やめる力
マツダミヒロ 著 中経出版
1,260円 (税込)
かつて「継続は力なり」という言葉がありました。成果を出すことよりも続けることの方が大切であり、続けていけば必ず何かが得られるという意味です。今もそれを心にしまっている人が多いことと思います。
しかし本書のタイトルは、それに真っ向から反旗を翻しています。「何かを成すためには、まず“やめる”ことが大切だ」というのです。その意味を伝えるために、著者は「プロローグ」で次のようなエピソードを読者に示しています。
「海外旅行に出かけたあなた。友人たちにおみやげを買おうとショッピングセンターに行きました。安くて珍しいモノばかりあったので、すぐに荷物がいっぱいに。ホテルから歩いてきていたので持って帰るしかありません。あなたは両手いっぱいに荷物を抱え、ホテルに向かいました」
「その途中で、現地にしかなさそうな魅力的なお店を発見。今日は旅行最終日。お店はもうちょっとで閉店の時間。どうしても、そのお店でおみやげを買いたい! でも、今のあなたは腕いっぱいに荷物を抱えています。さて、どうしますか?」
「答えは2つ。1.新しいおみやげを買うのをあきらめる 2.持っているおみやげを捨てて新しいおみやげを買う のどちらかです。ところが、これが人生になると選べないはずの3つ目の選択肢を考えはじめます。3.どれも手放さずにさらに手に入れる というものです」
「この選択をしてしまうと何かが犠牲になってしまいます。時間か、カラダか、家族か、ココロか。何かを手に入れるためにはまずは手放さなければいけません。そう、やめることが必要なのです。やめることは勇気がいります。はじめることよりもやめることのほうが何倍もエネルギーを使います。だから、多くの人がやめられずに不満を持ちつつも現状を維持しているのです」
著者は手放さずに成功を目指す方法を「足し算の成功法」と呼んでいます。それは次々と身に鎧をまとっていくのと同じことで、だんだん自分自身が見えなくなってしまい、次第に動きも鈍くなると警告します。そうではなくて、何をやめて何を捨てて何を手放すかの「引き算の成功法」こそが、本当の自分に戻る方法なのだと説きます。
本書には全部で54の「やめる力」が解説されています。「苦手なことをやるのをやめる」「情報収集をやめる」「無理するのをやめる」「見返りを求めるのをやめる」など、思わずはっとするテーマがちりばめられています。
各テーマは2ページの見開きで完結しており、2色刷りのシンプルなイラストが付されています。そして54の「やめる力」に対して、54の「はじめる力」が並べられています。
仏教で説かれる「執着」の弊害を、具体的な例に沿って解説した自己啓発書ですが、よみやすさを工夫しているために、誰でも気軽に手に取ることができます。ココロを和ませてくれるコラムにも好感が持てます。
仕事場のデスクに備えておいて、ちょっと時間が空いたときに読んでみる。そんな関わり方が、本書の一番の活用法だと思います。
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