レジ待ちの行列、進むのが早いのはどちらか
するどく見抜き、ストレスがなくなる心理術
内藤誼人 著 幻冬舎
1,155円 (税込)
著者は心理学者で、ビジネスやマネジメントの世界に心理学のデータを応用して好結果を出す研究を専門にしている人です。本書はリアルなイラストを付した設問に答えながら、観察力と推理力を鍛えるためのものですが、単なる「暇つぶし」としても役立ちます。
タイトルの「レジ待ちの行列」ですが、スーパーに行くとよく実感しますね。たまにしか行かないお父さんを、「こっち、こっち!」と引っ張るお母さんの姿を見ると、彼女たちが毎日の買い物で、観察力と推理力が磨かれていることがわかります。
そのことから明らかなように、観察力と推理力は天賦のものではありません。名探偵シャーロック・ホームズも、努力と訓練の末にその能力を身につけたというわけです。彼はこのように語っています。「わからないのは見えないからじゃなくて、不注意だからさ。見るべき場所を見ないから、それで大切なものをすべて見落とすのさ」(『花婿失踪事件』)
観察力と推理力が身につくと、どんないいことがあるでしょうか。それについて著者は、「観察した物事から正しい結論を導き出すことができれば、日常生活のさまざまな場面において、有利な行動をとることができる。物事をするどく見抜くことができれば、ストレスも軽減できる」と語っています。
では本書に載せられている設問の一部を紹介しましょう。
「左のイラストは、勤務時間中における2人の姿を描いたものである。仕事が終わったとき、やりがいを強く感じられるのは、どちらの女性か答えなさい」
そして、左ページには勤務中の人のイラストが2つ並んでいます。Aはノートパソコンを注視しながら電話で話している女性、Bはパソコンを閉じ、リラックスした態度で本を読んでいる男性です。
この設問の答えは「A」。勤務時間中に本気で仕事に取り組んでいるため、仕事が終わった後の爽快感があるはずだということです。
もうひとつ、本書のタイトルになっている設問を紹介します。
「左のイラストは、ある書店におけるレジ待ちの行列を示したものである。どの行列が進むのが早いのか、すなわち、あなたが並ぶならどの列がよいと思うのかを考えて答えよ」
そして右ページには、ABCの3列が描かれています。どれも待っている人の数は3人です。
この答えは「A」。その理由は、「お年寄りがいないから」。たしかにBには1人、Cには2人のお年寄りが並んでいます。店員の技量に大きな差がなければ、あるいは「1000円の図書カードを20枚、別々の封筒に入れて、リボンをかけてください」などと注文する客がいなければ、お年寄りのいない列の方が早く進むと考えられそうです。
本書で身に付くのは、「どこに注目するか」「どこに差を見出すか」の多様な考え方です。仕事で成功する人たちは、多様な考え方を状況に応じて展開できるといわれます。ワンパターンの固定化した考え方では損をします。「なるほど」「えー? 違うんじゃない?」などとつぶやきながら本書を読んでいれば、知らず知らずのうちにそういう考え方が身に付きます。
さらに本書がユニークなのは、すべての設問の解説に「○○大学の△△博士の説によれば」と、聞いたことのない学者の論説が引用されていることです。なかには突飛な学説もあって「でたらめじゃないのか」と思ってしまいますが、巻末の参考文献を見る限り、すべて本物です。その部分だけでも、充分に話の種になります。
イラストが大きなウェイトを占めている本なので、言葉による紹介には限界があります。興味が湧いたら、ぜひ書店で手に取ってみてください。
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