オススメ参考書~読んだら即実践してみよう!

世界でいちばんやさしい 教養の教科書 [自然科学の教養]

児玉克順・著/Gakken・刊

1,725円(キンドル版・税込)/1,760円(紙版・税込)

じつは本書には姉妹版があります。『世界でいちばんやさしい教養の教科書[人文・社会の教養]』です。同じイラストレーターによる豊富なイラストでわかりやすく作られている点はまったく同等で、要するに「理系版」と「文系版」に分かれているわけです。

どちらを先に読み始めてもいいと思いますが、たぶん気に入ったら両方を揃えてしまうのではないでしょうか。そのくらい、人生に必要な教養を簡単に学べる内容となっています。

出版社のGakkenは、かつて「学習研究社」、通称「学研」と称していた会社です。書店を通さない直接販売ルートを自社で持ち、「学研のおばちゃん」が「科学」と「学習」という教材付きの雑誌を家庭訪問で販売していました。

といって書店での販売をしていないわけではなく、「中学コース」「高校コース」といった学年誌は書店売りでしたし、単行本や雑誌も書店ルートでたくさん出していました。

学研が直販ルートを持った理由は、戦後の創業期に学年誌を出そうとして、競合する大手出版社からの妨害を受けたためです。そのため創業者の古岡秀人は「出版は神田でなくてもできることを証明する」と言って東京都大田区を本拠地にして講談社などの音羽グループや小学館などの一ツ橋グループに対抗しました。

一時期は「池上グループ」と呼ばれたりして、「出版界の眠れる獅子」と潜在力を評価されていましたが、訪問販売が時代に合わなくなるに従って、通販主体のライバルに市場を侵食されていきました。

今ではかつての拠点をすべて整理して山手線の五反田駅近くに拠点を移し、学研ホールディングスという持株会社の元に事業を展開しています。出版事業の他、学習塾などの教育産業や介護福祉事業を手がけ、グループ全体で2,000億円近い売上げがあります。

このように、かつては教育出版社としての性格を持っていた出版社であったため、本書のような参考書的な教養書はこの会社の一番の得意分野と言えます。

さて、本書ですが、著者の児玉克順氏は1972年生まれの予備校講師です。28年間の現代文講師を経て、学校内予備校講師と高校非常勤講師として研鑽を積み重ねています。もともと文系人間でしたが、本書の執筆のために3年以上かけて自然科学系の本を読みあさり、今の時代における哲学リテラシーと科学リテラシーの必要性を思い知ったとのことです。

タッグを組んでいるイラストレーターのfancomi氏は1980年生まれで、絵本作家でもあるそうです。本書に大量のイラストを掲載し、文章だけではわかりにくい内容を親しみやすく理解しやすいようにしてくれています。その雰囲気は、表紙画像だけでも充分に伝わってきます。

なぜ現代人に本書が必要なのかという点について、著者は「はじめに」で次のように語っています。

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新しい社会は今の、そしてこれからの科学技術をもとにつくられますが、今の科学技術は私たちの生活感覚で理解しづらいものも少なくありません。しかし私たちはすでに、理解できていないまま、科学技術の産物を使いこなす日々を送っています。これはある意味、科学技術に対してあまりに無防備といえます。私たちは、ある程度科学技術に関する「知の武装」が必要ではないでしょうか。
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本書は、自然科学分野の教養を時系列にそって「ストーリー形式」で説明した「教養の教科書」です。たくさんのイラストや図解、キーワード解説を駆使し、「分かりやすさ」と「正しさ」の間で平衡(バランス)をとることを常に意識しながら解説しました。本書を読むことで、自然科学の原理や法則や発見を、時代の流れにそった「縦のかかわり」を通して分かりやすく学ぶことができます。そして、科学技術の理解に少しでも近づくための「知の土台」が得られます。
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そして著者は「本書から得られる効果」として、次の点を挙げています。
・先人たちの「知」と「理系的思考の枠組み」が得られる
・科学技術や自然現象のからくりをある程度「理解」できるようになる
・自然科学の「理解」をもとに、新たな「アイデア」が生み出せるようになる
・本書より難しめな本の理解の手助けができる
・自然科学の各分野の理解に必要な他分野の背景知識が手に入る
・自然科学関連の新聞やニュースの理解をもっと深めることができる

そして、著者は「はじめに」のまとめでこのように語っています。
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本書は、一度読んで面白く、二度読んで考えさせられ、三度読んで新たな発見を得る、そういう「深さ」を持っています。ぜひ何度も読み返してみてください。また、本書を読んだことをきっかけに、きっと様々な本をもっともっと読みたくなるでしょう。読書でつまずいてしまった――そんなときには、ふたたび本書に手をのばし、ページを開いてみてください。本書の「深さ」に気付くはずです。「教科書」とは本来みな、そういうものなのです。
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著者の本書に対するなみなみならぬ自信が伝わってきます。それでは、本書の内容を目次から見ていきましょう。

