本書は「会社では教えてもらえないシリーズ」の1冊で、ほかには「手帳・メモのキホン」「資料作成のキホン」「思考整理のキホン」「報連相のキホン」「ビジネスマナーのキホン」「セールストークのキホン」「文章のキホン」「自己投資のキホン」「伝え方のキホン」「Excelのキホン」「ストレス管理のキホン」「時短のキホン」があります。全13冊のうち、本書は4冊目です。
著者は1991年にリクルートグループ入社し、営業としては致命的となる人見知りを4万件を超える訪問活動を通じて克服した人物です。プレイヤー部門とマネージャー部門の両部門で年間全国トップ表彰を4回受賞し、累計表彰回数40回以上。その後営業部長、(株)フロムエーキャリアの代表取締役を歴任しました。
2011年、(株)らしさラボを設立し、営業リーダー、営業マンのパフォーマンスを飛躍的に向上させるオリジナルの手法(研修+コーチング)がリーディングカンパニーの目に留まり、年間200回を超える営業研修、営業リーダー研修、コーチング、講演を行っています。リピート率は91%だそうです。
近著には、『面倒な“やりとり"がシンプルになる仕事のコツ48』(かんき出版)、『数字を上げる人のセールストーク・営業のキホン』(すばる舎)、『強いチームをつくる!リーダーの心得』(明日香出版社)などがあります。
本書のタイトルである「段取り」ですが、この言葉に完全に対応する英語の単語はありません。
「計画を立てる」はplanning
「事前準備」はpreparation
「手配」はarrangement
「工程設計」はworkflow
「進行管理」はprocess management
「軽い準備」はsetup
「調整」はcoordination
という具合に、文脈によって対応する英単語が変わってきます。日本語の「段取り」は「何をどの順番で誰がどのタイミングでやるか」を事前に整理してスムーズに進むように準備することですから、上記の英単語すべてがあてはまるわけです。
先に挙げた「段取り八分、仕事二分」に相当する英語の格言は、
Proper planning prevents poor performance.(きちんとした準備が悪い結果を防ぐ)
Preparation is half the battle.(準備が勝負の半分)
などに相当しそうです。
では最初に本書の目次を紹介しておきましょう。
・はじめに
・第1章 頑張っているのに、いつもバタバタ、ギリギリ……
【1】残業ゼロで結果を出す人はここが違う!
【2】スケジュールを埋めるほど余裕が生まれる不思議
【3】目の前の仕事にすぐ飛びつかない
【4】「段取り八分」はやはり真理だった
【5】自分の1時間あたりのコストを考えたことありますか?
【6】早く帰りたいなら、「帰る時間」をただ決めれば良い
・第2章 まずはここから始めたい段取りのキホン
【7】「やらなくちゃ」で頭をいっぱいにしない秘訣
【8】やることが定まらない時は「人事評価を上げる」に集中してみる
【9】どんなにできる人でも簡単に陥る「手段の目的化」の罠
【10】やり直しは「早めにちょくちょく確認」で9割防げる
【11】70点の完成度で手離れする勇気を持つ
【12】ひとりで延々と考えるより先に人に聞いてしまう
【13】段取りの超プロは仕事の「はるか先」を見て動く
【14】手順の悪い人ほど紙に書いて整理しようとしない
・第3章 どんな仕事も余裕で終わるスケジュールの極意
【15】締切2日前の提出。2本早い電車。結局、「前倒し」がすべて
【16】予定は「入ってくる」ものではない。「入れる」もの
【17】TODOリストのキモは「所要時間」にある
【18】朝、今日することを決めるのでは遅すぎる
【19】戦略的に、後回しをあえてする
【20】そのメール、その資料、本当に必要ですか?
【21】仕事のスピードは「悲観値」と「更新」の繰り返しで上がる
【22】PDCAで一番大切なのは、実は「C=振り返り」
【23】複数仕事の同時進行は山場さえずらせば大丈夫
【24】手帳を持ち歩く効果は、その重さを補って余りある
・第4章 1分たりともムダにしない!時間の使い方
【25】「この1分で何ができるか」考える習慣
【26】ムダかどうかは、やめてみないとわからない
【27】「キリが良いところ」は永遠にやってこない
【28】面倒なことほど、先にやる。それで人生が変わる
【29】資料作成はフォーマットでどんどん片づける
【30】メールは30秒以内に書くのが鉄則
【31】会議や打合せは10分の1に減らせる
【32】会社のデスクにいなくても、仕事はできる
・第5章 これで仕事もプライベートもうまく回る!
【33】アポイントは先手必勝。選択権を相手に委ねない
【34】断り上手は仕事上手
【35】「自分がやったほうが速い」は間違った発想
【36】うまくいっている時、人は学ばない。失敗こそ大チャンス
【37】10年後、何歳か考えたら、残業している暇はない
【38】今日から毎日、10分早く帰ってみよう!
