逆境こそが私を生かしてくれた
豊田詔子 著 PHP研究所
1,365円 (税込)
著者は両下肢関節萎縮症(ヒョンドロジストロフィー)という難病に生まれてすぐ冒され、身長が96cmしかありません。3歳の子供と同じ身長で人生を切り開き、女性経営者として成功を収めた方です。おそらく、どんなに「自分には運がない」と嘆く人でも、この人よりはずっと恵まれているのではないでしょうか。
福岡県飯塚市に生まれ、普通の人なら歩いて10分の小学校に1時間以上かけて通いました。関節の病気ですから、歩くたびに激痛に襲われます。少し歩いては休むの繰り返しなので、時間がかかるわけです。転ぶと手足の関節が外れてしまうので、転ばないように1歩1歩注意深く歩かなければなりません。
しかしクラスメートの男の子たちは、そんな著者をいじめます。追い抜きざまにわざと鞄をぶつけ、転ばせては笑います。背中にザリガニやカマキリやムカデを入れて遊びます。池に放り込まれたり、石灰の袋に逆さまに入れられたりしたこともありました。土の中に生き埋めにされたこともあるそうです。
小さい体は別な意味でも人目を引きます。あるとき著者は知らない男たちにさらわれました。たぶんサーカスに売るためでしょう。「トイレに行きたい」と言って逃げなければ、その後の人生は大きく変わっていたはずです。逃げてからも数日間、男たちが近所を探し回っていたそうです。
その後、編み物の講師の資格を取り、洋裁も勉強した著者は、一念発起して自動車免許を取得します。適性検査を受け、引き受けてくれる教習所を探し、クルマを改造してくれる業者を見つけ、困難をひとつずつ解決していきました。踏み台がないとバスにも乗れない体のため、生きていくためにはどうしてもクルマが必要だったのです。
自動車免許を取ってから、著者の人生は変わりました。もともと辛抱強く、行動的な性格だったため、行動力がともなえば鬼に金棒です。クロスタニンという薬の訪問販売で記録的な売り上げを達成し、ついには美容サロンのオーナーになりました。
冒頭の「推薦の言葉」で鍵山秀三郎氏は「今まで何一つ不自由なく育った人に見えた」と著者の印象を語っています。山のような困難と苦労を乗り越えてきたのに、それを感じさせないということは、誰にでもできることではありません。「あとがき」で著者は「すべての逆境に感謝したい」と語っています。「私をいじめた人たちにも、感謝したい」と。
最後に、著者の言葉を引用してみたいと思います。
「ならぬことを願うより、その状態を活かしきる人生ならば、神は必ずその身を助ける人々や機会をお与えになると思います。この私に賜ったように……です。生まれ変わってもこのような素晴らしい方々をお与えいただけるのならば、もう一度この体で生まれてきてもよいと心から思います」
あとでわかったのですが、本書を編集したのは私の知り合いの編集者でした。先日話をしたら、本書は彼の作った本の中でもベスト3に入るものだそうです。そのことだけでも、読む価値があると思いませんか?
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