりわからなくなって、その結果「覚える」ことが学習の中心となり、「世界史はつまらない暗記科目だ」という印象が身についてしまうことになっているのです。
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ホームルーム(2)では、世界史を“数珠つなぎ”で学ぶことを力説しています。
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(図版)さきほどの図と違って、矢印が、ヨーロッパから始まり、中東、インド、中国、大航海時代、近代、現代まで、“数珠つなぎ”になっているのがおわかりいただけると思います。(中略)簡潔に説明するとすれば、「最初にヨーロッパ、中東、インド、中国の4つの地域の歴史を個別に学んだあとに、大航海時代を通じて4つの地域が1つに合流。次に近代、現代を通じてヨーロッパ世界がアジアを中心とした世界に影響力を強めていく過程を学ぶ」ということになります。
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また、本書での工夫として、地域または王朝、国家などの「主役」の変化を最小限に留めて話を進めていくということがあります。
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一般的な世界史の教科書を一度でも読んだことのある人ならおわかりいただけると思いますが、文中で、めまぐるしく主語が変わります。あるページではヨーロッパの国々が「主語」になって語られ、数ページ進むと、今度は主語が中国になり、さらに数ページ進むと、いつのまにか中東の王朝が主語になっていたりします。(中略)地域や王朝などの「主語」があまりにも頻繁に変わってしまうと、「主語」を把握するだけで大きな負担がかかり、内容に集中しづらくなってしまいます。そのため、教科書をいくら読んでも、内容が頭に残らないのです。
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ホームルーム(3)では、本書で年号を一切使わない理由が語られています。
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なぜ私が年号を使わないかというと、“数珠つなぎ”にするときに年号はノイズ(雑音)になってしまうからです。私の授業では、学生たちによく昔ばなしの「桃太郎」を例に出して説明します。「桃太郎」は「おじいさん」「おばあさん」「柴刈り」「洗濯」「桃」「きび団子」「キジ」など、50ぐらいの用語で構成されています。日時や年号は出てきません。それでも、多くの人が、子供のときに読んだ桃太郎の話を大人になっても覚えていますよね。昔ばなしのように、数珠つなぎにされたシンプルなストーリーは、頭に残りやすいのです。
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著者は実際に、高校の学生たちにまず年号なしで世界史を学ばせ、大学受験の2か月前くらいに、本書の巻末付録に掲載している「センター試験に必要な84の年号」を覚えさせているそうです。
なんと、ほとんどの生徒が4、5日くらいで年号を完璧に覚えてしまうといいます。すべての知識を数珠つなぎに身につけたあとであれば、年号を頭に入れるのは簡単な作業になるわけです。
世界史を理解する時に問題になるのは、ヨーロッパと中東、中国の歴史をばらばらに覚えるために、どの年代に何が起こったかを全世界的に把握することがむずかしくなることです。
それについて著者は「中東を軸に整理すれば、年代は理解しやすくなる」といいます。中東が世界史の中で脇役になることが多く、地理的にヨーロッパと中国の間に位置するからです。それについての図も付記されています。
ホームルームの最後にあたる(4)では、本書の構成についての解説がなされています。本書は第5章を境に大きく前半と後半に分かれること、大航海時代以降、4つの地域が1つに合流することなどが示されます。その構成についても、ひと目でわかる図が掲載されています。
なお、本書にはアフリカと東南アジア、朝鮮半島、日本などの地域は取り上げられていません。それは、本書をできるだけコンパクトにまとめたいと意図した結果、ページ数が不足したためであると著者は述べています。
そしていよいよ本文に入ります。序章は「人類の出現・文明の誕生」です。といっても序章は扉ページを入れてもわずか5ページで、小見出しは「世界中で波紋を呼んだ! 南アフリカの化石」「人類の起源を一気にさかのぼらせた『猿人』」「アフリカから各地に『原人』が広がる」「人間“らしさ”を持ち始めた『旧人』」「『現在の私たち』とほぼ同じ姿の『新人』」「現代のライフスタイルの『出発地点』」「『最適ではない土地』だからこそ文明が発達」となります。
ここでは超スピードで700万年前の「猿人」、240万年前の「原人」、60万年前の「旧人」、20万年前の「新人」という人類の起源が語られます。
そして、1万年前に地球が温暖化して現在とほぼ同じ気候になったことにより、人類のライフスタイルがスタートします。狩猟・採集などの獲得経済、食料を自分で作って食べる生産経済が始まるのがこの時期です。
地球の温暖化により、中緯度地域は乾燥地が生まれ、人々は農業のために大河のほとりに密集します。その結果、都市が生まれ、古代文明の起点が誕生します。
次の第1章からは、「章のあらすじ」というまとめページが章扉のすぐ次におかれています。以下、各章のあらすじを見ていくことにします。
第1章 ヨーロッパの歴史のあらすじは、「『多様』と『統一』という相反する“顔”を持つヨーロッパ」です。
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ヨーロッパは、温暖な気候と高い生産力を持ち、古くから人口密集地域であることが特徴です。世界に大きな影響を与える大国が数多く出現し、国家や民族の激しい興亡が続いたことから、多様な言語や文化が生まれることになります。一方で、ヨーロッパは“共同体”という側面もあります。(中略)このように、ヨーロッパの歴史は、常に「多様」と「統一」という相反する2つの“顔”を交互に覗かせるのです。
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第2章 中東の歴史のあらすじは、「ヨーロッパのライバルとなる“超”広域国家が数多く誕生した中東」です。
