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200万人の「挫折」と「成功」のデータからわかった 継続する技術

戸田大介・著/ディスカヴァー・トゥエンティワン・刊

1,683円(キンドル版・税込)/1,870円(紙版・税込)

メインタイトルは一般的な自己啓発書の雰囲気ですが、サブタイトルにある「200万人の『挫折』と『成功』のデータ」は気になりますね。この200万人という数字はデタラメや概算ではなく、著者がリリースした「継続する技術」というアプリのダウンロード実数なのです。

著者はデータアナリスト。大学卒業後、現在の電通デジタルに就職し、データアナリストとして勤務しました。その後独立してbondavi株式会社を創業。データ分析技術をもとに人間心理を分析し、人の前向きな行動を引き出すアプリの開発を始めます。

そうして生まれたのが2016年にリリースされた習慣化アプリ「継続する技術」でした。2年後には仕事・学習用集中アプリ「集中」をリリースしています。

ユニークなのはそのマネタイズで、ユーザーの前向きな行動を阻害しないために、全アプリを広告掲載なしの無償提供とし、収入のほぼすべてをユーザーからの任意の寄付に頼っています。

当初は支出超過に苦しみましたが、徐々に口コミで評判が広まった結果、「継続する技術は」国内ナンバーワンの習慣化アプリとなり、前述のように200万ダウンロードを達成しました。そして「集中」のほうは300万ダウンロードを記録し、ついに寄付のみでの黒字化を達成しています。

本書は冒頭で骨子が語られ、以下はストーリー仕立てで著者の考えが読者に伝わるように構成されています。まずは目次を見てみましょう。

・賢者のからくり
・はじめに
・プロローグ
・「原則1」すごく目標を下げる
事実1 ふつう、習慣化は失敗する
事実2 目標を下げると、すごく成功率が上がる
事実3 目標が高すぎると、何度やっても進歩しない
対策1 目標は5分以内
人間だもの1 「そんな低い目標で意味あるの?」
人間だもの2 「でも、自分はいける気がする」
人間だもの3 「だが、急成長がいい」
・「原則2」動けるときに思い出す
秘められた可能性
事実1 行動の苦しさは、タイミング次第
事実2 人は忘れる
対策1 楽に動けるタイミングを知る
対策2 忘れられない環境をつくる
人間だもの1 「いつも同じ時間には動けない」
・「原則3」例外を設けない
事実1 間を空けると、挫折率が跳ねあがる
対策1 代わりに何かする
対策2 「日数リセット」ルール
人間だもの1 「でもやっぱりできない日もある」
・応用と実践
・「おまけ」また、あるところで
・最終講義
・あとがき
・「習慣三原則」まとめ

目次を眺めると「原則」「事実」「対策」「人間だもの」という項目が繰り返されていることがわかります。著者は「良い習慣を身につけるには3つの原則がある」という考えの元に、データアナリストとして得られた事実から対策を提案し、「でも人間だからいろいろあるよね」という反論や質問にていねいに対応して本書をまとめています。

そして本書の大半が、「習慣博士」という変な専門家と「髙橋くん」という社会人3年目の主人公の対話で進んでいきます。「習慣博士」が人間くさい人物であるため、くすっと笑いながら読めるので、あっという間に読了します。

本書の特徴は、あれこれ覚えなくていいことです。とにかく何かを継続するためには3つの原則さえ覚えておけばいいという著者の考えが繰り返し出てきます。その3つをここでまとめておきましょう。

[原則1]すごく目標を下げる
[原則2]動けるときに思い出す
[原則3]例外を設けない

本文に入る前に、この3つの原則について簡単に紹介しておきましょう。

原則1の「すごく目標を下げる」というのは、やたらに高い目標を設けないということです。例えば「毎日筋トレを1時間やる」という目標は、それまでの実績がゼロの人であればまず継続できないでしょう。

