電子書籍と紙の本であまり値段は変わりませんが、キンドル・アンリミテッドに登録されている本なので、メンバーシップに入っている方なら無料で読むことができます。
著者の南章行氏は、個人のスキルをオンラインマーケットで自由に売買できるサイト「ココナラ」の創業者です。本書では肩書が「株式会社ココナラ代表取締役社長」となっていますが、現在は取締役会長です。
著者は慶応義塾大学卒、英国オックスフォード大学経営大学院(MBA)修了。住友銀行(現三井住友銀行)でアナリスト業務を経験した後、アドバンテッジパートナーズにて約7年で5件の企業を担当。その傍ら、NPO法人ブラストビート、NPO法人二枚目の名刺の立ち上げに参画し、2012年1月に自ら代表として株式会社ウェルセルフ(現株式会社ココナラ)を設立しています。
本書の内容を簡単にまとめると、「人生100年時代、よりよい人生を選び取るにはどうすればよいか」を著者自身の半生を振り返りながら真剣に語ったものです。そして著者は「人生に他人がアドバイスできる“正解”なんてない。自分が好きで本気になって打ち込んだものからしか自分にとって価値のあるものは生まれない。それこそが“正解”なのだ」と語っています。
世にある自己啓発書の多くは「自分探し」をして最適なキャリアパスを選び、それを獲得することが“勝ち組”になる秘訣であると教えています。しかし著者はそれを真っ向から否定します。
理想的なキャリアパスなどどこにも存在せず、あるのは自分ががむしゃらに生きた結果として後に残る「自分だけのストーリー」しかないというのです。
「はじめに」で著者は人生に“正解”などないということを次のように熱く語ります。
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この世に正解はない。(中略)
何事も単純には解決できない。
これこそ僕たちが今、生きている世界だ。
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そして「たったひとつの正解」が薄っぺらな童話であることを知り、目を背けたくなるような悲惨なリアルを知り、そのうえで「正解かどうかはわからないけれど、自分はこうすべきだと思う」ということを決めなければ、世界は永遠に変わらないというのが著者の主張です。
その上で、「正解なき世界を生き延びる方法」として、著者は次の2つを挙げています。
(1)人口動向といった「確実に変化する外部要因」を知り、押さえておくこと
(2)「正解かどうかはわからないけれど、自分はこうすべきだと思う」という意思決定ができるようになること
特に(2)の誰も正解かどうかわからず、誰も保証してくれないことを責任を持って決断することが重要で、著者はこれを本当のリーダーシップだと言っています。
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リーダーシップは組織の長だけのものではない。誰にでも当たり前に必要なスキルだ。僕たちは皆、自分で自分をリードする「セルフリーダーシップ」を持たなければならない
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特に第一線で活躍し続けている起業家に見られる、「正解を探すのではなく、選んだ道を自分で正解にしていく」という考え方は、セルフリーダーシップの極致です。
しかし選んだ道を自分で正解にしていく生き方にはとてつもないパワーが必要です。どこからそんなパワーが湧いてくるのか。著者はこう言います。「好きでなければ、つまりそこに思いがなければ続かないだろう。人は好きなことにしか本気になれないのだ」。そしてこれが本書のタイトルになりました。
本書は著者の考える「より正しいであろう生き方」を大上段に教示するものではありません。著者の意外にも波瀾万丈の半生をなぞりながら、著者と読者が一緒になって「正解なき世界を生き延びる方法」を考えることを目的として書かれたものです。
そして読了するころには、読者はこう考えるようになるでしょう。「自分で意思決定をし、自分を活かし、働いて、食べて、飲んで、楽しんで、愛して生きれば、それが自分にとっての“正解”なのだ」と。そしておそらく、その人生は成功と呼べるかどうかはわからないけれど、自分にとって満足度の高いものになるのでしょう。