・はじめに
・学習の流れ
・Chapter 1 科学史
教養を豊かにする
1-1 科学の始まり
1-2 近代科学の始まり
1-3 現代科学の道へ
重要用語と重要人物を掘り下げる

・Chapter 2 物理学
教養を豊かにする
2-1 「力」とは何か
2-2 「熱」とは何か
2-3 「電磁気」とは何か
重要用語と重要人物を掘り下げる

・Chapter 3 相対性理論
教養を豊かにする
3-1 「光」とは
3-2 「相対性理論」とは
重要用語と重要人物を掘り下げる

・Chapter 4 量子論
教養を豊かにする
4-1 「量子」とは
4-2 「素粒子」とは
重要用語と重要人物を掘り下げる

・Chapter 5 宇宙
教養を豊かにする
5-1 天体研究の歴史
5-2 宇宙誕生の謎
5-3 宇宙の新たな謎
重要用語と重要人物を掘り下げる

・Chapter 6 数学
教養を豊かにする
6-1 古代からの数学の世界
6-2 中世からの数学の世界
6-3 近現代の数学の世界
重要用語と重要人物を掘り下げる

・Chapter 7 化学
教養を豊かにする
7-1 万物の根源は何か
7-2 現代化学に続く道
7-3 現代化学の理論
重要用語と重要人物を掘り下げる

・Chapter 8 地球史
教養を豊かにする
8-1 地球誕生の歴史
8-2 生命誕生の歴史
8-3 生物の進化
8-4 人類の進化
重要用語と重要人物を掘り下げる

・もっと教養を深めたい人のためのブックガイド
・索引
・参考文献リスト

第1章は「科学史」です。科学の歴史を最初に持ってきた理由は、本書全体の流れをここでつかんでもらうためです。章の副題は「科学という名の物語」。

本書のすべての章に共通しているのは「教養を豊かにする」と「重要用語と重要人物を掘り下げる」というページです。前者はその章で登場する主なキーワードを並べ、どんな内容が書かれているかを概観することができます。この章で登場する主なキーワードは次の通りです。

主体
対象
反証可能性
アラビア数学
地動説
オッカムの剃刀
科学革命
論理
証明
万有引力
パラダイムシフト
ノーベル賞
STS
シンギュラリティ
AI

「1-1 科学の始まり」は古代ギリシアの科学から始まります。最初に出てくるのは「科学の定義」です。著者は仮に「対象を自らと切り離して観察・研究・考察すること」「反証の可能性を受け入れ、常に疑いを持つこと」を科学の定義としています。これが科学だとすれば、その起源は古代ギリシア時代になるというのが著者の説明です。

古代ギリシアの哲人たちは、対象の客観的な観察と研究により、世界は見えない「秩序(コスモス)」によって成り立っていると考えました。当時は信仰と呪術が中心でしたから、これは画期的な世界認識でした。

そして古代ギリシアは交易が盛んだったために、様々な情報が簡単に手に入り、エジプトから入ってきたパピルスが計算と考察に貢献しました。

次に科学を推し進めたのはイスラム世界でした。イスラムの指導者階級は古代ギリシアの文献をアラビア語に翻訳し、「知恵の館」にギリシアやインドなど世界中の知識を集めました。

十字軍の遠征によりアラビア科学を手に入れたヨーロッパ世界は、アラビア語の文献をラテン語に翻訳し、キリスト教世界の中でそれらを発展させました。しかし、あくまでも教会の中での発展だったため、神学の枠を超えることはできませんでした。

その後、地動説のコペルニクス、ガリレイが登場し、デカルトとニュートンの登場で科学革命が完結します。これにより、地上も天上も同じ世界であり、世界は力学的法則で成り立っているという力学的世界観が科学の基礎になりました。

そして活版印刷の発明で研究の情報量が飛躍的に増え、教会から離れた大学や学会が研究の場となりました。ここから科学が細分化され、革新的な発見が続いていきます。

第1章の「重要用語と重要人物を掘り下げる」には、次の内容が掲載されています。
1-1 科学の始まり
【キーワード】主体、対象、反証可能性、客観、秩序(コスモス)、パピルス、アラビア数学、十字軍、羊皮紙
【キーパーソン】プラトン、アリストテレス