でも「毎日5分だけ筋トレをする」だったらどうでしょう。「5分なら」と思い、簡単に始めて数日間は続くのではないでしょうか。「5分では効果が少ない」と思う人もいるでしょうが、別に5分経ったからとやめなくてもいいのです。無理しない範囲で、やりたいだけやる。だけど自分に課した義務は5分。そこがコツです。

それでも、三日坊主になる人は多いでしょう。そこで原則2の「動けるときに思い出す」です。本書で詳しく説明してありますが、人間は習慣的な何かをやる時間帯が本人の思うほど多くはありません。そこで、いつやるかを工夫する必要があるわけです。

この工夫で三日坊主を脱却できても、それが何か月も、何年も続くようにするには、さらにコツがあります。それは「例外を設けない」ということです。「今日は忙しいからいいや」とやらない日を作ってしまうと、そこから継続するのが難しくなります。挫折する可能性がグンと跳ねあがるのだそうです。

それで著者は「例外を設けない」と戒めているわけです。ただし、これは「何が何でもやれ」という意味ではありません。5分の筋トレが難しかったら、スクワットを10回やって代用にするのでもいいのです。

それでは、本書の内容に入っていきましょう。

通常の本は目次の前に「はじめに」や「まえがき」があります。著者がこの本を書くに至った動機や目的が語られ、読者にこの本を買うべき理由を語りかけるパートです。

ところが本書は「はじめに」の前にさらに文章があります。「賢者のからくり」と題したパートで、著者が習慣に興味を持つに至った学生時代のエピソードが書いてあります。

それまで著者は世の中で言われている「偉大なことを成し遂げるには地道な努力の積み重ねが大事だ」という言葉に反発を感じていました。「いや、もっと近道とか裏技みたいなのがほしい」と。

「そんな都合の良いものはあるはずがない」と思っていた著者でしたが、友人との何気ない会話で「苦しい努力をしないで確実に望みを叶えられる方法」が見つかりました。

その友人はギターが上手でした。著者は彼に「毎日練習して嫌にならないのか」と尋ねました。すると彼はこう答えました。
「いや、なんか毎日弾いてたら、弾かないと落ち着かなくなってきて」

その瞬間、著者は自分が大いなる誤解をしていたのに気づきました。彼にとってギターを練習することは「苦しい努力」ではなかったのです。著者と彼の努力に対するとらえ方の違いの正体は「習慣」でした。

当時、著者自身にも習慣はありました。それは大学近くのコンビニにある39円の粗悪なアイスクリームを食べることでした。著者の習慣は「粗悪なアイスクリームを食べる」で、友人の習慣は「ギターを練習する」だったのです。

著者が毎日粗悪なアイスクリームを食べて小さな満足と生活習慣病リスクを積み重ねている一方で、友人は毎日ギターを練習して演奏技術を向上させている。しかも友人は努力を積み重ねているのに、まったく苦しんでいません。

著者はそこに「賢者のからくり」を感じました。人間は誰でも習慣によって動かされていますが、愚者はどうでもいい習慣を持ち、賢者は望ましい習慣を持って自分を望ましい方向へ動かし続けているのです。

こうして著者と習慣との縁が形作られました。

続く「はじめに」では、著者が習慣化アプリを作り始めたころの話が語られます。「筋金入りの三日坊主の自分ですら、ちゃんと動くアプリ」が目標でした。開発は失敗続きでしたが、著者はその過程を面白がっていました。たくさんの人の挫折談を聞いて行動データを分析することで、三日坊主の性質が理解できるようになったからです。

本書はそのアプリ開発の過程で得られた人間心理に関する学びがベースになっています。ただし、著者は本書を書くにあたって、自分にあるルールを課しました。それは「自分の得たたくさんの学びを詰め込まないこと」です。

著者は「人が吸収できる知識の量には限界がある」「すべての知識が重要なわけではない」という事実を知っていました。そこで本書で書きたいと思っていた自分の知識を徹底的に整理し、最終的に3つの原則にまで集約することができました。それが先に挙げた3つの原則です。