著者は慶應義塾大学に目標を絞って必要十分な受験対策をし、見事入学しました。そこから一流銀行に就職し、名の知れた企業買収ファンドで活躍し、オックスフォードでMBAを取りました。それだけ見ればキラキラの経歴であり、旧来の見方でいえば「勝ち組」の人生です。
しかし、細かく見ていくとそうでないことがわかります。大学こそ人生設計通りの志望校に入りましたが、就職先はそのころに考えていた業界ではありませんでした。高校生の考えていた見通しとは違う動きを世の中がしたからです。
そして銀行員時代、著者は考えを変えました。その前の「人生80年時代」が「人生100年時代」に変化しつつあることを肌で感じたからです。人生80年、定年60歳なら、ひとつの企業で40年近く働く人生です。しかし人生100年ではひとつの企業だけで働くことは考えにくくなります。50台をピークに下がり続ける給料を得ながら、もしかすると80歳近くまで働かなくてはならないかもしれません。
その場合、自分の人生を最大限に輝かせる方法は何でしょうか。ひとつの企業で出世栄達を目指してがむしゃらに働くことでしょうか。しかしこれからの時代、たとえ大企業でもいつ潰れるかはわかりません。へたをするとその業界そのものが沈没してしまうかもしれません。
そんな中で後悔の少ない人生を送るには、「自分はこうすべきだと思う」と意思決定を行い、自分自身を導いていくしかないはずです。その原動力が「好きなことに本気になる」というパワーです。
ではここで、本書の目次を紹介しましょう。
・はじめに
現代は「正解のない世界」である
キャリアじゃない。自分のストーリーを生きる
・第1章 人生100年時代、確実に変化すること
01 人生100年時代、確実に変化すること
未来予測はいらない
少子高齢化は40年前から始まっていた
「あと50年、今の仕事を続けたいのか?」
80歳まで働ける「スキル」とはなんだろう?
02 80歳まで働ける「個人の力」とは?
「これだけは身につけておきたいスキル」は存在しない
「経験を活かす」という発想を捨てる
「過去を正当化」するためのキャリアは意味がない
「自分の価値観」を確かめる
「キャリアの長期プラン」をつくってはいけない
「一貫性の罠」にはまらない
03 セルフリーダーシップを持つ
自分で目標を設定するという「権利」
「社会システムの部品になる」から「自分というシステムづくり」へ
「心が満たされる好きなこと」でしか稼げない
結論は出た。では、どうすればいいのだろう?
コラム1 理想主義者のための実用的なTIPS1:知的財産をつくる「一人読書合宿」
・第2章 成長は「意思決定の数」に比例する
01 ストレングスファインダーは存在しない
「自分探し」は若さの浪費
「自分らしさ=人と違うこと」ではない
キャリアプランは内外から変化する
なんとなくでもいいから心と向き合う
02 意思決定は価値観で行なう
最高の人と出会うのではなく、出会った人を最高の人にする
論理は感情に勝てない
03 意思決定の数を増やしてスキルを上げる
目の前のことを本気でやる
本気でやるとキャリアが始まる
数字になる仕事だけが仕事ではない
意思決定をすれば、経験が増えていく
・第3章 セルフリーダーシップで働き続ける―スキルを獲得し、「自分の価値観」を見つける働き方
01 「会社のゴール=自分のゴール」なのか考える
Knowing, Doing, Beingのどこにいるか?
自分で自分を認めなければ満たされない
「パパ、かっこいいだろ」と言えない仕事はやりたくない
02 追い詰められると「スキル」がわかる
企業買収ファンドでのサバイバル
リカードの「比較優位理論」
「得意ラベル」を自分で貼れば、やがて得意になる
圧倒的に「できない」と、自分のスキルが生み出せる
03 人生100年時代に必要な「ソフトスキル」を磨く
可能性の断捨離をする
ソフトスキルは「人間としてのスタイル』で伸ばす
会社のモチベーションと個人のモチベーション
相手側と自分で「チーム」をつくる
04 「ハブ」になってコミュニティーをスケールする
コミュニティーに貢献する
ハブになると情報と人脈が集まってくる
コラム2 理想主義者のための実用的なTIPS2:人的資産をつくる「アウトプット勉強会」
05 「企業を内側から変える」ということ
「ハゲタカ」たちの青春
トップダウンの社風を変える試み
合理的な意思決定でフラットな環境をつくる
06 セルフリーダーシップはプロセスである
「自分の価値観」は育っているのか?