1-2 近代科学の始まり
【キーワード】天動説、地動説、ルネサンス、オッカムの剃刀、スコラ学、科学革命、論理、証明、機械論、帰納法、万有引力、普遍、パラダイムシフト、力学的自然観、錬金術、地質学、古生物学、産業革命、国民国家、自由主義、資本主義
【キーパーソン】コペルニクス、ガリレイ、デカルト、ベーコン、ニュートン、ラボアジエ

1-3 現代科学の道へ
【キーワード】ノーベル賞、技術、STS、シンギュラリティ、AI

続いて第2章の「物理学」に入ります。ここでは力学法則、熱力学、電磁気学の順に解説が進みますが、いよいよ本格的な「科学」の解説書らしくなっていきます。本文の紹介は長くなるので省略し、キーワードとキーパーソンのみ掲載しておきます。

2-1 「力」とは何か
【キーワード】力、ケプラーの法則、万有引力の法則、ニュートン力学、引力、重力、質量、重さ、速度、加速度、慣性の法則、運動方程式、ニュートン(単位)、作用反作用の法則
【キーパーソン】ニュートン、ガリレイ、ケプラー、オイラー、ラグランジュ

2-2 「熱」とは何か
【キーワード】蒸気機関、カロリック説、仕事、エネルギー、エネルギー保存の法則、ジュール(単位)、カロリー(単位)、熱力学、エントロピー、熱、温度、絶対零度
【キーパーソン】ジュール、クラウジウス

2-3 「電磁気」とは何か
【キーワード】電気、磁気、極、電荷、電池、右ねじの法則、電磁誘導、近接作用、電場・磁場、場、光子、電磁波、周波数、電子
【キーパーソン】クーロン、ボルタ、アンペール、オーム、ファラデー、マクスウェル、ヘルツ

次の第3章「相対性理論」あたりから、文系の人たちは脱落していく傾向がありそうです。著者は予備校講師らしく「落ちこぼれ」を出さないために難しい数式や難解な理論を避け、あくまでもイメージとして解説していきます。

なぜ相対性理論が文系の人にとってむずかしいかといえば、「時間と空間の常識がこわれてしまう」からです。最初の「光は波か粒子か」は第1のハードルですが、著者はていねいにニュートンの粒子説、ホイヘンスの波動説を紹介し、19世紀までのさまざまな研究で「光の正体は波である」という学説の流れを読者に説明しています。

興味深いのは、今は間違いとしてあまり語られることのない「エーテル」という概念もきっちりと押さえていることです。初期の波動説では波が伝わる媒質としてエーテルが存在しなければならないと考えられていました。それを否定したのは19世紀後半のマクスウェルによる「光は電磁波のひとつである」という考え方でした。

そして今日の周波数に応じた電磁波の分類につながっていきます。放射線治療に使われるガンマ線、レントゲン撮影のエックス線、日焼けサロンの紫外線、目に見える可視光線、リモコンの赤外線、携帯電話の電波というように、日常生活で身近な例がつけられているので、電磁波の把握がしやすくなっています。

そして次にアインシュタインが登場し、科学界の謎であった「光電効果」を光量子仮説によって説明します。そこから相対性理論に話がつながっていきます。著者はこの難解な理論をていねいな図解で解説しています。

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光は「あるときには波であり、あるときには粒子である」というものではない。「波であると同時に粒子である」という、「物質」(粒子)と「状態」(波)が重なり合っているという常識上あり得ない存在である。ただ光は質量が存在しないために、粒子とはいっても物質とはいいがたく、そういうものだと納得はしやすかった。しかしやがて、質量のある物質でありながらも、光のように粒子と波の重なり合った存在が発見されていく。
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以下、「量子」「宇宙」「数学」「化学」「地球史」と解説が進んでいきます。一気に読み通すにはなかなかしんどい内容なので、暇なときに少しずつ読み進めたり、パラパラと流し読みして気になったところに注目するような読み方がいいでしょう。しっかり学ぶためには、AIに質問しながら読み進めるといった読書法がおすすめです。

ちなみに、姉妹版の[人文・社会の教養]の内容は、以下の通りです。
Chapter 1 歴史
Chapter 2 哲学
Chapter 3 言語
Chapter 4 心理
Chapter 5 文化
Chapter 6 経済
Chapter 7 社会
Chapter 8 日本
Chapter 9 芸術

最後に、ChatGPTに聞いた「なぜ教養は必要なのか」の回答を抜粋して紹介しておきます。
1.世界を理解する力になる
2.多様な他者と関わる基盤になる
3.思考の自由と判断力を育む
4.人生を豊かにする
5.自己と社会の橋を架ける
補足:実用性との関係について 現代では「教養は役に立たない」「専門性があれば十分」と言われることもありますが、それは短期的な実利を重視した見方です。教養の価値は、長期的な視野・人間としての厚み・社会全体の健全性に関わっています。


 

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