そして著者は、実際に3つの原則を守った人の成功率を測定しました。5万件あまりのサンプル数で調べた結果、3つの原則を守った人の30日間継続成功率は、そうでない人に比べて8.23倍高いことがわかったのです。

成功率が8倍高いということは、1年間にひとつの目標しか達成できない人に対して、8つの目標が達成できることを意味します。これが2年、3年と続いたら、どんな差になるでしょうか。

著者はさらに、3つの原則それぞれについての成功率も調べています。
・5分でできる目標にすると、成功率は3.13倍
・適切なリマインダーを使うと、成功率は4.47倍
・1日でもサボると、それを境に二度と行動しなくなる人は69.1%

ではいよいよ本書のストーリーに入っていきます。
主人公の髙橋くんは日本のどこにでもいる社会人3年目の若者です。彼には漠然とした悩みがありました。

「自分はこのままでいいのだろうか」
「何かを変えなければ」
そう思ってオンラインの英会話やSNS発信を始めますが、いつも三日坊主で終わっていました。

そんなある日、髙橋くんは「賢者のからくり」と題のついた数ページの文書をみつけ、暇つぶしに読んでみました。そこには「良い習慣さえ身につければ未来は明るい」と書かれていました。

しかし、習慣化の効果的な方法が思いつきません。そこでスマホで調べてみると、ひとつのSNSアカウントに行き当たりました。「習慣博士」という人が弟子を募集しているものでした。しかも、今なら無料とあります。髙橋くんは習慣博士に連絡を取り、大学の研究室を訪ねることにしました。

行ってみると、50代後半くらいの小太りのおじさんがいます。なかなか話は噛み合いませんでしたが、髙橋くんは習慣博士に次のように尋ねました。
「できるだけ楽で、それでいて高確率でナイスな習慣が身につく方法論はありませんか?」

博士の答えは「あるある、ちょうどそういう理論があるよ」という驚くべきものでした。博士の提唱している「習慣三原則」という理論がそれで、その理論を元に作られたアプリもあるとのことです。しかも多くのデータで効果が証明済みだというではありませんか。

髙橋くんはさっそく博士の理論を学ぶことになりました。「まずどんな習慣を身につけたいか?」という博士の問いに、髙橋くんは「ランニング!」と答えます。すると博士は「ランニングを始めた人のうち、30日以内に挫折する人の割合は約94%」と教えてくれました。

30日以内に挫折する人の割合をテーマごとに並べてみると、次のようになります。このデータは13万件のサンプルの統計です。
・ストレッチ……85.0%
・家でできる筋トレ……83.9%
・勉強……87.7%
・ジムに行く……94.9%

博士は髙橋くんに「何の対策もなければ、人の習慣化成功率はすごく低い」と言いました。部活や受験勉強が続けられるのは、そこに何らかの強制力が働いているからで、自ら始める筋トレや勉強はサボっても怒られないので挫折しやすいのだと。

「ではどうすれば?」と尋ねる髙橋くんに、博士はこう答えました。「目標を下げることだ。すぐ達成できる目標は続きやすい」

その裏付けとして博士が示したデータでは、1時間の筋トレと5分以内の筋トレをそれぞれ目標にして比較した場合、5分間の成功率は1時間の3.13倍でした。

「たった5分ではやっても効果がない」と思う人に対しては、博士の示した次のデータが重要です。それは30日継続成功率と成功体験数の関係で、成功体験がゼロの人は成功率が13.86%なのに対して、成功体験1回の人は33.3%に跳ね上がり、成功体験が2回だと54.41%と過半数になるというものです。

小さな習慣でも一度続けばその後の習慣づけが成功する確率が高くなる。だからこのコツを知っている人は人生がどんどん好転していくということでした。

ここまでで本書の4分の1を紹介しました。興味があったら、ぜひご一読をオススメします。


 

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