オススメ参考書~読んだら即実践してみよう!

カスタマーハラスメント撃退の教科書

加藤義樹・著/Clover出版・刊

1,870円(キンドル版・税込)/1,870円(紙版・税込)

電子版と紙版が同額ですが、今のところキンドル・アンリミテッドに登録されているので、入っている人ならすぐに無料で読むことができます。気になった本をとりあえずさらっと読んでみるにはいいですね。

版元であるClover出版は、2014年創業の若い出版社です。特徴は書籍の発行にとどまらず、ひとりのクリエイターから最大10パターンの商品やサービスをリリースしていることです。

一例を挙げると、書籍、オンライン教材、オンラインサロン、セミナー、講演会、物販、リトリート企画などのさまざまな形のプロダクトがあります。

創業者で会長の小川泰文氏は自身のnoteで、自社を「本の売り上げに依存しない経営体質」と説明しています。出版不況が叫ばれる中で、新しい出版事業の方向性を目指しているようです。

著者の加藤義樹氏はオフィス・エーゲ代表のクレームコンサルタントです。1972年名古屋市生まれで、建築・飲食業、携帯電話業界などのさまざまな職業を経験してきました。携帯電話業界では、大手一次代理店運営のキャリアショップにて窓口スタッフから店長、統括までを経験。特にクレームなどのトラブル対応を得意とし、2,500件以上の問題を解決しました。その後、クレームコンサルタントとしての活動を開始し、トラブル予防のための「先を読む接客術」「トラブル発生時の対応術」「クレーマー・カスタマーハラスメント対応&撃退法」のスペシャリストとして名を広めています。

それでは、目次を紹介していきましょう。
・はじめに
・chapter 0 プロローグ
~「クレームはチャンス!」はキレイゴト??
・chapter 1 クレームゼロは不可能です!
【基本と前提】
・chapter 2 クレーマーを見極める!
【お客さま8タイプ】
・chapter 3 「出るとこ出るぞ!」と言われたら?
【実践!状況別対応法】
・chapter 4 あなたはもはやお客さまではありません!
【実践!クレーマー撃退法】
・chapter 5 ストレスゼロも不可能です!
【クレームに負けない体質づくり】
・chapter 6 事件は現場で起きている!
【実録!トラブル事件簿】
・chapter 7 「何かあったら謝ればいい」は危険!
【クレーム予防・7つの基本】
・chapter 8 クレームは予防が8割!
【クレーム予防の3要素】
・chapter 9 エピローグ
~AIにクレーム対応は不可能!?
・おわりに
・【巻末付録(1)(2)】
「究極のテクニック実践シート」フォーマット・記載例
・【巻末付録(3)】
トラブらないために! 危険なワード10選

「はじめに」に次のような興味深い文章がありました。
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問題はこの「正当なクレーム」と「クレーマー・カスタマーハラスメント(カスハラ)」との境界線はどこで、その見極めはどうしたらいいのか? ということです。これを見誤って大炎上、というケースも多いのです。そして忘れてはならないのが、現場のスタッフさんにとってこうしたクレームの対応をすることは、それも仕事の一つとはいえ、肉体的にも精神的にもかなりの負担になるということです。
***

著者はその結論として「対応する側(会社・お店・スタッフさん)のスキルを上げるしかない」と言い切っています。そして本書がその手伝いであると語っています。

「悪いのは言いがかりを付けてくる客の方なのに、こちらに負担がかかるのか」と理不尽に思う気持ちもわかりますが、不特定多数の相手にいちいち手間をかけてケンカをするわけにもいきません。それによって損をするのはこちらの方なのですから。

著者は組織の大小に関係なく、「クレームなどのトラブルに強い組織づくり」が必須であると言います。そしてそのスタートは現場ではなく、「経営層のマインドと中間管理職のスキルアップ」から始まると指摘しています。それができていなければ、現場スタッフさんたちに「クレームを起こすな!」「現場で解決しろ!」と命じても意味がないからです。

なお、本書のタイトルは「撃退の教科書」ですが、著者は最初から「撃退」することを推奨しているわけではありません。その手前に「予防」「発生した場合の適切な対応」「正当かそうでないかの見極め」「解決のために全力を尽くす」という段階があります。本書のテーマのひとつは、その段階のスキルアップでもあります。

本書を読んだ方々がスキルアップを果たすことにより、クレーマーやカスタマーハラスメントによる事件が減ることこそが、タイトルで謳われている「撃退」の根本的なあり方であると著者は説明しています。