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複数の民族が統合されて新しい国家ができては滅ぼされる、という歴史を繰り返す中で強大化する国が生まれ、移動路を使って瞬く間に領土を拡大することで、「超」がつくほど広大な国家へと成長します。(中略)中東で生まれた「超」広域国家は、しばしばヨーロッパ世界と衝突し、ヨーロッパ世界の「最大のライバル」になります。
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第3章 インドの歴史のあらすじは、「多様な民族、宗教、言語などをバラバラなままに包み込むインド」です。
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インドの最大の特徴は、「多様性をバラバラなままに包み込む」という価値観です。インドの気候は(中略)じつに多様で、また、民族、宗教、言語、生活習慣もバラバラです。そのため、身分階層をつくったヴァルナ制や、雑多な神々や儀礼を取り込んだヒンドゥー教、様々な宗教を統治に用いたインドの王朝など、常に「多様性」がインドの歴史を紐解くカギになるのです。
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第4章 中国の歴史のあらすじは、「皇帝の人間性に大きく左右されてきた中国の歴史」です。
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中国史の最重要キーワードは、「皇帝の人間性」です。広大な領域と膨大な人口を誇る中国では、ひとりの権力者に権力が集中しやすく、皇帝の人間性が統治にダイレクトに反映される場合が多いのです。そのため、優れた皇帝のもとでは中国の統治は安定し、反対に、愚かな皇帝であれば国が衰えるという歴史を繰り返します。
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第5章 一体化する世界の時代のあらすじは、「ヨーロッパ、中東、インド、中国が一体化する時代の幕開け」です。
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ここから、ヨーロッパ、中東、インド、中国の4つの地域が1つにつながり、お互いに影響を与え合う「世界史」が始まります。ヨーロッパ諸国が、我先にと争うように大西洋に飛び出し、植民地獲得争いや貿易を盛んに行うようになります。
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第6章 革命の時代のあらすじは、「『王の国家』から『人の国家』へ。国民が国を動かす時代の到来」です。
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本章では、産業革命、アメリカ独立革命、フランス革命、七月革命、二月革命、三月革命など、多くの「革命」が登場します。(中略)ヨーロッパの国々の世界進出が加速し、この時代の利害の対立がのちの世界大戦の“伏線”になるのです。
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第7章 帝国主義と世界大戦の時代のあらすじは、「なぜ、2つの世界大戦は起きてしまったのか?」です。
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本章のメインは、世界中を巻き込んだ2つの世界大戦です。大航海時代以来続いていた世界の一体化の動きが、帝国主義の登場により、さらに加速します。そして、産業革命を経て作られた資本主義経済体制は、あくなき市場獲得のための植民地獲得競争へと発展します。この競争の行き着く先には、第一次世界大戦、第二次世界大戦という人類史上未曾有の悲劇が待っていました。
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第8章 近代の中東・インドのあらすじは、「イギリスとロシアの争いに巻き込まれていった中東・インド」です。
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中東とインドは、近代において、ヨーロッパの列強に“支配される側”に回ることになります。(中略)南下を図るロシアに対し、エジプトやインド、中国などの支配を固めて、ロシアの南下阻止を図るイギリスとの間で勃発した植民地獲得競争に中東・インドが否応なく巻き込まれていきます。
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第9章 近代の中国のあらすじは「清王朝が衰退して新たな革命勢力が台頭」です。
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本章の主役は、中国最後の王朝となった清王朝と、清が倒されて成立した中華民国です。(中略)清の内部から何度も改革運動が起きますが、皇帝による支配という根本的な部分が変わらず、すべて中途半端に終わってしまいます。そして、最終的に清王朝の打倒と近代化、民主主義化を唱えた革命勢力が台頭し、新たな中国が誕生するのです。
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第10章 現代の世界のあらすじは、「世界を二分したアメリカとソ連のにらみ合い」です。
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いよいよ最終章は、第二次世界大戦後の世界です。主役は、アメリカとソ連です。(中略)第二次世界大戦以降、アメリカが資本主義、ソ連が社会主義をそれぞれ代表して、核兵器を持ってにらみ合い、「冷戦」といわれる世界を二分するほどの激しい対立を繰り広げるようになります。冷戦構造が終結すると、世界は多様化に向かいますが、冷戦の最中には見えなかった民族対立や新たな難問に世界が直面することになります。
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と、駆け足で紹介しましたが、「一度、世界史の知識を自分の中で整理しておきたい」と思うなら、ぜひおすすめの1冊です。