発行元の表記が「独立系出版物」とあるのを見て、「おや?」と思われた方もあるでしょう。本書はいわゆる出版社の刊行物ではなく、自費出版などと同様のルートで生まれた本です。おそらくアマゾン以外では扱いがないのでしょう。
じつは欧米ではそういう流れがすでに加速していて、非出版社系の出版物からベストセラーが多数生まれていたり、独立系の出版物が大手出版社の目に留まって大型契約につながるケースが増えています。
かつては「本は出版社が作るもの」「独立系の出版物は素人臭い粗雑な印刷物」という印象が強かったのですが、本作りのデジタル化や編集・デザインにAIが入ることによって、素人臭い本は世の中から消えようとしています。出版の世界において、プロとアマチュアの境界が溶け始めているわけです。
アマゾンの表記を見ると、本書のタイトルの末尾に「TechSuite Books」とあるので、本書は3人の著者が所属するTechSuite株式会社が制作したものと思われます。実際、同社のウェブサイトを見てみると、同社が主催する本書と同じタイトルのセミナーを受講すると、本書のPDF版が無料でもらえるようですから、おそらくその推察は当たっているでしょう。
TechSuiteという会社は、2021年に本書の著者の一人である畠山夏輝を代表取締役として設立されました。社員は20代を中心に40名ほど。業務内容は「生成AIを使ったビジネス支援」で、マーケティング、採用支援、DX・コンサルなどを手がけています。簡単に言うと「企業の売上・採用・業務効率をAIで底上げする会社」です。
まだ設立から数年しか経っていませんが、すでに数百社に導入実績があるそうなので、AIの波に乗った勢いのあるスタートアップと言えそうです。
「企業支援」が主戦場なので、既存の出版社とはぶつかりませんが、本書を見る限り、その気になれば出版界に打って出ることも可能なはずです。出版・編集領域をAIで再編することができる実力がありそうだからです。
さて、話を本書に戻します。
アマゾンでの本書の紹介の1行目には、こんなことが書いてあります。
「ChatGPTに聞いたら、競合の名前しか出てこなかった」
従来の「検索→上位リンクをクリック→購買行動」という流れはSEOという施策を生み、そこに費用や手間が発生していました。しかし、ユーザーがAIに質問し、AIが最適と判断した商品を紹介するようになると、従来のSEOの役割は大きく変わります。
それは遠い未来の話ではなく、すでに始まっている現在と近未来の話です。いくらSEOに力を入れても、少なくない額の広告宣伝費を投入しても、あなたのお店の商品をAIが選ばなければ、売上はじり貧になります。すでにその兆候は見えているはずです。
本書の「こんな方に読んでほしい」というコピーを紹介します。
「自社サイトのアクセスが減っている原因がわからない経営者・マーケティング担当者」
「SEO対策はしているが、AI検索への対応は手つかずの方」
「ChatGPTやGeminiで自社名が出てこないことに気づいた方」
「AI検索最適化を始めたいが、何から着手すればいいかわからない方」
「コンテンツマーケティングの次の一手を探している方」
従来はこの手の参考書はデジタル技術系の出版社が得意にしている領域でした。しかし本書は「現場の人たち」が「自分で書いた」というところがミソです。しかも彼らはすでに300社超の支援実績から、本書の内容を構築しています。すなわち、タイムロスがほとんどない本だということです。
本メルマガの冒頭の挨拶で触れましたが、今、世の中は大きな価値観の変動期にあります。目立つのは生成AIの進化ですが、それがもたらす社会の構造変革は、想像以上の規模になると考えられています。
たとえば「AI検索」というキーワードそのものが、検索がすでに人間の行為ではなくなりつつあることを示しています。ユーザーはAIに質問し、その答えから商品を選んで購入する。そこには人間の「探す」という行為は存在しません。
ならばどのようにして自社の商品をAIに選んでもらうか。それが本書のテーマです。本書を最後まで読み進めれば、今までのSEOがまったく無駄になることはなさそうです。ただし、その意味と方向が変わります。そこを知っているか知らないかで、おそらく勝者と敗者が分かれるのでしょう。
本書の著者たちは「予測」に基づいて本書を執筆したのではありません。実際の現場での「観測」に基づいているところが本書の強みです。たとえば、ある企業の問い合わせフォームに「生成AI経由」という項目を設けたところ、回答が半年で8倍に増加したとか、AI経由の顧客の受注率は他チャネルの3~4倍であるとか。