ではchapter1から順に見ていくことにしましょう。

1-2で、著者は「クレームゼロは不可能と腹を括る」と述べています。ここでの著者のアドバイスは次の3点です。
(1)クレームは絶対になくならない
(2)常に最悪を想定しつつ最善を望むスタンスでいる
(3)クレーム予防&対応の必殺技はない

上記の3点、特に「必殺技はない」と突き放されると、目の前が暗くなってしまいますが、それは「近道はない」と言っているにすぎません。大事なのは実体験でも本を読んでの疑似体験でもいいので、知識と経験と努力を積み重ねることでスキルを磨き、自分独自のスタイルを身につけることだと著者は言います。

chapter 2では、「クレーマーを見極める」と題して、クレーマーを8つのタイプに分類して解説しています。

まず大分類として「理屈型」「感情型」「純粋型」の3タイプに分けます。そして「理屈型」を「理論型」「世直し型」「権力型」の3タイプに、「感情型」を「シアター型」「自己都合型」「激情型」「不安定型」の4タイプに分けます。これで合計8タイプの分類ができました。

最初に「理論型」です。これは感情的にならずに落ち着いた様子で淡々と理屈で攻めてくるタイプです。要求や主張も理論的で、相手にも理論的な説明を求める傾向が強いです。

このタイプは悪意がなければ丁寧な話し合いで比較的スムーズに解決できることが多いそうですが、悪意がある場合はこちらの説明の矛盾点を突いてきたり、カタログの隅の小さな文字までいちいち説明を求めたりと面倒な展開になることがあります。

次に「世直し型」です。「理論型」に似ていますが、「○○のためを思って言ってるんだ」というキーワードが出てくるところが特徴です。ある意味正義感の強いタイプで、ナルシシズムを感じることも多いようです。

このタイプも悪意がある場合には厄介で、言い方や態度が気に入らないと、そこに突っ込んでくる傾向があります。

続いて「権力型」です。このタイプはさらに「権力タイプ」と「マウントタイプ」の2つに分かれます。

「権力タイプ」は役職や立場を固辞してくるタイプで、「株主だ」「有名企業勤務だ」「警察署長を知っているぞ」などがよくある言い方です。

「マウントタイプ」は知識や経験をひけらかしてくるタイプで、「知っているぞオーラ」を出して威嚇してきます。両方のタイプに共通して、優越感を感じることや特別扱いを求めてくることが特徴です。

次の「シアター型」は、ネットの世界に多く見られる傾向がある自己陶酔型のタイプです。特徴は自分が主人公であることで、主語が一人称であることが多く、話の内容のほとんどを「感情」が占めています。

ある出来事に関して、「私が」どう感じたか、どう思ったか、どれだけつらい思いをしたかをストーリー仕立てにして長々と語ってきます。

多くの場合、「話が長い」「ナルシストタイプが多い」「ネガティブ思考の人が多い」「実は本当の意味での解決を求めていない」といった特徴・傾向があります。

次は「自己都合型」で、これは別名「サイコパス型」「責任転嫁型」とも言います。自己中心的である点では「シアター型」と似ていますが、自分に関係のないと思うことや他人のことを軽視・無視することが多く、自分に都合の悪いことについても「無視・知らないふり・責任転嫁」するというたちの悪さを感じることも多いようです。

例としては「シャツのボタンが取れていた。忙しいから家まで届けろ」といった、相手のことなどまったく考えていないかのような言い方をしてくる傾向があります。「自分のせいではないから、自分が店に行く必要はない」と妄想のような流れを頭の中で作って押しつけてきます。

続いて「激情型」です。これは文字通り「感情が激しいタイプ」です。大きな声で怒鳴ってくる人は、多くがこのタイプです。このタイプの場合、「声が大きいだけで悪意があるわけではない人」と「悪意のあるタイプ」に分かれますから、見極めが大切になります。

悪意があるかないかの見極めは、こちらのミスを認めて「お取り替え・返金」などの対応策を提案した際に、それを受け入れてくれるか、それ以上の要求にエスカレートさせるかで判断できます。常識外の行動をとる相手も多いので、その場合は冷静に判断します。

次は「不安定型」です。別名「支離滅裂型」とも言います。「情緒不安定」と思える言動や、理論が破綻している言動が見られるのが特徴で、このタイプはあまり多くはありません。

いきなり大声を出したり、急に冷静になったり、かと思えば泣き出したりで、対面したことがなければ「本当にそんな人いるの?」と思うかもしれません。著者は30代前半くらいの女性客にいきなり目の前で泣かれてしまい、困惑していると普通に戻り「ハサミかカッターナイフを貸してください」と言われたので渡したところ、自傷行為を始めて店内がカオスになったという経験があるそうです。