MBAで意思決定の1000本ノックを受ける
セルフリーダーシップとはプロセスである
ティール組織とリーダーシップ
リーダーシップとはスキルではない
・第4章 自分のストーリーで生きていく―21世紀のキャリア形成について考える
01 偶発的計画性を持つ
アメリカ=世界ではない
5年働いて1年休んでもいい
「デカい案件」こそ、まとめてこなす
人生に「段取り」はいらない
02 人の役に立って「パーソナルブランディング」をする
アウトプット・ドリブンでMBAを自分のモノにする
人の役に立てれば世界でサバイブできる
ビジネススクールは「未来のリーダー」と出会う場所
03 自分が行動することで社会が動く
ブラストビートとの出会い
僕はもう一度、気球をあげたい
ビジネスパーソンの社会貢献「二枚目の名刺」
04 NPOとの「二足のわらじ」が教えてくれたこと
マインドシェアを点検する
ビジョン経営をNPOで学ぶ
履けるわらじは何足までか?
05 自分のストーリーを生きる
「二つめの芸風」は必要なのか?
「自分のストーリー」に正解はない
大切な人に説明できる「ストーリー」を持つ
06 社会は無数の「自分ごと」の集まり
なぜ、オックスフォードは社会起業を掲げるのか
自分ごととして「手応えと実感がある活動」をする
キャリアの終わりと、もうひとつの「働く理由」
・おわりに 「ココナラ」の使命と野望
第1章で著者は「未来予測はいらない」と言っています。複雑かつ変化の激しい現代において、信頼できる未来予測など専門家にも不可能だからです。といって、何も準備しないで生きていくのはむずかしいので、少なくとも次の2点だけは自分で押さえておくことが必要だといいます。
(1)すでにわかっている事実を押さえる
(2)厳密に考えるまでもない、ざっくりと予測がつく「当たり前の未来図」を念頭に置いて自分の今後を考える
(1)については誰もが実行しているでしょう。今は情報社会ですから、信頼の置ける統計やしっかりしたエビデンスに基づく書籍に目を通せば、事実は簡単に手に入ります。
未来に関係する事実にはいろいろなものがありますが、著者はその中で大事なのは「人口予測」であると言います。人口の変化は必ず自分の今後に影響してくるからです。
現代は若い人が減っているのに寿命が延びています。その結果として予測できるのは、「多くの人が80歳まで働く社会」です。それを前提とした場合、「嫌なことを我慢して働く」「自分の弱みを克服して成長する」という過去の働き方がむずかしくなっていきます。自分らしく好きで得意なことで働かないと、80歳までは働けないからです。
では80歳まで働ける仕事とはどんなものでしょうか。現在の日本の仕事の7割はサービス業ですが、人口が減るということはお客が減ることですから、これからすごい勢いで淘汰が起きるでしょう。いわゆるホワイトカラーは真っ先に消える仕事のはずです。
そんな時代には、ユニークな個人の力がない人は競争力を持ちません。個人の力の代表的なものはスキルですが、千人に1人のレベルのスキルを持つ人は少ないでしょう。そこで著者が勧めるのは、複数のスキルを持つことと、新たなスキルを獲得し続けることです。10人の中で一番のスキルを3つ持てば、その掛け合わせで千人に1人のレア人材になれるはずです。
このときに捨てなければならない考え方があります。それは「経験を活かす」「過去のキャリアに関係する仕事をする」というものです。長く営業をしてきた人、製造業の現場で働いてきた人などは、それを活かせばいいと考えがちです。
しかし著者はそこで立ち止まってもっと深く考えよと言います。営業経験が長かった人は、本当に営業の仕事が好きだったのでしょうか。もしかすると営業の仕事の中で、相手の喜ぶ顔を見るのが好きだったのかもしれません。だとすればその人の好きなことは「人を喜ばせること」であり、固有スキルはそこに基づいているはずです。
個人の力のスキルに次ぐ2番目は、価値観です。上に述べた元営業職の「人を喜ばせることが好き」というのがその人の価値観だとすれば、それはどんな仕事にも応用がききます。大切なのは一刻も早く自分のスキルと価値観に気づくことです。
そして個人の力の3番目の要素は、セルフリーダーシップです。目標を自分で設定し、課題を自分で見つけて自分を励まし、それを突破していく。そういう自分自身に対するリーダーシップを持てば、人生100年時代にも迷うことなく長く働けます。
そして自分の心を満たす仕事を見つけたら、迷わず自分をリセットしてその世界に飛び込みます。そこでうまく生きていくコツも、本書にはたくさん書いてあります。
人生100年時代を楽しく有意義に過ごしたい方は、ぜひ一読してみてください。