つまり著者たちは「AIに選ばれるかどうかで売上が変わる」という現象を、すでに現場で確認しているということです。その実践からの知識を体系化したのが本書です。この点で、本書は数少ない「すでに起きている変化を記述した本」と言えます。
本書は5つのパートに分かれています。順を追って読んでいくことで、AI検索最適化を理解することができる構成になっています。
第1部は「仕組みを知る」です。ここは「AI検索とは何か」という基本のパートです。ここで重要なのは「クエリファンアウト」という概念ですが、その意味はAIがユーザーのひとつの質問に対して裏側で複数の検索を行い、その結果を統合して回答を生成しているということです。つまり、ユーザーはもはや「検索結果を選ぶ」のではなく、「AIが情報を選別し、要約し、提示している」ということです。
そのことは、従来のSEOの前提が崩れることを意味します。検索順位の上位に入ることよりも、「AIの回答に採用されるかどうか」が重要になるからです。言い換えれば、顧客がこちらのサイトに来る前に、すでに勝負が決まっているわけです。
第2部は「危機に気づく」です。現在、多くのアクセス解析ツールでは、AI検索経由の流入が「不明」として処理されています。そのため、実際にはAI検索の影響が出ているにもかかわらず、多くの事業者はそれに気づいていません。
この章では、AI検索最適化の価値を「認知・信頼・コンバージョン」の3つに分解して説明しています。
AIに名前が出るか:認知
AIが推薦するか:信頼
そのまま購入につながるか:コンバージョン
これはECにおける購買導線そのものです。
したがって、サイトのアクセスが減っているとしたら、その原因は「AIの中で存在していない」のかもしれないということです。少なくとも、その可能性を疑う必要があります。
第3部は「やり方を学ぶ」です。このパートが、本書の核心です。
内容は「AI対策マトリクスを使った現状分析」「KPI設計」「コンテンツ・内部・外部対策」といった一連の流れで、それらが体系的に整理されています。
特に重要なのはコンテンツ設計の考え方です。これまでのECでは、商品ページを作り、SEOで流入を増やすことが基本でした。しかし、AI検索時代では商品ページが「AIが説明しやすい情報構造」を持っているかどうかが問われます。AIに営業させるための設計が必要になるということです。
この章を読むと、どの情報を、どの粒度で、どのように提示すればAIに引用されるのかがわかるようになります。
第4部は「既存資産を活かす」です。前述した「SEOはもう意味がないのか?」の答えがここにあります。
ここで語られる答えは、「SEOは不要になるわけではない。むしろ重要な土台として機能し続ける。ただし、その役割は見つけてもらうための施策から選ばれるための施策に変わる」です。
したがって、すでに持っている記事やコンテンツも、視点を変えることでAI時代の資産として再活用できます。この章にはその再解釈のヒントがあります。
第5部は「今やる理由を持つ」です。
ここでは2030年、2040年の検索の姿が予想されます。AIがECの入口を担うようになれば、検索結果一覧という概念そのものの意味が薄れていきます。そしてユーザーは比較するのではなく、AIに提案された選択肢の中から選ぶようになります。
このとき重要なのは、「AIが提案したリストにあなたのショップや商品が入ることができるかどうか」です。そしておそらく、この領域は「早い者勝ち」です。
まだ多くの企業がAI検索最適化に対応していない今だからこそ、先行者には大きな優位が生まれる可能性があります。まだ気づいていないライバルがこのことに気づいたときには、差が固定化されている可能性も高いと本書には書かれています。この差は、おそらく後からは埋まりません。
本書をひと言でまとめると、「検索対策の本」ではなく「AIに選ばれる構造をどう作るか」を解説した本です。
検索という行為は、すでに人間の手を離れつつあります。その変化に対応できるかどうかは、特に小規模ECにとっては生死を分ける問題になりつつあります。
「最近、なんとなくおかしい」と感じているショップオーナーは、ぜひ本書を参考にしてほしいと思います。
世の中の変化はゆっくりとやって来ますが、のんびりしていると、気づいた時にはすでに手遅れになっています。かつて産業革命で起きた悲哀を眺めてみれば、そのことは明らかでしょう。
問題は「変化が起きているかどうか」ではありません。「それに気づいているかどうか」です。