最後に「純粋型」です。このタイプが最も多く、すべてのタイプのベースになります。不都合や不満を純粋に解決してほしいと要求してくるパターンで、すみやかに解決に至ることができれば、問題なく対応が完了します。

しかし、初動やその後の対応を失敗すると、他の7つのパターンに移行してしまうことがあります。そうなると厄介なので、とにかく「おとなしいうちに解決する」ことが重要です。

紙幅の残りが少なくなってきたので、以下は本書のキモであるchapter 4の「実践!クレーマー撃退法」を詳しく見ていくことにしましょう。

「どんなお客さまでも誠心誠意対応すれば、問題は解決する」とはよく言われますが、「他のお客さまとの平等性・公平性」や「スタッフさんのメンタル面」を考えると、度を超した要求を繰り返す相手は「お客さまではない」と判断し、「反撃・撃退モード」のスイッチを入れるべきだというのが著者の基本的な考えです。

ただし、初めから「反撃・撃退モード」を推奨しているわけではなく、また「反撃・撃退モード」を発動できるのは責任者クラスに限定されます。

まず大事なのは「この一戦を越えたら反撃!」という一線を決めておくことです。著者は自分の「一線」として次の例を示しています。
・「土下座しろ!」などの強要系の言葉が出た時
・「バカ」「親の顔が見てみたい」など人格否定系の言葉が出た時
・「ブス」「デブ」など容姿批判系の言葉が出た時
・「殺すぞ」「帰り道に気をつけろ」など強迫系の言葉が出た時
・他のお客さまやスタッフさんを威嚇するような態度や言葉が出た時
・椅子を蹴る、机を叩くなどモノに当たる行為があった時
・胸ぐらをつかむ、平手打ちをするなど直接的な暴力行為があった時
・反社会的勢力とおぼしき組織名などを言ったり見せたりした時
・「話し合う」という気配すら感じさせない状況が一定時間以上続いた時

そして実際の反撃ですが、基本は「段階を踏む」ことが大事です。ただし、危険を感じたり実害が発生したら、待ったなしで必要な手段を選ぶ必要があります。

本書では「理不尽や無理難題」に対して次のステップを推奨しています。
(1)お願い・制止
(2)予告
(3)最終通告
(4)最終宣言
(5)通報

次のchapter 5は「クレームに負けない体質づくり」です。さらっと見ていくために、中見出しを列挙します。
・自分の身は自分で守る
・「私はプロだ!」と自信を持つ
・「私ってスゴい!」と自画自讃する
・「しょうがないなぁ」と親目線になる
・自分独自のストレス解消法を見つける
・ゲーム感覚で楽しむ

chapter 6は著者が収集した「トラブル事件簿」です。5つのトラブル実録が載っていますので、参考にするといいでしょう。

chapter 7は「クレーム予防・7つの基本」です。列記してみます。
(1)知識は武器! 自分に合った理論武装を
(2)聴く! 目的のための2つの傾聴
(3)「クッション言葉」軽視してはいけない基本のキ
(4)「限定謝罪」無条件に謝るのはNG
(5)内容より「伝え方」正しさが正義!ではない
(6)「できること・できないこと」の明確化 曖昧はブーメラン
(7)「選択権・決定権」はお客さまにあると心得る

続いてchapter 8の「クレーム予防の3要素」も項目のみ列記します。
(1)リスクに強い人を育てる(ハード面)
(2)現場の見た目・雰囲気をよくする(ハード面)
(3)ルールや管理システムを整備する(システム面)

最後のchapter 9は「エピローグ」ですが、ここで著者の「究極のテクニック」が明かされます。それは、「事実・理屈と感情を分ける」ということです。クレームやトラブルは感情が発端であることが多いのですが、感情にとらわれすぎると解決が難しくなります。

そこで著者は「事実・理屈と感情を一旦分ける」ことにしています。A4のコピー用紙を用意し、真ん中に一本線を引いて左側を「事実・理屈エリア」、右側を「感情・所感エリア」とします。

次に左側に時系列・箇条書きで「起こったこと」を書いていきます。事実のみを記載するようにします。その次に、右側に左側の経緯についてこちら側の感情や気持ち、推測されるお客さまの感情や気持ちを書きます。

書き終えたら休憩し、時間を置いてからシートを眺めます。そこで新たに気づいたことがあれば書き加えます。そうやって時間を置いてから眺めることで全体像を把握し直すことができ、新たな気づきを得て解決策が見えてきたりするものです。

本書の巻末には、この「究極のテクニック実践シート」がついています。コピーして実際に使用することが可能で、記入例もあります。

著者にとって初の著書となる本書ですが、読みやすくまとまっているので、クレーマー対策に悩んでいる方には参考になるかもしれません。


 

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