もくじをざっと眺めてみると、本書は「効率化テクニック集」に見えますが、本質は「仕事に追われる人から仕事を設計する人への意識転換をうながす本」のようです。
「前倒し」「確認」「振り返り」「手放し」「優先順位」「他人を使う」「未来視点」という言葉が本書では重要なようです。つまり、昭和の根性論と現代のライフハック本のちょうど中間にある考え方と見てよさそうです。
その見方で考えてみると、本書が必要なのはこんな人かと思われます。
・頑張っているのに仕事が終わらない人
・現場から管理する側に移行した人
・AI時代に取り残されそうな人
それを念頭に「はじめに」を読んでみると、「もくじ」で感じたよりもさらに本書が現場感覚の強い本であることが分かります。
著者は冒頭で「『これからはもっと早く帰ろう!』『もっと人を増やそう!』という掛け声だけでは現場は変わらない」と言っています。
つまり本書は、経営者やコンサルタントが上から目線で語る「働き方改革論」ではなく、「現場の人間がどうやって今日を回すか」に徹底的に寄り添った本なのです。
非常に印象的なのは、「答えは段取り力を高めること」と著者が断言していることで、気合いや根性、モチベーション、意識改革では仕事は変わらず、順番、準備、確認、先回り、交通整理こそが仕事を変えると考えていることがわかります。
著者はわざわざ、「段取りは、速くメールを打つ、速く入力する、ということではありません」と書いています。これはとても重要です。なぜなら、世の中では処理速度の速さが仕事の速さだと語られることが多いからです。
しかし著者は本書で、段取りとは動作を速くするのではなく、流れを設計することだと定義しています。世の中で流行している「仕事術」や「時短術」、「ライフハック」ではなく、仕事の設計の仕方を見直すための本と考えてよさそうです。
また、著者は「あいまいな表現や、学術的な理由解説は省きました」と書いています。本書を理論書ではなく、現場マニュアルとして執筆したかったという気持ちが現れています。
ともすればこの手の本は「抽象論」「自己啓発」「気づき」に寄ってしまいがちですが、著者は徹底して「明日から使える運用手順」を書こうとしています。あくまでも実務家向けの本にこだわっています。
それでは第1章から本文に入っていきましょう。
第1章のタイトルは、「頑張っているのに、いつもバタバタ、ギリギリ……」です。これは思い当たる人が多いのではないでしょうか。
冒頭で著者は次のようなものを否定しています。
・スーパー社員
・超人的処理能力
・マルチタスク万能論
・高速入力
・便利ツール依存
そして念を押すように、「段取りとは先を読んだ行動をすること」と定義しています。
ページをめくると2色印刷の図版があります。「幹事を任される」という同じ状況で、段取りの悪い人と段取りの良い人を対比しています。
段取りの悪い人は、こんな行動を取ります。
・自分で解釈
・思い込みで突進
・とりあえず居酒屋チェーン
それに対して段取りの良い人はこうします。
・まず上司に目的確認
・「交流促進」が目的だと把握
・立食形式を選択
二人の差は行動力にあるのではなく「目的確認」にあることがこの図版で分かります。これが段取り力の本質です。
どんな現場でもトラブルを起こす人は「確認不足」が原因です。「たぶん大丈夫だろう」「面倒だからいいや」で最初の確認を飛ばしてしまい、後工程で問題が起きます。
段取りとは、後戻りコストを消す技術でもあります。本書を読み進んでいくうちに、そのことが明らかになってきます。
そして著者は「最初の一歩をどう踏み出すか」に非常にこだわっています。仕事というものは、
・スタート
・初動
・依頼
・段階設計
でほとんど勝負が決まるからです。
最初の一歩がちゃんとしていれば、仕事のムダは発生しません。すると余計な作業が発生することもなく、後戻りして時間をロスすることもありません。
もう一つ、著者が強調しているのは、「先読みこそが段取り力だ」ということです。未来を予測し、分岐を想定し、最初にしっかり目的を確認、複数案を持ち、結果として修正コストを減らす。これが段取りの本質です。
先ほどの幹事の例で、段取りの良い人は3つの案を上司に持っていきます。中華、居酒屋、立食の3つで、それは単なる店舗の候補ではなく、「交流促進」という目的から逆算したものです。「選択肢の作れる人」が段取りの良い人である条件のひとつというわけです。
さらにこれを発展させると、「どんな時も複数の選択肢を準備」という行動になります。これは単なる慎重さではありません。相手が次に何を考えるか、どこで迷うか、どこに不満を持つかを事前に想定、先読みした結果出てくることです。
つまり、段取り力とは、「他人の脳内シミュレーション能力」でもあるわけです。
その次に、おもしろいことが出てきます。それは「いつもバタバタしている人ほど手帳が真っ白」という話です。
人はスケジュールが埋まっていると「自由がない、束縛されている」と考えがちですが、著者は違います。スケジュールの空きを見て「ここが空いている」とわかると楽になるというのです。
時間に振り回されないコツは、どんどんスケジュールを埋めていくことだと著者は言います。自分の自由を確保するために、先々の予定まで決めてしまう。逆転の発想に聞こえるかもしれませんが、これが段取りを良くするコツのひとつなのです。
まだまだ冒頭の部分なのですが、残りは実際に本書をご覧になってお確かめください。